映画レビュー0933 『運び屋』
ただいまお盆休みでして、久しぶりにTSUTAYAで映画を借りてきました。
とは言え「借りるぞー!」と行ったはいいものの、イマイチ借りたい映画がなくてですね…。「どうせネトフリに来そうだしなぁ…」といちいち引っかかるのもよくない。便利さの弊害。ネット社会の闇。
ってことでたった2本、これは観たいぞというのを選んで借りてきました。まずは劇場に行き損ねたこちらから。
運び屋
『The Sinaloa Cartel’s 90-Year-Old Drug Mule』
サム・ドルニック
クリント・イーストウッド
ブラッドリー・クーパー
ローレンス・フィッシュバーン
マイケル・ペーニャ
ダイアン・ウィースト
アンディ・ガルシア
イグナシオ・セリッチオ
タイッサ・ファーミガ
アリソン・イーストウッド
アルトゥロ・サンドバル
2018年12月14日 アメリカ
116分
アメリカ
TSUTAYAレンタル(ブルーレイ・TV)
ポップで観やすい、最後はやっぱりしんみり。
- 偶然から仕事を請け負った爺さんが組織に重用されていく話
- しかし例のごとく彼を追うDEAや組織内の力学も関わってきて…?
- 同時に爺さんファミリーヒストリーも展開
- 「人生の特等席」以来のイーストウッド主演作品
あらすじ
ということで(個人的に)久しぶりのイーストウッド作品。「ハドソン川の奇跡」以来ですね。「15時17分、パリ行き」も観たいんですがかなり吹っ切った作りのようなのでちょっと悩み中。
しかしもう御年89歳ですか…その上久しぶりの主演までやっちゃってるんだから大したもんですね本当に。本人に意欲があるうちはまだまだ頑張ってほしいところです。
ちなみにポスターなんかには「衝撃の実話」的なコピーが入っていましたが、実際は「園芸家の爺さんが麻薬の運び屋をやっていた」程度のニュアンスの記事からインスピレーションを得て書いた脚本らしいので、実話とするには無理がある内容だと思われます。経緯的にも「ストレイト・ストーリー」と似たような立ち位置っぽい。
主人公はアール・ストーン。なんとクリント・イーストウッドが演じます。(知ってるよ)
彼は「デイリリー」の栽培で名を馳せた園芸家なんですが、インターネットの波に乗れず、あえなく廃業。
で、イーストウッドのよくあるパターンではありますが…「仕事人間だったために家族と不仲」という例のアレでですね、お金もない、家族ともうまく行っていないというしんどい状況です。
特に結婚式にすら行かなかった娘・アイリス(実際に彼の娘であるアリソン・イーストウッドが演じます)には12年間口を利いてもらえない状態なんですが、彼女の娘…つまりアールの孫にあたるジニーは、母の気持ちも理解しつつお祖父ちゃんも愛する心優しいガールに育ちましたよと。んで結婚しますよと。
その結婚ご報告パーティ的なところに招かれたアールですが、当然そこに居合わせたアイリス(及び妻のメアリー)と一悶着ありまして、入場すらせず帰ることに。
その彼を追う招待客の一人が、彼を捕まえて言うんですよ。「信頼できるドライバーを探してるんだけど興味があったらここに」ってね…!
