映画レビュー0840 『ハッピーボイス・キラー』

ここのところ本当にネトフリ終了映画が毎週3桁レベルあって非常に困ってまして、その中でも選びに選んでコレ! って決めて観ているわけです。今回はこちら。

ハッピーボイス・キラー

The Voices
監督
マルジャン・サトラピ
脚本
マイケル・R・ペリー
音楽
オリヴィエ・ベルネ
公開
2015年2月6日 アメリカ
上映時間
104分
製作国
アメリカ
視聴環境
Netflix(PS3・TV)

ハッピーボイス・キラー

精神病のため、飼っている犬と猫の声が聞こえてしまうジェリー。ある日片思いの女性とデートにこぎつけるも誤って彼女を刺し殺してしまう。

良くも悪くも好き嫌いが分かれそうな狂った映画。

7.5
病んだ男は女性によって救われるのか、それとも…
  • 精神病の孤独な男の日常をコミカルかつブラックに描いた怪作
  • やや偏見を助長する内容で好き嫌いは分かれそう
  • 映像的にはそこまでグロくないものの話はグロい
  • エンディングがある意味衝撃的

ジャンルは一応「ホラー」としましたが、Wikipediaによると「ホラーサスペンスコメディ」だそうで…確かにその方が言い表していると思います。あんまりホラー映画っぽくないと言うか、描かれている物語そのものは割とホラーな話なんですが、ただ描写としてはコメディっぽくてポップだし、でも展開の仕方はサスペンスだし…っていうなかなか珍しいタイプの映画でした。

舞台はアメリカのミルトンという片田舎。主人公のジェリー(ライアン・レイノルズ)は地元の工場で働いているんですが、どうもちょっと精神病を患っているようで…たまにカウンセリングを受けたりしつつ、一応は普通の社会人として生活しています。ただオープニングで「新入社員の役割で〜〜」とか言われているので、おそらく病気も軽くなってきて無事就職もできたばっかり、みたいなところなんでしょうね。

彼はボスコという犬とMr.ウィスカーズという猫を飼っているんですが、精神病故に彼らの声が聞こえてしまうという症状を抱えていて、さながら天使(犬)と悪魔(猫)のような形でささやきを聞きながら、毎日彼らと会話をしています。

んで彼は経理として働いている同僚のフィオナというイギリス人(ジェマ・アータートン)に片思いしていて、頑張ってアタックするものの無下にされ続けていたんですが、たまたま大雨の日に彼女の車が動かなくなったところに通りがかったおかげで念願のプチデートが実現、浮かれてたところにちょっとトラブル起こして間違えて彼女を刺しちゃうというまさかの展開に。

僕も観る前は「そんなわけあるかいな」と思ってましたがこれが意外とありそう…というかひじょーにライアン・レイノルズが“それっぽく”て、こういう人はこういう高ぶり方で間違った方向に転落していく可能性はあるんじゃないか、みたいな妙な生々しさもありましたね。

一旦は家に帰ったものの、誤ってとは言えそのまま死体を置いておくわけにも行かない…ということで彼女の遺体を持ち帰り、細かく切り刻んでタッパーやらなんやらに保管しつつ、生首だけ「最愛の人」として冷蔵庫にしまったところ今度はその冷蔵庫内のフィオナも喋り始め、彼の精神病は進行していく…というお話です。

もーね、概要からしてスゴイと言うかぶっ飛んでると言うか…まあ変わった話でしたよ。最後に「実は実話だぜ」とか出てこないかヒヤヒヤしたけど。

主人公のジェリーは病気用の薬を処方されているんですが飲んでおらず、この薬の服用の有無の描写と使い方がとても上手く面白い映画だと思います。

この薬、どうも「飲むと現実が見えてしまう」、つまり早い話がよく効いちゃうみたいなんですね。犬猫の声も聞こえない、いわゆる普通の人間の状態に戻るわけです。

でも彼としては薬を飲んでいない状態の方がハッピーなんですよ。部屋は綺麗だし、犬猫と話ができる=孤独じゃなくなるし。薬を飲むと自分がしでかしたことを直視する形になるので、文字通り現実逃避として「薬を飲まない」選択を取り続けた結果、どんどん症状が進行して取り返しのつかない状態になってしまう、その進行具合を見守る映画といったところでしょうか。

薬を飲んでいない状態のジェリーにとっては、部屋も綺麗だしフィオナも陽気に話しかけてきてくれるしで楽しい毎日なんですが、当然ながら現実は違うわけで、そのギャップを埋めるときがいつ来るのか、そしてそれまでに周りへの影響がどうなっていくのか、嫌な予感しかしない状態のまま妙にポップで明るい(けどグロい)話を観ているのはなかなか妙な胸騒ぎがあり、他にない魅力がある映画だなーと思います。

ただ僕はこの映画、あんまり好きではなかったです。

オープニングからちょっと「ん? …嫌な予感がするな」と思っていたんですが、まずこの手の(直接あからさまに見せるわけではないものの)若干スプラッタ的な要素の入ったお話が好きではないというのと、一番は精神病患者に対する差別を助長しそうだな、という点が引っかかりました。

ライトでポップに見せていてよく出来てるし面白いとも思うんですが、ただとにかく主人公の病みっぷりがものすごくリアルなんですよね。本当に「声が聞こえる」人っていそうだし、聞こえればこういう方向に進んでもおかしくないしで…生々しいんですよ。

