映画レビュー1480 『ホールドオーバーズ 置いてけぼりのホリディ』
※今度こそ表示直った…はず
今回は観ようと思っていたこちらの映画。
なぜ興味を持ったのかはちょっと長くなるので後述します。
ホールドオーバーズ 置いてけぼりのホリディ
デヴィッド・ヘミングソン
ポール・ジアマッティ
ダヴァイン・ジョイ・ランドルフ
ドミニク・セッサ
キャリー・プレストン
2023年10月27日 アメリカ
133分
アメリカ
Amazonプライム・ビデオ(Fire TV Stick・TV)

一生忘れないクリスマス。
- 家庭の事情で帰郷できず学校で過ごさざるを得ない生徒と、そのお守りを押し付けられた教師
- 息子を失い一人学校に残った料理長も加わり、孤独なメンバーでクリスマスを一緒に過ごす
- オープニングから70年代風の画作りで古き良き映画へのリスペクト溢れる良作
- 昨年某Xで最も評価が高かったらしい一本
あらすじ
結構ハードルが上がった状態で観たんですが、それでもなお良かったですね。ありがちと言えばありがちなんだけど、それでもいいものはいいというやつ。
舞台は1970年、とある寄宿学校。
クリスマスが迫り、ほとんどの生徒は地元に戻って家族と過ごす時期なんですが、一部“訳あり”で学校に残らざるを得ない生徒たちもいます。
当然生徒たちだけで学校居残りというわけにも行かないので監視役の教師が1人残るんですが、この年は担当の教師が嘘の理由によってお役目回避し、お鉢が回ってきたのが偏屈で嫌われ者の古代史教師・ハナム(ポール・ジアマッティ)。
彼は「休暇」であるにもかかわらず、各々家庭の事情で残った生徒5人に規律ある生活と運動や勉強を課し生徒たちも鬱憤が溜まっていきますが、そんな中居残り組の1人であるお金持ちのボンボン・スミス(マイケル・プロヴォスト)が父親にヘリで迎えに来てもらい、学校から離脱してスキー旅行へ行くことに。
彼は残ったメンバーも誘って全員このシケた休暇からはおさらばしようぜと救いの手が差し伸べられましたが、その1人であるアンガス(ドミニク・セッサ)だけは保護者との連絡がつかず、1人居残りが決定。
かくして偏屈嫌われ教師のハナムと、嫌味で友だちのいないアンガス、そして直前に学校OBの息子を戦争で失ってしまった料理長のメアリー(ダヴァイン・ジョイ・ランドルフ)の3人でクリスマスを過ごすことになります。
某Xで去年最も評価が高かった映画
毎年某X上で「#◯◯年映画ベスト10」のハッシュタグを集計して発表しているブログがあるんですが、去年の1位だったのがこの映画ということで「そりゃあ観たいわね」と気になっていた映画です。(ちなみに2位は「シビル・ウォー」)
毎年これはチェックしていて、今まで「知らない映画」ってなかったんですが今回初めてタイトルを知らない映画だったこともあり、またそのブログでも言及されていますが実際「知名度の低い映画」に分類される映画なので、これはかなり珍しいから相当なんだろう…と期待して観たよ、という経緯です。
実際ハードルが上がっていたので観終わった直後はそこまででもなかったというか、良い映画だったけど1位に選ぶほどかな? と思うぐらいではあったんですが、ただ思い返すとやっぱりこれは良かったなと改めて評価したような印象です。
ただ率直に言って、「めちゃくちゃ良い映画」なのは間違いないんですが、同時にメインストリームの映画ではないからこそ“やられちゃった”人が多くて1位に、みたいな流れも確実にあったのではないかなと思います。
変な話、「これ選ぶの通っぽいし実際良かったしで1位だよね」みたいな率直な評価とは別の部分で(若干の下心のようなものも込みで)選ばれた側面も少なからずあったような気がするんですが、穿ちすぎでしょうか。
とは言えやっぱり「1位ですよ」と知らされてから観るのと「とりあえず観てみるか」で観るのとはハードルの高さがまるで違うだけに、なんとなく観てみて“これ”だったときの衝撃が大きいであろうこともよくわかります。なので僕もその状態で観たかったな、というのが正直なところ。
オープニングからかなり古そうな粗い映像で始まり、また舞台が1970年であることからもわかる通り、明確に「あの頃の古き良き映画」を狙った作品なんですが、入口で「なるほどそっちのラインを狙った映画なのね」とこっちも認識してしまった以上、なんとなく天邪鬼的に「そうそう簡単にほだされねーぞ」と身構えてしまう部分があったんですが、しかし最終的には「確かにあの頃の映画の感じ、良さがあるな」と見事に乗せられてしまいました。
今でもこの手の寄宿学校はあるはずだし、実際こういう話は今になっても起こり得るんだろうと思いますが、ただ細かい部分で「きっと今だとこんな管理はしないだろうな」とかちょいちょい現代的には違和感を感じそうな部分が出てくるので、やっぱり舞台設定及び映画自体の雰囲気を“あの頃”に合わせているのは上手いやり方なんでしょう。
音楽もいい感じに古くて劇伴がすごくいいなと思ったんですが、これも実は当時の曲ではなく「当時っぽい」曲を選んでいるんだとか。まさに温故知新、って感じの映画ですね。
