映画レビュー1272 『お嬢さん』

この映画もだいぶ傑作評を見聞きしていて気になっていました。

1987」のキム・テリが出てるのも知っていたのでこれは観たいぞとチョイス。ちなみに観たのは鑑賞時間的に普通の劇場公開版だと思います。

お嬢さん

The Handmaiden
監督

パク・チャヌク

脚本

チョン・ソギョン
パク・チャヌク

原作

『荊の城』
サラ・ウォーターズ

出演

キム・ミニ
キム・テリ
ハ・ジョンウ
チョ・ジヌン
キム・ヘスク
ムン・ソリ
イ・ヨンニョ
イ・ドンフィ
ユ・ミンチェ

音楽
公開

2016年6月1日 韓国

上映時間

145分(劇場公開版)
168分(スペシャル・エクステンデッド版)

製作国

韓国

視聴環境

JAIHO(Fire TV Stick・TV)

お嬢さん

物語は文句なし。ただ細かな不満もそこそこあり。

9.0
財産をせしめるべく金持ちお嬢さん籠絡用に送り込まれたスリの娘
  • 詐欺集団に育てられた少女、日本人金持ちお嬢さん結婚詐欺の先兵として侍女に
  • 三部構成の物語はそれぞれの終わりで印象がガラリと変わる鮮やかな作り
  • どことなく滑稽でエロティックな世界観は他にない味
  • しかし日本語演技や過剰に過激なシーンには疑問を感じる

あらすじ

結論から言えばめちゃくちゃ面白かったんですが、果たして「そうする必要があったのか」疑問な部分がチラホラあり、それによって雑念が生じてしまうような惜しさもあって、そこの辺りに好みが分かれる面がありそうな映画ではありました。良くも悪くも問題作、という感じ。

日本統治下時代の朝鮮半島。

詐欺集団に育てられた“スリの娘”ナム・スッキ(キム・テリ)は、自らを「藤原伯爵」と名乗る詐欺師(ハ・ジョンウ)に「莫大な遺産を継ぐ金持ち日本人令嬢の秀子(キム・ミニ)を騙して結婚し、その後捨てて財産を山分けする」計画のサポート役として屋敷に送り込まれ、秀子のお世話を担当する侍女として働き始めます。

ほぼ軟禁状態で変態の叔父・上月(チョ・ジヌン)と暮らす秀子は世間知らずでいかにも騙しやすそうな“お嬢さん”。

しかし毎日ともに過ごすことで次第に彼女への複雑な感情を抱き始めたスッキは当初の計画への迷いを感じつつ、藤原伯爵と秀子の結婚をサポートしようと動きますが…あとはご覧ください。

傑作ながら不満も多い

この映画は最初に書いた通り三部構成の映画なんですが。

なんとなく僕の印象ではこういう部構成の映画って「分ける意味ある?」と感じたり、小さくまとまった話が続くだけでダイナミクスに欠けてイマイチだったりと思うことが多いんですが、この映画は今まで観た中でも最も「分ける意味がある」映画だと思いましたね。

それぞれの終わりでそれまで観てきた物語の印象がガラリと変わる、この鮮やかな展開は本当にお見事でした。

序盤の印象は書いちゃって良いと思うので書きますけども、最初は「おっ、百合か?」とちょっとワクワクしながら観てたんですね。明らかにスッキは秀子に惹かれてるし、秀子も伯爵云々言いつつまんざらでもなさそうで。

ところが、1部のラストで「うえーーーーーーーー!!」ですよ。マジかよと。なんつー話やねんとものすごく盛り上がりました。

しかし、そこで終わらないのがこの映画のすごいところで、2部の最後、そして3部の最後…つまりこの映画のエンディングでもそれぞれ「そこまでの理解」を塗り替えてくれる見せ方の妙がバシッと決まっていて、物語の組み立てに関しては本当に素晴らしい映画だと思います。これぞ娯楽。

ただ、その一方で「そうする必要ある?」と思うような妙なこだわりが完成度を邪魔しているような気がして、そこがすごく惜しいと思いました。ただこれは多分好みの問題ではあると思います。

まず最初に、舞台設定の部分。

「日本統治下の朝鮮半島」「主人公の一人が日本人女性・秀子」ということで頻繁に日本語演技が出てくるんですが、全員韓国人俳優なわけです。

当然たどたどしいので日本人としては気になる…んですが、そこは別に良いんですよ。(字幕ほしかったけど)

むしろすごく頑張ってたと思います。中でもキム・テリはすごく上手かったし。

問題はそこ(日本語の上手い下手)ではなくて、そもそも日本統治下を舞台にして日本語を登場させる意味があったのか、というのがすごく疑問なんですよね。

原作はイギリスの小説で、舞台もイギリスです。時代的にはこの映画も同じようなものだし、舞台を韓国に持ってきたらこうなる…のもわかるんですが、韓国人俳優でやるんだったら別に韓国内のお話で済ませちゃって良いと思うし、時代も変えちゃって良いんじゃないか、というのが一つ。

別に日本人が際立った変態として描かれているから不満、とかそういう話じゃないんですよ。僕も変態ですからね。実際問題。そこは良いんです。むしろ変態は褒め言葉だと思ってますからね。僕は。

「日本人をバカにしやがって!」みたいな陳腐な意味で異を唱えているわけではなく、「無理矢理日本語演技をさせる意味があったのか」という面で気になりました。

ワルキューレ」だって(非難はありましたが)英語だし、それでも面白いんだから普通に(日本人という設定でも)韓国語でやればいいじゃん、と思うんですよね。まあこれは観客が日本人の場合のみ引っかかる点だろうとも思うんですが。

次に、やっぱり気になるエロシーン。

最初はもう喜びましたよ。ぶっちゃけ。変態ですからね。くどいようですけども。なんなら興奮しましたよ。キム・テリ見たくて鑑賞したら思いの外エロくてラッキー、みたいな。ゲスもゲスの感想です。

ただ、そう思ったのも最初のシーンだけで、以降は妙に“エロ推し”が引っかかって来ちゃってちょっとうんざりしました。

いやそういうの観たかったらAV観るんデー、みたいな。FANZAの購入履歴すごいことになってるんデー、みたいな。OculusQuest2が毎日のお供なんデー、っていう。

思い出したのは「アデル、ブルーは熱い色」。そう言えばアレも百合だった…!

