映画レビュー1415 『工作 黒金星と呼ばれた男』

今回はなんとなく面白そうだなと発見したこちらの映画。

工作 黒金星と呼ばれた男

The Spy Gone North
監督
脚本

クォン・ソンヒ
ユン・ジョンビン

出演
音楽
公開

2018年8月8日 韓国

上映時間

137分

製作国

韓国

視聴環境

Amazonプライム・ビデオ(Fire TV Stick・TV)

工作 黒金星と呼ばれた男

史実の面白さ+感情を揺さぶるフィクション。

9.0
北朝鮮核開発の実態を調査すべく、実業家になりすまして潜入した韓国のスパイ
  • 韓国映画によくある実話ベースの創作物語
  • 北朝鮮の内情を探るべく実業家として外貨獲得の責任者とコネクションを作る
  • 当然政治も絡むため東アジアの生々しい国際情勢も伺える
  • 主演二人がとにかくお見事

あらすじ

いやーこれはやられましたね。「韓国の濃厚な政治サスペンススパイ映画」なんて面白くないはずがないと思いましたが想像以上によく出来ていました。さすがの一言。

舞台は1992年、北朝鮮の核兵器開発が進行しているのでは…と懸念が広がっていた時期のこと。

韓国でもその実態が掴めていない状況だったため、国家安全企画部は「北朝鮮にスパイとして潜入、核兵器開発の実際のところを調査する」作戦を立て、その工作員として元陸軍少佐のパク・ソギョン(ファン・ジョンミン)に白羽の矢を立て、コードネーム「黒金星(ブラックヴィーナス)」として送り込むことを決めます。

パクは実業家と偽り、北朝鮮の外貨獲得の責任者である「北朝鮮体外経済委員会審議所長」のリ・ミョンウン(イ・ソンミン)と知り合い、人懐っこいキャラクターで徐々に信頼を勝ち取り、やがて北朝鮮に入って商談をするまでになりますが、しかし当然そこは北朝鮮なので監視の目も厳しく、「昨日までそこにいた人が今日はいない」みたいなこともありまして…。

果たしてパクは無事作戦を成功させることができるのでしょうか。

いろんな味が楽しめる傑作

実在の工作員「黒金星」を主人公に、これまた実際にあった「北風工作」を元に作られたスパイ映画。

「北風工作」の「北風」とは、「北朝鮮の軍事行動が韓国の選挙結果に影響を与えること」を言うそうで、つまりは“そう仕向ける”工作のこと、と理解していいでしょう。

そう、この映画では中盤以降になりますが、それまで「北朝鮮の核兵器開発の実際を調査する」スパイ活動に従事していた黒金星とその所属する組織である国家安全企画部も、韓国国内の政治情勢によって立場がグラつき始めてしまったため、北朝鮮を利用して自分たちの組織を守ろうとする政治的な思惑によって「北風工作」に打って出る展開を見せるんですが、これによってグッとより政治色を帯びたポリティカルサスペンスになっていくのも見どころです。007的なスパイ映画とは違い、非常に生々しいお話なのが大変好みでした。(007も好きですが明らかにジャンルが違う)

またその「北風工作」そのものについてもいろいろと…ちょっと陰謀論に近付きますが「日本でもやってんじゃね!?」と疑いたくなるような答え合わせ感もあり、噂は聞いてたけど実際ありそうだな…というなんとも複雑な気持ちになるお話がまざまざと描かれているのも非常に興味深かったですね。

これを持って「やってるな」とは言えませんが、「なくはないんじゃないか」ぐらいには思っちゃう。

その辺の政治的なお話は日本も非常に近い位置にいるだけに他人事ではない生々しさがあり、近代東アジア史を理解する意味でもとても価値のある映画のような気がします。当然創作ではありますが、事実を脚色して娯楽に転化したリアリティがあり、「全部ウソ」と言うのもまた乱暴なのは間違いなく、あらゆる意味で面白かったですね。現実の見え方を変える意味でも、娯楽映画としても。

