映画レビュー1028 『はじめてのおもてなし』
この日はお盆休み最終日だったんですが、いつもの通りネトフリ終了間際シリーズからチョイス。評判も良さげだったので。
はじめてのおもてなし
ジーモン・ファーフーフェン
ジーモン・ファーフーフェン
センタ・バーガー
ハイナー・ラウターバッハ
フロリアン・ダーヴィト・フィッツ
パリーナ・ロジンスキー
エリアス・エンバレク
エリック・カボンゴ
ウーヴェ・オクセンクネヒト
ウルリケ・クリーナー
アイシ・グルプ
マルノス・ホーマン
ゲイリー・ゴー
2016年11月3日 ドイツ
116分
ドイツ
Netflix(PS4・TV)

予定調和的なものの、込められた問題に価値がある。
- 順調なようで喧嘩も多い普通の家族が難民を受け入れることに
- 展開としては予想通りで普通
- 難民問題最前線にいるドイツだからこそ描けるし価値がある
- 程よい軽さで観やすいのも◎
あらすじ
問題の多い家族が(当然反対意見がありつつも)難民を受け入れることで少しずつ家族としての結束を取り戻していくヒューマン・コメディ。
この字面から読み取れる印象そのままで大きな驚きもなく至ってわかりやすいありがちストーリーではありますが、ただそこに価値があるのではないかと思いつつまずはご説明。
舞台はドイツのハートマン一家。現在家に暮らすのは大黒柱である医師のリヒャルトとその妻アンゲリカ。夫婦仲はあまり良くはないですがそこまで悪いわけでもなく、長年連れ添った夫婦としては割とノーマルっぽい感じ。
夫婦には二人の子どもがおり、兄はワーカホリックの弁護士・フィリップ。何やら中国絡みで大きな仕事の成約寸前のようでかなり忙しそう。既婚者ですがすでに妻とは別居(離婚?)していて、一人息子のバスティはヒップホップにハマっているために言葉遣いがかなりファックです。
妹は“万年学生”ゾフィ。大学生かーと思って観ていたら31歳だそうで、自分探しのために延々と専攻を変えては学校に通う日々です。ちなみに試験が近い模様。未婚。変なストーカーに付きまとわれています。
序盤になんやかんやありつつ突如として「難民を受け入れる!」とアンゲリカが表明、当然のように夫のリヒャルトや息子のフィリップは反対しますが、結局受け入れる方向で面接フェーズへ。(難民受け入れって面接するのね)
やがて受け入れを決めた青年はナイジェリア出身のディアロ。当然のように(たまに)差別的な扱いも受けますが、しかし実直でフレンドリーな彼に周りも徐々に変化していき…あとはご覧ください。
綺麗事でも作れるだけマシ
改めて書きますが、全体的には「新キャラ参戦によって家族がまとまる」至ってよくあるパターンで、本当に意外性のない物語ではあります。感想としては「まあそうだよね」という内容で、際立って上手い部分もないし、本当に申し訳ないですが「普通」の映画だなと思います。
ただ…「難民問題を少し軽めのドラマとしてドイツが描く」こと自体の価値は計り知れないものがあるのではないかなと。
言うまでもなくドイツはEUで…というよりおそらく世界で最も率先して難民を受け入れている先進国なので、当然国民の間での難民問題への意識も強いはずです。それはつまり、受け入れ許容派(この映画における女性陣)と、受け入れ反対派(同男性陣)の軋轢が大きいんだろうと思うんですよ。
そういう社会情勢がある中で、この映画のように「少し軽めでとっつきやすい」ドラマとして難民問題を描き、当事者として意識を持ってもらう、想像力を持ってもらうことの意義は間違いなくとても大きいはずです。
ご存知の通り、ドイツと違って日本は難民受け入れに先進国中最も消極的で、かつ難民申請者に対する入管の差別的・暴力的な扱いも問題視されつつ国内ではあまりその話が取り沙汰されないという、この問題に関しては世界でも有数のひどい国なので、もうこの映画で描かれる“綺麗事”すら成立しない、入り口にすら立っていない状況なんですよね。
それがもう悲しくて悔しくて、なんでこういう「いい人面」すらできない国になってしまったんだろうと腹立たしさすら感じました。
