映画レビュー1385 『切り裂き魔ゴーレム』
最近(?)アマプラも配信終了が近い映画をカテゴリー分けしてくれてるので見つけやすくてありがたいぜ、と探していたところ中央にビル・ナイが鎮座していたのでそれだけで観るぞと選びました。
切り裂き魔ゴーレム
フアン・カルロス・メディナ
『切り裂き魔ゴーレム』
ピーター・アクロイド
2017年9月1日 イギリス
109分
イギリス
Amazonプライム・ビデオ(Fire TV Stick・TV)

ゴシックホラー×濃厚ミステリーで大満足。
- 夫の毒殺で逮捕された夫人は舞台女優の有名人
- 一方世間は以前から発生中の別の連続猟奇殺人事件が注目の的
- 実はその殺された夫は連続猟奇殺人の容疑者で…
- 人間関係とゴシックホラーが絡み合う濃厚ミステリー
あらすじ
いやーめちゃくちゃ好きでした。タイトルのB級感からは想像もつかない手の込んだ傑作です。
舞台は1800年代のロンドン。
最近街は連続猟奇殺人事件の犯人「ゴーレム」の話題で持ちきりなんですが、それとは無関係と思しき「毒で殺害された男性」が発見され、結局毒を盛った容疑でその男性の妻、エリザベス(通称リジー)・クリー(オリヴィア・クック)が逮捕されます。
彼女は人気俳優のダン・リーノ(ダグラス・ブース)率いる劇団(?)の人気女優であり、その裁判もまた一般大衆から興味の的となったのでした。
一方「ゴーレム事件」の捜査が思うように進まない警察は、花形刑事である担当のロバーツ(ピーター・サリヴァン)のキャリアに傷がつくことを恐れ、閑職に追いやられていた警部補ジョン・キルデア(ビル・ナイ)を新たな担当刑事とし、いわゆるスケープゴート的に事件を担当させます。
しかし真面目なキルデアは一人地道に捜査を進め、やがて毒殺されたリジーの夫が容疑者の一人であることを突き止め、収監中の彼女に面会を求めますが…あとはご覧ください。
映画としての地力がある
スタッフロールの最後に「アラン・リックマンに捧ぐ」と出てくるんですが、どうやらビル・ナイが演じる主人公はアラン・リックマンが演じる予定だったようですね。キャスティング後にがんが判明して治療に専念、しかし結局帰らぬ人となってしまいました。悲しい。
きっとアラン・リックマンでも見応えのある映画になったように思いますが、しかし実直に捜査を進めつついろいろと苦悩していく老刑事を見事に演じたビル・ナイはさすがの一言。ビル・ナイ目的でも満足のいく映画でした。
が、そんな「ビル・ナイ出てるし」ぐらいの軽い気持ちで観た自分にばかやろうと言ってやりたいぐらいに映画として非常に力のある作品に仕上がっていて、ド直球で好みの映画でしたね。もう良すぎて身震いするぐらい良かった。
話としては物語開始時点で未解決の「連続猟奇殺人事件」があり、そこに一見関係なさそうな「夫の毒殺事件」がリンクしてきて、さらにそこに関わる人たちの過去も振り返りつつ事件の真相に迫っていく老刑事…的なミステリーになっています。
ネットの評価はイマイチな感じで、なんでここまで良い映画がこんなに評価低いのか…と違う意味で身震いしたんですが、こればっかりは好みもあるので難しいところだとは思いつつ、でも“真犯人云々”関係なく画作りの良さ、映画としての質の高さという意味で低評価にするのはちょっと厳しすぎませんかねと言わざるを得ません。
1800年代の古いロンドンの町並みの良さも去ることながら、ロンドンらしい霧に包まれた仄暗い、湿気が高そうな映像とゴシックホラー感の融合が素晴らしく、まずもって雰囲気が最高です。衣装も素晴らしい。みんな大好き英国感浴びまくり。
オープニングは酒場的な劇場の劇団長であるダンによる語りから始まるんですが、劇中でも同様に演劇のシーンがちょくちょく登場します。これによってリジーにしてもダンにしてもその他のメンバーにしても「役者である」ことが印象付けられ、疑心暗鬼にさせられる作りもお見事。
