映画レビュー0541 『ローマに消えた男』

いつもチェックしている映画紹介コラムが3つほどあるんですが、内2つの記事で紹介されていたこちらの映画。

面白そうだなー三連休どうせ暇だし、ってことでちょっと遠征して新座まで行って観てまいりました。二日連続の劇場鑑賞です。

ちなみに上映開始にいた観客は僕一人、遅れて3人来て合計4人というとても寂しい状況での鑑賞。エンドロールに残っていたのも僕一人、ここまで貸切感が満載だったのは初めてだったかも…。

ローマに消えた男

Viva la libertà
監督
脚本
ロベルト・アンドー
原作
ロベルト・アンドー
出演
トニ・セルヴィッロ
ヴァレリア・ブルーニ・テデスキ
ミケーラ・チェスコン
音楽
公開
2013年2月14日 イタリア
上映時間
94分
製作国
イタリア
視聴環境
劇場(小さめスクリーン)

ローマに消えた男

イタリアの最大野党の書記長、エンリコ。党の支持率が低迷する中、その原因と見なされた彼はその重圧から失踪してしまう。困り果てた彼の腹心・アンドレアは、エンリコとは疎遠になっている双子の兄弟・ジョヴァンニをエンリコの替え玉として起用。ウィットとユーモアに富んだジョヴァンニの言葉は大フィーバーを巻き起こし、党の支持率も一気に回復。エンリコもかつての恋人のもとで別の仕事に就き、心の平穏を取り戻していくのだが…。

どうにも心躍らず…。

5.5

双子の替え玉物語。ストーリーとしては割とありがちのようですが、個人的にはこの手の話を観るのは初めてです。

悩み深く、ストレスの塊のような政治家・エンリコと、明るく闊達な哲学教授・ジョヴァンニが入れ替わり、それぞれがイキイキと“別人”としての人生を過ごすが…というお話。政治家という職業に向かい合っている“本物”がひたすら支持を下げるのとは対照的に、その立場に未練のない素人が繰り出す言葉に熱狂する民衆、となんとも皮肉で示唆に富んだストーリー。

結論から言えば、多分僕には難しすぎたのかな、という気がします。初めて劇場で寝そうになった(ギリギリ寝ませんでしたが)ぐらい、乗れなかった。入れ替わってお互いの人生について考える…というような描写もなく、深いようで浅い、なんとなく上滑りしているような物語に見えてしまい…。

さすがに支持率が低迷している野党のトップが、文字通り「別人」のようになったとは言え、そんな急激に救世主じみた熱狂的な支持を得るもんかね~、とちょっと醒めた目で観ていたんですが、この映画、僕の解釈ではリアルな舞台のファンタジーなのかな、と感じました。

なんか妙にシュールな感じがしたんですよね。ちょっと行き過ぎているというか、首相と裸足でダンスをしてみたり、さすがにそこまで「あの根暗野郎が変わって魅力的になってワーイ」みたいなのはちょっとリアリティがなさすぎて、おとぎ話感が強いなーと。

タネを知っている腹心が彼に心酔するのはよくわかるんですが、別人がなり変わってるのを知らない民衆や他の政治家が同じく惚れ込んでいく、っていうのはやっぱりファンタジーにしか思えず。

まあ、そういう細かい部分はどうでもいいんですが、ただ事前に見ていた情報では「明るい」とか「コミカル」とかのキーワードがあった割に、僕にはとてもそういう映画に感じられず、ただ重く抑圧された何かを感じる部分が多くて、なんというか…“裏切り”を予感させる雰囲気が強く感じられたんですよね。替え玉であるジョヴァンニが精神病から復帰直後だった、という背景も大きかったかもしれません。

今は楽しくなりきっているけど、どうせどっかで壊れるんじゃないのか…みたいな疑心暗鬼もあったし、何より楽しんでいる本人がどうも破滅に向かっているような雰囲気を漂わせてる気がして。

この辺は演者のうまさもあるんだろうと思います。「ただ楽しい」って感じじゃないんですよね。何か裏がありそうというか、腹に一物ありそうな感じがして。

それが当たったか外れたかはどうでもよくて、ただなんとなくそういう疑いの目で観続けた結果、最後の展開(捉え方にもよりますが、それも関係なく)に心動かされなかった感じがありました。なーんかモヤモヤしちゃって、「ううむ…」と唸って終了。

かと言って全然ダメな映画かというとそんなことはなくて、やっぱりどことなく「只者ではない」雰囲気を感じるんですよね。これはきっと良い映画だ、深いに違いない、って期待しながら観ているんだけど、でもやっぱりダメだわ乗れないわ、みたいな。

常に書いていますが、僕は自分が至らなかったとしてもつまらないものはつまらないとはっきり書きます。ただ、今回はそうやって断罪するには少し悔しい感じがするんですよね。わからなかった自分がダメだな、って感じるぐらい、映画としての力を感じるというか。

オチについても、これまたありがちで楽な方に逃げたような気がしたんですが、でもなーんか胸騒ぎがするような終わり方で、すぐに帰りの車中でネタバレ検索してみたり。でもあんまり情報が無くて知りたい話も上がってないからよりモヤモヤ、みたいな。

なんとも評価の難しい映画でした。寝そうになったし、終わりまで観てもすっきりしないし、もっと点数低くてもいいかなと思いますが、でもやっぱりちょっと違う、雰囲気のある映画っていうのが悩ましい。

地頭の良し悪しは置いといて、それなりに映画を観てきているはずの僕でもそうなので、これはかなり人を選ぶ映画のような気がします。

もしかしたら、イタリア人にはバチッとハマる何かがあるのかもしれないし、文化の違いなのかもしれませんが、いずれにせよ誰かにオススメしたくなるような映画ではなかったのが残念。

レビューもモヤモヤ。映画って難しい。

このシーンがイイ!

プールでのシーンかなぁ。わざとらしいっちゃわざとらしいですが、精神状態の表現が印象的。

反面、ジョヴァンニの演説はどれもやっぱり上滑りしている感じがして、もっと心に訴えてきて欲しかったな…というのが正直なところ。あそこでもっとグッと来る感じだとまたちょっと違ったのになぁ、と思います。

ココが○

ライティングとかすごく印象的で、地味ながら絵に力のある映画のような気がしないでもない。

ココが×

もっと人物の背景とか内面がわかるような内容があってもよかったかな、と。結局あまり登場人物に感情移入できない感じが上滑り感につながっていたのかもしれません。

MVA

腹心の人も良かったんですが、まあこの映画はこの人でしょう。

トニ・セルヴィッロ(エンリコ・オリヴェーリ/ジョヴァンニ・エルナーニ役)

双子の二役。

対照的な性格なので同一人物に見えない…のは当たり前だと思うし、僕がすごいなと思ったのはそこではなく、上にも書いたようになんか危うい雰囲気を醸し出している点。

劇中でも「狂人」と言われていますが、そういう感じが見て取れるんですよね。闊達で余裕しゃくしゃくのように見えて、どっか危なっかしい雰囲気。憑依芸人のそれを見る時と近い感じがしました。これはこの人の素ではないな、と覗かせる感じ。

ちなみにこの方、イタリアでは「出ているだけで名作」と言われるほど、大層有名な俳優さんらしいです。インドにおける「きっと、うまくいく」のアーミル・カーンみたいな感じでしょうか。なお、アミール・カーンというプロボクサーもいて紛らわしいので要注意です。

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