映画レビュー1621 『オデュッセイア』

映画好きを自認するのであれば必ず行かなければならないノーランの新作というイベント、やってまいりました。
世界初の「全編IMAXフィルム撮影」で話題(全編IMAXデジタルカメラ撮影は過去にアベンジャーズ/インフィニティ・ウォー等であったらしいです)ということもあり、いよいよ日本に2箇所しかないフルスペックIMAX劇場の一つであるグランドシネマサンシャイン池袋デビューするか!
…と思ったんですが、どうもグラシネのオンライン予約システムが「決済まで行かない」「しょっちゅう最初からやり直しになる」「空いてると思って取った席が空いてなかった」「そもそも繋がらない」など悪評まみれなので、さすがにこの超話題作公開直後に挑戦するのは危険すぎると判断、結局いつもの近場のIMAXで観ることにしました。
ただそこも田舎のくせに次善のIMAXではあるので、まあ見慣れてはいますが不満はありません。

オデュッセイア

The Odyssey
監督
脚本

クリストファー・ノーラン

原作

『オデュッセイア』
ホメーロス

出演
音楽
公開

2026年7月17日 アメリカ

上映時間

172分

製作国

イギリス
アメリカ

視聴環境

劇場(IMAXレーザー・2D)

オデュッセイア

期待してるのはコレじゃないんだよなぁぁぁぁぁぁ!

7.5
王が帰還しないとクズどもの宴が終わりま10
  • 言わずと知れた古代ギリシャ叙事詩をノーランが満を持して映画化した作品
  • 映像美や音響の迫力、作りの見事さは文句なし
  • しかしこっちが(勝手に)期待している映画はコレじゃない感
  • 反面、難解さは皆無なので「オデュッセイア」入口としてもノーラン入口としても観やすい一本

あらすじ

当然ノーランの映画なので面白さや映像のすごさ(語彙力)は担保されているものなので、あとはごくごく個人的な好みのお話でしかありません。
勝手にこっちが「ノーランの映画なんだからこういうのが観たい」と期待していたものとは違った、というだけで文句を言う非常に了見の狭い人間のレビューになります。

トロイア戦争に向かった古代ギリシャの王・オデュッセウス(マット・デイモン)が故郷イタケを不在にして20年。
イタケではすでにオデュッセウスは死んでいるか戻ってこないと見なされていたため、ここ数年はその妻ペネロペ(アン・ハサウェイ)と結婚して権力と遺産を手にしようと輩が大量に王宮(?)へ訪れ、毎晩宴を繰り広げております。
というのも古代ギリシャでは「ゼウスの掟」と呼ばれる、「どんな者であっても来訪者はもてなさなければならない」「追い返してはならない」というような暗黙のルール的なものがあり、それ故居座る輩連中を毎晩もてなしているわけです。
連中に我慢ならない一人息子、テレマコス(トム・ホランド)は父の生死を確かめるべく旅に出ることを決意、少数の信頼できる者たちを連れてイタケを離れます。
一方オデュッセウスは生きてはいるものの、精霊カリュプソ(シャーリーズ・セロン)の誘惑によって長期間とある島で暮らしており、記憶もあやふやな様子。
そんな中、果たして帰りを待ちつつ限界が迫ってきているペネロペの元へオデュッセウスは帰ることができるのか…! 的なお話になっておりますよ。

ものすごくレベルの高い普通の映画

例によってご多分に漏れず、そもそもの原作である「オデュッセイア」はきちんと触れたことがなく、断片的に知ってる話が出てくる程度の知識で観ました。割と(教養のないタイプの)日本人としては一般的なタイプかと思われます。
「トロイの木馬(トロイアの木馬)は知ってる」「キルケーって魔女だよね(ゲームとかでも見るし)」「アテナ…ああ女神ね」ぐらいの感じです。我ながら教養が無いですねぇ!
その上で、ネタバレ無しと聞いて今作の字幕監修も担当している藤村シシンさん出演のラジオを聞いたりして若干の予備知識を備えて鼻息荒く鑑賞に向かいました。
「ゼウスの掟」の話なんかはそこで知ったんですが、ただ劇中もある程度うまい具合にセリフで説明してくれるのでまったくの無知状態で観に行っても「なんでこいつらにずっと宴会場提供してんの? 追い出せよ」みたいな疑問は浮かばないと思います。
ただ公開後に偶然観た「メインキャスト4名(マトデ、トムホ、アン・ハサウェイ、ロバート・パティンソン)が検索上位の質問50問に答える」動画に出てきた質問の大半(8割ぐらい?)は観ていればわかる質問ばかりでウンザリしたので人によってはあんなにはっきりセリフで言ってるのにわからない…のかもしれません。世の中まったく不思議だぜ…。