生々しいっていうのは説得力が出て良いとも言えるんですが、ただ現実でこういうちょっと言動がおかしい人に接したときに、この映画がオーバーラップしてもおかしくないぐらいにリアルな面があるので、そうなるとやっぱり今以上に精神病患者を遠ざける方向に進みそうじゃないですか。世の中の流れ的に。

そういう流れを助長しそうな内容で、しかもそれが“ライトでポップ”なところが結構タチが悪い気がしていて、あんまり重く考えないで避ける方に価値観を作っていくある種の“オシャレさ”みたいなものがすごく危険だなと思ったんですよ。真面目かよって話なんですが。

これがもっと(面白いかどうかは別として)精神病に対する理解を促しつつ「大変だよね」と思いやれるような見せ方であればまた違うんですが、簡単に「こういうやつ危ねーし気をつけようぜー」みたいな見せ方はやっぱりちょっと引っかかる。そう意図していないのも理解しつつ、でも受け取る側はそうじゃないな、って気がして。

監督はイラン出身でフランスの漫画家という異色の経歴の方だそうですが、それも納得の他にない妙なキレがあるし、すごい監督だと思います。ただ、内容が内容なだけにもう少しジェリーの悲しさの方にスポットを当てる部分が欲しかったと思うんですよね。

ジェリーが悲しい人っていうのは多分誰でも感じると思うんですが、それをすっ飛ばして笑いに変えてやれ的な価値観も見える映画なので、そうすれば面白いし観やすいのもわかるんだけど…もっと同情を誘うような見せ方にして欲しかったな、というのが一番の印象でしょうか。

そしてそれを決定付ける最大のシーンはおそらくエンディングなんだと思います。

これはねー、ほんとびっくりしましたよ。当然詳細は書きませんけども。「うわーこれで終わるかー!」って。ものすごく印象的でおそらくずっと頭に残る強烈なエンディングなんですが、でもこれまた僕が期待していた展開とは違っていたので、「ぶっ飛んでるなー」って軽く引きました。笑ったんだけど。

そういう意味でもすごく不思議な映画ではありましたね。間違いなく他にないオリジナルな映画ではあるので、ちょっと胸クソ悪い部分はありますが、若干グロい話にも耐性がある人であれば一度観てみると良いと思います。好き嫌いは別として、心に残る一本にはなるでしょう。

ハッピーネタバレ・キラー

もうほんとエンディングがね。何この歌っていう。若干「ゾンビーバー」みもあった。なんか。歌〆かよ的な感じが。

アレはやっぱり登場人物から察するに、結局ジェリーも死んじゃったってことなんだと思うんですが、それもまたちょっと腑に落ちないというか…死んで終わりもなんだかなぁという気がして。結局「楽な方で終わらせるエンド」の一つだと思うので。

あのエンディングでものすごく印象に残った面は間違いなくあるんですが、そういう逃げではない形で胸に刺さる終わり方を見せてもらえれば、もっと評価した映画になったような気がします。それが何かと言われればわからないんですけどね。

このシーンがイイ!

いいシーンかどうかは…言い方があってるのか怪しいところですが、フィオナを解体するシーンで足だけ写してるのはなんとも上手いなと思います。テーブルに座ってワクワクしてる感じを重ねてるんだと思うんですが。すごい見せ方するな、って印象的でした。

ココが○

あんまり好きじゃないんですが、でもやっぱりこの他にない感は強烈な魅力でもあると思います。観る前に参考にしたレビューにも「ものすごく好き」ってあったんですが、そういう人がいるのも頷ける個性の強さはピカイチでしょう。

ココが×

上記の通り、僕は変なところでクソ真面目な部分があるので、やっぱり「精神病患者の描写」そのものが引っかかっちゃったのが「好きじゃない」大きな理由だったかな…。もしかしたら「最初から病気」じゃなくて「フィオナ殺害後に病気に」だったら少し印象は違ったかもしれません。

あとは話のグロさがやっぱりちょっとツラい。観るのが嫌とかではなくて、少し自分に黒いものが入っていくような感覚がダメ。淀んでいく感じというか。

MVA

ジェマねー。なんか妙に太ましくなっちゃっててねー。「アンコール!!」の時はもっとかわいかったのになーんか微妙な感じで。ただ役がほぼ首から上だけなので気の毒ではあったけど。

久しぶりに観たもう一人のヒロイン、アナケンもやっぱりかわいいな〜と思いつつですね、でも一番良かったのはやっぱりこの人で間違いないでしょう。

ライアン・レイノルズ(ジェリー役)

主人公。ちなみにライアン・レイノルズはボスコとMr.ウィスカーズ他の声もやってたようで。気付かなかった。

デッドプール」もそうですが、なんかこの人若干狂ったイっちゃってる系の青年役やらせたらピカイチ的ポジションになってきた気がする。

とにかくリアルで「何かしでかしそう」な気持ち悪さが見事でしたね。本当にうまかった。嫌な予感しかさせない演技。そしてそれを(おそらく)楽しんで演じてるっぽいナチュラルサイコパス感もスゴイ。

この人歳取ってから気持ち悪い爺さんの役とかやったら最高だろうな〜。この先も楽しみですね。

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