映画レビュー0954 『キング・オブ・コメディ』

掲載が前後しますが、このレビューを書いている翌日に「JOKER」を観に行く予定になっておりまして、世間的に「JOKER観るなら事前にこれを観るべき」と言われているのが「タクシードライバー」と「キング・オブ・コメディ」らしいんですよ。どうやら。

この映画自体はずっと観たいなと思っていて、実は去年の年末にAmazonで「ブルーレイ6本5000円セール」のときに買ってたんですが、例のごとくネトフリばっかり観てたら観るタイミングが無いぞと。いい加減にしろよと。

しかしこうしてJOKERの公開が迫ってきたこともあり、いよいよ観る時が来たかと重い腰を上げて観たわけでございます。

重い腰を上げて、って言いながら座ってたけどね。座って観たけども。そういう話じゃないんでね。

キング・オブ・コメディ

The King of Comedy
監督
脚本

ポール・D・ジマーマン

出演

ロバート・デ・ニーロ
ジェリー・ルイス
ダイアン・アボット
サンドラ・バーンハード
シェリー・ハック
トニー・ランドール
マーゴ・ウィンクラー

音楽
公開

1982年12月18日 アイスランド

上映時間

109分

製作国

アメリカ

視聴環境

ブルーレイ(PS4・TV)

キング・オブ・コメディ

水が低いところに流れるかのように自然に狂ってるデ・ニーロの怖さ。

8.0
自らの才能を信じて疑わない男が常識外れの行動に及ぶ
  • コメディアンとして売れるために超人気司会者に取り入ろうとする男の話
  • 彼に奇抜なアイデアはなく、“至って普通に”常人なら避ける道を平然と歩む怖さ
  • 当事者と世間との間に存在する壁に感じる気味の悪さ
  • 映画としてはやや地味でじわじわ来る系

あらすじ

まずこの映画はジャンルをどうしようかすごく悩んだんですが、無難に「ドラマ」にしました。

ただ一番感覚としてしっくり来るのは「ブラックコメディ」かなぁ。でも「コメディ」に入れるのもちょっと違うし、犯罪ではあるけど「犯罪映画」に入れるのもなんかしっくり来ないし、サスペンス・スリラー系でもあるけどそれもまたちょっと違うかな、といまだに悩んでおりますが。

いずれにしても「表面上は痛さもグロさも怖さも無いけどひたすら怖い」、不気味な映画ってところでしょうか。いやなかなかこういう映画って他にないですね。ある意味ではホラーでもあるし。

主人公のルパート・パプキンはコメディアンを夢見る男。彼は全米で超がつくほど大人気のコメディアン、ジェリー・ラングフォードの“出待ち”をしております。

ちなみにジェリーはコメディアンとは言え司会業っぽさが強いので、今で言う…ウッチャン辺りに近い感じでしょうか。でも人気のほどはもう現代では見られないレベルでものすごく、現代日本ではどちらかと言うとジャニーズ系に近いぐらいの超人気。抱いて抱いての大騒ぎですよ。ただのおっさんなのに。コニタンに激似だなと思いましたが多分もう今の人たちには伝わりません。

さて、ルパートは出待ちの甲斐もあって強引にジェリーの車に一緒に乗り込むことに成功、「自分は才能があるコメディアンだからチャンスが欲しい」と訴え、「じゃあ明日事務所に連絡してこい」と細い糸のようなつながりをゲットしてその日はおしまい。

要はテイの良い人払いなわけですが、しかしルパートはこれをぶっといコネと認識、なんならもう俺はジェリーと友達じゃないか…? ってことで昔から好きだった女性の元へ遊びに行き、「これから大スターになるから一緒になってくれ」と散々吹聴してアタックします。

