映画レビュー1335 『人魚姫』

JAIHOより。

なぜ観たのかと言うとえらい(ひどい)勘違いをしていたためなんですが、それは後述します。

人魚姫

The Mermaid
監督
脚本

チャウ・シンチー
ケルヴィン・リー
ホー・ミョウキ
ツァン・カンチョン
ルー・ジェンユー
アイヴィ・コン
フォン・チーチャン
チャン・ヒンカイ

出演

ダン・チャオ
リン・ユン
キティ・チャン
ショウ・ルオ
ジェン・ジーン
ファン・シュージェン

音楽

レイモンド・ウォン
ウェンディ・チェン

公開

2016年2月8日 中国

上映時間

93分

製作国

中国・香港

視聴環境

JAIHO(Fire TV Stick・TV)

人魚姫

ドベタだけどそれもまた良し。

7.0
密かに暮らす人魚たち、開発を目論む実業家を抹殺しようと美女送り込み作戦
  • 金第一の若手実業家が次に狙う開発地区は人魚の棲む海だった
  • 人魚たちはこのままでは生きていけないと若い人魚の刺客を送り込む
  • ややこってりなコメディ感は若干のクセあり
  • 話はベタ中のベタながら中国発であるところに価値がある

あらすじ

映画としてはまあまあかな、という程度だったんですが、それでもいろいろ考えるところもあって観てよかったなと思います。

リウ(ダン・チャオ)は若くして大金持ちのやり手実業家であり、次の事業を香港郊外のとある海辺に定めます。

そこは自然保護区で埋め立ても不可だったんですが、政治力なのかなんなのかいろいろ手を回した結果、開発できるようになったとのこと。

しかしその海辺にある廃船には絶滅の危機に瀕する人魚族が暮らしていて、もうリウのやつ我慢ならんぞと。絶許だぞということで刺客を送り込むことに。

刺客に選ばれたのは若い人魚のシャンシャン(リン・ユン)。作戦としては彼女の“美貌”を武器にリウをおびき寄せ、家に入った瞬間にみんなでボコボコのボコにしてやるというもの。

しかし当然ながら金も外見も持ち合わせているリウは女性に困っておらず、いきなり連絡先を渡してきた怪しげなシャンシャンには猜疑心しか持っていませんでしたが、しかしひょんなことから連絡をしてきまして…あとはご覧ください。

中国映画であることの価値

まず最初に恥を晒したいと思いますが、作品選択から鑑賞を終えるまで、ずっと「チャウ・シンチーってこんなゆるい映画も作ってるのか〜すごいな〜」と観ていたんですが、僕が想像していたのはクロエ・ジャオでした。何を言ってるのかわからねーとは思うが…。

単純に「名前を知ってる中国人監督=クロエ・ジャオ」と勘違いしていたためと思われますが、チャウ・シンチーは「少林サッカー」の人なんですね。そりゃゆるい映画でしょうよ! えぇ!? 笑えよ! 笑いたければ笑えよ! えぇ!?

で、「少林サッカーの監督」と聞けばなるほど納得な脂っこいコメディが続き、結構クセが強めというか好き嫌いが分かれそうな雰囲気の映画ではあります。

序盤は人魚たち(老若男女いるしなんなら人タコもいて謎)が金しか頭にないリウをコロスゾと息巻いているわけですが、当然すんなり行ったら映画が終わってしまうだけにそう上手く行かず、逆に“色仕掛け”の方が上手く行きそうになることで情が移って…的な形。

その後の展開含め、まあ本当に何度もどこかで観たようなお決まりの展開ではあるんですよ。「これこうなって最終的にはこうなんでしょ?」と思っていたストーリーをそのまま展開してくれるので、まあ物語そのものについてはあまり期待するものでもなく、なんなら桃太郎とかを観ているような感覚に近い。

ただ、欧米映画だったらおそらく叩かれまくるぐらいにベタな話でも、やっぱりこういう話を中国(香港はまた別だけに微妙なところではあるものの)の映画が描いた、そのこと自体にはすごく価値があるんじゃないかと思うんですよね。

