映画レビュー0196 『キリング・フィールド』

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別にお金がもらえるわけでもないので宣伝するわけでもないんですが、月500円という低価格でありながら、いろんな面での今の日本の問題がよくわかるので、すごく面白いんですよねぇ。同時に、これを見てるといかに今のマスメディアがひどいのか、というのもよくわかります。

そんなジャーナリズムに思いを馳せつつ、今日はちょっと社会派の映画です。

キリング・フィールド

The Killing Fields
監督
ローランド・ジョフィ
脚本
ブルース・ロビンソン
出演
ハイン・S・ニョール
音楽
マイク・オールドフィールド
公開
1984年11月2日 アメリカ
上映時間
141分
製作国
イギリス
視聴環境
BSプレミアム録画(TV)

キリング・フィールド

カンボジア内戦の最中、危険を顧みず現地で取材を続けるアメリカ人ジャーナリスト・シドニーと、通訳兼現地の新聞記者であるカンボジア人・プラン。過激派が次第に優勢になっていく中、カンボジア人であるプランは逃げることができず、過激派たちの農場へ移送されていく。

極端な説明不足故のリアルさがイイ。

7.0

どうもいろいろ調べた結果、この映画でのカンボジア内戦の描き方というのは賛否両論いろいろあるようですが、僕は無知と言われようがやっぱり最後はちょっと感動しちゃいましたねぇ。

この映画で描かれているのは、戦争の残酷さと国家を超えたジャーナリスト同士の友情。ただ、友情の方はともかく、戦争の方は内実がほとんど語られず、主人公たちが直面する状況にしても説明なしに「映像のみ」で表現されているので、とにかく何が起こっているのか、どういう状況にあるのかがわかりにくい映画です。

現地人の言語は字幕がないことも手伝って、戦争が激化して過激派が台頭していく辺りまでの話なんて、本当に何が何やらよくわからない。時折差し込まれる残酷なシーンやショッキングな映像にハッとさせられ、でもそこでふと気付くのです。

「あ、このジャーナリストたちもこういう状況なんだ」と。

現地の言葉はわからない。捕虜になって情報も入ってこない。ただ目の前では人が殺されたり爆発が起きたりしている。状況はよくわからないけど、ヤバいのだけはわかる、みたいな。

非常に不親切な気もしましたが、そこで「ああなるほど、こういう路線でのリアルなのか」と。今の時代ではまず作られないであろうその「放り投げっぷり」が逆に新鮮でした。

戦争の描き方も生々しい。死体の山だったり、手足のない人だったり、結構頻繁に出てきます。ただ、この映画の本題から察するに、おそらくは戦争の残酷さをアピールするというよりは、登場人物たちがいかに過酷な状況に置かれているのか、それを伝えるためのものだったのかな、と思います。

その前フリを踏まえての、後半の「プラン捕虜生活」が効いてくるんだろう、と。やや後半が長く、全体的にもう少し圧縮できたんじゃないかな、という気はします。説明をかなり省いていた面から言っても。ですが、実話ベースという点から言っても、かなり見応えのある話だったとも思います。

全体としては、東南アジアが舞台の戦争映画である、という点だったり、友情がキーになってくる部分だったり、戦争メインではなく人物描写がメインである、という部分だったりから、「ディア・ハンター」っぽいな、と感じました。後味はだいぶ違うけど…。

友情だったり人間の「生と死」であったり、ちょっと社会派ぶりつつ考えたいな、って時にはオススメの映画でしょう。

ただ、「流し見」が難しいのも間違いありません。要集中力。

このシーンがイイ!

そこかしこにいろいろあったんですが、やっぱりラストシーンが一番かなぁ。流れる曲が「イマジン」っていうのがまたね…。いいチョイス。

ココが○

全体通して非常に真面目な作りなので、ドキュメンタリーを観ているような作りの良さはありました。生々しさもあったし。

射殺シーンでの合成のひどさもあったけど。

ココが×

やっぱり説明不足感というのはどうしてもあるので、急な場面転換とか「あれ?」みたいなのはしょっちゅうあります。

なんでこうなったの? そもそもこの人何者? とか。

割と細かいところはすっ飛ばして、中心にある話だけを追うぞ、って覚悟で観るべき映画かもしれません。

MVA

さて、MVAですが、マルコヴィッチがわけぇ! というのは置いといて、これはもう舞台背景からして当然のごとく。

ハイン・S・ニョール(プラン役)

に。

現地人役のアジア人俳優ですが、なんと(有名な話ではありますが)この映画が初演技、そしてアカデミー助演男優賞受賞。なるほどとても初演技とは思えない素晴らしい演技でした。

しかも「助演」ですが、もう主演でいいんじゃないか、ってぐらい彼のシーンが多い。

そしてこの映画にこの人が出る意味がまたすごい。なんとこの人は、映画内でも描かれる「過激派」クメール・ルージュに捕まり、実際に4年間強制労働させられた経験があるということで、なるほどそりゃあリアルだよな、と納得。

「ラスト・サムライ」の中で死生観を語る渡辺謙にも感じたことですが、やはりその人自身の経験が投影されるものは、演技を超えた何かがある気がします。

劇中で「知的労働者だった者は処刑される」描写があるんですが、彼自身も医者だったことを隠して処刑を免れた経験があったらしく、これもまた「演技ではない」重みがありました。

そんな彼も、今から15年前に55歳という若さで強盗に射殺されたとのこと。

彼が演じた実在の人物、“本物のプラン”はつい3年前まで生きていたことを考えると、その不思議な因縁を考えずにはいられません。

映画そのものよりも、その周辺事情の数奇さというか、そういった部分でこの映画ってすごいなぁと思うし、この人の経験と存在が、この映画に強烈な“リアル感”を植えつけてくれたんじゃないかと。お見事でした。

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