映画レビュー1284 『希望のかなた』

緩やかに始まりました。今年一発目です。

年初はストックもないのでしばらく頻度も減りがちだと思いますが改めて今年もよろしくお願いします。

ビトウィーン・トゥ・ファーンズ: ザ・ムービー」以来、その年最初の映画はふざけた映画にしたい…と思っているんですが叶ったことがありません。

希望のかなた

Toivon tuolla puolen
監督
脚本

アキ・カウリスマキ

出演

シェルワン・ハジ
サカリ・クオスマネン
イルッカ・コイヴラ
ヤンネ・ヒューティアイネン
ヌップ・コイブ
カイヤ・パカリネン

音楽

2017年2月3日 フィンランド

公開

フィンランド・ドイツ

上映時間

98分

製作国

フィンランド・ドイツ

視聴環境

JAIHO(Fire TV Stick・TV)

希望のかなた

現代社会を読み解くには最適な社会派コメディドラマ。

8.0
シリアからフィンランドに逃れてきた男が難民申請するものの…
  • 難民の男と人生に嫌気が差した男が主人公の社会派コメディドラマ
  • テーマは重いものの深刻になりすぎず、かと言って軽すぎずのいいバランスで考えさせる
  • ややシュールな雰囲気もありつつ人間味を感じさせる良ドラマ
  • 謎の寿司屋シーンは爆笑

あらすじ

北欧映画、かつなんとなくシュールそうな雰囲気の場面写真から「さよなら、人類」的なやつを想像してちょっと身構えていたんですが、あれよりも全然観やすくてなかなかいい映画でした。

シリアの戦乱から逃れて貨物船に身を隠し、フィンランドに密入国したカーリド(シェルワン・ハジ)。

彼は難民の申請をして審査待ちの間、入管で知り合ったイラン人のマズダック(サイモン・フセイン・アルバズーン)と親しくなりつつ、フィンランドにたどり着く前に生き別れになってしまった妹のミリアム(ニロズ・ハジ)の行方を探します。

一方、自らの仕事と酒浸りの妻に嫌気が差していたヴィクストロム(サカリ・クオスマネン)は家を出てすべてを売り払い、残った金でポーカーに興じて一勝負。

本来交わることのないこの二人がどこかで知り合い、その後の人生を左右することになるんですが…例によってあとは観てちょーだい系です。

どうしても日本の入管と比べざるを得ない

よくわからないあらすじになっちゃいましたが、そもそも結構説明が難しい映画ではあると思うんですよ。言い訳なんですけどね。あんまり先のことを書いちゃうと面白くないし。

なのでちょっとボンヤリとした感じではありますが、端的に言えば「フィンランドにやってきた難民と、最後の一勝負に打って出ようとする男の人生が交わることでそれぞれに新たな展開が生じる」お話、みたいな。

まー人生の妙というか、一つの出会いでそれぞれ(この映画の場合は特に難民であるカーリド)のその後が変わる、という「普通にあちこちであることなんだろうけど劇的」な日常を淡々と描いていて、リアルだしその分より身近に感じさせられる部分があっていろいろ考えたりするものがありました。

まず最初にアキ・カウリスマキ監督についてなんですが、僕は名前ぐらいは知っていたもののこの人の映画は初鑑賞で、物語としては振り返ればそこまで特殊な変わった話ではない、なんなら割と他でも観たような話ではあるものの、映像や雰囲気、役者の演技の傾向といったものが結構独特なものだったので、これは確かにハマる人はすごくハマりそうな作風だな、と思いました。まる。

