映画レビュー1199 『マリア・レッサ:フィリピン 強権国家との闘い』
今回はJAIHOから、ドキュメンタリーです。
ドキュメンタリーはつい観たくなっちゃうんですが、しかし観ると大体眠くなるという矛盾を抱えております。
マリア・レッサ:フィリピン 強権国家との闘い
マルク・ビーゼ
マルク・ビーゼ
マリア・レッサ
ロドリコ・ドゥテルテ
チャイ・ホフリーナ
アントニオ・トリリャネス
ピア・ラナーダ
ハンネス・ビーバー
2020年10月30日 イギリス・アメリカ
88分
ドイツ
JAIHO(Fire TV Stick・TV)
権力と戦うジャーナリズムのお手本。
- 独裁色を強めるドゥテルテ政権を批判するメディアを追ったドキュメンタリー
- タイム誌の表紙を飾ったこともある女性ジャーナリスト、マリア・レッサが代表のメディアが中心
- 公然と行われる政権側の圧力も激しく、マリアは逮捕もされる
- しかしそれでも戦い続ける彼女たちを追うジャーナリストドキュメンタリーのお手本
あらすじ
またも懲りずに昼食後に「ヤバいかもなぁ…」と思いつつ観たら案の定眠くなってかなり寝たり戻したり起きたりを繰り返したいい加減な鑑賞で大変申し訳無いんですが、ただ内容に価値があることは間違いがないのでご紹介します。厚かましくも。
フィリピンでは2016年の選挙によってロドリゴ・ドゥテルテが大統領に就任。
彼は選挙前から麻薬撲滅のため「何人も殺してきた」ことを公言しており、「超法規的殺人指令」と呼ばれる殺人を肯定する政策を実行します。
その人権を無視した政策を批判的に伝えるメディア「ラップラー」を中心に、ドゥテルテ大統領と戦うジャーナリズムの姿を追います。
メディア企業 vs 現職大統領
例によって僕は知らない方だったんですが、ジャーナリズム界隈では有名な方らしいマリア・レッサがCEOを務めるメディア企業「ラップラー」を舞台に、強権的な大統領と対峙するメディアの姿を描いたドキュメンタリーです。
タイトルは「マリア・レッサ」が表に出ていますが、確かに彼女は“主役級”ではあるものの、彼女一人の戦いではなくあくまでラップラーと政権との戦いがメインとなっています。
ドゥテルテ大統領が強権的で「フィリピンのトランプ」と呼ばれるぐらい問題のある政治家であることは知っていましたが、実際にこの映画を観ると想像以上にひどく、文字通り命の危険を感じてもおかしくないぐらいに常識の通じない相手感にゾッとします。
もちろん彼は「麻薬に関係した場合」と範囲を区切ってはいるものの、とは言え人権無視で殺人も辞さない政策を堂々と実行していく人物なだけに裏で命を狙われてもおかしくない怖さがあり、それ故彼女たちの“戦い”がいかに大変で“強さ”を必要とするものなのか想像に難くありません。
ぶっちゃけ最近では日本でもメディアへの圧力はよく耳にする話ではありますが、裏でコソコソやる本邦とは違い、普通に公の記者会見中に「マイクは使うな」「証拠を持ってこい」と他の記者たちの目前で、さも見せしめのように凄んで見せるドゥテルテの姿はなかなか衝撃的でした。
まあトランプも似たようなことはやっていただけに、やっぱり「フィリピンのトランプ」も伊達ではないな、と。
ただドゥテルテの方がさらに強権的で独裁感が強く、おまけに上記の通り(麻薬絡み限定とは言え)殺人も辞さない政権運営を行っている人物なだけに、その取材をし、そして権力監視を担おうとする彼らへのプレッシャーたるや想像を絶するものがあるでしょう。
さすがにラップラーが自分と対峙している存在である以上、目障りでも命を奪えば国際世論からも相当な非難を受けることは目に見えているだけにそのような実力行使には出ない(逆にそれでも殺しちゃうロシアの異様さもよくわかる)ものの、しかしマリアは逮捕されもするわけで…非常にわかりやすい「権力 vs 監視メディア」の戦いが、実際に最近の出来事として観られるドキュメンタリーというのはなかなか貴重ではないかと思います。
