映画レビュー0707 『ロブスター』

レンタル2本目。

元上司にも「面白かったよ」と勧められ、予告編も観て気になっていたので借りてきましたが、カンヌ映画祭審査員賞っていうのが…なんか嫌な予感もしつつ…。

ロブスター

The Lobster
監督
ヨルゴス・ランティモス
脚本
ヨルゴス・ランティモス
エフティミス・フィリップ
公開
2015年10月16日 イギリス・アイルランド
上映時間
118分
製作国
ギリシャ・フランス・アイルランド・オランダ・イギリス

ロブスター

45日間一人でいると予め指定した動物にさせられてしまう世界。そこでは一人になったときから、誰もがあるホテルに連れて行かれ、カップルになるべく努力をさせられるのであった。ある日、奥さんに捨てられた中年男・デヴィッドはそのホテルに連れて行かれ、過去に犬にされてしまった兄と暮らしながら新たな伴侶を探し始めるが…。

全編シュールながら徹頭徹尾「愛」の映画。

8.5

いやもうほんとね…。45日どころか言えないレベルの期間独り身の人間にとってはもう入口の時点で胃が痛くなるような設定なんですけどね…。ちょっとパッと見だとよくわからないと思うので、詳しくご説明。

近未来が舞台らしいんですが、あんまり近未来感も無いので地球のアナザーワールド的な感じと思っておいていいでしょう。この世界では一人で生きていくことは許されておらず、一人になると必ず「婚活用ホテル」みたいなところに強制移住させられるんですが、主人公のデヴィッドも妻に捨てられたことでこのホテルに連れて来られます。ここが物語のスタート。

このホテルでは45日間だけ猶予を与えられ、その期間中に同じくホテルで暮らす人たちの中からパートナーとなる人を探し出し、二人で生活を送れるようにならないと自らが指定した生き物に変えさせられてしまいます。

デヴィッドはホテルに犬を連れてくるんですが、この犬はかつて「人間だった」兄。お兄ちゃんはホテルでうまく行かずに、希望した犬に変えられてしまったわけです。

デヴィッドはいろいろな理由からロブスターを希望します。だからタイトルが「ロブスター」。

ちなみにその辺の序盤の説明から察するに、この世界の生き物たちはおそらくすべてが「人間が変えられた存在」っぽいです。つまり人間由来の生き物以外は存在しない世界。たぶん。たぶんです。なんとなく理事長のセリフから察するにそんな感じでした。だもんで人間が「なりたい」と言う生き物は増えちゃって困るし、逆に(変身先としての)人気がない生き物は絶滅危惧種になってるし、みたいな。

ホテルではいろいろなルールがあり、例えば(おそらく)突然訪れる「狩りの時間」では、自分と同じ境遇の…要はホテルで暮らす独り身の人間たち同士で狩りを行い、1人捕らえるごとに1日人間でいられる期間が伸びたりとか。なかなかエグい。

まためでたくカップルになった二人は、一人用とは別の「ダブルルーム」に引っ越して2週間を過ごし、その期間特に問題がなければ今度はヨットで2週間、その期間も問題がなければ晴れてカップルとして普通に暮らせるようになります。

序盤はホテルにやってきたデヴィッドを通したホテルの様々なルールや出来事を見せる流れで、まあなんともシュールなシーンが続きます。ただシュールでつまらないわけではなく、ブラックコメディ的に面白いのでカンヌ的な心配はあんまりいらないかもしれません。とは言えなかなか底意地の悪い世界観なので、面白いんだけどツライ、みたいな結構不思議な感覚で観ていました。笑いつつも身につまされるような。まあ、僕が独り身っていうのが大きいんでしょう。

デヴィッドは入居早々に滑舌の悪い男(ジョン・C・ライリー)と脚の悪い男(ベン・ウィショー)と友人になり、特に大きな不満もなく…というかもう「こういうもの」という常識の元、単純に適応して生きている感じで、あまり感情を表に出したりすることも焦ることもなく、淡々と日々を過ごしている感じ。これは結構後半に活きてくる面ではあるんですが…それは割愛します。

そんなこんなで淡々と日々を過ごすデヴィッドですが、当然それだけで終わる物語ではなく…。彼が下した一つの決心がやがて大きく舞台を動かしていくわけですが…この後は観ていただくとして。

まず序盤戦は本当にシュールでですね。ジャンル的にはブラックファンタジーコメディという感じでしょうか。笑っちゃうシーンもかなりありました。シュールすぎて。本当にコントを観させられている感じ。

とは言え「独り身になった男が面白おかしく人間で居続けようとするお話」というようなものでもなくてですね。やっぱりところどころエグいんですよね。

その狩りのルールにしてもそうなんですが、やっぱり大前提として「人間はパートナーがいなければいけない」、イコール「一人でいる自由がない」という閉塞感が物語の全体を覆っている感覚で、やはりどこか誰もが抑圧的で裏返せば本性が見えない感じがしてですね。まあ薄気味悪いわけですよ。世界的に。

シュールでブラックなコメディをやりつつ薄気味悪い世界が支配している、という…この何とも言えない雰囲気は独特なものがあって、他にないタイプの映画だと思います。その時点で結構面白い。

で、ちょっと核心の部分のお話になりますけども。

そんなシュールでブラックなコメディだと思って観ているわけですが、結局最後まで観て気付くのは「徹頭徹尾、愛の映画」という点なんですよね。ものすごく独特な世界でありながら、通底しているのは愛しかないというものすごい物語で。

