映画レビュー1520 『エベレスト 3D』

例によってアマプラ終了間際シリーズです。
アマプラねー。再生開始すると「このあと、広告とともにお楽しみください」って入れてくるの、かなり煽りスキルが高いなと思います。
抗議でやめるつもりだったのに…事情により使わされるの悔しい。でもネトフリより観たい映画多いんですよね、なにげに。(ネトフリがオリジナル推しすぎるせいとも言える)

エベレスト 3D

Everest

想像を絶する過酷さ、そのリアリティに息を呑む。

8.5
1996年に起きた有名な大量遭難事故の映画化
  • 実際に起こった事故を元にした2度目の映画化
  • エベレストの過酷さが痛いほど伝わってくるリアルな映像
  • 一部脚色はあるものの、概ね起こった出来事に忠実な模様
  • 意外と豪華キャストなのも◎

あらすじ

あんまり期待しないで観たんですが、だから逆に良かったのか…思いの外“当たり”でした。すごく良かったですね。

1996年、当時の七大陸最高峰登頂最年少記録を持つ著名な登山家であるロブ・ホール(ジェイソン・クラーク)が設立した「アドベンチャー・コンサルタンツ社」によるエベレスト登山者公募隊の募集が行われ、ロブ自身を隊長としたチームを編成、入念な準備のもとにエベレスト登山に出発します。
メンバーは医者のベック(ジョシュ・ブローリン)、前年失敗に終わりリベンジを果たそうと再度参加した郵便局員のダグ(ジョン・ホークス)、七大陸最高峰のうちエベレストを除く6つの登頂に成功した難波(森尚子)や、取材のため同行するジャーナリストのジョン・クラカワー(マイケル・ケリー)等の面々に加え、もちろんシェルパや他の登山ガイドたちも加わる大所帯です。
当時はいわゆる「お金をもらってガイドが山頂まで引率する」商業公募隊が盛んになってきていた時期で、アドベンチャー・コンサルタンツ隊以外にもロブのライバルで友人のスコット・フィッシャー(ジェイク・ジレンホール)率いるマウンテン・マッドネス隊や、南アフリカ隊に台湾隊も加わって「どこが先に登るのか」と若干揉めたりするぐらいには人数過多の様相を呈しております。
小さなトラブルや前フリ的な嫌な匂いを漂わせる“前哨戦”を経て、いざ頂上への登頂を目指すその時にもさらなるトラブルに見舞われ、歴史に残る大惨事を招くことになりますが…あとはご覧ください。

心情として理解できるつらさ

若干ネタバレではあるんですが有名な事故でもあるし、そこを伏せると書くこと無くなっちゃう…というか「実はみんな無事に下山しました」では映画にならないわけで、「遭難したよ」という事実については書いちゃうことを許してねと先にお断り。
でももうね、オープニングで「妻が妊娠中、必ず生きて帰るよとお別れ」の時点でフラグが立ちすぎてて誰が観ても開始数分で「あ、死ぬんだ」って思いますよ。実際。有名な事故=基本的に結果が知られているとは言え、あんなドベタなフラグ立てないでほしい。本当のところ彼がどうなるかは一応言及しませんが…。
一方でこの映画を観る上では遭難したこと自体を書いてもそんなに問題がないと思えるぐらい、結末(遭難)以外の描写が非常によく出来ている映画なので、要は「結果を知ってから観ても問題がない、むしろ誰もが知っている上で観ることを想定している」映画なのではないかなと思います。
まずとにかく映像が見事。壮観この上無いです。これは劇場で観たかったなぁと言いつつ邦題の通り「3D」なのでだったらいいや感。気付いたら廃れてましたね、3D映画。良かったよホント…。
時期的に3D映画最盛期の公開だと思われるだけにタイトルにもドドンと「3D!」とドヤ顔感漂わせつつ入れ込むこのセンス。この邦題を考えた人はマジで一生つまらない映画を観させられる呪いにかかってほしい。どう考えても「エベレスト 3D」はねーだろ…。
一応アマプラでは「エベレスト」表記だけだったんですが、このクソダサセンスを後世に伝えていくためにもきちんと公開当時のタイトルで表記していきたい所存です。

話を戻しましょう。
そんなわけで映像が見事すぎるだけに「多分低めの雪山で撮影して後ろ合成とかなんだろうな」と思って観ていたんですが、実は実際にエベレストの4880m地点で撮影したりもしたそうで、その事実だけでも相当な驚きです。富士山軽く越えてますからね。
もちろん環境的に(山頂と比べればまだ)行きやすい&過ごしやすい面もあるとは思いますが、それでもスタッフが高山病にかかったりもあったらしいし当然物資も限られる中で映画の撮影をするというのはなかなかの狂気の沙汰。その狂いっぷりがしっかり映像に反映されているのか、非常に気合いも力強さも感じる素晴らしい映像でした。役者陣もマジで寒い中撮影したらしいので、もう演技じゃないぐらいリアルという。すごい。

