映画レビュー0664 『くすぐり』

最近ちょっとネットで話題になっていたニュージーランドのドキュメンタリー映画。僕が調べた限りでは国内でソフト化もされていないようで、おそらく現状Netflixでしか観られません。

ジャケ絵は見かけたポスターらしきものを激(模)写しました。

くすぐり

Tickled
監督
デイビット・ファリアー
ディラン・リーブ
出演
デイビット・ファリアー
ディラン・リーブ
デイビット・スター
ハル・カープ
音楽
Rodi Kirkcaldy
Florian Zwietnig
公開
2016年4月13日 ニュージーランド
上映時間
92分
製作国
ニュージーランド

くすぐり

ニュージーランドのジャーナリスト、デイビット・ファリアーは、ある日ネットで見かけたくすぐり動画の作成者に軽い気持ちでコンタクトを取ってみたところ不自然なほど攻撃的な反応を受け、これは何かあるかもしれないと興味を抱く。やがて取材を続けていくうちに、動画の裏に隠された恐ろしい構造を知るのであった。

続編(続報)に期待?

6.5

僕は知りませんでしたが、一部マニアには有名らしき「くすぐり動画」。妙にマッチョな男たちが、縛られたこれまた妙にマッチョな男をくすぐるだけの動画で、一応は「くすぐり大会」というスポーツ競技というテイで映像を作っているらしく、毎年参加表明した者の中から選ばれた数名が、ロサンゼルスへの旅費+数泊の滞在費+参加料として無条件で$1500($1000だったかも)を支給されるという破格の参加条件で招待され、“大会”を戦う…というシリーズモノの動画のようです。

世界的に(一部マニアには)人気なようで、「いいね」の数も相当な様子。ただ、その“大会”そのものが実際に運営されているのかや、勝敗の付け方や優勝した場合のプライズ等はこの映画でも触れられておらず、詳細は不明。大会どうこうよりも「こんな厚遇で世界各国から無条件で人を集めてこんなくだらない動画を作る、ってどういう動機だ?」という単純な興味本位で軽く接触を試みたジャーナリストが、それに対する運営側の過剰なまでの攻撃的な反応に「これは裏がありそうだな」と勘付いて取材を深めていく、というドキュメンタリーになっています。

ネットで「怖すぎる」と噂になっていたので興味を持って観てみましたが、確かに「くすぐり動画」というなんとも平和な入り口からは想像できない、かなりタチの悪い構造の世界にひどく嫌悪感を抱く話ではありました。ただ…一応これもネタバレしないように結論は避けますが、話としてはそこまで想像を絶するような、陰謀論めいた何かがあるわけでもなく、ある意味で想像の範疇ではあるかなと思います。拗らせちゃった人がお金を持つとこういうこともあり得るよな、っていう。

最も時代が時代なので、そこに絡め取られてしまった人々の出口のないキツさはかなり救いのないものだと思うし、当然ながら許されない所業が行われているということは間違いありません。

パッと見平和に見える「くすぐり動画」が実はそういう世界に支えられているものだった、という事実を暴き出したこのニュージーランドの監督さんは非常に素晴らしい仕事をしたと言っていいでしょう。

世の中に知られていないだけで、グレーゾーンで個人の被害がただただ広がる世界、っていうのは他にもあるんでしょうね…。考えれば考えるほど暗澹とした気持ちにさせられる面がありました。

これを観ていてふと思い出したことがあったんですが。

僕にはまったく理解できませんが、世の中には「足裏フェチ」の人がいるんですよ。足の裏で興奮するという。で、そういう人たちの中には、街で声をかけて「足裏の写真を撮らせてくれませんか?」ってやってる人がいる、って聞いたことがあって。そのこと自体が悪いとは思いませんが、これもやり方によっては「くすぐり動画」と同じようなフィールドに持ち込むこともできるよな、と思ったんですよね。

常人が理解しにくい性癖は、理解しにくい分被害や敷居の高さを感じにくい側面もあるわけで、「くすぐり」もその延長線上にあるものなのかな、と思うんですよ。くすぐられてるところを撮られたところで、気分良くはないけどそこまで羞恥心もない、というような。で、その敷居の低さを入り口に悪用されちゃうとこういう世界が待っているのか、っていう…やっぱりちょっと背筋が寒くなるような怖さは感じましたね。

おまけにそれを主導している人間がちょっと異様な粘着質の人だとこうなっちゃうのか、と。あの粘着質な感じ、僕はネットで話題の某総会屋2.0の人に似たものを感じたんですが、まあそれは話が変わるので置いといて。

