映画レビュー0729 『ラストエンペラー』
今週も特にネトフリで気になる配信終了間際タイトルが無かったため、レコーダー容量削減に勤しみます。
今回はちょっと長めのを観るぞと気合を入れてこちらの映画。とは言え僕が観たのは劇場公開版なので3時間弱です。
懐かしいですねー。世間的にかなり話題になったと記憶しているんですが、もう30年も前の映画なのかと衝撃…。
ラストエンペラー
東洋のゴッドファーザー。
僕の幼少期の記憶では、確か坂本龍一がアカデミー賞音楽賞を受賞したということもあって日本でもえらい騒ぎで大ヒットしたような気がするんですが、その記憶故に「(日本では)坂本龍一の音楽のおかげでヒットした」ぐらいの認識だったんですが、実際観てみると坂本龍一は出演もしている(しかも音楽のオファーは撮影終了後の話らしい)し、何より満州国が大きな関わりを持つ物語なので、想像以上に日本と深く関わってくるお話だったのが驚きました。
言ってみれば日本史で学ぶような内容の一部分を大きく切り取った物語のような側面もあるので、「中国の清朝の最後の皇帝のお話」という字面から受ける印象よりもかなり強く日本との関わりがあるお話で、そういう日本人的な近さと同時にお勉強にもなるという知識欲を刺激するという意味でもとても良い映画でしたね。
物語は捕虜として連行される「ラストエンペラー」、愛新覚羅溥儀の姿から始まります。
僕の「ラストエンペラー」の印象は完全にジャケットでよく見る幼少期の姿しかなかったのでこの時点で結構びっくり。彼は政治犯として中国に送還されるようで、物語開始直後に自殺を図りますが、監視人に止められ、一命を取り留めます。
その彼が朦朧とする意識の中で思い出していたのは、かつて自分が皇帝として紫禁城に連れてこられた頃のお話。つまりはここが実質的な「ラストエンペラー」としての物語のスタートと言っていいでしょう。
彼は当時の清朝最高実力者である西太后によってわずか2歳10ヶ月の段階で皇帝に任命され、その日から紫禁城から一歩も出られない…言わば軟禁状態のような形で皇帝としての人生を始めることになります。
そう、当時の中国国内ではもうすでにこの「ラストエンペラー」が皇帝になった頃には清朝は“お飾り”のようなもので、実際は「紫禁城の中でのみ存在する王朝」だったわけです。
言わば籠の中の鳥のような状態で育てられたラストエンペラー・溥儀はそのことも知らずに育ちますが、やがて少年となった頃に連れてこられた実の弟・溥傑により、“外の世界”では自分が皇帝ではないことを知らされます。ショックを受けながらも皇帝としての生活を続ける溥儀は、その後イギリス人家庭教師・ジョンストンによる教育を受け、次第に先進的な思想や西洋文明に興味を持っていくわけですが…後は割愛。
元々この手の“歴史大作”と言われるような映画は、とかく長い割に退屈しやすくて眠くなるようなイメージが強く、またアジアがテーマだと尚更飽きそうでなかなか観る意欲が沸かなかったんですが、これがなかなかどうして…純粋に面白かったですね。すごく良い映画でした。
「すげーなーこんな豪華なセット作り上げたのかー」とボンクラ感想を抱いていたところ、なんと実際に世界遺産の紫禁城を数週間借り切って撮影をしたという逸話からもわかる通り、まず序盤の紫禁城の美術面だけでもすごくてですね。さすが中国四千年の歴史だな、とまったく意味のわからない感想を抱くわけです。
寿司屋の大将が「バブルが弾けちゃったせいでネタもよくねーよ」って言っちゃう、みたいな。説得力があるのか無いのかよくわからない説を持ち出すぐらいになかなかの衝撃でした。(これも意味不明)
そんな幼少期でまず惹きつけつつ、途中途中で挟まる捕虜時代のお話から「皇帝から捕虜に身をやつす」ことの前フリにハラハラしながら、「最後の皇帝」としての彼の一生を眺めます。