そして同時に描かれる人間ドラマの部分もとても良かった。
実はジョン・ホークス見たさにチョイスした映画なんですが、思いの外主要メンバーでびっくりしつつ、その他の面々もなかなかいい役者陣が揃っていてキャスティングの上でも見どころが多い映画でしょう。
しかし主人公を演じるジェイソン・クラーク、もうちょっと売れると思ったんですがイマイチパッとしないですね…この映画でも良かったんだけどなぁ。今となってはもう主役張るようなポジションの役者じゃなさそうだし…。
お目当てのジョン・ホークスもメインの脇役と言っていいぐらいの良ポジでしたが、彼もまたその後あまりパッとしないところを見ると役者的な端境期を収めた貴重な一本…かもしれません。(適当な発言)
このあとも順当に活躍し続けているジョシュブやらジェイクやらの凄さよ…。

ネット上では「登山家が嫌いになる」とか「ただのわがままじゃねーか」とか結構散々なネガティブ評(作品の評価と混ぜて語ることでもないと思うんだけど)が目についたんですが、その気持ちも重々理解しつつも、しかし大金(Wikipediaによると1人65000ドルらしいので、当時のレートはわかりませんが1ドル100円だったとしても650万円)払って眼の前に頂上があるのに「戻ります」とはなかなか言えないのもよーくわかるじゃないですか。同じ愚かな人類として。
結果的にそれが自身のみならず他のメンバーも危険に晒す行為であることは本人もある程度理解していたとしても、そもそも「人間が生きられる環境ではない」エベレスト山頂付近で、お金含めた諸々の問題を踏まえつつ冷静な判断をしろと言われてもまず無理だと思うんですよ。思考能力が奪われてるだろうし。疲労もあるし。文字通りの極限状態なわけで。
その上「あと少し」だと思えば、それはもう引き返せないのは人間として当たり前ではないかなと思います。
結果を知っていれば「だからこうなるんだぞ」なんですが、それは文字通り結果論だしその時にはわからない…というか「まだこんなに明るいし帰れるだろう」と期待してしまうのもまた人間だし、いわゆる正常性バイアスもあるのであんまりそこの判断については心情的に責められないなと思うんですよ。
結局、隊長のロブがしっかり線引をして「ここまでで終わり、これ以降は絶対にダメ」とやるしかなかったんだと思うし、それが出来なかった以上やはりロブの責任ということになるんでしょう。
一方で映画でも若干触れられていたと思いますが「昨年登頂者を出せなかった」事情もあったようで、つまり「2年連続登頂失敗」というのは商売上も避けたい…というのもまた心情的に十分理解できるわけですよ。
そもそも「エベレスト登山を商売にするのが間違い」とか「商業公募隊けしからん」とかそういう論点ももちろんあると思うしそれもまた十分理解できる…というかどちらかと言うと僕もそっち寄り(お金を払えばド素人でも登れる登山に意味があるのか派)なんですが、それはそれとしてスタート以前の話なのでこの事故についての判断基準としては違うんじゃないかなとも思います。
結局、そんな様々な要素が複雑に絡み合って心情的に“抗えない”であろう現実を選択した結果がこの事故だった、ということなのではないでしょうか。
そう思うとこれがまたね…「バカだなぁ」と思いつつもやっぱりちょっと同情しちゃうんですよ。自分でも多分引き返せなかったな、って。お金のみならず、現地入りしてからも月単位で苦難を乗り越えてきていざ「戻れ」はなかなか「ハイわかりました」とは行かないでしょう。
「結果こうなります」って未来を見せてもらっていれば100%の人が引き返せるとは思います。でもそうじゃないからこそこうなる、というところに無情さと切なさ、そして人間臭さを強く感じました。
そしてそれらをしっかり考えさせてくれる物語の構成が素晴らしい、というのがこの作品の映画としてのポイントだと思います。

生々しい力作

もう本当に雪山の過酷さがよく分かる作りで、人間ドラマ含めて非常に力作なので思っていたよりもかなり良い映画でしたね。
「世界一高い場所」に登れるロマンが魅力的なのもすごくわかりますが、一方でやはり人間の行く場所じゃないよなと思わされる、“怖さ”を伝える意味でも良く出来ていると思います。
考えれば当たり前の話なんですが、そもそも登頂付近で「救助してくれ」とお願いしたところですごくフレッシュな人間がダッシュで来てくれるわけじゃないんですよね。
同じく疲弊した人間がなんとか力を振り絞って来るわけで、当然スピードも遅いしその間も刻一刻と日没=死の時刻が迫ってきてしまうという。
いやはや…厳しい。いろんな厳しさを目の当たりにする、こっちの指先まで冷えそうなぐらいに生々しい映画でした。
観て良かったですね、これは。

このシーンがイイ!

とにかく絶景が素晴らしいんですが、特に「ヒラリー・ステップ」辺りから山頂までのシーンは緊張感もあってすごく良かったですね。どうやって撮ったんだろ…。

ココが○

映像の迫力、山の怖さが伝わる作り、人間ドラマ。どれも良かったです。

ココが×

何と言っても邦題。大方お偉いさんが「エベレストだけじゃ検索しても引っかからないだろ!? 3Dをつけろよ3Dをタコ助が!」とか言ってそうだなと思いましたが完全に妄想です。
ぜひ邦題に「3D」をつけた(つけさせた)人にはエベレスト単独無酸素登頂に挑んで頂きたいと思います。

MVA

いい役者さんたちがいっぱいで良かったんですが…この人かなぁ。

ジェイソン・クラーク(ロブ・ホール役)

主人公のガイド。
ぶっちゃけ誰でもいいぐらい皆さん良かったんですが、主役としてしっかり見せてくれたねということで。

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