早い話が「プロパガンダ臭のする映画」なんですが、ただそのプロパガンダは間違いなく融和に役立つものであるし、ハナから排他的な日本とはまるで違う世界なのですごく羨ましいんですよね。こういう話を描けること自体が。
排他的に考えれば「テロの危険性が」云々、という話になるんでしょうが、ぶっちゃけそれは国籍・人種問わず(それこそ日本人だろうと)テロを起こす人は起こすわけで、疑いだしたらキリがないし、そこをスタートにしたら何も進まないんですよね。
でも(まさにこの映画におけるディアロのように)迫害を受けている人たちにとっては急を要する問題なわけで、やはりこの映画のように紆余曲折ありつつ“受け入れる”寛容さが社会には必要なのではないか、という問題はどの国にも存在するし考えなければいけないことなんだろうと思います。
日本のように「基本お断り」であれば確かに危険性も低いんでしょうが、ただ日本は世界で最も高齢化が進んでいる社会でもあるので、「来るな」と言い続けていればそのうち滅びを迎えるのは間違いありません。
「移民は来てほしくないけど労働力は欲しい」から技能実習生みたいないびつな制度でお茶を濁し、やがてどの国からも「あの国は行きたくない」と言われるようなことをやっちゃっているわけで、今から100年後のドイツと日本を比べると、おそらく相当ひどい差がついてしまっているのではないか…とこの映画を観てなおさら思いました。
どうせなら治安も良くて技術力もある(と言われている)わけだし、防犯の方に力を入れて人を受け入れる方向にした方が未来があるような気もするんですが…まあこれは難しい問題だし本題からは逸れるので置いておきましょう。ただ軽い映画でありつつも、思いの外そういう「国のかたち」について思いを馳せることになる社会派の要素が色濃い映画でもあるなと思います。
できるだけ興味のない人こそ観て欲しい
まあ肝心の本編については本当に特に変わったこともないのでこれ以上書くことも無いんですけどね。
普通のヒューマン・コメディとして観ればさして光るものもないお話だと思いますが、そんなわけで「社会派」としての側面が強いだけに、そっち方向に興味がある人にはなかなか良い映画だと思います。
もっとも「興味がある」から観る、では社会を変えるには意味が薄いのも事実で、本来であればこういう映画を(興味を持っていない)たくさんの人が観ることで社会意識が変わっていくのが理想的なんでしょう。それもまためちゃくちゃ難しいことですけどね…。ドイツのヒューマン・コメディなんて映画好き以外は手に取らないでしょうからね。
願わくばミーハーファンも巻き込めるように日本でこの手のテーマを扱う“軽めの”映画があれば…と思いますが、これまた上記の通り「日本は入り口にすら立っていない」状況なのでそれも難しく、一体どこから手を付ければ社会が良くなるのか…途方に暮れるような思いもします。
僕のような一般人がアレコレ考えたところで…って話でもあるんですが、ただ一般人に浸透しないと社会は変わらないのも事実なので、できるだけいろんな人が自分に近いこととして考えるようになれば良いなと思いますね。綺麗事かもしれませんが。その綺麗事すら描けない社会なんて悲しすぎますよ。
このシーンがイイ!
バスティのヒップホップ撮影に楽しそうに混ざるディアロが良いですね。子どもは偏見を持たない感じがまた。
あとエンディングがなかなか爽やかで良かったです。
ココが○
なかなか大事な重い問題を描いていると思いますが、それをコメディ仕立てで観やすくしているのはとても大きな価値があると思います。そしてそれをドイツでやっているということ。
ココが×
物語としては本当に平凡なので、終始予想通りだしあまり期待しすぎないほうが良いのは確か。
MVA
何せ知らない役者さんばかりで迷いますが…この人かな。
フロリアン・ダーヴィト・フィッツ(フィリップ・ハートマン役)
ワーカホリックでやや保守的な一家の兄。
一番メンタルも危ういし息子も難しい時期で大変だしでかなり振れ幅が大きい役だったと思いますが、きっちりリアルに演じてくれたと思います。
妹さんもなかなかかわいかったし、一家みんな良かったですね。さすがに。


