映画レビュー0275 『東京原発』

本日ご紹介は、去年の福島第一原発事故以降、にわかに注目を集めたマイナー原発映画の一つ。もちろん、事故以前に制作された映画です。

これまた珍しく競合率が高い割にDISCASから送られてきました。

東京原発

Tokyo genpatsu
監督
山川元
脚本
山川元
出演
段田安則
田山涼成
菅原大吉
岸部一徳
吉田日出子
音楽
崎谷健次郎
主題歌
『TOMORROW』
崎谷健次郎
公開
2004年3月13日 日本
上映時間
110分
製作国
日本
視聴環境
TSUTAYA DISCASレンタル(DVD・TV)

東京原発

ある日、東京都知事の天馬が、副知事や局長・室長クラスのメンバーを集め、「東京に原発を誘致する」と宣言。その会議と時を同じくして、秘密裏に原発のための燃料が都内を通過していたのだが…。

価値はテーマのみ。

4.5

福島第一原発事故以降に注目を集めた、というのもなるほどよくわかる内容で、今話題になっていることも、あまりマスメディアが報じない都合の悪いような話もなかなかしっかり調べてリアリティのある情報を織り交ぜた内容になっていて、さながら「リアル原発教科書」といった感じ。

僕の知る限りでは、あまり誇張したような部分もないし、相対的に弱めではあるものの、原発のメリットもそれなりに入れ込んでいたので、序盤のテーマでもある「原発自体どうこうと言うよりも、その是非を考える問題提起」というようなニュアンスは結構感じられました。

が。

これまた悲しいかな、映画としてのレベルが相当に低い。これはもう邦画自体の産業的な問題と、脚本も兼ねた山川監督の技量の問題と両方あったように思います。

まず、もうたまに邦画を観ては確実と言っていいほど言ってますが、邦画ってどうも全般的に、シーン自体のリアリティが決定的に欠落しているように思います。もちろん邦画自体あまり好きではないので、大して観ていない=他にもっとリアリティのある映画があるんだけど観ていない、ということはあると思いますが、ただ総じて平均的な作りとして、会話の間だとか言葉のチョイスだとか、いちいち嘘臭い&子供っぽい。本当に学芸会レベルだし、おままごとと言っていいほどレベルが低い。

ただ、これは僕が日本人だからこそ、日常的な言葉の使い方もよくわかっているだけに、「いやいやそんな言い方普通しないだろ」とか「そんなリアクション嘘臭いだろ」とか外国映画とは比にならないほど“細部が気になる”環境というのはあると思います。でも、それを差し引いても納得出来ないほど、レベルが低いと感じました。

役者陣は割と邦画界としては豪華な方で、演技派と呼ばれる方々が主体だっただけに、余計に残念感が強かったんですが、これはきっとこの方たちが演技的にマズイというよりは、やっぱり脚本と演出、つまりこの監督の手腕に問題があった気がしてなりません。

差し込む笑いやキメのシーンも寒すぎるし、セリフのかぶせ方、言葉の説明臭さ、全部がひどい。これはちょっと役者さんたちがかわいそうだな、と思うほどのレベル。

指摘したい部分は先見性があったのに、全体的な質感はたかだか8年前の映画とは思えないほど古臭く、「日本は2000年代になってもまだこんな質が低い作品づくりをしてるのか…」と唖然としました。ただ、これはこの映画に限ったことでもないと思うので、やっぱり邦画界自体が「こういうのが演技、こういうのが映画だよね」っていう空気に支配されている感じがするんですよね。これをよしとする、そのセンスがもうどうしようもないな、と。

内容的に言えば、あの事故以前に原発の危険性に警鐘を鳴らすような勇気は素晴らしいと思うし、実際こういうことがあり得ないとも限らないし、あったらとんでもないことになるぞ、という面でのリアリティはあったように思います。それだけに、“おままごと”レベルで説得力を持てなかったことがもったいなさすぎる。

序盤のセリフ回しなんて「反原発組織が作った啓蒙映像」程度のレベルにしか見えないほどのわざとらしさに満ちあふれていて、本当に言いたいこと、世間に対して突き刺したいことがあるのであれば、もっと賢くやらないと相手にされないよ、と思いますね。ちょっとやり方が拙すぎる。せっかくいいテーマでいい視点なのに…。

原発以外にも既得権益の話だとか、「国がやってることで誰かが責任を持つなんてあるわけないじゃないですか~」とか、すごくブラックに的を射たセリフもあっただけに、もっと「伝える方法」を考えてうまくやって欲しかった。

きっと「これを言いたい!!!」って意気込みすぎちゃうと、いろいろ盲目的になってうまく作れなくなるような部分もあるんでしょう。(自分のレビューにも当てはまる気がする…)

これを観るなら、「チャイナ・シンドローム」の方が数百倍よくできてます。素晴らしい先見性を持ったテーマだけに、つくづくもったいない。すごく。

このシーンがイイ!

映画としてはボロクソなので特にコレというのはなかったんですが、強いて言うなら序盤の「放射性廃棄物」が並んだシーン。象徴的で良かった。

ココが○

テーマに尽きます。訴えていた内容は誇張もあまり無く、真っ当にしっかり調べて作ったんじゃないかと思いますが、その分説明臭く真面目に伝えようとしちゃったんでしょうね。

ココが×

映画としての質、レベル。決定的にヘタ。

MVA

そんなわけで演技も大不満、強いて選ぶなら、ということで。

役所広司(天馬都知事役)

さすが邦画界のエースだけあって、演技面では一人気を吐いていた気がします。

ただこの人に限らず、こういういろいろしがらみの多いテーマをがんばった役者陣のためにも、もっと「報われる」作品にして欲しかったと思いますね。

ちなみに僕は東京都民ではないのであまりどうこう言う必要も無いんですが、政治ウォッチャーとして現某都知事(2012年現在)はまったく評価していません。あんな質の低い政治に騙されて熱狂するようじゃ都民はおしまいだよ…。

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