結構ネットでは「オチも読めた」みたいなドヤ顔レビューが多いんですが、僕は最近その作品をきちんと楽しめるようにあえて読まないようにしているので結構しっかりびっくりできて、ミスリードも上手いなと感心しました。なので先を読まないように観るのがオススメです。
もっとも、さっきも書いた通り「読める読めない」以前に映画としての地力があるのは間違いなく、演出も力が入っていて没入感も素晴らしいので、表面上で「犯人わかったからイマイチ」みたいなのはちょっと観方が浅いんじゃないかなぁと思いますね。それだけ力の入ったすごくよくできた映画だと思います。
その一環とも言えますが、この映画のちょっと珍しいところとしては連続猟奇殺人犯「ゴーレム」の容疑者がビル・ナイ視点で変化するたびにそれぞれの役者で事件の再現映像が作られているところ。
最初は毒殺された被害者であるリジーの夫・ジョンによって猟奇殺人の犯行映像を見せられるので、先入観的に「ああもうゴーレムこいつじゃん」と思うんですが、今度は違う容疑者でまったく同じ殺人の映像が流れるんですよ。
人間(というかおれ)は単純なもので「犯行映像を観る」ともうこいつ犯人じゃんと思っちゃうんですが、これがそれぞれ別人で何度も流されるので「うおおおお誰なんだー!」とわからなくなるという…我ながら非常に単純で良い客だなと思いますが、この見せ方はなかなか今まで観たことがなかったし、その一点だけでも結構力が入っているなぁと感心するわけです。被害者役の人も大変ですよこれ。
キャスティングも◎
ビル・ナイが最高なのは当然なんですが、個人的に「この人が出てる映画は大体良い映画」判定の基準となる名優エディ・マーサンが出ているのも高ポイントです。これまた物語的にも旨味のある良い役でした。
それとリジーのライバル的な女優さん、嫌な役だけどめっちゃ美人だなぁとヨダレ垂らしながら観ていたんですが、調べてびっくりマリア・バルベルデ様ですよ…!
おそらくあんまり観た人はいないと思いますが、マリア・バルベルデと言えばラブコメ「やるなら今しかない!」でのスーパーキュートっぷりが即座に思い出されます。改めてレビューを読み直しても「マリア・バルベルデがかわいい」しか書いてない。ひどい。でもそれぐらいかわいかったのは覚えてます。映画の内容は大して覚えてないけど彼女がかわいかったことだけは覚えてる。人の記憶なんてそんなもの。
今作ではちょっと嫌な役なだけにかわいさは封印されているんですがそれでも隠しきれない美貌、さらにちょっとしたサービスシーンもあって三回拝みました。
そんな役者陣の豪華さも最高なんですが、もちろん演技も皆さんお見事で文句なし、これは本当に傑作だと思います。円盤ほしいぐらい好き。
「でも読めるし」とか言う輩にはオチどうこうじゃねえんだよ! とグーパン食らわせたいぐらいに好きな映画でした。オススメ。
このシーンがイイ!
やっぱり「殺人再現シーン」でしょうか。各人で何度も出てくるパターンは本当に観たことがなくて新鮮でした。その割に時間も長くないのでテンポを殺してもいないし、この映画独特の良さにつながっていたと思います。
ココが○
主要登場人物それぞれの愛蔵渦巻く人間関係と事件を絡ませた物語、そしてその見せ方のレベルの高さ。本当になんで評価が低いのかまったくわかりません。「ディナーラッシュ」褒めてる場合じゃねえだろタコ!!
ココが×
一点だけ、猟奇殺人がテーマなだけにちょっとグロいです。僕もちょっとウッとなるシーンはありました。でも個人的にはギリギリセーフ。
何より映画自体の出来が良いので些末な話かなと。
MVA
ビル・ナイ始め皆さん良かったんですが…この映画はこの人かなぁと。
オリヴィア・クック(エリザベス・クリー役)
夫殺しの容疑で逮捕される女性。人気女優。
観ればわかると思いますが、非常にお上手でした。「女優が女優を演じる」時点でちょっと一筋縄ではいかない感じがありますが、とは言えしっかりヒロインとしても魅せるしすごく良かった。
あんまりこういう演技派的なイメージは無かったんですが、いやいやなかなかどうして。名演でしたね。