翌日、直接事務所に乗り込んだルパートは「ジェリーと約束がある」と訴えるもラスボスは中ボスを倒してからだぜとばかりに女性プロデューサーのキャシーが登場。美人です。

彼女に「デモテープを送って」と言われたルパート、一旦退散して自宅で録音後、またも直接事務所に乗り込んで「ジェリーに会わせろ、直接聞いてもらう」とゴネゴネやりつつキャシーに渡し、「返事は月曜日に」「じゃあ(ここで)待ってます」「いや今日木曜日なんですけど」みたいなやり取りから徐々にルパートの異様さを感じさせつつ、彼のコメディアンとして大成するという夢はどういう結末を迎えるのか…あとは観てどーぞ。

主人公の狂いっぷりが凄まじい

散々「怖い」「気持ち悪い」と聞かされていたので、そっち方面のハードルが上がっていたせいか割と平坦に感じられた内容ではあったんですが、ただ考えれば考えるほど確かに怖いし気持ちが悪い。いやすごいですねこの人物像は。

僕としては映画的に突き抜けて面白く感じたわけでもないし、身震いするほど肝が冷えたとかそういうわけでもないので比較的点数が低めの評価にはしたんですが、ただ…やっぱりすごくよくできた物語だなとは思います。これは絶対観たあとで段々と評価が上がっていくタイプの映画だと思う。そしてきっと忘れない映画でしょう。

「一見してそこまで面白かったわけではない」というのは、ある意味ではものすごくリアルで“普通に見える”面がそうさせたような気がしますね。

あらゆる行動が“普通じゃない”主人公なんですが、ただその行動原理に無理がないと言うか…純粋に自分の利だけを追い求めたらこういう行動を取るだろうね、と…ある種納得できるような素直さがあるんですよね。子供っぽさと言っても良いかもしれない。

当然ながら普通の大人、普通の社会人であれば相手(ジェリー)への迷惑や「自分が嫌われる可能性」を考えて100%やらないであろう行動を、迷いもせずに当たり前のように行動に移していくんですよ。この薄気味悪さったらないですね。

相手の心情はもちろん、自分が嫌われる=せっかく手繰り寄せたジェリーのコネから大成する可能性が潰えることもまったく考えてないし、成功を信じて疑ってない。

この当時はおそらく一般的な言葉ではなかったと思われるので当時は言われてないんでしょうが、早い話がサイコパスなわけです。彼は。でも「サイコパス」って言うと、もうちょっと悪目立ちするようなイメージなんですよ。狂った自分に酔っているような雰囲気を感じる、みたいな。

でもルパートにはそれがまるで無いんですよね。至って普通に、「こうするのが当たり前じゃないの?」とばかりに異様な行動を繰り返すわけです。その姿がもう気持ち悪いし怖いしすごい。きっと真に狂ってる人ってこうなんでしょうね。今まで観てきた「狂ってるな」と思う人は「狂ってる自分を認識している」人だったのかもしれません。ルパートは自分が狂ってる意識がまったくなく、自分は普通で誰にでも愛してもらえる自信がある。それがもうひたすら怖い。

芸能界も狂ってる

そんな主人公の狂いっぷりにばかり目が行きがちな映画だと思いますが、僕には一方でやや皮肉っぽく芸能界(引いては映画界を含めたショービジネスの世界)の狂いっぷりも表現した映画のように感じました。

どこでそう感じたのかはネタバレにつながるのでここでは書きませんが、はっきりと一般人側と芸能界側に壁を感じる描写が見られたんですよね。

それは別に芸能人が特別で一般人は下層の人々というような上下関係の話ではなく、ある程度「狂った世界が芸能界である」ことを表現した内容だったのかなと思います。たぶん。

ただこれもラストの解釈によっては変わってくる話だとも思うし、僕個人の感覚でしか無いんですが。

そもそも「ラストの解釈が分かれる」っていうのもイマイチ納得して無くて、僕は素直に受け取る話なんじゃないかなと思ったんですけどね。この辺は他の人のご意見も知りたいところ。そしてそういう映画は得てして良い映画でもあるわけですが。

面白さよりも印象に残る映画

そんなわけで、率直に言えば「面白い!」と言うタイプの映画ではなかったんですが、ただこれはやっぱり映画好きとしては一度は観ておくべき映画の一つだろうなというのは感じました。

それこそバットマンにおけるジョーカーのように、映画にサイコパスはある意味で付き物だと思いますが、その源流にして完成形とも言える相当なサイコパスの映画ですよこれ。しかもそこまで過激じゃないのに、ですよ?

