映画レビュー0748 『スリー・ビルボード』

特に観に行く予定もなかったんですが、ツイッターで大絶賛されていたのとアカデミー賞で名前が挙がっていたのと合わさって観に行ってくるかなーということで観に行ってきたよ。(報告)

スリー・ビルボード

Three Billboards Outside Ebbing, Missouri
監督
マーティン・マクドナー
脚本
マーティン・マクドナー
音楽
公開
2017年11月10日 アメリカ
上映時間
115分
製作国
アメリカ・イギリス
視聴環境
劇場(小さめスクリーン)

スリー・ビルボード

娘がレイプされた後に焼き殺されたものの捜査に進展は見られず7ヵ月。業を煮やした被害者の母・ミルドレッドが街外れの朽ち果てた看板の権利を購入し、3つのメッセージを貼り出したところ、そのメッセージによって小さな街がにわかに沸騰し始め…。

奥の深いリアルドラマ。人は選びそう。

8.0

面白かったかどうかと言われると…正直微妙ではあったんですよね。自分に合わないタイプの映画だった気はします。ただ、なんだか妙に心に残るお話ではありました。その上、これはきっと自分の理解力不足だろうなと反省させられるような懐の深いお話のように感じられる、不思議な魅力と説得力を持った映画のような気がします。もう一回観るべき映画だろうな、これは…。

物語の舞台はアメリカの小さな架空の街。よくある「街の住人全員が顔見知り」的な、小さなコミュニティでのお話です。そこで暮らす主人公、ミルドレッド・ヘイズは娘がレイプされた挙句焼き殺されたというなんとも凄惨な事件を引きずっていて、7ヵ月経ったものの一向に捜査が進んでいる気配がない現状に苛立っています。そこで、街外れにある大して車も通らない寂れた通りの看板3つの権利を買い取り、そこにメッセージを貼って“問いかけ”るわけです。

「娘はレイプされて焼き殺された」「犯人は未だに捕まらない」「なぜ? ウィロビー署長」

この広告が掲載されるや否や街がざわつくわけですよ。看板で槍玉に挙げられたウィロビー署長は人格者として街の人達に慕われていているんですが、ちょっとしたワケアリの状況。そんなこともあってか街の人達は圧倒的に署長=警察に同情的で、攻撃的な性格も相まってミルドレッドは「事件そのものは同情するけど、この方法は良くない」というような形で少しずつ立場を悪くしていきます。

それでもやると決めたからにはやると強い意志を持って世間≒ご近所さんたちと戦うミルドレッド、果たしてどのような結末を迎えるのか…というお話。

主人公は主に3人、フランシス・マクドーマンド演じるミルドレッドに、ウディ・ハレルソン演じるウィロビー署長、そして署長を尊敬し、差別主義者として名が通っているクズ警官・ディクソン。久々に観ましたサム・ロックウェルが演じています。

この3人を中心に、「問いかけ看板掲示」から始まる街の人たちのアレコレを描くドラマになっております。

言ってみれば非常に地味なお話で、「実は裏で署長が…!」みたいな陰謀論めいた話はまるでなく、全体的に淡々としていたと思いますが、それ故に非常にリアルなお話だったと思います。「実話だよ」って言われてもおかしくないぐらいに生々しい感じで。

最初の「看板掲示から街の人達のリアクション」に若干オーバーな印象はあったんですが、そこを除けば至極真っ当に展開するドラマと言って良いと思います。ところどころ過剰な面もある気はしましたが、ただその辺はほんのりブラックジョーク的なニュアンスで語られているらしく、そういう意味ではまあ許容できるかなと。その「ブラックジョーク入り」な部分も含めてやや特殊な雰囲気を持った映画だとは思うんですが。

全体的にすごく人間臭い話だなぁというか、いかに過去と折り合いをつけて今を生きていくのか、生きていく必要があるのかを訴えてくるようなお話に感じられて、自分の過去も見つめ直すような時間もできた気がします。

当たり前ですが、現実は自分で犯人を探して殺して(もしくは捕まえて)終わり、じゃないんですよね。そんなことはまず無理なんですよ。希望が見えてもすぐに消えるし、それでもまた生きていかないといけないし。そうやって過去の自分に引っ張られながら今の自分を生きていく“人間臭い”話だなぁ、と。

当事者ではない周辺の人達によって出来事が転がされていき、やがて当事者たちにも影響を与えて少なからずの変化が起きてくる…といういかにも現実的で生々しい脚本は見事だと思います。大きなカタルシスはないけれど、社会ってこういう要素の集まりなんだよな、と改めて感じさせられるような。