また「えっ北朝鮮で撮影したの!? いや無理だろうし再現か??」と頭がはてなマークで埋まるぐらい当時の北朝鮮っぽさを再現していて、正直僕のような一般的な日本人が見ただけでは「マジで平壌じゃないの?」としか思えないセットやロケーションも見事でした。これには本当にびっくり。

潜入した北朝鮮がヤベー描写は「テトリス」のソ連がヤベー描写と同じようなものですが、やっぱり定番とは言えこの手の社会主義国の常時監視がコエー的緊張感はたまらないものがあり、スパイ映画としても政治映画としてもサスペンス映画としても楽しめる、非常にレベルの高い映画だと思います。

そんな物語がどう決着するのか、落とし所が見えないな〜と思いつつ観ていましたが、最終的には「そっちに持っていくのか〜!」とやられた感も存分に味わえ、文句なしに傑作だと思います。いや本当にすごい。韓国映画の底力を思い知らされた気分です。

キャスティングもヨダレもの

で、ある程度韓国映画を観ているとキャスティング的にも非常に美味しいものがあり、そこもまたたまらんぞとヨダレが出ちゃう映画なのもポイントですね。

主演のファン・ジョンミンの良さは言うまでもないですが、彼をよく思っていない北朝鮮の軍人を演じるチュ・ジフンは「アシュラ」でファン・ジョンミンの下についていろいろやっちゃう小物の元刑事を演じていました。(主人公の元刑事の弟分)

ファン・ジョンミンの相手役であるイ・ソンミンは「華麗なるリベンジ」で悪役の先輩検事として共演していて、「KCIA」でのパク大統領の名演も記憶に新しいところです。(ちなみに今作でファン・ジョンミンが所属する国家安全企画部はKCIAの流れをくむ組織)

さらにファン・ジョンミンの広告会社のビジネスパートナーとして登場するのはパク・ソンウン、そう「新しき世界」で後釜を争ったNo.2とNo.3が笑顔で一緒に仕事しているという新しき世界ファンにはたまらないシーンもあります。

ファン・ジョンミンの上司を演じるのはチョ・ジヌン、こちらは「お嬢さん」の怪しい日本語を話す変態爺姿が忘れられません。

さらに日本語ウォッチャー的視点で言えば、どうでもいいところですがファン・ジョンミンが最初に商談する相手の「キヨハラ」を演じるキム・インウの日本語がべらぼうに上手いのもちょっとした見どころです。

ということで掛け値なしの傑作なのでぜひ観ていただきたいところです。韓国映画は大体レベルが高い印象ですが、その中でも一つ抜けていると言って良いのではないでしょうか。

このシーンがイイ!

ラストシーンかなぁ。めちゃくちゃ良かった。

ココが○

上記の通り、スパイ映画なんですがサスペンスでもあるし政治映画でもあるし、おまけに史実もついて来るとなると美味しいところだらけでたまりません。

終始程よい緊張感もあるし、こんな映画ならいくらでも観たいなと思わせる出来。

ココが×

僕としては特に無いですが、好み次第では落とし所に不満を感じる人もいそう。

ネタバレになるので詳細は控えますが、確かにそう思われても仕方がないかなと思うぐらい方向性が変わるようにも感じられるので、この辺りは評価が難しいところかもしれません。

MVA

なにげに存在感があった金正日を演じた人も捨てがたいですが、まあ順当にこの人でしょうか。

ファン・ジョンミン(“黒金星”パク・ソギョン役)

主人公のスパイ。

胡散臭さ漂う人懐っこい“商売人”はいかにも偽物っぽいんですが、そう感じさせる演技がさすがにお上手。裏に別の顔を持っていることを感じさせる演技というか。

あとはもうラストシーンが見事すぎて本当にさすがだなと感心しました。っていうかファン・ジョンミンが出てる映画で明確なハズレって引いたこと無い気がするんですよね。大体当たる信頼感があるというか。ハン・ソッキュではハズレ引いてますけども。

それと相手役のイ・ソンミンもお見事。この2人が中心で進む、っていうだけでそりゃあ良い映画になるでしょうよと期待も膨らみますが、その期待に真っ向から応えてくれる映画だなと思います。

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