同じスコセッシ×デ・ニーロの「タクシードライバー」の主人公・トラヴィスよりも全然狂ってると思います。トラヴィスはまだ思考の段階が見えて納得できる面があったような記憶がありますが、ルパートは最初から最後までまったく(自分も同じ行動を取れるかという意味で)理解できない人物だし、純度100%の自己中心的な人物として本当に気持ちが悪いすごさが忘れられないと思う。まさに背筋が寒くなる人物像。

故・松田優作がこの映画のデ・ニーロを評して、「この映画を観るまでは手が届く存在だと思っていたが、これを観て脱帽した」と語っていたそうです。それぐらい、「息を吐くように狂っている」、普通に(一見すると親しみやすいように見えるぐらいなのに)狂っている彼の演技も見ものです。わかりやすい狂人っぽさに頼らない狂人の演技。これまた震える。

そんな彼の演技を見て、彼(ロバート・デ・ニーロ自身)もまたある意味では狂ってるんだろうなと思わざるを得ませんね…。普通の人間にこんな演技できねーよ!

キング・オブ・ネタバレ

ここのタイトルは常にダジャレにしているのでしょうがないんですが、ものすごい天才的な解釈のネタバレみたいなタイトルになっちゃって心外ですよ。まったくもう。ただ僕が思ったことをネタバレ気にせずにツラツラ書くだけのコーナーですからね! 大層なことは書いてませんからね! 一応お断りしておきます。

さて、問題はラストの展開ですが…どうやらあれは「現実派」と「妄想派」で意見が分かれているそうです。

僕は普通に現実だと思って観てたんですけどね。それ故ラストシーンの“観客の盛大な拍手を受けながら長く沈黙するルパート”の姿に才能の危うさ(一発屋的に最初はうまく行ったものの出所したところで本当の才能がないことが露呈した)みたいなものを見た気がしたんですが、そういう話ではないのかなぁ…。

あれは妄想だったとしてそれはどこから妄想だったんでしょうか。逮捕後のエピローグの部分だけなのか、はたまたテレビに出てウケていたところもなのか。

それによってまたこの映画の評価は変わるのかもしれません。僕は彼がウケているところを観て、上に書いた「芸能界と一般人の壁」を感じたんですよ。

彼がしでかしてきたこと(散々ジェリーにまとわりついた上に誘拐・脅して出演まで漕ぎ着ける)を知っている(映画の)観客としては、彼のジョークなんてまったく笑えないわけじゃないですか。

でも収録会場にいる観客はそのことを知らず、なんならいつも知っている司会者からのお墨付きがあった上で彼の芸を観ているわけです。

僕は昔から笑いに先入観ってすごく大事だと思っていて、早い話が「対象に対する好意のレベル」で笑いのハードルってすごく上下すると思ってるんですよ。

「この人が好き」と思っていればまったく面白くないものでも笑うし、「嫌い」であればどんなに面白いことでも笑えないし。そもそも「面白さ」自体絶対的なモノサシがないので逆に言えば先入観がほぼすべてでもあるのかもしれませんが。先入観≒期待感とも言えます。もちろんそれは時間によって上下もします。

この「知っている(=信頼している)司会者による紹介」で箔のついたルパートの芸を観る何も知らない会場の観客たちは、それが大して面白くなくても笑って当然でしょう。言わば下駄を履いた状態ですからね。

