映画レビュー0723 『ラスト・ショー』

定期的に訪れる古い映画が観たいぞタイムということで今回はBS録画より。モノクロ映画です。

ラスト・ショー

The Last Picture Show
監督
脚本
ラリー・マクマートリー
原作
「The Last Picture Show』
ラリー・マクマートリー
公開
1971年10月22日 アメリカ
上映時間
118分
製作国
アメリカ
視聴環境
BSプレミアム録画(TV)

ラスト・ショー

テキサスの田舎町に暮らす高校生たちの恋と青春のあれこれ。

失われた世界。

7.0

ペーパー・ムーン」のピーター・ボグダノヴィッチ監督による青春映画。ペーパー・ムーン同様、すでにカラーの映画が主流だった時代の映画ですが、モノクロで作られています。

舞台はテキサスの田舎町。

もう今となってはこの映画に出てくるようないかにも古い町並みに狭いコミュニティなんてどこにもないでしょうね…。のっけからすべての風景がものすごくノスタルジックです。映画自体は1970年代の映画ですが舞台は1950年代らしいので、もうこの映画の公開時点でもかなり「失われかけた世界」だったのかもしれません。

その街で暮らす高校生のソニーとデュレインの二人を中心に描く青春映画。「ラスト・ショー」は文字通り、街にある映画館で上映される「最後の1回」のことを指すんですが、そこまで映画館が中心に据えられた物語というわけでもなく、あくまで中心は街そのものです。

街の中心にあるのはオンボロビリヤード場にオンボロダイナーにオンボロ映画館。そこでデートしたり遊んだりと日々を過ごす若者たちと、彼らを見守る大人たちの物語というところでしょうか。

デートをする場所は街にある映画館ぐらいしか無く、そこでちょっといちゃついては車に乗って乳繰り合うというなんとも微笑ましい青春時代ですが、物語は(特に表示されませんが)それなりに年数が進む構成になっていて、高校生が卒業して社会人になり、街に残る人・出て行く人それぞれの日々を描きながら、微妙な関係性の変化と成長を描くような映画になっています。

全体的にはそこまで大きな事件もなく、よくあるちょっとしたいざこざや事件をきっかけに人間関係が揺れ動くという…ある種お決まりの青春物語ではあるんですが、ただやっぱりこの1950年代の古き良き時代と古き良き寂れた街を舞台に展開するために、何とも言えない郷愁を誘う雰囲気がありました。

どっからどう見ても寂れた街なので、「この街に残って生きている」大人たちにもどこか悲哀が漂っていて、そこがまた…未来のある若者とここで一生を終える大人たちの対比から来る「うら寂しさ」みたいなものはすごく感じましたね。

もちろん大人は大人、若者は若者とはっきり分かれているわけでもなく、彼らに大人としての生き様を伝えるおじさん(サム)であったり、ソニーと不倫にハマっていくコーチの奥さん(ルース)であったり、それぞれが交錯しながら成長しつつ後悔しつつの物語になっていて、これがなかなかしみじみと良いお話ではありました。特にやっぱり「女によって変わる・変えさせられる男」というのはいつの時代も変わらないね、 という感慨にも似たものがありましたね。

その「男に影響を与える女」としてヒロイン的に出てくるのがシビル・シェパード演じるジェイシーで、最初はデュレインの彼女として登場するものの…その他何人もの男に色目を使うというかなりのビッチっぷりで素晴らしく物語を荒らしてくれます。もうマジビッチなの。マジで。

でも確かにめっちゃ美人だからそれもわかるというか、この寂れた狭い街でこんな女子がいたら…そりゃあビッチにもなるだろうなぁという感じ。そのジェイシーのお母さんがエレン・バースティン演じるロイスなんですが、彼女が…なんて言えばいいのか…ある程度遊びを知っている幅のある大人というか、子どもたちのすることにも理解があって、綺麗事ではないリアルな助言をするとても良い大人でですね。さらにその他ソニーと浮気に走るルースを演じるクロリス・リーチマンも含め、古い映画にしては珍しく女優さんたちが光っている映画だなーと思いました。

そんなこんなで一つの寂れた街で生きる老若男女たちの何気ない日常を通し、徐々に変わりつつある街を見つめる静かな青春映画ですが、終始(主に車の)ラジオから流れるオールディーズ的なBGMがたまらなく郷愁を誘ってくれる、しんみりしみじみとお酒でも飲みながら観るには良い映画ではないかと思います。地味ですけどね!

一応20年近く後になって続編が作られているので、そちらも機会があれば観たいところですが…BSでやってくれないかなぁ。

ネタバレ・ショー

ちなみにネタバレ項に書くことでもないんですが、ソニー役のティモシー・ボトムズはジェイシー役のシビル・シェパードに(実際に)片思いしていたもののダメだったそうで、ちょろっとこの映画の内容とも被ってくるのはなかなか面白いお話な気がします。確かにあれだけかわいかったら惚れるのも無理ないよなぁ…。

あの結婚の顛末は描写も少なくてよくわからなかったんですが、あくまで口頭で「結婚しよう!」って言っただけで法的なものは何も済ませてなかった、ってことなんでしょうかね、きっと。

ソニーの気持ちはよくわかったんですが、ジェイシーの方は何を考えて駆け落ちしようとしていたのかよくわからず。どう考えても見つかろうとしてたっぽいし、本気じゃないのは明らかなんですが…。ただ単に「オバさん(ルース)が私に勝てるわけないでしょ?」って自己満足するためってこと? やっぱりビッチだなこいつは!!

まあ本当にこのジェイシーのビッチっぷりは終始徹底してましたね。コワイ。

このシーンがイイ!

卒業の日、車に乗りながら湖を眺めるシーン。あそこが一番グッと来たなぁ…。

ココが○

本当に何気ない物語なんですが、やっぱり全体的に「今は失われた」優しいコミュニティが見えるのが良いですね。昔はこういう地域で住人たちが相互に見守り、成長していくような環境があったと思うんですが…。今のお隣さんの顔すら知らない世の中とは文字通り隔世の感があって、不便で面倒だったかもしれないけどこの優しさは大事だよな、としんみり感じました。

ココが×

まー地味ですよね。やっぱり。モノクロで古い時代の失われたコミュニティの話となると…興味がない人続出って言う気はする。もう少し何か大きな波があれば…という気はしました。

MVA

サム役のベン・ジョンソンもすごく良かったんですが、少々登場時間が短いのと、やっぱりこの映画は女性の映画じゃないかな、ということでこちらの方に。

エレン・バースティン(ロイス役)

クソビッチジェイシーの母。

エレン・バースティンと言えばもう晩年のイメージしか無いので、すでにこの頃中年ではあるものの…カッコイイ女性的なイメージはなかなか新鮮でした。こういう大人良いなーと思いつつ。素敵でしたね。とある逸話の中心人物なんですが、それも納得のキャラクターなのがまた良かったです。

ちなみにデュレイン役はあのジェフ・ブリッジスが演じているんですが、「わけぇな!」ぐらいで特に今と変わらないイメージだったこともお伝えしておきます。

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