さていろいろ論点はあるかと思いますが、上記の通りギリシャ神話やら何やらはまるでわからないド素人の意見として、例によって恥ずかしげもなく無知をさらしながら感想をしたためていきたいと思います。

まずこの映画、物語自体がおそらく今まで観た映画の中でも最古だと思われるものなだけに、それをいくらノーラン独自の解釈を加えようともある程度大枠がハマっている状態になってしまうことは避けられず、そもそも「オデュッセイアの物語そのものに対する問題」と言うのはありました。これは向き不向き、好き嫌いの問題です。
そもそも個人的にこの手の歴史スペクタクル的な映画があまり好きではないというのと、基本的にファンタジーなので深く考えて理解したりするような内容とは少し距離がある、要は「観たまま飲み込む」話になっているので、「想像していたものを超えてこない」感覚があり、まずそこで少しガッカリしたのは事実です。
なにせノーランの映画ですからね。
彼の映画に求めるものは人それぞれでしょうが、僕は「インセプション」のエンディングでイスからずり落ちて以来、彼の映画には「特大の変態性」と「脳みそかき混ぜ疲労感」を求めています。これはもうはっきりと。
全部が全部そうだったのかと言われるとそうではないとも思いますが、それでも、あの事実を元にした「ダンケルク」でさえ独特の時間を操る感覚があったし、前作「オッペンハイマー」でもやたら切り詰めてテンポが良すぎて理解が追いつかなくなりそうなぐらいの勢いがあったので、「古代ギリシャの話でもさすがにノーランなら今まで観たことがないような仕掛けを施してくるんだろう」と思っていました。
でも今回はそれがありませんでした。
良くも悪くも、ものすごく普通の映画だと思います。普通のレベルがとんでもなく高いのも事実なんですが、でもいわゆる「奇をてらった」ようなところが無いように見えました。
奇をてらえばいい、って話でもないんですが、でもやっぱりノーランの映画としてのこの作りはすごく不満なんですよね。トロイの木馬のエピソードも出てきましたが、映画はあんな奇策とは正反対の真っ向勝負です。
叙事詩なので「オッペンハイマー」のようなテンポ感で見せられるものでもないだろうし、おそらく「オデュッセイア」という物語を現時点で映画化した場合には最適解であることもわかります。他の監督に出来ないであろうこともわかります。
でも、やっぱり自分がノーランの映画で味わいたい感覚とは違うものだったんですよね。この映画は。
これを例えばリドスコが監督した、とかなら「リドスコすげーなー」って感心してたと思うんですが、ノーランとなるとやっぱり自分の想像できないような作りのものを期待していたので、「今出来うる限りのお金とキャストとスタッフを注ぎ込んで全力で作ったオデュッセイア」から想像できる答えの延長線上にある形を見せられても満足できないと言うか。すごいワガママで贅沢なことを言っているのも理解していますが…。

