映画レビュー1209 『ラストブラックマン・イン・サンフランシスコ』
今回はJAIHOなんですが、以前ウォッチパーティの候補に上がっていたので(2022年3月現在)アマプラでも観られます。
なんでもオバマ元大統領がその年のNo.1に挙げていたとかで、だったら観てみるかな、と。
ラストブラックマン・イン・サンフランシスコ
ジョー・タルボット
ジョー・タルボット
ジミー・フェイルズ
ロブ・リチャート
ジョー・タルボット
ジミー・フェイルズ
ジミー・フェイルズ
ジョナサン・メジャース
ダニー・グローヴァー
ティシーナ・アーノルド
ロブ・モーガン
マイク・エップス
フィン・ウィットロック
エミール・モセリ
2019年6月7日 アメリカ
120分
アメリカ
JAIHO(Fire TV Stick・TV)

黒人でなければ本当の良さはわからないのかもしれない。
- 自らの誇りとして祖父の建てた家を愛する青年、しかし今は別の白人家族のものに
- 親友とともにしょっちゅう訪れては勝手に修復を行うが…
- 環境的に日本人には共感しにくい面があり、やや入り込みづらい
- 演出の良さだけで良い映画と感じる強さ
あらすじ
とてもいい映画だとは思うんですが…正直合いませんでしたね。ただそれはやっぱり「黒人の歴史と文化」がベース(の知識)にないと深いところがわからないからなんだろうと思うので、理解しきれなかった自分の教養の無さにちょっと落ち込むような映画でした。
サンフランシスコで暮らすジミー・フェイルズ(本人)は、親友のモント(ジョナサン・メジャース)とともに時代を感じさせる邸宅を訪れては「手入れがなってない」と勝手に窓枠のペンキを塗り直したりしております。
この時点で住人としては結構恐怖だと思いますが、実際彼が勝手に修復中に帰宅した住人夫婦に追い出されたりとちょっとしたトラブルも。
彼はその理由についてその住人には語りませんが、本当のところはその邸宅がかつて彼の祖父が自ら建てた家のため、今はやむを得ず彼らの手に渡ってしまったもののいつか自分の家として再度手に入れることを夢見ているわけです。
しかしもはや高級住宅街となってしまった当地で、しがない介護士の自分が家を持つことは不可能に近いこともわかっていたんですが…ある日その家で暮らす夫婦が遺産相続問題絡みで退去することになり、これはチャンスとばかりに勝手にリフォーム、そして寝泊まりも始めた二人。
もちろんそのまま「自分のものになりました」とは行かないわけで…この家の未来はどうなるんでしょうか。
価値観、帰属意識がどうかによる
僕も鑑賞後に知ったんですが、上に「本人」と書いたようにこの映画はジミーご本人の経験を元にした実話系ドラマだそうです。
今は富裕層の白人ばかりが暮らす地区に現存する、かつて祖父が建てた家を誇りに思っている彼が、その家を取り戻すべく奔走するお話…なんですが、当然“正攻法”では手に入らないものなだけに、不法占拠のような形で暮らし始めるのが前半のお話。
僕はこの時点でもう結構ついていけないと言うかあまり好きになれなかったですね。当たり前ですが不法占拠は不法占拠、勝手に入って暮らして追い出されて怒る、ってただのガキじゃないですか。バカなのかな? って。
ただそれも一応はもっと広い視野で「そもそも白人が黒人から収奪したもの」と考えれば“あるべきところに戻すだけだ”と言う理論が(当事者の頭の中で)成立するよ、というのもわからないでもないです。
とは言え…やっぱり普通の感覚からするとちょっと二人は身勝手すぎるよなと思うんですよね。不動産屋で悪態ついたりもしてますが、それもやっぱり普通に考えれば不動産屋としてはえらい迷惑な話ですよ。金もない人間が勝手に入居して、退去させられて怒る、って。文字通り逆ギレだし。
メインとなるお話がこれなので、正直「気持ちはわかるけど…ウーン」という感じでずっと乗れずにいました。
黒人同士のコミュニティにおける問題であったり、ジミーとモントの親友関係であったり、その他の部分もいろいろあってそれは良いなと思う部分も多かったんですが、いかんせん核となる「自らの誇りである家」についての向き合い方が違法手段っていうのはやっぱりちょっと感情移入しづらい。
それと、そもそも「祖父が建てた家が自分にとっての誇り」というアイデンティティについてもあまり共感できなくて。
結局自分の帰属意識がどこにあるのかによって受け取り方が変わってくるんだろうなと思うんですけどね。国とか組織とか家とか、そういったものに帰属意識を強く持つ、いわゆる保守系の人であれば共感できるのかもしれませんが、僕は内面の方に帰属意識を持つタイプなので、言ってみれば主人公とは正反対の価値観なんですよね。「家が欲しいから不法占拠する」のではなく「不法占拠するような自分が許せない」方に重きを置いているわけです。
なのでなおさら、純粋に「手段が良くない」以上に「そういう行動に取る人間になりたくない」と思っているから好きになれない、というのがとても大きかったような気がします。
どんなに良いことを言ってても、どんなに自分にとって大切だと語られても、そこの芯の部分で共感できないのでどうしても評価しづらい。そんな映画でした。
日本人にはハードルが高いかも
ただ、その一連の話は好きになれないものの、最終的な方向性は結構好きで、特に最後の決断の部分はなかなか良くてグッと来てしまった面もあって、それ故全体としては悪くはなかったなと思います。
とは言えそれも前半とは違ってわかりやすく伝えるものでもなく、心情を推測するような形になっているので前半のマイナスはカバーしきれなかったなーと言う印象。
もっともそれはそれで明け透けに心情を語られても興醒めなだけに難しい…。もうちょっと背景の話がしっかりあったら印象が違ったのかもなと思いますが、それはきっと黒人であれば共通認識として持っている前提条件のようなものがあるからいらないのかな、とも。
なのできっとその“前提条件”が無いとなかなか本当の良さがわかりづらい映画なのかなと。それは白人側にもあるものなのかもしれず、もしかしたらアメリカ人であれば自ずと理解できる何かなのかもしれません。
そう考えると、この映画の真の良さを理解するには日本人には少しハードルが高い気がします。本当に根っこの部分に、白人と黒人が暮らしていく中で築き上げられた“何か”があって、そのベースの上に受け取るものがあるんだろうと思うんですよ。
そういう意味ではこれもまた「サラエヴォの銃声」のようなハイコンテクストな映画なのかもしれません。
このシーンがイイ!
オープニング、二人でスケボーに乗るシーンがなんか好きでした。スケボー2人乗りってかなり仲良くないと多分無理だし。
ココが○
朝焼けがすごく美しかったり、とにかく映像の説得力が強い映画だな〜と思います。話自体はピンと来なくても「なんか良い映画だなこれ」と思わせる強さがあるというか。
ココが×
上に書いた通り、どうしても深い部分まで理解できないもどかしさ。
表面上だけで観れば(特に前半は)自分勝手な男たちの話にしか見えないんですよね。
MVA
順当にこの人かなー。
ジミー・フェイルズ(本人役)
家好き好き主人公。
やや抑えめで知的ないい演技だな…と思ったら鑑賞後にご本人と知ってびっくり。
そりゃー自分を“演じる”んだから難しくはないかもしれませんが、それにしたってド素人感全然なかったしすごく自然で良かった。