映画レビュー1076 『ザ・スクエア 思いやりの聖域』
今回もネトフリ終了間際シリーズ。タイトルも知らずになんとなく面白そうだなと思ってチョイスしましたが、なんとカンヌのパルム・ドール受賞作だそうで。観た後に知ったんですけど。
ザ・スクエア 思いやりの聖域
リューベン・オストルンド
2017年8月25日 スウェーデン
151分
スウェーデン・ドイツ・フランス・デンマーク
Netflix(PS4・TV)

皮肉たっぷり、良い意味で嫌な気分になれる。
- 著名なキュレーターが財布をスられた事件を境に人生がうまく回らなくなっていく
- 全体的にかなり皮肉が効いたシニカルな物語
- 娯楽面より社会風刺が強い作品
- 各シーンがやや冗長
あらすじ
少し長めの映画ではありますが、この手のシニカルな映画の割にあまり退屈することもなく比較的(これでも)とっつきやすい映画のような気がします。が、それにしても割とあちこちのシーンで冗長な感は拭えず、多分アメリカだったらあと20分は短くなってるんじゃないの、と根拠なく思うわけです。
主人公はとある現代美術館のチーフ・キュレーターを務めるクリスティアン。ソファに寝てるシーンから始まりますがそれでもイケてるぐらいのイケオジです。
正直彼の美術館内での立ち位置がはっきりとはわからなかったんですが、チーフ・キュレーター兼館長っぽい雰囲気はありました。ただその上に理事会的なものもあり、No.1ではない模様。
とは言え冒頭でインタビューを受けていたりすることからもわかる通り、世間的にはかなり名(と顔)の知られた人物のようです。当“美術館の顔”、いわゆる文化人代表、って感じでしょうか。奥さんとは離婚だか別居だかしているようですが、それなりに良い生活をしています。
ある日彼が街を歩いていると、ちょっとしたトラブルに巻き込まれ、気付けば財布とスマホが盗まれている事態に。
スマホの位置情報から「盗んだ犯人が住んでいるマンション」まで判明、さらに部下の「全戸に脅迫状を放り込めばビビった犯人が返してきますよ」という進言を実行することに決めます。
いやそりゃアカンでしょ…と思う観客をよそに脅迫状を作成するクリスティアン、この事件をきっかけにだんだんと「うまくいかない」スパイラルにハマっていきますが…あとはご覧ください。
リアルな負のスパイラル物語
上に「凋落」と書きましたが、実際はその字面ほどわかりやすく落ちぶれていく話ではなく、一つの事件をきっかけになんとなーく歯車が狂い始めて少しずつ負のスパイラルに巻き込まれていくような話、という感じでしょうか。
良くも悪くも地味な話ではあるので、ハリウッド映画のようにどん底まで行って這い上がるとか白塗りメイクで人殺しになったとかそういう話ではありません。それだけにリアルだしありそうな展開は観ているこっちが少ししんどくなるぐらいで、そこがなかなか良かったですね。
クリスティアンは社会的に成功している人物であるためか、基本的には余裕があって紳士的な見た目通りの“イケオジ”なんですが、ただ「少しずつ負のスパイラルに巻き込まれていく」ことで、本来持っているのであろう傲慢さのようなものが同じように少しずつ、ほんの少しだけ染み出してくるんですよね。そこがまたすごくリアルで。
やっぱり人間「極限状態になると素が出る」のはよく言われることですが、それはつまり余裕のある状態から極限状態に近付いていくに連れて徐々に本性が顕になっていくものなんだろうと思うんですよ。一気に0が1になるわけではなく、中間はグラデーションになっていて。
そのグラデーションの描き方がとてもうまく、おそらく「財布をスられる前の日常にいたクリスティアン」であればもっとうまく(相手に嫌な思いをさせずに)立ち回っていたであろう事柄も少しだけピントがズレてきていることによってまた悪い方に向かっていっていると感じさせる展開、これはなかなかお見事でした。いや〜なところを突くのがうまい話ですね。
良い反面教師
基本的には終始そんな感じで、「ちょっとずつうまくいかない、ちょっとずつ嫌な面が出てくる」話が延々と続きます。なのでもう向いてない人にとってはまったく面白さを感じられない少し人を選ぶ映画ではあるでしょう。
最後まで劇的な展開もないだけに、気持ちよく「やられた〜!」とか「面白かった〜!」と思うような映画でもないし、地味〜に終わっていって「なるほどなぁ」としみじみするような映画です。ただそこがこれまたリアルだし、「これぞ人生だな」って感じでもあるんですよね。本当にいやらしいぐらいに生々しい話だと思います。
それでも当然ながら映画的に編集されていることでわかりやすくターニングポイントが見える話でもあるので、頭の中にしまっておいて「こういうときはこっちに行かないように」「こういうときこそ慎重に」と、この先自己の身にも起こるかもしれないトラブルに対応する心構えができる…かもしれません。立場の違いこそあれどなかなか良い反面教師ですよ、クリスティアン。
総評としては派手な面白さはないものの、ジワジワ染み入る「人生のうまく行かなさ」が味わい深い映画、という感じでしょうか。大人の映画ですね。
このシーンがイイ!
いいというか、いろいろ引っかかったシーンはあって…なんだろな、自分で一番嫌だなと思ったのはホームレスの人に手伝いを頼むシーンかな…。
お金を渡さなかったのに頼む主人公も嫌だし、弱者故に手伝ってくれるだろうと見越した考えが透けて見えるも嫌だし、報酬を渡す提案も渡したシーンがなかったのも嫌だし、「もしかして荷物全部持っていかれるんじゃないか」って想像した自分も嫌だった。いろいろ嫌な居心地の悪さを感じるシーン。
あとはやっぱり「モンキーマン」ですかね…。あのシーンはなんかすごかったなぁ。作り物とわかっていても心配しちゃう妙なリアリティがすごかった。
ココが○
作り物ながらここまでリアルな話ってなかなかお目にかかれない気がします。とにかく生々しくて勝手に「その後」を心配しちゃうぐらい入り込む何かがありますね。
ココが×
結構頻繁に「このシーンこんな長くなくてよくね?」と感じるぐらいに冗長。これもきっと気まずさを感じさせるために狙ってやっている部分も多いんだろうとは思うんですが。
ただ元々ヨーロッパの映画は「こんな長く見せなくていいよ」と感じる映画も多いので、そもそも文化的にやや長回しの傾向があるような気はします。
もう少し短くできると思うんだよな…そこが惜しい。
MVA
主要登場人物は少なめなので選択肢も限られますが…一番インパクトがあったこの人でしょうか。
テリー・ノタリー(オレグ役)
オレグと言われてもわからない、いわゆる“モンキーマン”の人。
もうこの映画を観ればなんでこの人がすごいのかはよくわかると思うので詳細は書きません。もしかしたら役者じゃないんじゃないか…と疑いたくなるぐらいにギリギリの演技がすごい。
もちろん主人公のイケオジも良かったし、あとはブチギレキッズもすごかった。なんか。笑っちゃうぐらい。