映画レビュー0808 『摩天楼はバラ色に』
今回はかなり久々、BSプレミアムより。
懐かしすぎますねこの映画。おそらく僕の洋画鑑賞数がまだ二桁にも満たない中学生の頃に一度観ているんですが、内容はまったく覚えていません。
ちなみにずっと「まてんろうはバラ色に」と読んでいたんですが、実際の読みは「ニューヨークはバラ色に」だそうですよ。
少し前に話題になっていましたが、今思うとSkyscraperを「摩天楼」って訳した人、すごいセンスだよなぁ。
摩天楼はバラ色に
良い意味で時代を感じるサクセスストーリー。
- 努力と人間力で上を目指す爽やか青年のお仕事コメディ
- 恋愛ももちろんきっちり頂きます
- ツッコミどころ満載だけど細かいことを気にしたら負け
マイケル・J・フォックス年表的に言えば「バック・トゥ・ザ・フューチャー」の1と2の間に作られた、まさに飛ぶ鳥を落とす勢いの頃に作られた映画ですね。当時20代中盤、かわいいのなんのって。
そんなマイケル・J・フォックス演じる青年・ブラントリーは、カンザスの田舎町でくすぶって終わりたくないということで一念発起、内定をもらってニューヨークへ旅立ちます。
しかし内定先の会社は買収された直後のために行ったら即クビ、いきなりのハードモードでニューヨーク生活をスタートさせることに。
そんな事情も知らない母親から「ニューヨークに住む遠縁の叔父さんに連絡しなさいよ」と言われ会いに行ってびっくり、超巨大企業の社長でしたよってことで「君みたいな親戚は知らん!」と言われつつも人柄採用決定で企業内最下層と思しき配送係の仕事を得ます。
当然ながらこんなところで終わるつもりもないブラントリーは、直前にリストラされた幹部が使っていたオフィスに架空の重役としてオフィスを構え、(叔父である社長がいない)重役会議に出ては経営方針に口を出し、さらに美人重役のクリスティにお近付きになってウハウハしてやんぞ、と恋に仕事に大忙し…ってなお話です。
もうまず「(配送係で働きつつ)空室のオフィスに架空の重役として勤務して重役会議にも出席」っていうザルすぎる大企業っぷりがね。ものすごいですよね。あり得ないだろ感すごい。まあでもコメディなのでその辺は大目に見ましょうよ。
今改めて観てみると、「新入社員が人柄で周りを巻き込みながら出世していく」「会社が買収危機にさらされている」「会社のヒロインを射止めようとする」と言った面で、ハリウッド版「ニッポン無責任時代」と言っても良いぐらいに似た雰囲気を感じました。こっちの主人公は爽やかのみで(ある種の)サイコパス感は無いけど。
こっちの映画が少し込み入っている…というかコメディながらそれなりにハラハラポイントを用意している点としては、主人公のブラントリーが恋する女性重役・クリスティは彼の叔父であり社長でもあるハワードと浮気関係にあり、さらにブラントリーは(そうとは知らず)ハワードの奥さん(つまり彼の叔母)と関係を結んじゃったりもして、男女関係のややこしさをサクセスストーリーにうまく組み込んでいる辺りがなかなかお上手。
この辺りはやや「アパートの鍵貸します」的な部分もあって、80年代らしい時代背景と劇伴で懐かしさ漂いつつ割と飽きずに観られる良さがある映画ではないでしょーか。
でねー、最近いろいろ言われている社会的側面を考えつつ眺めていると、やっぱりこういう映画ってこの時代にしか作れないものだよな、もう今の時代じゃ無理だよなーと少し寂しい気持ちも感じたわけですよ。
最近では「資本主義の限界」みたいな説が当たり前に聞かれるようになってきましたが、その時にセットで語られるのが「資本主義は奇跡的にある一時期だけ社会全体がメリットを享受する時代が作れただけ(なので今も適応できるわけではない)」みたいな話なんですが、その“ある一時期”がまさに映画花盛りであるこの1900年代後半から2000年にかけてなんですよね。ざっくり言うと。
社会全体が上り調子で、誰でも給料が上がったし生活水準も上がる一方…みたいな時代。先進国は軒並み好景気に沸き、今から見れば社会全体が“浮かれていた”ような時代。だからこそこういう映画が作られて、コメディだったとしてもそれなりの希望感を持って受け入れられたんだろうと思います。
「こんなのあり得ないけど、形を変えて起こり得るかも」みたいな。今じゃ絶対あり得ないですからね。どう考えても。この頃は「普通にはあり得ないけど、一捻りすれば実現できそう」な夢が見られる時代だったんだろうと思うんですよ。
そう、すごくノーテンキな映画なんですよね。有り体に言っちゃうと。でもそこがいいんですよ。
この当時、リアルタイムで観ていたら単純に子供っぽい話だなーと思ったかもしれません。もしくは若い子向け、もっと言えばマイケル・J・フォックスファンの女の子たちがキャッキャ喜ぶだけのミーハーな映画という棚にしまわれていたかもしれません。
でも今の時代から観ると、懐古厨的に見られるかもしれませんが「やっぱりあの頃って良い時代だったんだな…」とノスタルジックになっちゃうんですよね。ただこの時代が良い、って言うよりも今の時代との比較で。
そんなわけで、上に書いている通り、映画自体は本当にノーテンキであり得ないようなコメディなんですが、ただ今の環境で観ると得も言われぬ物悲しさを感じるお話でした。「もうこういう時代って来ないんだろうなぁ…」っていう。
多分そう思う人は多くないと思いますが、でも無意識にこうやって現代と比較して「いいな」と思う人は多いと思います。それはきっと、こういう物語が成立する時代が羨ましいんだと思うんですよ。
やっぱり映画は時代を考察する上でも良い教材なんだろうな、と改めて思った次第。そんな社会的な映画じゃないんですが、それだけにそう感じられたのが余計に際立つような気がしましたね…。マイケル・J・フォックスのその後を知っているだけに、それもまた少し物悲しさにつながったのかもしれません。
このシーンがイイ!
家で缶ビール開けてるところかな〜。下ネタだけど。ああいうシーンもまたノーテンキさに輪をかけていたような気が。
ココが○
当然物語にも登場人物にも映像にも古さは感じますが、今観てもフツーに楽しめる映画だと思います。テンポも悪くないし。
ココが×
まったく記憶になかったんですが、割と下ネタ多めでした。抱くの抱かれるのとか。ギシギシアンアンとか。
MVA
最初はなんか野暮ったいなーと思っていたヒロインのヘレン・スレイターも、後半に行くに連れてどんどんかわいく見えてくる不思議。
まあでもやっぱり…この人かなぁ。
マイケル・J・フォックス(ブラントリー・フォスター役)
この人のコメディ適正はやっぱりものすごい強いですね。かわいいし。
演る人によっては結構嫌味になりかねない役だと思うんですが、それが嫌味じゃないから良いんだろうな〜。
あと配送係の先輩、ジョン・パンコウも良かったですね。なんというか80年代っぽい雰囲気がまた。