映画レビュー0967 『LONG WAY HOME ロング・ウェイ・ホーム』
もはや年の瀬も迫りに迫ってきて一刻の猶予もないような状況ですが、ネトフリ年内終了モノの中から定時退社の日に気になる一本をチョイスしましたチョイスー。
おそらくなんプロ初となるテレビ映画です。なんと。果たしてテレビ映画でも面白いのか…!
ただ例のスピルバーグの処女作的な傑作「激突!」もテレビ映画なんですよね、確か。だからあんまり関係ないんでしょうね。
※今回テレビ映画ということで予告編映像が見つかりませんでしたソーリー
LONG WAY HOME ロング・ウェイ・ホーム
グレン・ジョーダン
ルイーズ・ヴィンセント
パトリック・ジャメイン
ウィリアム・ハンリー
1998年3月1日 アメリカ
87分
アメリカ
Netflix(PS4・TV)
劇的なことはない、穏やかな内容だからこそリアルで温かい。
- なんてことのない一日だったはずが急遽旅に出ることを決意する爺さんと知り合ったJDの友情
- それぞれ家族に問題を抱えつつ、旅を通して自分を見つめ直すお話
- 劇的な展開は無く、穏やかで地味な話故にリアリティを感じる
- 晩年のジャック・レモンも見どころ
あらすじ
なにせテレビ映画なのでフィルムで撮られているわけもなく、懐かしのSDサイズでお送りされました。DVD画質で。
余談ですがフィルムは情報量が多いらしく、フィルムで撮影していた場合は今の技術でかなり高精細な映像にできるそうです。古い映画がリマスタリングされてブルーレイになったときにすごく驚くぐらい綺麗なのはそれが理由だそうで。
しかしこの映画はやむなくSDなわけですが、そのボケーッとした感じの映像がなんとも言えない良い意味での古臭さを感じさせてくれて、初見だけど懐かしい映画だなみたいな謎の感慨を持たせてくれたような気がします。なんだかほっこり。
主人公はあの名優、ジャック・レモン演じるトム爺さん。彼にとっては最晩年と言っていい出演作で、さすがに爺さんでしたよ。どっからどう見ても。
若かりし頃の軽快な演技は見られませんが、それでもやっぱり古い映画好きとしてはジャック・レモンというだけでなにかグッと来るものがあります。
彼は3年前に妻に先立たれ、家具職人の仕事もやめて一人で暮らしていたようですが、最近は体調もあまり思わしくなく、心配した次男夫婦の家にお世話になることに。
次男は割とコワモテなんですが父に対する愛情はしっかりしているようで、ご多分に漏れず同居はあまり好ましくないと思っている奥さんと口論しつつもなんとか父を受け入れようと頑張っております。
トム自身もある程度は厄介者扱いされているような現状を察していて、どこか居場所がないような心持ち。
そんな彼にある日手紙が届きます。息子夫婦に問われても「大したものじゃないよ」と詳しく語らない彼ですが、その手紙はかつて50年前に付き合っていた元カノからのものでした。
とは言え彼女が暮らすのはカリフォルニア、自分が暮らすのは…詳しくは忘れましたがおそらくはアメリカ東部方面と思われるので、久しぶりに会おうにも大陸を横断しないといけないために現実味がありません。そのためその時は「懐かしいなぁ」ぐらいで終了。
その後、用事で息子の奥さんに付き添われながら街へ出たトムですが、うっかり寝てしまって待ち合わせの時間をすっぽかし、やむなく一人で歩いて帰ることに。しかしショートカットしようとしたのが災いして足を怪我してしまい、その日は馬小屋的な場所でまさかの一泊。
その状況を知らない息子夫婦は「お父さん帰ってこないやんか行方不明やで!」と気が気でないぞと。これは事件の予感…!
