映画レビュー0574 『桐島、部活やめるってよ』

思い出したように出てくるたまにの邦画シリーズ。

今さらですけどねー。これ、ものすごい話題でしたから。大抵絶賛されてたので、あまのじゃくとしては「言うほどじゃないでしょ」と醒めつつ、でも観たかったので観てみたよっと。

桐島、部活やめるってよ

The Kirishima Thing
監督
吉田大八
脚本
喜安浩平
吉田大八
原作
『桐島、部活やめるってよ』
朝井リョウ
出演
東出昌大
清水くるみ
山本美月
大後寿々花
音楽
主題歌
「陽はまた昇る」
高橋優
公開
2012年8月11日 日本
上映時間
103分
製作国
日本
視聴環境
BSプレミアム録画(TV)

桐島、部活やめるってよ

バレーボール部のキャプテンで人気者の桐島が、部活をやめるらしい。そのことに関係のある人、無い人。興味のある人、無い人。それぞれの群像劇。

生々しい、生々しい、生々しい。

9.0

ちょっとどこまでがネタバレになるのか悩むところなのでハッキリは書きませんが…。

まず驚いたのは、桐島の扱いね。概要を知らないで観た人、きっとみんなそうだったんじゃないでしょうか。こう言う話だったとは…。

本当に誰もが既視感のある至って普通の学校生活と、至って普通の友達、恋人、片思いその他諸々を描いた本当にフツーのお話なんですが、とにかくとにかくすべてが生々しくて、これは原作・脚本ともにめちゃくちゃ巧みというか、日常の切り取り方にものすごいセンスを感じますね…。

A君から見た金曜日の後にB君から見た金曜日、その次は…って具合に、各人から見たある一定の期間を群像劇として描いているんですが、主観が誰かによって同じ出来事もだいぶ見え方が変わり、またそれぞれの心情もよく伝わってきます。そのそれぞれの視点がわかるからこその生々しさだし、隠さないからとても残酷で。いやぁ、面白いけどちょっと過激というか。精神的に。

言ってみれば、人気者である桐島が「部活をやめる」というのは、まあこの狭い世界においては結構な大事件なわけで、それに振り回される人がいたり、関係ないけど振り回されている人に振り回される人がいたり、学校版「風が吹けば桶屋が儲かる」話のように見えなくもないですがそれはどうでもいいです。

実際、桐島どうこうは実はそんなに重要でもない気もしますが、ただ何もない日常が流れていたところに、文字通り一つの波紋を起こすきっかけとして“桐島の部活やめ事件”があって、そのおかげで登場人物たちそれぞれの立ち位置やら個人的な感情やらがいろいろと噴出していったところをうまく見せる、そんな映画と言えばいいでしょうか。

まあとにかく生々しいんですよ。これが。「リアル」っていうより生々しい。

同じような意味に見えますが、「リアル」よりももっと気持ちが悪い感じ。良い意味で。古傷をえぐられる感じだったり、見たくないものを見させられている感じだったりが“生々しい”。

よく言われるように「スクールカーストを描いた映画」ではあるんですが、単純に人気者 vs 地味連中というような構図ではなくて、その中にまた細分化された微妙な距離感が見え隠れしているのがすごく生々しいんですよね。

そう、多分この映画を語る上で一番重要なワードは「距離感」じゃないかと思います。この描き方がものすごく上手いので、ものすごく複雑な気分にもなるし、ものすごく切なくもなるし、ものすごく嫌な気分にもなるわけです。

一番刺さったのは、三人称が「あの人」のシーン。「あの人なら大丈夫だよ」。

あれはそう言っちゃうのはものすごくよくわかるけど、残酷すぎる…。

それと女子4人組を解くと2対2になる感じもすごく生々しくて、微妙な気持ちになりました。この女超嫌いだな、とか、こんなそっけない男やめちまえよ、とか思いながら観ていましたが、ただそこにまたいろんな心情が見え隠れしていて、少ないセリフ、動きの中に多面的な心情を持たせていたのが印象的で、上手いなぁすごいなぁと。

かねてより、邦画はセリフが嘘くさいとか演出がオーバーすぎるとかよく文句を言ってましたが、とにかくこの映画はどっちもとても自然で生々しいので、これは確かにめちゃくちゃ良くできた映画だな、と驚きました。

はっきり言ってストーリーを全部書き起こしたら「は?」って感じだと思うんですよ。何が面白いの? って。でもこの世界にいる彼たち彼女たちにとってはこの世界がほぼすべてなのもすごくよくわかるし、となると彼たち彼女たちにとってこの話がいかに大きなウェイトを占めているのか、それもまた痛いほどよくわかるわけです。だから、面白い。

「こいつとこいつはどうなんね~ん」とか、「彼の彼女の片思いは…!」とか、いくつか気になる関係性も出てきますが、そのどれも特に答えを出さずに終わります。

ただ、それがまた“日常感”を増幅させている気がして良かったんだと思います。

一瞬だけ沸騰した数日間だけど、それもまた彼たち彼女たちにとっては日常の一コマでしかないし、この先またくだらない見栄をはり、ニセの和解をし、また誰かと誰かは本当の友達になって、そしてまたゾンビの映画を撮り続けるんでしょう。少しだけ学生の日々を覗かせてもらったような生々しさにむず痒い思いをしつつ。

ちょっと心がざわつくシーンでは、今だったらこういう時、もっとうまく切り抜けるだろうな~とか。自分が大人になったことを再確認しつつも、同時に純粋ではなくなっていっていることも自覚させられ、いろいろと物語外にも頭が行くお話でした。それが何よりも良い映画の証拠じゃないかな、と思います。

とても面白かったです。ごちそうさまでした。

このシーンがイイ!

やっぱりね、上に書いた「あの人」のシーンはグチーンと来ましたよ。刺さった刺さった。あと屋上で「謝れよ」って言うところも心がざわざわ。その後のゾンビシーンで大笑い。

さすがに屋上のシーンは山場なだけに、全体通してとても良かったんですが、一番グッと来たのは沙奈が喧嘩をけしかけてケタケタ笑ってたシーンですね。

すごく嫌な気持ちになりつつも、これまた生々しすぎて。こういうやついるよな、すげー嫌いだけどわかるわ…っていう。

ココが○

生々しさに尽きると思います。

何よりも、多かれ少なかれ観客に共通の記憶があるはずで、そこを拠り所に少しずつひっかき傷をつけていく感じがとても上手い。全体を通してどちらかと言うと観ている感情的にはネガティブな部分が強かったんですが、ただその気分の悪さが面白いんですよねぇ。不思議。

ココが×

何かがすっぱり片付いたり、グッと来たりするようなものは何もないので、終わり方は良いもののモヤモヤしたまま終わっちゃう感じはありました。なんというか、ものすごく面白いんだけど、カタルシスがない映画。

そこに少しだけ残念な気持ちはありましたが、ただこの映画でそれをやっちゃいけないのも事実です。

MVA

いやいやみなさんなかなか素晴らしかったですね。山本美月のケバさが気になりましたが、それも込みでのキャラなんだろうな…。さて、一人選ぶとしたら…この人。

松岡茉優(野崎沙奈役)

めっちゃムカつくギャルスネオ。

イケメン(東出昌大)と付き合っているのをステータスのように振る舞う嫌味な女で、特に上にも書いた屋上でのキャラにはイライラムカムカ来ましたが、それだけとても良い演技をしていた、ということで。うまかったな~。

ちなみに見た目的には実果役の清水くるみがドンピシャでした。昔こういう雰囲気の女子好きだったんだよな~とちょっとノスタルジー。この子も大変良い演技でしたよっと。

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