映画レビュー1519 『ワース 命の値段』
今回より平常運転、またも繰り返されるアマプラ配信終了間際シリーズ。
社会派映画は気になるわよね、やっぱりということで。
ワース 命の値段
サラ・コランジェロ
『What Is Life Worth?』
ケネス・ファインバーグ
マイケル・キートン
スタンリー・トゥッチ
エイミー・ライアン
テイト・ドノヴァン
シュノリ・ラマナタン
ローラ・ベナンティ
ニコ・マーリー
2021年9月3日 アメリカ
118分
アメリカ
Amazonプライム・ビデオ(Fire TV Stick・TV)

もう少し見せ場がほしくて少々惜しい。
- 誰も手を付けたがらない汚れ仕事を無償で引き受けるも反発が多くうまく行かない
- “情”は理解しつつも際限がなくなるので杓子定規に対応しようとするが申請者が少なく頓挫
- 実在する主人公が出版した回想録を元に映画化された実話系社会派映画
- 補償関係に関わる人たちにはぜひ一度観てほしい内容
あらすじ
予想通りに良かったし勉強にもなったんですが、いかんせん映画として考えると少し物足りないかなといったところ。
9.11同時多発テロの発生後、アメリカ政府は被害者や遺族による提訴が殺到することを懸念し、補償のための基金「9.11被害者補償基金プログラム」を立ち上げ「提訴の放棄と引き換えに賠償金を払う」法案を可決。
その基金の責任者となる特別管財人には、調停や紛争解決を専門とする著名な弁護士、ケネス・ファインバーグ(マイケル・キートン)に白羽が立ちまして、「誰も手を付けたがらない汚れ仕事」とわかりつつも無償で引き受けた彼は手始めに支払額の計算式を定め、その内容について関係者を集め説明会を開くもいきなり多数の罵声を浴びせられ頓挫。
その後もその計算式にこだわる彼ですが申請する人はごく僅かであり、一方で「彼の計算式は間違っている」と訴える被害者遺族のチャールズ・ウルフ(スタンリー・トゥッチ)は被害者とその遺族から支持されるリーダー的存在になっていきます。
徐々に迫る申請期限ですが、いまだ申請者は少ないまま。
このままでは政府が当初懸念していた大量の訴訟が発生しかねない状態の中、形勢逆転はなるんでしょうか。
無償で無理ゲーやらされる
説明不要の9.11…と思ったんですがもう知らなくてもおかしくない世代もいるんですよね。時の流れ、恐ろしすぎるぜ…。もう24年も前の話なんですね、9.11。
とは言え説明も野暮ったいのでまったく知らないよ、という方は別途調べて頂くとして、要は「国内に責任のないテロ事件の賠償をどうするか」という話が発端で、そりゃあ難しいに決まってるわな、という案件。誰も手を付けたがらないのも頷けます。普通に考えて損しかない。
おまけに最初の説明会のときに言われることですが、「株を右から左に流してるだけの人間とうちの消防士の息子の命が同じ値段だと思ってるのか!?」とかすごい反発を食らうわけですよ。で、前者のほうが圧倒的に高給取りだったりするので、「収入から算出する賠償額」とすると比較にならないぐらい高額になってしまうわけです。
反発する人の気持ちもよーくわかる一方で、職業の貴賎を判定基準になんかできっこないのも事実なだけに…もう明らかに無理ゲーというか、大変な業務であることが即座に理解できると思います。しかもこっちは無償でやってんだよ、みたいな。(当然被害者側はそういう事情を知らない)
とは言え枠をはめてなんら事情を考慮しない機械的な対応をしてしまうと余計に反発は高まってしまい、結果申請者が少ない=基金自体の意味がなくなってしまう自体になりかねない、というお話。
そこをどう逆転していくのか…という、補償関係のちょっと気分も沈みがちな社会派映画でありながらちょっとした(あまりそぐわない言い方ですが)サクセスストーリー的な要素を含んでいるのがこの話の面白いところなんだと思います。