翌日、一休みしようと道を横断したところにJD(リアン)が車で登場、「乗せてってあげるわよ」ってことでともに行動して早々にグッバイ…の予定が一緒に朝ご飯食べてたらちんこ野郎に絡まれてしまい、追走を振り切ろうとしたところで車が故障してしまいます。
やむなくJDは前からやってみたかったヒッチハイクでカリフォルニアまで行くことにするとトムに告げると、トムの中で沸々と湧いてくるわけですよ。「カリフォルニア…!?」と。例の手紙です。
ということで「ワシも行くー!」と強引に同行を願い出たトム、こうして50ほど歳の離れた男女がヒッチハイクでアメリカ横断しますよ、とあとは観てくださいまし。ネトフリ配信終わっちゃったらきっと観るのも大変ですけども。
ロードムービー色は薄め
そんなわけで一応ロードムービーではあるんですが、ただ(人によるでしょうが)「ロードムービーに求める何か」の色合いはかなり薄めで、その辺り少々もったいないよなぁという気はします。
要は旅先での出会いと別れの部分があまり描かれず、その時その時に出てくる人たちもそんなに多くないしで、おそらくは「ロードムービーを描くための物語」ではなく「描きたい物語に都合のいい形がロードムービだった」という感じでしょうか。
そもそもなんでロードムービーになったのかと言うと、やっぱり「行くつもりはなかった」トムがカリフォルニアに行くためなんでしょう。次男の家に越してきてすぐに「飛行機でカリフォルニア行ってくるわ」とはさすがに言えないでしょうと。体調も良くないくせにと。
それにトムはそもそも元カノに会おうとも思ってなかったはずなので、まさに偶然知り合ったリアンが「ヒッチハイクでカリフォルニア行く」って言ったからこそこの旅を決意したわけです。
つまりリアンがいなければ行かなかったのはもちろん、車の故障も無ければこの旅は生まれなかったわけで…まさに運命のあや。
人生はタイミングですよ。すべてのタイミングが揃ったためにこの旅が生まれたと。そんな劇的な見せ方はまったくしていませんが、実際人生の岐路なんてこんなものだろうと思うし、人生最後に「神様からのプレゼントだよ」的にこのタイミングがやってくるトムにはなんならアメリカの宗教観すら感じます。言い過ぎかも知れませんが。イイハナシダナー。
テレビ映画故のつらさ
当然ネタバレ回避のために詳しくは書きませんが、あえて地味に温かい物語として、劇的だったり扇情的な部分を盛り込まなかった辺りはとても良いと思います。
ただ…これはどうしてもテレビ映画故だと思うんですが、CM前にちょっと気になるいい場面を差し込む作りがもったいない。普通の映画とは明らかに違うピークの作り方に違和感があったのも事実です。
その場面をフェードアウトで終わらせてフェードインで戻ってくる、いかにも「今CM入りましたー」的な感じがどうしても気になっちゃって、なかなかいい話なだけに劇場映画のように作って欲しかったなぁと。そこに文句を言うのも筋違いだとは思うんですが、やっぱりどうしてもそこだけは引っかかりました。
もう一点、もう一人の主人公であるリアンの「旅を通しての変化」があまり見えてこないのも少し不満。
トムの方は家族との関わり方でその辺りが見えてくるんですが、リアンの方は…あまりトムから影響を受けている感じもなく、おそらく一人でカリフォルニアまで行っていたとしてもあんまり変わらなかったんじゃないかなと思われるのが残念です。
この辺りをビシッと描いてくれたら…かなり良作に感じたんじゃないかなぁ。
真面目な作りに良心を感じる
しかし総じてとても温かく、地味ながらしみじみほっこりできるいいお話であることは間違いないでしょう。
一番のポイントはやっぱりリアリティなんだろうと思いますね。実話を元にしていると言われても違和感がないぐらいに自然な成り行きで自然に幕を閉じる話なので、目立った良さは感じなくても丁寧で実直な映画だなと感じられるだけで良い映画だと思います。
これ、あざとく描こうと思えばいかようにもできたと思うんですが、その道を選ばずに真面目に作っただけでも素晴らしいと思うんですよ。そこに制作陣の良心があるんじゃないかなと。
今の御時世だとヒッチハイカーを見かけても乗せるのちょっと怖いよなぁと思いつつ観ていましたが、この映画を観て少しだけ勇気を出して乗せてあげてもいいかも、なんて(単純に)思いました。
きっとそういうほんのちょっと行動を変えることが世間の優しさにつながっていくんだろうし、そうやって少しずつ社会が優しくなれる可能性があるところにこういう映画の価値があるんでしょう。
このシーンがイイ!
サーカスの人たちと一緒に夜ワイワイやってるところかな〜。定番ですがああいう「楽しそうな旅の光景」はどうしてもグッと来るところがあります。
ココが○
全体的にサラッとしていて、その分観客の想像力に委ねる部分が多い映画だと思うんですよ。そこが良いですね。
物語の後、描かれていない時間にどんなことがあったのか、どういう思いを抱いてこのさき生きていくのかを想像する楽しみがありました。
ココが×
上に書いたような、テレビ映画故の見せ場の作り方が一番気になったかなぁ。
それとやっぱりロードムービー好きとしてはもう少しヒッチハイクでの出会いと別れの情緒が観たかったなぁと思います。割と「旅に出るまで」が長いので、そこをもう少し切り詰めて旅の部分をもっと盛ってくれたら嬉しかったなと。
あとちんこ野郎の存在も結構中途半端な気がする。旅の動機づけでしかない存在だったんだろうけど。
MVA
主演は二人とも良かったし、リアンのお父さんもすごく良かったんですが…やっぱりこの人かな。
ジャック・レモン(トーマス“トム”役)
まあね、ジャック・レモンですからね…。
やっぱりどこか粋な雰囲気というか、返しの軽快さみたいなものが垣間見えて嬉しかったです。