当然ながらタイトルでネタバレしているために彼が最後の皇帝であることは誰が見てもわかる、つまりそこには自ずと激動の人生がセットになっているわけで、その彼の人生そのものがもうすでに映画向きというか…まあ当たり前ですよね。ただの「最後の皇帝」ではなく、中国における最後の皇帝ですからね。
長い長い王朝時代の終わりを告げる人がこういう形で人生を全うした、というその事実そのものがもう胸に迫るものがありました。
幼少期の彼は、まあ当然なんですが無邪気に権力を行使するので、なかなか食えない嫌なガキだな感もあるんですが、しかし元々聡明な子供だったらしく、成長後の革新的な志向は消え行く王朝の火を今一度燃えさせようとする意欲が見え、「彼だったらもしかしてうまくいくのでは」というような有能さを感じさせる良い人物像だったように思います。
しかし、悲しいかな彼の人生は常に「周りの人間たちにとって都合のいい皇帝でいる」ことを望まれる、人間よりも権威を愛された人物としての悲哀というものが影を落としていて、なんともやりきれないものがありました。
この辺りは最近の日本の(劣化した)右翼の人たちによる天皇陛下を利用する考え方にも非常に似ているものがあり、やはり権力というものは多かれ少なかれそういう面がある、「立場は上でも利用されてしまう」悲しさをまとっているものなんだなと…考えさせられましたね…。
中盤以降はそんな「彼を利用しようとする」日本による彼の人生への介入が強まっていくんですが、その辺りはこの映画の日本人的な見所でもあると思うので割愛します。ただ、最初に書いた通り思ったよりもかなり日本の存在が大きな物語だったので、実は「お隣の国の歴史のお話」と片付けられない、一日本人としても観ておくといろいろ勉強になるという意味でも、今観ても遅くない良い映画と言えるでしょう。
彼とその家族が辿る結末は、やはり当たり前ですが創作にはない説得力があり、それ故にいろいろと史実について学びたくなるような映画だと思います。
僕は最後まで観て、「これは東洋版のゴッドファーザーだな…」と思いました。
重厚さという意味ではあそこまでのものはないんですが、しかしやはり一人の人生をじっくりと丹念に追い、幕を閉じるまでを描く様にあの映画のような雰囲気を感じるんですよね。
また、ところどころ捕虜時の尋問から回想に入っていく形を取っているので、状況を理解しやすい、うまい形での説明が入っているのもポイントだと思います。
比較的長時間の映画なのでなかなか気合いはいると思いますが、しかし僕が最初に抱いていた「アジアの歴史」的なニュアンスから来る興味の持ちにくさみたいな印象とはまったく違って、(個人差もあるでしょうが)かなり観やすく興味を持ちやすい映画だと思います。
一度観ても損はしないのではないでしょうか。
このシーンがイイ!
いやー、これは…詳細は書けませんが、終盤あるところに立ち寄ったシーンでしょう。そうか…! と胸が熱くなりました。きっと誰もがそうだと思います。
ココが○
きっと中にはおかしいと思う人もいるだろうと思うんですが、この映画はほぼ全編英語です。僕はそこが洋画好き的に観やすくて良かったですね。
これが中国語メインだったらなんか入りづらかったんじゃないかなーって気がする。なんとなく。
ココが×
だいぶ脚色も入っているらしいので、この映画をそのまま「実際にあったこと」として受け取るのは危険なようです。とは言えよく出来ているし、さすが未だに評価が高い映画なだけあるな…と納得。
MVA
やっぱりこの人になるのかなー。
ジョン・ローン(愛新覚羅溥儀役)
主人公は幼少期〜少年期で他に3人出て来るんですが、青年期以降を演じたメインのこの方に。
もうね、ほんっとヤスケンにそっくりなんですよ。マジで。だからこそどうでしょう軍団員として観ちゃったような気もしないでもないです。
ハツラツとした青年期から、収監されて目の輝きを失っていく中年期以降と見事に演じていたと思います。
最後に一応触れておきますが、音楽自体はとても良かったんですが坂本龍一の演技は若干臭かったです。なぜこの人にしたんだろう…。