でも映画の観客はそうではないわけで。

彼が狂ってるところは散々観てきたし、おそらく大して才能もないんだろうと思いながら観るわけです。でもそれがウケている…から「これは妄想なのでは」と思う、ということなんでしょうか。

僕はこれを現実として観たので、「何も知らない会場の観客の(彼に対する)無知から来る無邪気な笑い」と「現場で状況を知っている制作サイドの笑えなさ」にある種の断絶を感じたし、そこから「芸能界(ショービジネス)なんて所詮そんなもの」みたいなメッセージも込められていたんじゃないか…と思ったんですよね。

裏ではどんな人物かはわからない。実際ジェリーも高慢な人物でした。でもテレビに出れば「好意的に観てもらって何でもウケる」人物になってしまう。そこに演者と観客の壁があり、その壁によって人々は虚像を見せられているんだよ、という話なんじゃないのかなと。

また彼の狂いっぷりから「ある程度狂ってないと成功できない世界」のような皮肉さも感じたんですよね。これぐらい(良し悪しは別として)他に目もくれず自分の成功を信じて行動できる人間でないと“キング・オブ・コメディ”にはなれないんだよ、って。

実際はどうなのかわかりませんが、「現実」だったとしても「妄想」だったとしてもいろいろと考えさせられる部分があるし、どっちの解釈でも間違いではないんでしょうね、きっと。

観終わった直後は、映画的にはもっと劇的な要素(ジェリーが殺されるとか)があった方がより嫌な後味が残って刺さったような気がしたんですが、でもそれをやっちゃうと陳腐になっちゃうし今となってはこの終わり方のほうが上手いのかなと思い直しました。

「タクシードライバー」もそうでしたが、ハッピーエンド…というわけでもないですが、終わり方に優しさがあるのが印象的。もっと意地の悪い胸糞悪い映画なのかと思っていたのでそこも意外でした。

ただこれも妄想となると話が変わってくるわけで…やっぱりいろんな人の解釈を聞いてみたい映画ですね。

このシーンがイイ!

んー、やっぱり序盤のルパートが自宅で「練習」するシーンでしょうか。

ハリボテのジェリーとゲスト相手にトークの練習をしているのも薄ら寒いものがありましたが、なんと言ってもモノクロの観客を前に漫談練習するシーンですよ。もう怖いの気持ち悪いのって…。あの辺りのキャラクターの見せ方が素晴らしいですね。相変わらず一人芸で気持ち悪くさせるのお上手だし。デ・ニーロ。

ココが○

突き詰めればルパートのキャラクターになるんでしょうか。

ここまで「普通に」狂った人物像って本当に初めて観たので、「普通に足を踏み外す」気持ち悪さの凄みみたいなものに少し震えましたよ。

全然あり得そうな話だし、コスト的に防げそうにないのもリアル。

昔これを観て小堺(一機)さんはあまりの気持ち悪さと凄さに吐いたそうですが、芸能人…つまりジェリーに自らを重ねられる人は、それはそれは一般人以上に気持ち悪い映画でしょうね。それだけ良く出来ているってことでしょう。

ココが×

期待(?)ほど劇的なものもなく、表面上は割とソフトなので映画的にはやや地味な感じは拭えません。

ただそれも「包みが綺麗なだけで中身はドロドロ」な感じなので人によって評価は分かれると思います。皮をめくればめくるほど臭くなってくるこの感じ、考えれば考えるほどやっぱりすごいとは思います。

MVA

これはもう満場一致でこの人でしょうね…。

ロバート・デ・ニーロ(ルパート・パプキン役)

スタンダップコメディアン的な動きの上手さはもちろんですが、やっぱり「普通の顔して狂ってる」底なしのサイコパス感が本当にすごい。

なんなら普通に仲良くできそうなぐらいに一般社会に溶け込んだサイコパスなんですよね。その大げさではない怪演ぶりが本当に見事でした。

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