あとで知った話ですが、例のブラピが主演の「トロイ」は最初ノーランが監督だったそうです。
それが降板させられてヴォルフガング・ペーターゼンの映画となったそうなんですが、それ以来なのか…ノーランは「オデュッセイア」を映画化するのが長年の夢だったという記事を読みました。
なので御本人もモチベーション高く作り上げた改心の一作なんだろうと思います。
事実、映画としての出来はとんでもなく素晴らしいと思います。1シーン1シーン見事な映像だし、身体に響くIMAXの音響も体験としてものすごいものでした。
ただ、やっぱりコレじゃない…んですよね。求めているものは。
おそらく「オデュッセイアの映画化」の時点で僕の希望とは違うものになることは最初からわかりきっていたことなんだろうと思います。
それでも「ダンケルク」のときは「実際の戦争の映画化でノーランっぽくできるのかな?」と不安があったし、「オッペンハイマー」でも「さすがに実在の人物の伝記だとそんなにノーランカラーは出ないんじゃ…」と思っていたのにやっぱり驚かされたので、今回もまた同じように何らかの驚きがあるだろうと思っていたんですがそれが無かったのでガッカリしてしまった、と。
いや本当に勝手な話で「知らねーよ」だと思うんですよ。そう言われても仕方がない感想だと思います。
でも心の問題はどうしようもないじゃないですか。僕は「こんなにヒットするのが不思議なレベルで難解」な映画を作るノーランが好きなのであって、「全力でマス受けする超大作」は他の監督に任せてほしいんですよね。
もちろん、まったく無知な僕が理解していない「オデュッセイアでこれをやるノーランのすごさ」みたいなものもあるんだろうと思います。それに気付けなかった己の能力の低さはあるでしょう。
でもやっぱり…なぁ…。
正直に言いますが、ものすごく期待して朝一の回に観に行って途中ちょっと眠くなりましたからね。体調も別に悪くなかったし寝不足でもなかったのに。
ノーランの映画で眠くなったのは初めてで、それだけやっぱり自分には合わなかった、期待していた方向とは違った映画だったのは間違いありません。

弟ともう一度やってくれ

繰り返しになりますが、映画としてはものすごく良く出来ていると思います。普通に評価すれば最低でも80〜90点ぐらいにはなるでしょう。
ただ、どうしても80点にしたくなかったんですよね。ガッカリしたから。
ラストシーンが終わったときの率直な感覚は「面白かったけど…ウーン」と不満が先に来てしまい、思い出すほどに微妙な気持ちになりました。
まあこれはちょっとこじらせちゃった人間の意見だと思ってください。
要は「辛いものが好き」って辛いものばっかり食べていった結果舌がバカになってしまい、「もっと辛くしろよ!💢」って文句言ってるようなものです。辛いものに興味がない人間にとっては「うるせえちゃんと辛いし美味いだろ!💢」って話です。

あとはもう本当に勝手な個人のお気持ち表明ですが、やっぱりノーランにはSFを撮ってほしいんですよね…SF好きとしては…。
あともう一つ、今度こそまた弟と組んでやってほしい。ジョナサンと脚本書いてほしい。
最後に一緒にやったの「インターステラー」ですよ。もう10年以上経ってるじゃん…。
弟も売れっ子になって忙しいのはわかりますが、やっぱり「ノーラン兄弟」にしか作れない難解な物語でだらけきった脳みそに活を入れてほしいですね。というかもしかしたら僕は兄よりも弟が好きなのかもしれません。
次回作、どんなテーマの映画を撮るんでしょうか。
今回の経験によって良い意味で「ノーランなら何でも変態的なことをやってくれるはず」みたいな期待感は無くなったので、次はもうちょっとフラットに観に行けるような気がします。

ネタバレッセイア

さすがに本編に細かな内容は書けないのでこちらでいくつか思ったことを。
浅い理解力で理解した限りでは、この話はノーランが「PTSDを絡めた反戦映画」的な翻案にした、という感じでしょうか。
英雄譚として有名な話を、実は当人は相当に苦しめられていて帰りたくても帰れない、掟も破ってしまった以上帰るわけにも行かない…みたいな悩みを抱えていたがためにカリュプソにも籠絡されてしまう、みたいな人物像。でも最終的には帰還の望み=人間らしさが上回って英雄ではない一人の人間として帰還を選ぶ、というような。
その辺りはとても良い翻案だったと思います。今の時代に相応しいオデュッセウス像というか。

