映画レビュー0812 『トム・アット・ザ・ファーム』
おなじみのネトフリ終了間際シリーズでございます。
これ、かなり後味が悪い映画という印象で観ようかすごく悩んだんですが、どうやらその印象は「ファニーゲーム」とごっちゃになっていた模様。そんなきつい映画ではなかったので一安心でした。
「ファニーゲーム」ともいつか決着をつけなくてはなるまい…!
トム・アット・ザ・ファーム
天才監督の緊張感漂う微妙な話。
- ほぼギョームの実家内で繰り広げられる低予算映画
- 亡くなった恋人の兄に支配されていく男のお話
- やや芸術寄りな雰囲気で多くを語らない物語
監督・脚本・主演を務めるのはグザヴィエ・ドランという方なんですが、なんと彼はこの映画の撮影当時24歳ですよ奥さん! 映画好き界隈では有名な早熟の天才と言ったところでしょうか。
そんなグザヴィエ・ドランが演じる主人公のトム。彼はゲイなんですが、恋人だったギョームが亡くなり、葬儀のために彼の実家に訪れるところから物語は始まります。
ここにはギョームの母・アガットと、ギョームの兄・フランシスの二人が暮らしていて、家業である農業をフランシス一人が切り盛りして生活している、という環境。
本来であればさっさと葬儀を終えて出ていって終了、の予定だったんですが、読み上げるはずだった弔辞をすっぽかしてしまったトムはフランシスに脅され、「この失態を取り戻すために母親に償いをしろ」ということでしばらく彼の仕事を手伝いつつ、フランシス家に居候のような立場になります。
そうしてともに暮らしていくうちに、フランシスに愛していたギョームの影を見たトムは、暴力的な彼の世界に次第に囚われていく…というお話です。
映画の内容はまったく違うんですが、この映画と同じく監督・脚本・主演、さらに音楽も一人の天才(ヴィンセント・ギャロ)が手がけた「バッファロー'66」を思い出すような雰囲気の映画でしたね。ああいう感じ。語りすぎず、ちょっと作り手の自己陶酔が透けて見えるようなイメージ。
ただ、この映画は(バッファロー'66もですが)別に「若い監督が自己陶酔して気持ちよくなってんじゃねーよ」と嫌悪するほど独りよがりなわけでもなく、セリフで明示はされないものの割とわかりやすい形で舞台の進展を伝えてくれる面があって、しっかり注意深く観ていれば、トムの考えや精神状態、フランシスのトムに対する感情もヒントが隠されているようにはなっています。
あまり多くを語らず、それぞれの言動でそれぞれの立ち位置や関係性を読み取りつつ、最終的にどういう選択を取っていくのかを追っていく物語なんですが、そういう「語らないから察してね」という作りの割には結構急に進展しているように見える、やや突き放した詰めの甘さみたいなものがちょっと気にはなりました。
例えばトム。最初に「広告代理店で企画を担当している」と言っていたものの、特に描写もなくフランシスの家に残って農業手伝ってるんですよね。
まあ「やめます」とか「しばらく行けません」とか直接的に説明するシーンを挟んじゃうと“伝わりすぎる”のでそれを懸念した&あやふやにしておいた方が作りやすいと判断したんだろうとは思うんですが、にしても観ている方としては少し気になる。
で、ずっと暴力的でムカつくフランシスに脅されながら、急に「僕がいないと」って言い出すんですよね。多分どっかでスイッチが入った、その理由になるようなヒントもあったんだろうと思うんですが、なーんか嫌な雰囲気の関係性が続いてうーんと思って観てたら急に「僕が農場の中心です」みたいな雰囲気になっちゃって「えー」っていう。その辺の丁寧さがもう少し欲しかったなぁと思います。
物語としては、母親と二人暮らしで家業の農業をやっているだけ、近所からも疎まれているために外との交流がまったくないフランシスのもとに一人の青年がやってきた…という状況で、その狭い世界がどう動いていくのかがすべてのお話ではあるんですが、ただこれ…ぶっちゃけ主人公がゲイ、っていう部分にしか妙味がない気もする。
はっきり言って主人公が女性でも、兄が姉でも同じような物語は作れると思うんですよね。ただそうなると(普通過ぎて)つまんないから主人公をゲイにした、っていう一捻りだけで思わせぶりな緊張感の中、結構微妙な話を観させられて終わる、という感じで…うーん正直イマイチ。
ただ、裏を返せばその微妙な物語をうまく見せて緊張感を持たせる技量が優れているとも言えるわけで、「微妙な脚本をうまく料理しました」と言っても良いのかもしれません。でも脚本も監督も同じ人なんだよな…。
そういうわけで評価としては微妙、というか見せ方からして僕が好きなタイプの映画ではなかったんですが、ただ「そういう映画の割に」捨て置けない巧みさみたいなものも感じたんですよ。ただチヤホヤされてるだけの若い監督じゃないな、っていう。
おそらく物語的に合わなかっただけで、話の内容によってはかなり唸らされるセンスを持っている監督のような気もしました。「マジカル・ガール」みたいな映画を作りそうな雰囲気があるような。
ということで簡単にまとめると「監督のセンスはすごそうだけど好きな話じゃない」ってところでしょうか。
フランシスのキャラクター的に、意外と経験によっては「観るのもしんどい」ぐらい入り込まされる人もいそうな気もするので、設定的に気になる人は観てみると良いと思います。
このシーンがイイ!
アガットがブチギレるシーンはちょっとザワつきましたね。この人が一番危険なんじゃないのか、って。彼女の使い方が良い意味で気持ち悪くて良かったです。
ココが○
んー、なんなんでしょうね…やっぱりところどころハッとさせるセンスがあるような気はするんですよ。やっぱり扱う物語の問題で、内容によってはものすごく刺さる映画を作ってくれそうな期待感は感じました。
ココが×
ということで結局は「話が嫌い」。暴力的な男にコントロールされていく、ってちょっとベタすぎるし、話の内容に意外性がなさすぎたなー。
MVA
監督兼主演のグザヴィエ・ドランも特に不満は無く、お兄ちゃんも良い演技だったと思うんですが、一番引っかかったのはこの人でしょうか。
リズ・ロワ(アガット役)
フランシスとギョームのお母さん。普通のお婆さんのようで、たまにヒエラルキーのトップにいる雰囲気を出してくる気持ち悪さが良かったですね。上に書いた通り、実はこの人が一番危ないんじゃねーのっていう雰囲気が。