無駄に(あえて無駄にと言います)長いんですよ。ベッドシーンが。

そんな見せなくていいじゃん、って思うんですよね。ある程度見せればこっちも察するからさぁ。特に2度目のあのシーンの長さは異常だと思います。キム・テリの舌アピールもういいよみたいな。

もしかしてスペシャル・エクステンデッド版はもっと長いのか…?

もうしょっちゅう書いてますが、エログロアピールが強すぎる映画は過激さで評価を上げようとしている気がして好きになれないんですよね。不必要に過激にしようとする感じが、「お前らこういうの好きだろ?」って言われてる気がしちゃって。ああ好きだけどもさ!!

おまけに(多分)日本特有の事情としてそこに追加で覆いかぶさるモザイク問題。あれモザイクいらんやろ!

角度的に別に性器が丸見えって感じでもなく、「何をしているのかがわからないように」みたいなモザイクなんですよ。

AV以上に厳しいモザイクにはAV通のワタクシもお怒りです。誰がAV通やねん💢

「過激さアピールが必要なのか」と「モザイクいらんやろ」は二律背反のようですが、これはまったくの別問題です。

あんなに長くエロアピールする必要がないと思うのと同時に、やるんだったらちゃんとやれよってやつですよ。後者は本国制作陣の問題ではないだろうとは思うんですが。

これが内容の薄い映画ならまあしょうがないかなとも思うんですが、なにせ内容が傑作なだけにこのエロ推しはまさに蛇足な気がしてなりません。

直接的な絡みのシーンのみならず、変態読書会についても長すぎる。「こういうことをやってました」程度で十分だし、そこまで何度も細かく見せる必要があるのか甚だ疑問。

ただこっちは彼女(秀子)の置かれた状況を理解させるためにある程度は必要だったのもわかるので、やっぱりベッドシーンの長さが一番引っかかりました。

最後にもう一点、秀子の後見人であり叔父である変態中の変態、上月役(チョ・ジヌン)のキャスティング

俳優としての彼の演技に不満があったわけではありません。

問題はそれなりに高齢の役であるっぽいのに結構若い俳優さんで、しかも特殊メイクをしているわけでもなく付け髭と髪型程度で役作りしているもんだから全然“それっぽく”見えない。コントかな? って感じ。

彼がそれなりの年齢(しかも変態)というのは秀子の境遇を語る上で、それこそ上記の変態読書会以上に重要なポイントだと思うんですがそこに手を抜いちゃうのはかなり問題でしょう。

調べたらチョ・ジヌン、僕と1歳しか違いませんよ。そりゃあこの年代でも(僕のように)変態は変態だと認めざるを得ませんが、少なくともあと20歳は年上の役者さんを使ったほうが役柄上全然説得力を持ったと思うんですよね。

あんな若々しかったら(異常な変態である点を除けば)結婚させられるのもそんなに悲劇的に見えないし、なんでこんな簡単な違和感を放置しちゃったのかこれまた疑問でした。

とは言え観てね

点数の割に文句が多くなってしまいましたが、それだけもったいないと感じたんですよね。

もう本当に話自体は素晴らしいので、それをきっちり際立たせる作りにすればよかったのに雑音が目立っちゃう(ように見えた)のが非常に残念。

まあこれが監督の個性と言えばそうなのかもしれませんが、なんだかわざわざ高級食材を居酒屋メニューにしちゃってる感じが本当にもったいない。

ただ全体的にどことなくコメディ…とまでは行かないにしてもわずかなコミカルさが込められている(この辺りはとても韓国映画っぽい)ので、「高尚な映画にしたくない」からわざとレベルを下げたのかもしれないような気がしないでもない。

いろいろあーだこーだ言いましたが傑作であることは疑いようもなく、ぜひ観ていただきたいところではあります。無駄にエロいけどね。

このシーンがイイ!

やっぱり一番ドヒャーっとなったのは第1部のラストなので、そこかな。

あそこだけは(日本語がわかる観客として)日本語演技の価値が強く感じられました。キム・テリもキム・ミニもお見事。

ココが○

三部構成の上手さは他にないと思います。それぞれ視点を変えれば見え方が変わってくる見事な演出。

ココが×

上に散々書いた通り、日本語である意味・無駄にエロい・爺が若いの3点セット。

爺なのかどうかもわからないんですが、なんというか威厳が無くて軽いから悲劇性が薄い。

MVA

目的だったこともあり、やっぱりこの人かな〜。

キム・テリ(ナム・スッキ役)

送り込まれる侍女、スリの娘。

文字通り体当たりの演技。おまけに表情豊かで魅力的です。役柄に合った「かわいいけど育ちがよろしくない」感じがよく出てていいなと。

ハ・ジョンウもさすがですね。なんと言うか間違いなく悪いやつなんだけど憎めない感じのおかげで映画が重くならなくてぴったり。

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