映画レビュー1248 『KCIA 南山の部長たち』

今回はJAIHOですがアマプラ等他でも配信しているようです。

ビジュアル一発で「これは好きそう」と思って観ることに決めてました。

KCIA 南山の部長たち

The Man Standing Next
監督

ウ・ミンホ

脚本

ウ・ミンホ
イ・ジミン

原作

『実録KCIA―「南山と呼ばれた男たち」』
キム・チュンシク

出演

イ・ビョンホン
イ・ソンミン
クァク・ドウォン
イ・ヒジュン
キム・ソジン
ソ・ヒョヌ

音楽
公開

2020年1月22日 韓国

上映時間

114分

製作国

韓国

視聴環境

JAIHO(Fire TV Stick・TV)

KCIA 南山の部長たち

絶えない緊張感、サスペンスフルな権力闘争。

9.5
パク大統領暗殺事件はなぜ起きたのか
  • 現実の事件にフィクションを交えたリアルサスペンス
  • オープニングで“実行の日”が描かれ、犯人もわかった形で進む倒叙型
  • 常時絶えぬ緊張感が素晴らしい
  • ノワール感もあるので韓国ノワール好きにもオススメ

あらすじ

本当に韓国はこの手の映画が良いですねぇ…まさに大好物で最高でした。

舞台は1970年代、韓国はパク大統領(イ・ソンミン)が絶対的な権力を握っており、No.2と目されるのは大統領直轄の諜報機関・中央情報部(KCIA)の部長、キム(イ・ビョンホン)。

しかしその“腹心”であるはずの彼が大統領を暗殺することになったその40日前から物語は始まります。

当時、韓国政府の違法な活動を知り尽くしていた元KCIA部長のパク(クァク・ドウォン)がアメリカ議会に重要参考人として呼ばれ、パク大統領の腐敗政治を告発します。

このことに業を煮やしたパク大統領は、現在のKCAI部長・キムにパク元部長が出版しようとしている回顧録の回収を命じます。

殺しても構わないとする大統領に対し、元部長と友人でもあったキムは自らが直接会って事態を収めると約束、アメリカへ。

二人は再会し、大人しく回顧録を差し出したパク元部長はキム部長も知らない事実を伝え、用心するように言います。

かくしてうごめく権力闘争、その結果は…暗殺なんだけどその道程はいかに…!

“もしかして”がうまい

上に書いた通り、そして最初にお断りされるように、この映画は「あくまでフィクション」であり、実際に起きた朴正煕大統領暗殺事件をテーマにした政治サスペンスになります。

「大統領がKCIA部長に暗殺された」こと、そしてその二人を始めとした主要人物たちに(名前は変えていますが)実在のモデルがいる点が事実になりますが、その他も事実に即した内容をところどころ点として配置して、その事実を埋め合わせるように“線”の部分を創作した物語という印象でした。そしてその“線”の部分の情緒的な緊張感の描き方が抜群にうまい。

例えば主人公のキム部長とアメリカに渡ったパク元部長が友人関係なのは完全に創作のようですが、この二人の関係性を利用した「映画らしい」見せ方がまたとても素晴らしく、史実に対する脚色、肉付けがかなり巧みな映画だと思います。

ちなみにこの映画の大統領は「パク大統領」ですが、そのモデルとなる朴正煕(パク・チョンヒ)は朴槿恵(パク・クネ)元大統領のお父さんにあたります。朴槿恵はお母さんも殺害されたそうで、政治的姿勢その他については置いておくとしても、その壮絶な人生には同情を禁じえません…。

今まで僕が観た中では「新しき世界」に一番近いものを感じましたが、まさにあの映画のような韓国ノワール感がありつつ、その背景には史実が横たわっているということでもう本当にたまりませんでしたね。政治モノも好きなだけに余計に。いろいろバックグラウンドを調べたくなっちゃう映画です。

僕はまだこの事件当時生きていなかったし知識もまるでなかったんですが、それでもまったく問題なく楽しめるだけに、良いか悪いかは別として「きっちりエンタメとして現実を利用している」巧みさのある映画だと思います。誰が観ても面白い、入り込めるようになっているのがフィクションとしての強さかな、と。

またフィクションでありつつも(フィクションだからこそ?)主人公の立場の描き方が非常に丁寧なので、「なぜ腹心だったのに殺すに至ったのか」を納得行く形で見せてくれるのも素晴らしく、感情移入しやすい物語になっているのもポイントでしょう。

なにせオープニングで犯人は明かされてるし、その後展開する物語で彼の大統領に対する忠誠心もよく伝わってくるだけに、ずっと「安っぽい正義に駆られてのベタな裏切りだったら嫌だなー」と思いつつ観ていましたが、当然そんな安易な内容ではなく、良い意味で人間臭い複雑な諸々の事情が絡んでの犯行であったことがわかるような内容になっているので、「これはもしかして真実に近いのでは…」と思わせる何かがあります。この辺は「JFK」にも近いものかもしれないですね。

実際主人公であるキム部長の立場上のライバルである大統領警護室長は、この映画で描かれるように越権甚だしい尊大な人物で評判も最悪だったらしく、「伝え聞く人物像から導き出される“もしかしたら”の物語」としてかなりよくできた話ではないかなと感じました。

韓国版ゴッドファーザーっぽさも

いわゆる「コリアゲート」を元にした、開幕の元部長によるアメリカ議会での証言等バックグラウンドがわかりづらい面はありますが、まあその辺はフィクションだし深堀りしなくても良いんじゃないかとあえてカットしているような気もするし、むしろ詳細を知らない人間にとっては余計な情報を削ぎ落として“事件”にフォーカスさせる意味でもうまく取捨選択をした物語に思えました。