そんなわけで「隣にある知らない世界」をえげつなく晒してくれたとてもいいドキュメンタリーだとは思いますが、ただちょっと終わり方が消化不良だったのも事実で、もう少し先が観たいというところで終わっちゃったのは残念。これは編集次第なのかもしれません。最後に持ってくるべきシーンが別にあったような気がします。

僕としては、この調査・取材を受けて、「くすぐり大会」の運営側がどういう動きを見せたのか、被害者たちの現状がどう変わったのか等の「その後」の話が気になったし、そこまで観たかったなぁというのが正直なところ。ドキュメンタリーとしてはもう一歩先を見せて欲しかった気がして、ちょっと我慢できなくて出しちゃった感というか。

「ウッ」みたいな。

そこがね、ちょっと残念だったんですけれども。

でもとにかく変わった、作り物じゃねーかと思えるぐらいに妙な現実を見せてくれるドキュメンタリーなので、面白いとは思います。

日本で観るにはおそらく現状Netflix限定というかなり環境に左右されるのが残念ですが、短めで観やすいし、会員の方は観てみるといいかもしれません。

コチョっとネタバレ

もう少し詳しく。

当然ながら、この大元にいる諸悪の根源であるオッサンのことを擁護する気も無ければ被害にあった方の自己責任がどうこうとか言うお話では無いことを先にお断りしつつ、ですね。システム的な部分で思ったんですが。

実際のところ、この手の「変態がお金持っちゃったばっかりに狂った世界が作られる」話って、おそらく可視化されていないだけで今まででも結構あったんだと思うんですよ。これまでは狭い範囲でやられてたから見えなかった部分が大きいんじゃないかと思います。

それ故に比較的被害も少なく、泣き寝入りで終わるケースが多かったような側面がまずあるんじゃないかなと。

それが、ネットが普及してYouTubeその他インフラコストが下がってきたために、こうして大々的に世界中を巻き込むようにして、より多くの一般人とこういう変態が接触を持つようなポジションに来てしまったがためにある種“悪目立ち”してしまい、そのためにこうしてワレワレの知るところとなった、と。

結局思ったのは、この話が怖いのは間違いないんですが、単純に「この男怖い、このサイケな変態っぷり怖い」っていう個人の問題で終わっちゃうともったいないというか。

僕が一番怖いと思ったのは、今回ターゲットのオッサンとその取り巻きが逆上しやすいある種のおバカさんだったので目に見える形でまとめられましたが、これが彼らのように攻撃的ではないもっと狡猾な人たちがやっていた場合、ものすごくうまくいろいろとシステムを回すことで完全秘密裏にもっとエグいことをいろいろ動かしててもおかしくないんじゃないか、というそっちの可能性の方でした。

で、当然そういう人たちは表に出てくるようなヘマをしないので、ワレワレ一般人には知られないままいろいろな“何か”が進行している、と…。

なんだか陰謀論めいてきましたが。

例えば誰もが知っているような大企業であったり、極端な話では政府機関とかでもですよ、表向きは良いことのように振る舞ったことをしていても、裏の狙いがどこにあるのかまではわからないことって多いと思うんですね。

この映画には「意外とそういうもの、多いかもよ」というメッセージも浮かんで見えて、それがすげー怖いなと思った次第です。

気付かないまま生活していた方が幸せなのか、はたまた真の狙いを知った方が幸せなのか…。

この世はそんなもので溢れている…!(ドーン)

の、かもしれません。

[その後のお話]

この映画を観た数か月後にニュースになっていましたが、なんとこの首謀者のおっさんはお亡くなりになったそうです。

誰かしら遺志を継いでこの組織が残ったのか等まではわかりませんが、ひとまずこの監督さんとオッサンの戦いには一つの区切りにはなったでしょう。

このシーンがイイ!

良いシーンというか…さすがにマッチョなイケメンがくすぐられてるシーンをスローで見せられたらそりゃー笑いますよ。なんなのあのシュールなシーン。

ココが○

ドキュメンタリーですからねぇ…。その勇気と無謀さには頭が下がります。本当にこの監督さんみたいな人は世界に必要だと思う。

ココが×

個人的にはやや消化不良で終わっちゃった、という点を除けば、ドキュメンタリーとしては観やすくて良い映画だと思います。特に序盤はテンポも良く、演出も今っぽい軽さがあってとっかかりやすい感じがあったし。

MVA

ドキュメンタリーなので…まあ功績含めてこの人しかいないでしょう。

デイビット・ファリアー(本人)

この人自身もまさかこんな話につながるとは思ってなかったんでしょうね。裁判その他大丈夫なのかなと少し心配ではありますが、今後も負けずに追い続けて欲しいところ。

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