ただ、そのリアルさ故に…「箱庭感」というか、いかにも使い古された「誰もが顔を知る小さな田舎町での出来事」に終止している点が少し気にもなりました。

今の時代で言えば間違いなくこんなセンセーショナルな話題はSNS等で拡散されて外圧のような力が働くと思いますが、その辺が綺麗サッパリ抜け落ちてるんですよね。テレビカメラが入る下りこそあるものの、その影響は微々たるものだし。

ものすごく生々しくリアルな話だからこそ、より現代にフィットした形で描いて欲しかったなと。ラクなのはわかるんですけどね。設定的に制限を加えたほうがまとめやすいのも確かだろうし。ただ、あまりにもありそうな現実感を軸にしているように感じられただけに、ネットの影響を描かないのは残念だしある意味ではズルいような気がしました。

やっぱり架空の物語である以上、「劇的ではない落とし所でリアルに」というのはわかりつつも、その落とし所を狙って描いている感じが伝わってきちゃうというんでしょうか。説明するのが難しいんですが。

わかりやすい物語として終わっていかないだけに、「こういう落とし所でどうでしょう」という作り手の狙いが少しだけ透けて見えるので、そこでもう一歩乗り切れない感覚があったというか。まあ本当に向き不向きのレベルの話だと思いますが。

ただやっぱりちょっと他にないタイプの独特の味がある物語だとは思います。リアルで、痛い物語。個人的な印象としては「桐島、部活やめるってよ」に近いかなぁ。あれよりももっとブラックで、ある意味では人間に対する優しい眼差しを感じる話でもありました。

多分僕の理解力では追いついていない部分がかなりあると思われるので、我こそはという頭脳自慢の方にはぜひ一度観ていただきたいと思います。逆に言えば、そういうタイプでなければ「面白さがわからん」でもおかしくない話だと思うので、その辺で好みを判断しつつ観てもらえれば、と。そんなまとめ。

スリー・ネタバレード

結局最後はお互い乗り気じゃない、ってことで彼は殺さなかったんだろうと思うんですが、逆にそうなるとどういう形で二人はそれぞれの気持ちに折り合いをつけたのかも少し気になるところではあります。

警察に突きだそうにも証拠もないから難しいだろうし、となると対面せずに帰ったんでしょうが…そうすると「よし、帰ろう」ってなりにくそうじゃないですか。流れ的に。

すごく微妙な話ではあるんですが、あの二人の関係性から言って恋愛に発展しようがないし、そういう男女が目的を達せずにどう行動を終えるのか、というのはなかなか難しい問題だと思って、そこを仮に描いた場合にどう着地させるのかというのはこの映画の雰囲気から想像するとなかなか面白そうな気がするんですよね。

あんなつまらないやつのせいで人生を棒に振るのもバカバカしい、帰ろう…で帰るのか、「あとは俺(私)がやるからあんたは帰りな」で別れる(けど何もしない)のか…。いずれにしても、その後街に戻って二人がどういう生活を送るのかも想像するとなかなか面白い気もします。

映画があそこで終わっている以上、単なる妄想でしか無いわけですが…そういう妄想が楽しめるのはこういう余韻のある映画の特徴かもしれないですね。

このシーンがイイ!

神父さんが家に来たところのミルドレッドの語りは痛快でしたね。良い。

あとはやっぱりオレンジジュースのシーンでしょうねぇ…。あれはズルい。

ココが○

本当になかなか他にないタイプの物語だったので、一見の価値はあるんじゃないかなぁと思います。何を持って他にないのかもなかなか説明が難しい内容なんですが…。良くも悪くも観客の予想を裏切りながら進むお話なので、先の読め無さという意味でも良い映画ではないでしょうか。

ココが×

少し煽り過ぎかなと言う気はしました。ところどころで嫌な予感を煽る演出がちょこちょこ顔を出していたので、そこがちょっともったいないなぁと。

とは言えそれも煽らずに通り過ぎられるともうあまりにも平坦すぎる気もするし、難しいところですが。

MVA

サム・ロックウェルはかなり期待していたんですが、なーんか他で見たような感じだったのが残念。良かったんですけどね。ということで順当にこの人かなー。

フランシス・マクドーマンド(ミルドレッド・ヘイズ役)

かなりクセのある“被害者の母”。

いい人だったら成り立たないお話でもあるし、このある種クレイジーな人物像はなかなか他にない感じで新鮮でした。その辺にいそうなタイプでクレイジーな感じ。こういう人がモンスターペアレンツになるんじゃないの的な。

それと悪役顔のくせにいい人だった署長役のウディ・ハレルソンも良かったと思います。嫁さんも美人だし。関係ないけど。

あと広告会社の兄ちゃん、ケイレブ・ランドリー・ジョーンズも◎。役者陣は皆さんとても良かったと思います。

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