一方で、「今の時代に相応しい」という意味ではやっぱり少しファンタジーを避けてほしかった気持ちもありました。
ポリュペーモス(サイクロプス)もまんまファンタジーな風貌ではなく(あれはあれでクソデカくてワクワクしたんですが)、かなりデカい怪力の片目潰れた人間だったみたいな設定にするとか。
キルケーの豚化もひたすら食わせすぎて太っちゃった、みたいな違う形で表現するとか。(ただダサい)
一番ガッカリしたのはスキュラで、フツーに1シークエンスだけ出てきて遠くからビヨーンって伸びてきて食うだけのクリーチャーなんですよね。そこももうちょっと…例えば竜巻だった、みたいな「今の科学で考えられる解釈としてこういう形」みたいな解釈が観られたら良かったなと。ファンタジーだったら逆にギリアムの作るオデュッセイアの方が観たいぐらい。
まあでもこれらは本題ではなくて、単純に「今の時代としてオデュッセイアを解釈し直すなら」こういう形、というノーランの新解釈を見せてほしかったな程度の願望でしかありません。
一方で、こういうファンタジーを活かした作りにするのであれば、もう最終盤の「求婚者皆殺し」は圧倒的に強い姿を見せつければ良かったと思うしそこがすごく不満で、結局「観終わったときの感覚」に結構影響を与えたように思います。
ファンタジーなんでしょ? ファンタジーなんだから、もう超強いだけでいいじゃん。
全員弓であっという間に殺すでも、振り回した斧でなぎ倒すのでもなんでも良いですよ。単純に苦戦する状況はいらないと思うんですよね。気持ちよさに欠けるから。
それこそ「キングスマン(無印)」の教会のシーンみたいに圧倒的な力で殺しまくるようなシーンで良かったと思うんですよ。
散々智将だなんだと言われつつ、息子が上から武器落としてくれてなかったら勝てたかどうかも怪しかったじゃないですか。それってどうなの、と。
なんでそこだけリアルにするのかな…と不思議でした。やたら耐えて耐えて溜めてた割に。
一番カタルシスを感じるところで変に苦戦させる必要ないと思うんですよね。どうせ勝つのはわかりきってることだし。
あそこは結構不満でした。

このシーンがイイ!

あの食事のシーンは狂気に満ちてる感じがしてすごく良かったですね。何食ってんのかよくわからないのも気持ち悪くて良かった。
あとはもうね…詳しくは書かないけど、アルゴスだよね…。

ココが○

まー本当に映像と音響は見事と言う他無いですよ。現時点での最高峰なのは間違いないでしょう。
僕の評価は単純に「ノーランをこじらせた」が故、です。

ココが×

そのこじらせを発露するだけですが、やっぱり「なんじゃこれぇぇぇぇぇ」ってさせてほしかったですね。
今作は「観たことがあるものの最上級」、期待していたのは「観たことがないもの」と言ってもいいでしょう。

MVA

さすがに豪華なキャスト陣、BNDに引き続きいちゃつくトムホとバーンサルには思わず笑っちゃいましたけども。
トムホ、一応30超えてるんですけどね。まだ「少年と言えば」みたいなポジションにいてすごいですよね。「16歳のつもりで演じた」って言ったあとに「親父が20年不在なんだから少なくとも20歳以上だろ」って突っ込まれてましたけど。
かつて散々「間抜け面」と腐していたマトデもすっかりシブオジとなり、等身大の英雄を見事に演じてくれました。20年前だったらこんな役考えられなかったですね。
そんなアンサンブルキャストの中で今回のMVAはこの人だっ!

ジョン・レグイザモ(エウマイオス役)

オデュッセウスの忠実な豚使い。盲目。
一番ビックリしたのが彼ですよ。ジョン・レグイザモと言えば悪いヤツか面白いヤツしか見たことがなかったですからね。
こんな人情味溢れる爺さんを演じるとは…見た目からして今までのイメージとまるで違ってびっくりでした。
物語上も重要な役だし、アルゴスとの兼ね合いもあって選出です。とても良かった。

最後に余談ですが、「テネット」を観た後にこれ観るとロバート・パティンソンの温度差に風邪引いちゃうね。余談すぎるね。

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