いろんなところで言及されているので今さら僕のような雑魚が言うことでもないですが、自分が知る限りでは「いまを生きる」、そして何と言っても「さらば冬のかもめ」の“色”を感じる映画でした。
「さらば冬のかもめ」も鑑賞当時は「なかなか良かったな」ぐらいだったんですが、これまた思い出すたび良くなる映画の1つで今となっては「あれは本当に良かったなぁ」としみじみ思うぐらい好きな映画です。
今作もまさにあの雰囲気、ちょっとほろ苦さを残す良作のイメージがすごくグッと来る素敵な映画だと思います。
嫌われ者の教師と同じく嫌われ者で友だちのいない生徒、そこに(舞台が古いだけに今以上に)“マイノリティ”として身を粉にして働きながら息子が先に旅立ってしまうという親として最大の不幸を背負った料理長、言ってみれば誰もが生きづらさを胸に抱えた人たちが様々な偶然によって「たまたま一緒に過ごすことになったクリスマス」、そんなの悪くなるはずがないでしょって話なんですが、当然脚本も演出も演技も映像もすべてお見事で、コメディらしい軽さにほんの少し見え隠れするしんどさみたいなものが共感を呼ぶ素晴らしい映画でした。
おそらく、この中で最も若く世間を知らない学生であるアンディにとっては言うまでもなく「最悪のクリスマス」で、突入したときは本当に嫌で嫌で仕方がなかっただろうし腐りきっていたと思うんですが、最終的にはきっと一生忘れない、なんなら人生で最も印象深いクリスマスになっただろうなと思うとそれがまたすごく来るんですよね。(おそらくハナムも)
僕は普通の人の「他の人からすればなんでもない出来事かもしれないけど本人にとっては忘れられないエピソード」みたいなものに本当に弱いんですが、そういった要素も感じられて余計にたまらなかったです。アンディの立場になると。
また詳細は書きませんが、1人「こいつ絶対アンディ以上に嫌われてるだろ」ってチャラい生徒が出てくるんですよ。そいつとアンディとの対比もなかなか味わい深いものがあって、なるほど上手い使い方するなぁと舌を巻きました。
詳しくはネタバレ項の方に書きます。
主人公の美学
また主人公であるハナムもいろいろままならない事情を抱えていて気の毒なんですが、世間的にはどう見ても“負け組”な彼も心の中に大切な美学を持ち、それに従って生きることで自らを支えている姿勢が自分の姿とも重なってそこが本当にグッと来たしやられました。(流されるシーンもあるんですが、それもまた人間臭くて良い)
結局自分の美学や矜持による選択というのは、それによって豊かになるわけでもなく、見ようによっては強がりでしかないし自己満足でしかない、損得を考えれば確実に損になる選択だったりするんですが、それでも「そっちを選ぶ自分でいたい」と選択するのは自分を支える上で非常に重要なことだと思います。
違う道を選べば楽かもしれないし安泰かもしれませんが、そっちを選ぶと自分が欠けていくんですよね。そういった芯を持っているかどうかはやはり人として一つすごく大切な価値観だと思います。
その姿勢を見せてくれる物語というのは、この映画に限らずやっぱりすごくいいものだと思うんですよ。
そしてそれもまた「いまを生きる」にも「さらば冬のかもめ」にも通底するものだと思います。
結構しっかり観れば観るほど、考えれば考えるほど深堀りできる映画のような気がするので、いつかまた観ていろいろ噛み締めたい映画ですね。
それは単なる自分へのお慰みかもしれませんが、そうだとしてもこれもまた一つの支えなので大事なことだと思います。
このシーンがイイ!
終盤は良いシーンのオンパレードなんですが、そこを除けばアンディがおねしょをかばうシーンがなんか良かったですね。人となりが見える感じで。
ココが○
ありきたりと言えばありきたりなんですが、そのありきたり感を超えて「やっぱり良いね」と思わせるのはよく出来ている証拠でしょう。
使い古されていたとしても普遍的なものを描いているからこその良作だと思います。
ココが×
そのありきたりさをどう捉えるかによっては「そこまでかな?」という人もいそう。ただよーく観ていくといろんなメッセージが込められている深い映画なので、しっかり向き合って観てほしいところではあります。
MVA
前々から好きではありましたがポール・ジアマッティは本当に素晴らしい演技で、彼で文句ないんですがこの映画は劇外の話も含めてこの人にしようかなと。
ドミニク・セッサ(アンガス・タリー役)
友だちのいない嫌われ者の居残り生徒。
最初は「この時期特有のトンガリくん」ぐらいに見ていましたが、次第にその背景も語られていくことで共感を呼び起こす…これまたありきたりかもしれませんが良いキャラクターでした。
その役柄はとりあえず置いといて、僕は観ている間は「若干老け気味だけど数いる若手の俳優さんの1人なんだろうな」と観ていたんですが、鑑賞後に調べたところこれが映画初出演で、しかも舞台として撮影に使われた学校の演劇部のエースだった、と聞いてびっくりしました。ほぼ素人じゃん…!
それでこの演技ですよ。しかも結構行ってるのかと思いきやそこそこ若いし。(撮影当時はおそらく21歳)
アメリカの演技的な素地のレベルの高さみたいなものを感じずにはいられません。
いきなりめちゃくちゃ良い映画に出ちゃって、今後どういう俳優さんになっていくのか…楽しみですね。