根っこにはかなり強めに地球環境に対する危機感を抱いている映画であることは間違いがないので、成長著しいと同時に検閲も激しい(と傍からは見られている)中国からこの映画が出てきたことの価値は相当なものだと思います。「薬の神じゃない!」と同じような感覚。

果たして中国が本当に厳しく検閲しているのかもわからないし、別に国を批判しているわけでもないから大したことではない…のかもしれませんが、それでもやっぱり急激に経済成長を続けている中国国内に対するちょっとした“たしなめ”みたいな要素は間違いなくあると思うんですよ。

そしてそれをチャウ・シンチーという海外でも有名な監督が作ったことでもう一段価値が上乗せされてもいて、世界に対するアピールにも繋がっている、と。もしかしたらガス抜きにもなっているかもしれませんが。

こういった「映画の中身だけに留まらない、社会的な価値を持っている」意味で非常に大きな意義を持つ映画ではないかなと。

また基本がコメディで、観ようによっては安っぽいぐらいの笑いからその価値観に到達している意味ではダイナミックだし、ある意味では狡猾な映画でもあると思います。そこまで全部計算して作っているとしたらすごいな、と。

でもきっと計算してると思います。そこの振れ幅がまた魅力なんでしょう。

続編もほぼ完成しているそうだけど…

ちなみにこの映画、2018年に続編もほぼ完成しているそうですがまだ本国でも公開されていないそうで、それもまた何か余計な詮索をしたくなるようなエピソードではあります。

なぜ公開されていないのか、その理由まではわからないので見当違いかもしれませんが、もしかしたらもっと国内への批判的な視座が強い作品になっているのかもしれず、余計に観てみたいなと思いますがなにせ公開すらされていないのでわかりません。無念。

今の習近平体制になってからの中国はより締め付けが強くなってきているようなので、もしかしたらその辺も関係しているかもしれませんが…ただ今作公開時点でも習近平体制ではあるので、それこそ穿った見方なのかもしれません。(習近平はこの当時よりもかなり政治的な力が増していると思われるので、「今となっては許さん」みたいな可能性もあるとは思います)

ちょっと政治的な話が多くなってしまいましたが、そういう文脈で観ざるを得ない内容でもあるし、おそらくは政治的な面を含めた「社会派」として捉えてほしいと考えて作っている映画だとも思うので、「はいはいよくある話ね」で終わらせないように記憶に留めるのが良いのではないかなと思います。

「読みやすさ」さえ気にしなければ映画としても普通に楽しめると思うので、比較的観る機会が少ない中国映画のたまに観る一本としては悪くないチョイスでしょう。

このシーンがイイ!

なんだかんだ言いつつタコ兄が鉄板焼やるシーンが一番くだらなくて好きでした。生きてるのが不思議。

ココが○

本当にしょうもないコメディとしっかりとしたメッセージ性が同居した映画なので、それを考えると路線としてはかなり珍しい気がします。そこが良い。

ココが×

くどいようですがとにかく展開としてはベタ。これ以上無いぐらいベタです。

あと香港映画らしく(?)基本が吹き替えのようでその辺も少し気になりました。歌のシーンのリップシンクがひどすぎて笑っちゃった。

MVA

タコ兄にしたい気持ちを抑えつつ、結局この人でしょうか。

リン・ユン(シャンシャン役)

主人公の人魚姫。

良い意味で垢抜けていない素の魅力がある女優さん、という感じでかわいい。異性としてかわいいというより人としてかわいい、って感じ。人魚だけど。

JAIHOの説明によれば12万人のオーディションを勝ち抜いたそうで、なるほどそれもよくわかります。原石感というか、この役にはこの人だな、って感じがする。

なおどうでもいい話ですが「リン・ユン」と聞くとこの前Audibleで聴いた「三体0」を思い出しちゃうんですが、こちらも面白いので良かったらぜひ。

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