いわゆるカルト的人気を得るタイプの監督っぽいですね。ちなみに今作は“復帰作”だそうで、昔の映画だとまたちょっと違うのかもしれません。

さて、肝心の内容についてですが。

テーマは最近(と言っても6年前の映画ですが)多い難民もの。

ですが戦地の過酷さのようなものはあまり触れられず、一人の人間として慣れない土地に馴染もうとする人のお話になっています。

そして前半の舞台は入管になっているので、どうしても日本の入管と比べちゃうしそこが余計に考えちゃうポイントになっているなぁと。

この物語でも結構重要な場面で「入管職員の人間性」が描かれるシーンがあるんですが、そこがもう日本(のすべての職員とは言いませんが)とは雲泥の差でですね…。職員が人間なのか、それとも化物なのかでこうも違うか、と非常にしんどい気持ちになりました。

事件として表面化した日本の入管職員が登場人物だったらカーリドは速攻死んで映画が終わっていたでしょう。

本当に入管は(人権的な意味や他国からの視線等あらゆる意味で)なんとかしないといけないと思いますが少し話が逸れるのでこの辺にしておきます。

日本人としては親しみやすい映画説

主人公のカーリドなんですが、初っ端から「結構日本人顔だな」と思って観ていてそれでちょっと親近感が湧いたりしていたんですが、途中から「誰かに似てる…」とずーっと考えながら観ていた結果「山田孝之だ!」と思い出し、それ以降もう山田孝之にしか見えなくなる呪いにかかりつつ観ていました。

鑑賞後にネットのレビューを見たところ大半が「主人公が山田孝之」と言及していたので相当似ていると思われます。ちなみに僕自身も昔似てると言われたことがあります。(丸みの強い山田孝之)

また途中で出てくるレストランが謎の業態変更によっていかにも怪しい寿司レストランになるシーンがあったりもして、合わせて日本人的には親しみやすい映画という噂です。本当か?

その寿司レストランにしてもそうですが、そもそもこのレストラン自体がかなりひどい代物で、従業員のやる気の無さもこれまた親近感しかないし、犬飼っちゃうのも(どう考えても衛生的にダメなんだけど)親近感湧いちゃうし犬かわいいし、よく店として存続してるなレベルでなかなか良い存在でした。レストランがコメディリリーフみたいな。

この「場所」の使い方、そしてそこに関わる「人」の存在から物語を動かしていく展開はなかなか巧みだし、やっぱり慣れ親しんだアメリカの映画とはまた違った雰囲気があって新鮮でしたね。

それと音楽がほぼ無い映画なんですが、ただ劇中で場末の名手的なミュージシャンが出てきてちょっと歌ったりするんですがこれがなかなか味があってすごく良かったことも書いておきたいところ。日常に溶け込んだ音楽、って感じでね。

特に新年感も無い映画ではありますが、なんとなく「自分もこういう人でありたいよね」とまた補強してくれるような映画ではあったし、やっぱり何かしら“持ち帰る”ことができる映画は良いなと思った次第です。

具体的には某運送業(?)の兄ちゃんみたいになりたい。あんな粋なセリフを吐ける人間になりたい。そう思った新年一発目でございます。

このシーンがイイ!

上の運送業の兄ちゃんが出てくるシーンはすごく良かったですね。その導入からニクいセリフを吐くところまで。

ココが○

テーマの割に軽めで観やすく、めちゃくちゃ面白いわけでもないのに妙に惹きつけられる感覚が不思議でした。観ていて飽きない映像というか。

ココが×

エンディングはやや消化不良で、結局どうなったんや感があって結構好き嫌いは分かれそう。いわゆる「ご想像にお任せします」的な面があります。

MVA

イラン人難民のマズダックがめちゃくちゃ良いやつでグッと来ました。

イランも結構欧米的には問題視されている国だけに、創作とは言え個人と国家(属性)の同一視は危険だよと改めて認識させられた部分があります。

その他レストランの従業員チームも最高でしたが、まあ順当にこの人にしましょうか。

シェルワン・ハジ(カーリド役)

主人公の難民。山田孝之そっくり。

シリア出身らしいので、まさに等身大の役なんでしょう。

淡々としつつ感情が入るところはしっかり入っていて、なんだかすごくリアルでした。親しみが湧く顔だし。

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