映画レビュー1573 『希望の街』
U-NEXTの配信終了近いものをチラチラ眺めていたところ、ちょっと良さげだなと発見したこちらの映画。全然知らないタイトルでした。
希望の街
ジョン・セイルズ
ジョン・セイルズ
ヴィンセント・スパーノ
トニー・ロビアンコ
ジョー・モートン
アンソニー・ジョン・デニソン
バーバラ・ウィリアムス
ジョン・セイルズ
ジョー・グリファシ
マイケル・マンテル
ルイス・ゾリック
ビル・レイモンド
クリス・クーパー
ジーナ・ガーション
アンジェラ・バセット
ジュード・チコレッラ
デヴィッド・ストラザーン
メイソン・ダーリング
1991年10月11日 アメリカ
129分
アメリカ
U-NEXT(Fire TV Stick・TV)

地味なもののじわじわ味のある一本。
- ある街の、支配階級や労働者階級それぞれの日常を追いながら社会構造の実際を眺める社会派映画
- 社会がどうやって動いているのか、綺麗事ではない清濁併せ呑んだ社会構造を生々しく映し出す
- 派手さは無いものの噛めば噛むほど味が出るようなスルメ映画
- 一番悪いやつを演じていたのが監督でびっくり
あらすじ
ずっと微妙な話だな…と観ていたんですが、最終的にはなかなか良い映画だなぁと。今の時代にはなかなか作られなさそうな映画です。
とある街の建設現場で、どうやら親の縁故で働いているらしき青年ニック(ヴィンセント・スパーノ)は「こんなつまらねえ仕事やめてやるわ」といきなり退職、いかにも悪そうな仲間とつるんで夜中に近くの家電量販店に盗みに入る計画を立てます。
一方、これまた悪そうな市長バッチ(ルイス・ゾリック)は利権絡みのスラム街再開発を巡って地方検事と対立、どうやら強引にスラム街住人たちを立ち退かせたい様子。
その地区の代表である市議のウィン(ジョー・モートン)はそれを防ごうと奔走するも住人にあまり信頼されていないように見え、なかなか上手く行きません。
そんな中、これまた悪そうな黒人キッズの2人組が腹いせ的にランニング中の白人の大学教授(ビル・レイモンド)を襲って逮捕されますが、彼らは「あいつがゲイで触ってきたから殴った」と嘘の証言をすることで街は大騒ぎ、黒人社会は白人たちに対抗しようとこの事件を利用し始めます。
そんな諸々の物語がつながっていくんですが…あとはご覧ください。
大人の事情の可視化
僕は知らなかったんですが、監督のジョン・セイルズは1990年代初頭(つまりこの映画の頃)に起こった「インディペンデント映画運動」の父とも呼ばれる方だそうで、ってことはこの映画もインディペンデント映画(自主制作映画)になるんでしょう。
ただ役者陣としては僕が馴染みのあるメンバーだけでもデヴィッド・ストラザーンだったりクリス・クーパーだったりアンジェラ・バセットだったり結構な人たちが出ているので、あんまり自主映画っぽさは感じません。ちなみにデヴィッド・ストラザーンと監督はお友達だそうです。今作では変わった役柄を演じているデヴィッド・ストラザーンですが、さすがに若い…!
