映画レビュー0390 『人生の特等席』
俳優引退宣言までしていたクリント・イーストウッドが「グラン・トリノ」以来の主演作、さらに言えば自身の監督作以外での主演となると「ザ・シークレット・サービス」(懐かしい)以来約20年ぶりという、「役者のみ」(厳密に言えば製作とかは関わっているみたいですが)のお仕事とのことで、こりゃー否が応でもハードルが上がっちゃうわけですが、まあさすがにご本人の監督作ほどのものではないだろうと思いつつ…。観ましたよっと。
人生の特等席
すごく惜しい。深そうで浅い残念感。
監督は17年に渡りクリント・イーストウッドから映画製作を学んだ人らしく、またちょろっと調べたところ主要スタッフも大半が「イーストウッドチーム」だそうで、やっぱりそこはかとなく「イーストウッド映画」っぽい雰囲気の漂う作品。落ち着いていて、地味だけど飽きないあの感じ。全体のイメージは悪くなかったです。
ですが! 悩みましたが、6.5点かなというところ。
スカウトという仕事が好きで好きでたまらないものの、頑固さ故に引き際も作れず、「まだまだお前らひよっこには負けやせん」と意地を張ってお仕事に精を出す男と、彼の一人娘で彼に「捨てられた」と感じている過去を抱え、周りに心を閉ざして男勝りに仕事をこなす娘、ミッキー。この二人の親子としてのアレコレが中心となったスポーツドラマです。
「もう役者はやらない」と言っていたイーストウッドが役者として出てきただけに、勝手にイーストウッド特有の死生観を交えた「人生の引き際」について語る、それこそ「グラン・トリノ」のように後味深い映画なのかなと思っていたんですが、内容はもっと全然ライトで、「親子の和解」がテーマと言っていいでしょう。歳を取ってから一緒に過ごす時間を通して描く、言わば結構ありがちな流れのお話。プラスでこれまたお決まりのように、「年頃で結婚もしてない娘」に恋愛要素が絡んできますよ、と。
ちなみに一応書いておきますが、軸となるのは野球ということもあって、セリフの端々に野球ファン向けのセリフがあったりもして、なかなか野球好きでないとついていけない場面もありましたが、全体的には「野球好きかどうか」はあまり関係がないお話です。
まず端的に言うとですね、「イーストウッド映画っぽい」雰囲気でありながら、割と人物描写が浅いというか…考えて考えてこのセリフが出る、みたいな重みが無いのが気になりました。
ぶっちゃけエンディングでもっともガッカリしたんですが…詳細は避けますが、そこで一言あるべきだろう、そんなスンナリ行かないだろう、っていう部分が気になってしまい…。
それに加えて、そのラスト前の展開がまた非常にマンガっぽくてですね。展開としてこうさせるのが一番スンナリ行くのもわかるし、ある意味では安心感のある展開なんですが、「人生終盤の男の話」であれば、もっと「うまく行かなくても別に価値がある」みたいな価値観を見せてくれる話にしてくれたほうが深くなると思うんですよね。
あまりにドストレートな展開は、裏切らないという意味ではいいんでしょうがやっぱりちょっと面白みに欠けるし、浅い。
僕は俳優としてのイーストウッドにはあまり興味はないんですが、それでもせっかくクリント・イーストウッドを主役にするなら、やっぱり彼の(イメージが)持つ深さ、味わいって利用したほうが得だと思うんですよ。
確かにぴったりの役ではありましたが、話としては彼である必要は無かったし、コレなら他の爺さん俳優にやらせても一緒だったんじゃないの、と思います。僕がイーストウッドにやらせるんだったらもっと考えさせられるものにすると思います。
あまりにもこの映画はその「考えさせられる」部分がなさすぎるので、単純に「ちょっとヒューマニズム寄りの娯楽映画」で終わっちゃってるのがもったいない。正直、すぐに忘れそう。その程度の話です。
全体の雰囲気は良かったし、役者陣もすごくいいメンバーが揃っていたので、やっぱりシナリオの残念感に尽きるかなぁ、と思いますね。もう一捻りあるだけで全然違ったと思うんですけどねぇ。
ネタバレさせないようにフワフワしたレビューになっちゃって申し訳ないんですが、まあ無難な流れで安心できる映画が観たいぞ、って時にはいいのではないかと。あんまり「イーストウッド」っていう看板は考えないほうがいいです。それに尽きるかな。
このシーンがイイ!
うーん、あんまりビシっと「ココだ!」っていうのはなかったんですが…。一つ挙げるならバーでのダンスのところかな?
ココが○
コレ、珍しく邦題がいいですね。ちなみに原題は「カーブが打てない」みたいな意味らしいです。
野球のくだりはもちろん、親子どっちも頑固で譲らない感じもかかってるんでしょう、コレはコレでキーと言えるタイトルなんですが、この「人生の特等席」っていうタイトルもなかなか味があっていいな、と。
ただ、このタイトルのせいで余計に「人生の終わりを迎えるアレコレ」みたいな想像をしちゃったのも確かなんですが。
ココが×
やっぱり結局はエンディングかなぁ…。あそこでセリフひとつ挟むだけでぜんっぜん違うと思うんですけどね。ネタバレになるのでどういう内容か書けないのが申し訳ないんですが。それがないせいで、すごーく軽くなっちゃった気がする。ま、そう感じたのは僕だけかもしれませんが。
MVA
クリント・イーストウッドは相変わらずな頑固ジジイ役で特に他作品との違いも見出だせず、正直相変わらずでしたね。
ジャスティン・ティンバーレイクも相変わらずな役ではありましたが、ハマってて結構良かった。
イヤな同僚のマシュー・リラードも捨てがたかったし、落ち着いたトーンで存在感のあるジョン・グッドマンの名演も光りましたが…! 今回は…!
エイミー・アダムス(ミッキー・ロベル役)
父親譲りの頑固者で野球マニアの敏腕弁護士。
エイミー・アダムスと言えばやっぱり「お姫様」なわけですが、今までのそういうイメージを覆す演技がすごく良かった。裸足で車に乗り込んだりとか、細かいところで「女らしくない」ポイントを抑え、彼女自身も今までのイメージとはちょっと違った役に気合が入ってたんじゃないかと勝手に推測。
おまけにかわいい。
歳とったなぁ、とは思いますが、でも歳相応のかわいさがあるし、芯が強そうな役柄からかキリッとした綺麗さも感じられて素晴らしい。ナイスキャスト。
割と「お姫様イメージ」故か頼りない感じの役の方が似合いそうな気がしてたんですが、こういう役の方が実は光るのかも、という気がしました。このエイミー・アダムスが観られたっていうのは結構「観てよかったポイント」かもしれません。