が、その辺の描写がいまいち足りてないというか上手くないというか。
結局「対人間である以上人間らしい対応をしないと」的な感じにはなるんですが、被害者個々の事情を聞いて心情的に共感&同情を誘う作りになっている一方で、見せ場的に明らかに「ここ」とわかるようなピークのタイミングもなく急に展開していくので、なんというか最後の方で急いで雑になったなみたいな印象の映画でした。
主要な脇役なのに何をしているのかよくわからないようなキャラクターも見受けられるし、そこそこ長いスパン(2年ぐらい)を追っていくからか、提示された問題点を改善することもなく一気に数か月進んで「あれどうなったのさ」みたいなことも結構あって、組み立て方も結構微妙かなという気がしました。
「補償は補償として進めていく必要がある、でも被害者側は精神的にそんな性急に進められなかったりもするし個々の事情はそれぞれ違って大変」とその辺りしっかり描いてはいるんですが、物語的にピークが弱いので流されるまま観ていたら急に終わっていって物足りない、みたいな。
ただこれは実在の人物の回想録を元にしているだけに、あんまりヘタな脚色入れられないよなみたいな事情もあるんだろうと思うんですよね。
もっと映画的にピークを、とか勝手な客(おれだよ)は言いますが、実際にはなかった劇的な物語を盛り込んだところでウソじゃねーかと糾弾されかねないし、ましてやテーマがテーマなのであんまりそういうものを盛り込みづらいのもあるだろうし。人の生死に関わることでなければある程度は許されるとは思うんですが。
そういう意味ではテーマとして最初から難しい、センシティブなものではあるので、これ以上に「盛り上げて」と言われるのもしんどいのはあるかもしれません。
この手の映画としてはもう一つ
そんな感じでこの手の社会派映画は大体良く出来ていて面白いだけにその意味ではもう一つでしたが、話としては知って良かった内容なので損した感じはありません。観て良かったです。
戦争なんかでもよく言われるように、あまりにも被害が大きすぎると被害者を人間ではなく数字で捉えてしまって個々の存在に目を向けにくくなる構造を非常に意識させられる話でした。
当然ですが亡くなった方々にはそれぞれ普通の日常があったわけですが、それが突如(しかも大量に)絶たれてしまったことの無情さを改めて感じますね…。
かと言っていちいち取り合っていたら時間的にも心身的にも対応しきれないのも間違いないところだし、やっぱり考えれば考えるほど難しい仕事に取り組んでいることがわかります。
自分が主人公のような立場になることは一生ないとは思いますが、いろいろ学びのある内容だったと思います。
っていうか自分だったら絶対引き受けないだろうな…と思うので、そもそも引き受けてる時点で偉いんですけどね、主人公は。とは言えそんな事情は知る由もない被害者側も責められないだけに、やっぱり難しい仕事ですね…。
このシーンがイイ!
やっぱり被害者遺族たちの訴えを聞くシーンはこっちも神妙な面持ちで聞いちゃいますね…。しんどいったらなかった。
ココが○
こういう事業があったこと自体、知ることが出来て良かったです。事件自体が大きすぎてその後処理にまで目を向けた記憶がないんですよね。
ココが×
やっぱり映画的な旨味に欠けるところでしょうか。特に最後の展開があっけなさすぎて、その詳細をもうちょっと上手く伝えてほしかった。
MVA
皆さん実力派といった感じで良かったですが、この人かなぁ。
スタンリー・トゥッチ(チャールズ・ウルフ役)
被害者のリーダー的存在。珍しく髪の毛がある役です。
まあこの人はいつも素晴らしいお仕事をなさるので特に言うこともなく、今回もまた見事でした。
スタンリー・トゥッチも割と「この人出てるなら良い映画だろうな」と期待させる役者さんですね。
「エレクトリック・ステイト」はもう忘れました。


