映画レビュー1120 『しあわせな人生の選択』
今回はまたネトフリ終了間際シリーズに戻ってーのでこちらの映画。
しあわせな人生の選択
セスク・ゲイ
セスク・ゲイ
トマス・アラガイ
リカルド・ダリン
ハビエル・カマラ
ドローレス・フォンシ
ニコ・コタ
トティ・ソレール
2015年9月24日 アルゼンチン
108分
スペイン・アルゼンチン
Netflix(PS4・TV)
淡々と語る大人のドラマ。
- 末期がんで余命幾ばくもない男のもとに、遠くから親友が訪ねてくる
- 4日間をともに過ごし、“旅立ち”の準備に立ち会う
- 何と言うことのない出来事が基本ながら、背景の重さを思うとじっくり見入ってしまうドラマ
- 語りすぎずに信頼を感じさせる関係性が素敵
あらすじ
概要からしてそりゃ良いだろうなと思っていた、ある意味ではズルい映画ですが、その通りに良い映画でした。ただ終盤ちょっと引っかかりはあって、そこが惜しかったかなぁという感じ。
ある日、トマス(ハビエル・カマラ)はカナダの自宅からスペイン・マドリードまで飛び、そこに住む親友のフリアン(リカルド・ダリン)の家を訪ねます。
フリアンは末期がんに侵されており、しかも延命治療をやめる決断をした後。いつまで生きているかわからない親友と“最後の”時間を過ごすべく、トマスは4日間の日程で会いに来たのでした。
主治医に話を聞きに行ったり、フリアンにとって共に暮す唯一の家族である愛犬・トルーマンの“その後”について相談をしたり、葬儀屋に行ったり。人生の幕引きを計画するフリアンに強く反対するでもなく寄り添うトマス。
二人の4日間はどのようなものになるのでしょうか。
二人の関係性の描き方が素晴らしい
あらすじからもわかる通り、とても地味で穏やかな日常を描いた映画…なんですが、その背景に横たわる末期がんと余命の短さが、あらゆるエピソードになんとも言えないほろ苦さを加えていて…非常に大人のお話でした。
形式上は一応フリアンが主人公だとは思いますが、物語の上ではそれに付き添い、なんなら振り回される感もあるトマスの視点が中心。「死にゆく者の最後の炎を見る」と言うよりは、「死にゆく者の覚悟を隣で見守る」映画になっています。
原題は「トルーマン」、つまりフリアンが飼っている犬の名前と言うことからもわかる通り、この犬の存在が非常に大きな物語になっていて、それ故愛犬家としてもいろいろ考えさせられる、感じさせられる物語になっていました。
変な話、トルーマンが小型犬だったらもっととんでもなく泣いていたかもしれません。まだ中型犬だからそこまで感情移入せずに済んだような気がする…。
ただ不安な人もいると思うので若干踏み込んだ話になりますが書いておくと、このトルーマン自身に不幸は起こりません。途中で死んじゃうとかはないのでそこはご安心ください。それがあったら多分つらすぎて観ていられない…。
物語全体的にも大きな事件は無いし、本当に毎日どこかで誰かが遭遇しているであろう些細な出来事が連なっているだけなんですが、しかし当人にとっては些細ではない重要な意味を持つ出来事になるのもまた当然なことで、その辺りの描き方が丁寧で繊細な映画だと思います。
またフリアンとトマスという親友二人のやり取りが、いかにも長年の親友らしい信頼感を感じさせるものだったのがとても良かったですね。
必要以上に説明はしないし、それに対して聞きもしない。おそらく二人の間にある空気でそれが伝わっているのがわかる。同時に、距離がある仲であれば言えないようなこともはっきり言い合う。親友だからこそ言える言葉を投げかけるし、それをしっかり飲み込む。
その二人の関係性の描き方がとても素晴らしくて、自分も同じ状況になったとき、親友に対してこれだけ信頼を持った対応ができるだろうか…と考えてしまうぐらいに深いつながりを感じました。
それなりに歳を取ってから響くであろう物語
やはりテーマがテーマなだけに、それなりに歳を取ってきた方が良さがわかる類の映画でしょう。まだ二十代でウェイウェイしている人たちにはイマイチ響かないかもしれません。
自分自身がフリアンのような立場になってもおかしくない年齢、もしくは親世代がフリアンに近い年代だと、物語が一気に現実味を帯びてきて心に響く物語になるのではないかなと思います。
とは言え若くてもこういう映画が好きな人にはきっちり染みる物語だとも思うので、興味があったらぜひ。今後の“生き方”について少しのヒントをくれる物語かもしれません。
このシーンがイイ!
一番良いシーンは誰が観ても良いしネタバレ的に書きたくないので置いといて、次点で挙げるならフリアンが過去の行いについてかつての友人に謝罪するシーン。
あそこにフリアンの生き方、美学が詰まっていてすごく良いシーンだなと思います。同時にそこにはきっと“死に方”も込められてたんだと思う。このまま死んだら自分に悪い、みたいな。そういう美学が透けて見えるのがすごく良かった。
ココが○
やっぱり死を見据えた人間の物語というのはグッと来ますね…。しかもことさらにそれを語るでもなく、設定としてあるだけで描かれるのは普通の日常、って言うのがね…。
もちろん余命短いからこその行動ばかりが描かれるものの、なんでも無いシーンでもそこに余命が見えるからこそ違った意味を帯びてくる辺りがやっぱりグッと来ます。
ココが×
終盤で一部「この話いるかな?」と思ったエピソードがあったんですが、多分それは僕がその意味に気付いていないだけのような気もするのでなんとも言えないところ。ただ普通に観ている分にはいらなかったんじゃないかなーと思ったんですよね。そこ。
MVA
スペイン・アルゼンチン映画と言えばリカルド・ダリンと勝手に思っているわけですが、やっぱりそれだけこの人はさすがにしっかり見せてくれて素晴らしかったです。
が、今回はこちらの方に。
ハビエル・カマラ(トマス役)
カナダからマドリードまで会いに来たフリアンの親友。
この人のフリアンを受け入れる器の大きさみたいなものがすごく良かったですね。当然、事が事なのでそうせざるを得ない面もあるとは思いますが、とは言えこんな友達がいたらそれは会いに来てくれたら嬉しいだろうなと思える、控えめな優しさに溢れた存在感が素敵でした。飄々としつつもね。