かくしてイカつい男たちのいかにも怪しいガレージまでやってきたアール、「荷物は絶対に見るなよ」とダチョウばりのフリを受けて引き受けた“運び屋”の仕事を無事こなし、あっさり大金を手にしたことでその後も何度も仕事を引き受けるんですが…あとはご覧ください。
イーストウッド映画としては観やすくポップな印象
改めて振り返ると結構「おなじみの設定」的な面が多いですね、これ。特に家族と不仲な部分が。
よくある「家族を顧みないで仕事ばかりやっていたせいで歳を取ってから後悔する」アレですが、不思議と「なんか観たことある話だなぁ」と思わずにしっかり観られちゃう辺りがイーストウッドの力量、なんでしょうか。相変わらずどこが良いとかビシッと刺さってくる部分はないのに集中して観られちゃう謎の引力がある映画でした。いややっぱりこの人の映画はなんか不思議。なんか観ちゃう。編集がうまいのかなぁ…。
ただ今回は“いつもの淡々としつつなんか観ちゃう”感じとはちょっと違い、ちょくちょくいい感じの劇伴が挟まるせいもあってややポップな印象で、今までの彼の映画が退屈だったというような人(いるのか不明ですが)も割と観やすいんじゃないかなと思います。
なにせ主人公が爺なので鈍重…のように思わせといて物語自体は軽快でテンポよく展開するので、むしろ「イーストウッドの映画にしては深さが無いんじゃ…」と不安になるぐらい良い意味で軽い作りになっていたような気がします。少なくともジャケットの重苦しい雰囲気とはまったく違う小気味よさがありました。
しかし終盤はさすがの展開できっちり考えさせられる面もあり、中盤までの軽快さ+いつもの感じ…とここに来てまた少しずつ作品作りの幅を広げているようなイーストウッド御大の凄さに身震いしましたよ。ええ。
意外な豪華キャストも◎
それと今回特にキャストは確認しないで観たんですが、主演以外はそんなにメジャーどころを使ってこない(勝手な)印象があるイーストウッドの映画にしてはかなり豪華なキャスティングだったのもポイント。
まず主人公を追うDEA(麻薬取締局)捜査官にブラッドリー・クーパー。最近この人FBIとかこの手の役がすごく増えた気がする。ただの酔っ払いイケメンで売れたのに…! 似合うから良いんだけど。「アメリカン・スナイパー」でイーストウッドにお気に入られたんでしょうか。
で二人の上司がローレンス・フィッシュバーン。これまたこの辺の役どころが多い人なので安定感があります。
アールの奥さんがダイアン・ウィースト、さらに孫娘はあの「記憶探偵と鍵のかかった少女」のタイッサ・ファーミガですよ奥さん! 奥さん役の説明の後に奥さんに語りかける暴挙ね。
あの映画ももう6年前の映画なのにいまだにJK的フレッシュ孫感があるのがスゴイ。さすがヴェラ・ファーミガの妹だけあるわというよくわからない納得感。
で、なんと言っても麻薬組織のボス、アンディ・ガルシアですよ。初登場シーンは全然気付かなくてその後になって「うわアンディ・ガルシアじゃん!」ってもう歓喜。ゴッドファーザー勢歓喜。最高。
そんな感じで主要キャストがなかなか骨太豪華メンバーなのも見逃せないところです。良き良き。
心に刺さるほどのものは無かったのが残念
最後の展開は僕の想像とはちょっと違った方向に行ったんですが、それはそれでまた良かったんですよね。なんか。やっぱり設定がお決まりっぽい“いつもの感じ”があった分、決着の方向が少し変わったのが良かったのかもしれません。
くどいようですが僕にとってイーストウッドの映画って、「飽きそうなのにしっかり観れちゃう」不思議な映画が多いんですよね。今回も本当にそんな感じで、中だるみもなく長いなと感じることもなく、最初から最後までしっかり楽しませていただきました。この空気感というか…なんなんでしょね。やっぱりすごい監督だなと思います。
しかし彼の映画に期待したい「グサッと刺さる何か」までは無かったのが少し残念。ただまあ、「高給で簡単な仕事があるぜ」と誘われても軽くノラないぐらいの教訓はもらった…ような気がしないでもないですがお金欲しいですやっぱり。
このシーンがイイ!
これはもう劇中最後のアールのセリフですよ。ここはやっぱり響きましたね…。自分が疎かにしてきている認識もあるから余計に。ホントダメ人間ですわ…。
ココが○
劇伴がなかなか良くて、この人の映画では初めてサントラ欲しいなと思うぐらいに絶妙な曲選が印象的でした。
あとはやっぱりさすがの安定感。
ココが×
もう一歩深いところが欲しかったとは思います。もう“こなす”程度でこのレベルが作れちゃう気がするので、そこをもう一歩踏み込んでほしかったなぁ…と思うけど僕の見方が浅いだけの可能性も大きいです。
MVA
ご多分に漏れず皆さん良くてですね、はてどうしたもんかと思いつつ…。
クリント・イーストウッド(アール・ストーン役)
俳優としてのイーストウッドはあんまり好きではないんですが、さすがにこの歳でこれだけ味のある役を飄々と演じられるとですね、こりゃあもう良いの悪いの言ってられないよと。すごいねということで。
役が役(そして年齢)なだけに、臆することのない肝っ玉の座りっぷりと、過去に対する後悔の重みの表し方が、やっぱりたかだか70ぐらいの役者じゃ出せねぇんだぜ的な雰囲気がありありと感じられてよかったです。