そして劇中もっともわかりやすく悪い人間である整備工場(?)のトップ、カールを演じているのが監督ということで後から知って驚きました。やはり悪役を演じるのは楽しいんでしょうか。
カールは本当にわかりやすい悪人なんですが、わかりにくいというかとてもリアルな悪人も結構出てきます。
市長なんかはこれまたいかにもですが、主人公のニックも盗みに入る時点で悪人でもあるし、でもただ単に「悪人」と一括りにできるほど世の中は単純じゃないんだよ…みたいな、その他の人々も含め重層的な見方ができるような人物描写が印象的な映画です。
例えば黒人市議のウィンは基本的に善人サイドだと思いますが、それでも自分の身分を高めるために周りを利用する強かさが表現されていたりするので、やはり単純に善悪に分けられない、グラデーションのある人物たちを描いている感覚がすごくあり、つまりはそれこそがこの社会そのものなんだよ、という視座を感じるお話でした。
カールの存在はかなり嘘くさいというか、ここまで表に知られる形で悪そうなのに利用する価値があるような人物描写はちょっとご都合主義の色が見え隠れはするものの、他のメンバーは非常にリアルで等身大なので、創作ではあるもののなかなかの生々しさを感じる物語ではあります。
そう言った物語なので確実に社会派映画ではあるんですが、ただ社会派映画にありがちな価値観を訴えて社会を良くしたいみたいな視点があまりない、フラットに描きつつでも観ている側に何かしら考えるところを残していく余韻を持った作りはとても上手いなと思います。
全体的には「ある街の群像劇」的にそれぞれの物語が別個に展開していくんですが、狭い街の話でそれぞれ大体顔見知りだったりもするので、結局話がつながっていきます。
特に序盤で顕著でしたが、誰かと誰かが会話しているところに後からやってきた誰かと誰かも会話していてそっちに視点が移る…みたいなシーンが非常に多く、その辺もちょっと珍しいんですがそれだけ「狭い界隈の話だよ」ということが明確に表現されている映画でもあります。
最初は何が面白いのかわからんな…的に観ていくんですが、そこを我慢していくと最後の方になっていろいろ繋がりが見えてきてしみじみわからされるようなお話なんですよね。
ちょうどこの前、マット・デイモンが自身の関わったネトフリオリジナルの映画について「ネット配信の映画は(つかみとして)最初の15分に見せ場を持ってこないとダメだから今までとは作りがまるで違う」みたいなことを語っていたのを見たんですが、その文脈で行けば配信限定では絶対にこの映画は作られないだろうなと思います。そしてだからこそ価値があるなと。
正直「面白かったな〜」と言うような映画ではないんですが、2026年現在だからこそそうやって後付で見えてくる価値のようなものが出てくるのも映画というジャンルの面白いところで、その意味でしみじみといい映画だったな、と。
最後まで観たところでスッキリするわけでもなく、かと言ってムナクソ映画というわけでもないのである意味では中途半端な物語ではあるんですが、中途半端だからこそなおさら社会の写し鏡になっているというようなメッセージも感じられて、なかなか深くていい映画だなと思います。現実はそんな簡単に善と悪で結果が見えてくる話でもないし、大きな事件があった後でも人生は続いていくというようなニュアンスも感じられて、その辺まるっと大人な映画だなと。
そう、大人と言えば端的に言って「大人の事情」をすごく感じさせる話だったんですよね。ほとんどの話に「大人の事情」が関わってきているような感じで。
なかなかここまで大人の事情をリアルに描く物語も珍しい気がしたので、その意味でも変わった映画だったしいろいろ思うところはありました。
しみじみしちゃう
あとはやっぱりさっきの配信云々の話と繋がりますが、今の時代だとおそらくこういう映画は出てこないので、時代が作り出したという意味でも妙に感慨深いものがあり、なんというか…一昔前はもうちょっと文化的に幅が広かったんじゃないかという気がして、そこも込みでしみじみしてしまう部分がありましたね。
当然今のほうが便利だし差別も減ってきている(この映画のゲイの噂が広まる辺りは結構隔世の感がある)し、良い時代になったと言えると思うんですが、その一方で確実に失われているものもあり、何が良いのかわかんねーなという頭の悪そうな感想で終わりにしたいと思います。
なんかね、やっぱりそういう社会全般について思いを馳せてしまうような幅の広さがあったと思うんですよね。この映画は。
だからこそいい映画だったな、と。
このシーンがイイ!
義弟とニックがバスケするシーンはなんだかグッと来ましたねぇ…なんてことのないちょっとした会話なのがまた良かった。
あとはラストシーンはやっぱりね…このために彼はこの映画に配置されたのかと思わされるすごみ。
ココが○
本当にあとから振り返るとすごくいろいろ散りばめられている気がするんですよね。各人の善悪や欲望を日常に忍ばせて見せていく形がとても上手いので、自然でありつついろいろ考えさせられる作りなのがすごいなと。
ココが×
ただ本当に地味だし序盤は特にまったくなにが面白いのかわからないです。かなり我慢が必要な部類の映画でしょう。Outer Wildsみたいな映画だな…。
MVA
デヴィッド・ストラザーンの変わった役柄も印象的でしたが…この人にします。
ジョー・モートン(ウィン役)
黒人市議。
時代的にもなかなか大変そうな役回りで、でも理想を体現しようと必死に頑張る人。
黒人にこの役をあてるところに少しだけありきたりさを感じる面はありますが、しかし実際にこういう人もいたことは間違いないのでリアルなキャラクターだなと。
この映画では最も善人側にいる人だと思いますが、善人一辺倒ではないちょっとした変化が見えるキャラクターになっているのも良かったと思います。
あと奥さんが多分アンジェラ・バセットですよね。当然ですが今より若くて綺麗で結構びっくり。

