映画レビュー0722 『メルキアデス・エストラーダの3度の埋葬』
今回もNetflix配信終了直前の映画ということで。
最近毎週結構な本数が配信終了になるのでまったく追いきれていないんですが、中でもこれは! というのをチョイスして観ているのでなかなか良い映画をチョイスできているような気がしないでもない今日この頃ですが、しかし紹介したところで記事がアップされる頃には配信終了しているという。
ネトフリ仲間に優しくないご紹介になっていますが、果たしてここに来る人の中にネトフリ会員がいるのかどうかも怪しいのでいいじゃないかと。そんな気持ちでいつも観ております。なんプロです。よろしくどうぞ。
メルキアデス・エストラーダの3度の埋葬
友情と贖罪の不思議なロードムービー。
トミー・リー・ジョーンズ初の監督作品だそうですが、まあなんとも渋くてですね…。とても初監督作品とは思えないほどに静かで、ちょっと一部シュールな面白いタイプの映画だと思いますが、しかし中身は人間描写がすごくしっかりとした深みのあるロードムービーという感じで、まあなんというか…でもやっぱり不思議な感じで観ましたね。
ちょっとおさらいしましょう。
主人公のピートは…何してる人なんだろう。特に描写は無いですが、ベテランのカウボーイなのかな。元々は他の俳優さんにやってもらう予定だったらしいんですが、予算の都合で監督ご本人が演じています。「俺が出て好き放題やりたいから監督もやるぜ」じゃない辺りが年配のトミー・リー・ジョーンズらしい気もしますが。
彼の元にある日、メルキアデス・エストラーダというメキシコ人がやって来ます。仕事を探しにアメリカにやって来たような雰囲気。で、なんだかんだと意気投合した二人は親友として連れ歩くようになるんですが、ある日そんなメルキアデスの遺体が発見され、彼が殺されたことが判明します。メルキアデスは不法就労者なので、州警察もあまり捜査に乗り気ではなく、実は早々に国境警備隊の若い隊員マイクが犯人と判明するも、いろいろなしがらみから逮捕しようともしません。そのことを知ったピートはいきり立ち、自らマイクの家に出向いて彼を脅し、墓まで連れて行ってメルキアデスを掘り起こさせ、さらに彼と死体を連れてメキシコまで旅に出る、というお話です。
タイトル通り、メルキアデスは都合3回埋葬されるんですが、もちろん大事なのは3度目の埋葬、これをピートが狂人のように遂行していくお話が中心になります。実は上に書いた「旅に出る」までのお話がそこそこ長いんですが、でもまあそこまでは序章みたいなものなので大目に見て頂いて。
一応ジャンルとしてはロードムービーと言って良いと思うんですが、なかなかロードムービーとしては珍しく、「脅されてついていかざるをえない男」と「目的地も言わずに脅した男を伴って旅を続ける男」、そして何よりもそこに荷物として存在するメルキアデスの死体というのが…なんともシュール。さすがに慣れては来るものの、最初の方はなーんか嫌でしたね。死体がずっとそばにある感じが。
個人的な話で恐縮ですが僕も祖母が亡くなった時、お葬式の前に直接遺体を持つように言われて、やっぱりちょっと良い気分ではなかったことがあったんですよね。好きだったはずなのに。でも多分それっておそらく普通の感情で、だからこそ脅されながらついてくるマイクの感覚が観客に近いと思うんですが、ピートはまったく死体に対する忌避感みたいなものは見せずに生前と同じように接するんですよ。
で、そういう様をずっと観ていると気付くわけです。ピートは本当にメルキアデスが好きだったんだな、親友だったんだな、と。この辺の、説明臭さは無いものの人間関係を利用して人物像をきっちり伝える描き方が秀逸な映画でした。
物語はところどころで過去のお話を挟みつつ進むので、最初はピートとメルキアデスの関係性がよくわかりません。が、徐々にメルキアデスが本当に陽気で良い奴だったんだなというのがわかってくるに従って、ピートのメルキアデスに対する思いが徐々ににじみ出てくるんですよ。
途中でマイクがピートに対して「狂ってる」と言うんですが、確かに傍から見てると狂ってるんですよね。死体に対する常識みたいなものがまったくないので。ただ、その常識を取っ払って見てみると、これはものすごい愛だなと思うんですよね。愛というか…友情と言った方がいいでしょうか。
ピートが見せる“本物の”友情、そしてその友情故に脅して連れ出されるマイクの贖罪。この二つを燃料にして旅を続ける二人の目的地と幕切れの余韻はとても素晴らしいものがありました。
正直途中はかなり退屈だったりもするんですが、最後に出て来る言葉の力強さと鮮やかさはロードムービーならではの良さがあり、ちょっとだけ「ストレイト・ストーリー」っぽさも感じる良い映画だと思います。
大人向けの静かな映画ではありますが、いろいろ推測させる懐の深さもあるので、ちょっとじっくり大人の話が観たいぞ、という時には良いかもしれませんね。
このシーンがイイ!
ラストはもちろんなんですがそれは置いといて、盲目の爺さんのシーンかな…。あそこでグッと一気に惹きつけられましたね。あれもまた人間関係を元にした人物像の描き方の巧みさが光ったシーンのような気がする。
あとはピアノの練習(?)をしている女の子がいるバーのシーンもなんかすごくグッと来た。ショパンの「別れの曲」をずーっと演奏しているんですが、あの曲とボロい店の感じとがすごく良いんですよ。あのシーンで(練習の)別れの曲を流す感じ、素晴らしいセンスだなと思います。
ココが○
説明の類はほぼ無いセリフだらけなので、少ない情報から彼らの距離感を掴んでいく感じが不親切なようですごく良かったような気がします。こういう感じはやっぱり大人向けだな〜と思いますね。
ココが×
その分かなり地味でもあるし、抑揚のない物語でもあるので、途中はちょっと飽きてくる感じはありました。家で観るにはなかなか集中力を持続するのが難しいタイプの映画かもしれません。劇場で観たかったなぁ…。
MVA
みなさん良かったんですが…一番はこの人でしょう。
バリー・ペッパー(マイク・ノートン役)
誤ってメルキアデスを撃ってしまい、でも名乗れずにいたところをピートに脅され、強制的に旅に連れて行かれる国境警備隊員。
もう序盤はほんとにただのチンコ野郎なんですが、最後の演技はとても胸を打つものがありました。チャラいヤンキーのようでいて…良い役者さんだと思います。
あとマイクの奥さんを演じていたジャニュアリー・ジョーンズもすごくかわいくてよかった。かわいいけど退屈な街で目が死んでる感じがまた。