このホテルのシステムは、まあ普通に考えれば誰もが思うことですが「人間でなくなるならある程度我慢して一緒になる人を見つけよう」ってなるじゃないですか。これはシステムから強制させられる愛、言わば受動的な愛なわけです。おそらくこの世界はこういうシステムなので、大半の人が受動的な愛でパートナーを見つけていることになります。

うーん、それもどうなのよ…と思ったところで後半戦、描かれるのは能動的な愛。この辺はこれまたネタバレ&興を削ぐので詳しくは書きませんが、この「受動的な愛と能動的な愛」がテーマの映画なんじゃないかな、と思います。

表向きはシュールながら、中身は超が付く直球のようなテーマ。ただこれを普通の恋愛映画でやられると多分ベタになっちゃうし見飽きちゃってる面もあるので、こういうかなり奇抜な設定から愛を語る、というのはものすごいセンスだと思いますね。強烈でした。

とは言え若干遠慮のない表現で人を選ぶ部分もあるので、誰もが楽しめるかというとまた話は別だと思いますが、ちょっと変わった映画が観たいぞ、という人はかなり楽しめるのではないかと。

いろいろと「華氏451」を感じさせるような部分もあり、そこがまたなんとも言えない味があったような気もします。

ネタバレー

もうタイトルが短すぎてネタバレタイトルの工夫しようがないっていうね。

さて、もう少し詳しくエンディングについて書きたいと思います。

よくあるパターンではありますが、「どうなったのかは観客の皆さんの解釈に委ねます」方式のエンディング。僕が思うに「逃げた」とか「目を潰したフリをして話を合わせる道を選んだ」方が観客的には面白いというか、「なんだよダメだなー」みたいな感じでツッコミどころが残る気がするんですが、実際はおそらくデヴィッドはマジで目を潰したんじゃないかと思います。

理由としては、まず上に書いたように「受動的な愛と能動的な愛」がテーマだとすれば、“自ら目を潰してでも取りに行く愛”という究極の形の「能動的な愛」を達成する物語なんじゃないか、というのが一つ。

もう一つは、劇中で二人が同じCDプレイヤーを1つずつ持って同時にスイッチを押そうとするシーン、ここでデヴィッドが惚れる近視の女(レイチェル・ワイズ)が「片耳ずつイヤホンすればいいんじゃない?」的なことを言ったときに、デヴィッドが「完璧に同期させるのが大事なんだ」って言うんですよね。この“完璧に同期”というのがまたもう一つの大きなテーマで、つまりはお互い盲目になるぐらい同期させる、それが本当の愛なんだよというお話なのかなと思いました。

この“同期”というのは劇中でもくどいぐらいに繰り返されているのは観た通りなので、ここまで同期をしつこくアピールする以上、最後も同期するのが自然な解釈なのかなと思いますがどうでしょうか。

それにしても途中で出てきた独身者たちのテロもすべては「絆を壊す(≒愛を試す)」ことのみを主眼にしたものだったことからもわかる通り、やっぱりテーマは「愛」なんでしょうね。ここまで純粋に愛を描いた映画は珍しい、というぐらいドカンと太い幹で「愛」を描いた映画ですが、しかしその表現はとてもシュールという…なかなかすごい監督さんですね。

このシーンがイイ!

物語の重要なキーとなるシーンは(ネタバレ的な意味で)置いといて差し障りのないところで言えば、舞台上で行われる「独身者とパートナーがいる人の違い」みたいなコントのシーンはめちゃくちゃシュールで最高でしたね。すごい世界観だなこれ、って。

あとダンスナイト(?)での理事長とそのパートナーによる歌のシーンもすごかった。ここもまたシュールすぎる。

尻コキ的なシーンもシュールすぎるし、シュールなコントが好きな人はいろいろ笑えると思います。

ココが○

いわゆるこの手のカンヌウケしそうな映画で僕が苦手なのは「芸術系映画」、つまり「なんか大層なことを語ってそうだけどさっぱり意味がワカラン」的な映画なんですが、この映画はそういう雰囲気がありつつもしっかり何を言いたいのかが伝わってくる…というなかなか稀有な映画だった気がします。そこが良いしすごいなと。

ココが×

ただやっぱりそんな雰囲気の映画なので、合わない人は合わないのも間違いないでしょう。それなりに集中力も読解力も求められる気がするし…。

あとはちょっとしんどい場面もあります。実は1シーンだけ、僕としてはかなりつらいシーンがあって、あそこだけはちょっと…嫌だったなぁ…。作り物だとはわかっているんですが…。

MVA

なかなか通好みの豪華なキャスティングで、役者陣も見どころの一つと言えます。

ベン・ウィショーがね。なかなかいい味出してましたね。掴みどころのないほんのちょっとだけ鼻につく男というか。レイチェル・ワイズも地味ながら良い演技を見せてくれたと思うんですが、無難にこの人にしておきましょう。

コリン・ファレル(デヴィッド役)

今までのやんちゃイメージとは正反対の地味な中年男をしっかり演じつつ、でもやっぱりどっかちょっとズレているような、少し危うい雰囲気も感じさせる演技がお見事でした。

地味な中年男、だけだと多分ラストの解釈の部分で説得力が弱くなる気がするし、どこか狂気をはらんだようなキャラクターになっていたのが素晴らしかったですね。

もちろん、それは彼が途中に取った選択故、でもあるんですが…。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。

CAPTCHA