そうやって2時間弱で緊張感を絶えさせず、過去から今に至る人間関係も盛り込んだ濃厚な物語はかなり力強いものになっていて、さながら「ゴッドファーザー」っぽさすら感じる重厚さ。久しぶりに食い入るように観ましたね。

奇しくもつい最近、日本でも要人銃殺事件が起こってしまっただけに、そして「コリアゲート」には統一教会が絡んでいた事実も相まって、より近いものとして感じるタイミングだったのも大きかったかもしれません。

また役者陣も素晴らしく、細かい感情の変化を表情と間で見せる演技には舌を巻きました。

総じてすべてが高レベルにまとまったかなりの良作だと思います。この手の政治サスペンスが好きな方は必見の一本と言っていいでしょう。

南山のネタバレたち

実は単なるマクガフィン(言いたいだけ)じゃないか…と疑って観ていた謎の存在であり真のNo.2である「イアーゴ」、きちんとラストでチョン将軍だったと明かされますが、これが現実を調べると紆余曲折を経た後に全権を掌握し再度軍事政権を樹立することになる全斗煥(チョン・ドファン)がモデルだった、という作りに驚きました。

「あくまでフィクション」を語りつつ、その後の権力闘争の伏線もこの作品内で描いて見せる離れ業。

もちろん史実がこの通りかどうかはわかりません。むしろ創作の可能性のほうが高いでしょう。それでも「もしかして」と思わせる説得力を感じさせるレベルの高さが最後まですごいなと衝撃的ですらありました。

単なる「朴大統領暗殺事件」で終わらずにその後の政治史に絡ませる、それはつまり再度これが「歴史的な事件」だったことを観客に植え付けるような確信犯的な“フィクション”に仕立て上げている力強さに身震いしますね。本当にすごい映画だと思います。

それとラストの実際の供述も流れるだけに「民主主義のため」とか「正義によって」とか、リベラル視点でキム部長の犯行を擁護するような意図を感じた人が多そうなんですが(そのせいで評価を下げてる人もいる)、実際そういう部分もあるとは思いますが一番はやっぱり私的な感情からの犯行だと思うんですよね。

己の立場が危うくなってきて後戻りできない追い詰められた部分と、かつて最も評価されていたはずの自分よりも“虫けら”の警護室長が重用される現実、そして元部長から聞かされた「隠れたNo.2」の存在諸々があって、「俺の忠誠はなんだったんだ」と個人的な怨念や嫉妬に民主主義という欺瞞をかぶせた犯行だったのかな、と。

結局100%国(民)を憂いたわけなんて絶対なくて、沸々と溜まっていた様々な疑念の最後のひと押しにその“憂い”をまぶして自分を説得した話なんだと思うんですよ。

そこがすごく人間臭いし、リアルで良いなと思ったんですよね。正義感100%じゃ嘘くさいし、かと言って私怨100%でも安っぽいし。両方いろいろ混ざって自己正当化“することができた”が故の決行だった気がして、その描き方にまた舌を巻いたわけですよ。僕は。

最後にやっぱりとんでもないことをしてしまったと我に返った(もしくはその後についてノープランでこれは逃げられそうにないと腹をくくった)彼は、(後々の供述で)自らの行動を正当化するべく南山ではなく陸軍本部へ行かせたのかな、とか…。

僕のようなポンコツが推測しても当たってないとは思いますが、いろいろと想像できてそこもまたたまらない映画でしたね…。

このシーンがイイ!

日本人としてはやっぱり「あの頃は良かった」のシーンは妙な切なさを覚えるというか…急に距離が近く感じられて一気に感情移入してしまういいシーンだと思いましたが、一番はやっぱり…タイトルがタイトルなので、「南山の部長たち」の肖像画が映されるシーンでしょう。あそこは鳥肌が立ったな…。

あと終盤の“転ぶ”シーンもなんかすごいなと感心しました。あれ入れる必要もない気がするんだけど、あれがあるからこそまた人間臭さが感じられてそこに現実を見させられた思いがします。「フィクションだけど、フィクションじゃないんだよ」と言われているような…。

ココが○

全体的に大好物だったので細かい部分をどうこう書く必要もないんですが、一点小さいポイントとしては「バイオレンス描写が行き過ぎない」ところがまた良かったと思います。

ガッツリ見せないことで「そこがアピールポイントではない」ことを伝え、きちんと「これは政治映画なんだ」と立ち位置を明確にしてくれているような。

ココが×

映画については文句ないんですが、韓国人名の特徴故か固有名詞が似たりよったりでわかりづらい面があったのは否めません。大統領も元部長もパクさんだし。

なのでそこは結構気をつけて、混同しないように観ないといけないかなと。

MVA

主人公を演じたイ・ビョンホンの抑圧された演技が素晴らしくて素晴らしくて、彼にしてもいいんですが…観ていてこの人かなぁと思っていたこともあって僅差でこちらの方にします。

イ・ソンミン(パク大統領役)

ときの最高権力者、大統領。そして事件の被害者でもあります。

最高権力者故のカリスマ性、時折見せる計算された人間臭さ、そして繊細に見え隠れする臆病さのバランスが凄まじい演技でした。マジでこういう感じだったんじゃないかな、と思わせるリアリティ。

決して身長も高くないものの、明らかに“大物”と感じさせる立ち居振る舞いがいかにも最高権力者に見えて、文句なしの名演技だったと思います。

主演のイ・ビョンホンと合わせてこの二人がこの映画をこれだけのものに高めたのは間違いないでしょう。その演技対決を観るだけでも価値があると思いますね。

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