戦うメディアがいる羨ましさ
ただまあ…メディアや政治に対する興味が人一倍強い僕ですら(昼食後とは言え)寝てしまうぐらいなので、かなり客を選ぶ映画だろうとは思います。もっともドキュメンタリーなんてみんなそうではありますけどね…。興味があるからこそ観るわけで。
舞台も東南アジアなので(日本と馴染みのある欧米と比べると)一般的には少し興味の外にある人が多いであろう気もするし、その意味でもこれを観ようと思える人はなかなか限られそうです。よくこんな映画を持ってきてくれたな、JAIHO…。
それだけに(興味があった)僕としてはありがたいんですが、でも寝ちゃってごめんねと。ありがとう、そしてごめんなさいですよ。サンキュー&ソーリー。
一応最後に結論めいたことを書くとすれば、通して観てやっぱり一番感じたのは「これだけ強く出る権力者に対してひるまず戦い続ける意志を持ったメディアが存在する」ことの羨ましさ、これに尽きます。
日本の(マス)メディアなんて腑抜け&腰抜けですからね。もう。これは例外なく。小さいメディアにはその矜持があるところもありますが、大手は新聞社だろうがテレビだろうが100%腑抜けです。これはもう断言していいと思います。
いろんな柵があり、それによって(上の方が)まったく権力監視の意志を持たない、なんならすり寄ろうとしかしない。そんなトップとマリアを比べれば、自ずとどちらが国民にとって有益な存在かは考えるまでもなくわかります。
そんな日本の現状を考えると暗い気持ちにしかなりませんが、こういう人たちがいることを一部の人たちでも知ることで少しずつ社会を変えていくしかないんでしょうね。その道程の長さもまた、暗い気持ちになるんですけどね…。
このシーンがイイ!
クライマックスでラップラーの社員たちが原題の「We Hold the Line」を言うんですが、ここはしびれましたね。その意味といい覚悟といい、本当に素晴らしい。
ココが○
悲しい話ですが日本のメディアに慣れた身としては、ここまで戦えるメディアがあるんだと言う事実そのものに感動してしまう部分がありました。メディアはそれが当たり前なはずなんですが、あまりにも日本のメディアはその理念を失いすぎてしまったので…。
ココが×
上に書いた通り、興味の対象としてはなかなかニッチな映画だと思います。ただそれはドキュメンタリーとしてはある意味当然なのでマイナスと言うわけではないんですが。それなりに(面白さを感じるには)人を選ぶでしょう。
MVA
ドキュメンタリーなので該当者なしでもいいんですが、やっぱりせっかくなのでこの方に。
マリア・レッサ(本人)
まあタイトルにもなっているぐらいなので特に意外性もなく。
ちょっとジェンダー的に問題発言かもしれませんが、こういう権力に戦える胆力のある人物って大体女性な気がするんですよね。あんまり男性でここまで頑張れる人っていない気がして、そこもまたいろいろと考えさせられる部分がありました。(男性は異性問題で落ちていく人も多いし)
そして仮に女性の方が適任だとした場合、今度は女性がなかなか上に上がれない日本社会の要因もあるだけに、「日本版ラップラー」の実現には想像以上に時間がかかりそうな気がして、そこがまた気が滅入るし羨ましくもありました。
やっぱり高齢男性で社会を動かしていく国の姿自体がかなり問題だなと最近よく思いますね。同じ男性でも若ければ多少は違うんだろうと思うんですが…。となると政治の参入障壁やらなにやらもいろいろ出てきちゃうし、問題を上げればキリがないのでこの辺にしましょう…。
良い映画なんですが、現状の日本と比べると暗くなる面ばっかりだなと落ち込む鑑賞でしたとさ…。