映画レビュー1575 『記者たち 衝撃と畏怖の真実』
U-NEXT配信終了系です。この手の映画は大好物なんでね…!
記者たち 衝撃と畏怖の真実
ジョーイ・ハートストーン
ジェフ・ビール
2018年7月13日 アメリカ
91分
アメリカ
U-NEXT(Fire TV Stick・TV)

今とそっくり。
- 9.11後、イラク侵攻に至った経緯を追う記者たち
- 大手新聞が政府発表を流し続ける一方で、その内容に疑問を持った主人公たちは独自の取材を続ける
- 若干パッとしなさはありつつこの手の映画らしい安定感のある作り
- 今のイラン侵攻にそっくりで今こそ観るべき一本
あらすじ
配信終了が迫ってきている&監督と映画ジャンルが好きだから観たというだけなんですが、まさに現在進行系のイラン侵攻をなぞるかのような内容だったのでタイミング良すぎさすがおれ、と。
2001年9月11日、アルカイダによる同時多発テロを受け、ナイト・リッダー社のジャーナリストたちは政府がビン・ラディンの潜伏先と思われるアフガニスタンではなくイラクを侵攻しようとしていることを突き止め、取材を開始。
ニューヨーク・タイムズなどの主要紙はアメリカ政府による「イラクに大量破壊兵器があるために攻撃する必要がある」という(後になるとわかる)嘘の情報を元に記事を出し続けていましたが、政府内部の複数の情報提供者から「都合の良い情報だけ拾い上げて侵攻しようとしている」政府の姿勢を知ったエース(多分)記者の2人、ウォーレン・ストロベル(ジェームズ・マースデン)とジョナサン・ランデー(ウディ・ハレルソン)は他の主要紙と真っ向から対立する論陣を張ります。
しかし真実がわかるのは数年後の話。記事を提供しているタイミングでは愛国者達からの反発も強く、厳しい環境に置かれるナイト・リッダーの面々を描きます。
今よりまだマシ
「ナイト・リッダー」という“新聞”は聞いたことがないので架空の新聞社なのかなと思って観ていたんですが、実際にある(あった)会社らしく、劇中の説明によると「他社が自由に使える記事を書いている社」とのことで共同通信のような通信社に近いイメージなんでしょうか。
ただWikipediaによると「31紙の地方新聞を傘下に持つ」とあるので地方新聞の親玉的な企業なのかもしれません。
アメリカは日本と違って(ワシントン・ポストやニューヨーク・タイムズなどの)大手も地方新聞なので、その意味では最も巨大な新聞社なのかもしれないですね。詳しいところはわかりませんが…。
ちなみにサブタイトルの「衝撃と畏怖の真実」はかなり大げさなタイトルだなと思いがちですが、その「衝撃と畏怖」は当時の作戦名から取られているので煽りのタイトルではないよというのは書いておきましょう。
さて、その辺の細かな話は置いといて今作は「スポットライト」や「大統領の陰謀」、「ペンタゴン・ペーパーズ」辺りと非常に近い、新聞社による時の政府の問題を追うジャーナリストたちを描いた映画です。
作りとしてもかなり似たものがあるのでこの辺の映画が好きであれば普通に(不満も出はしますが)楽しめる一本だと思います。
ただあの辺の映画と違い「記事を出したことで事実が白日のもとにさらされ、記者たちが称賛される」ような展開ではなく、その記事の正しさが判明するのは少しあとになってから、という時差がある辺りがなかなか悩ましいところで、それ故かあまり高揚感のない映画になっているのは確かです。
さすがにロブ・ライナー監督の映画なので卒がない作りだとは思いますが、一方でやや地味でパッとしないのも事実なだけに、名作の多いこのジャンルにおいてはやや小粒な印象は否めません。
普通に観ただけでは「うーん…まあまあ」と思って終了、だったと思います。
が!
ご存知の通り、最近(2026年3月現在)アメリカはイスラエルとともにイラン攻撃を開始し、まさにこの映画の内容をなぞったかのようなニュースを連日目にしているので本当に生々しくて、この映画自体が持つ面白さ以上の何かを感じたことは間違いありません。
この映画当時の大統領はブッシュジュニアですが、当時「史上最悪の大統領」と言われたぐらいのどうしようもないボンボンかと思いきや今と比べれば全然かわいいもので、なんなら「全然ちゃんとしてるんじゃないの」と思えるぐらい、一応段取りを踏んで嘘でも取り繕おうとするだけ100倍マシでした。
この頃はちゃんと国連に諮ってるしそれなりに(それが嘘だったとしても)説明しようとする姿勢があったんですよね。アメリカ政府に。
今はそんなこともなく、一応嘘の理由は述べてはいるものの国連はガン無視でいきなり攻め込んでいるわけで、過去から学ぶどころか劣化してるじゃねーかと暗澹たる気持ちになります。
もちろんその理由として現大統領個人の問題もかなり大きいとは思いますが、しかし彼も選ばれてその地位にいるわけで…「進歩しないんだな、人間」と絶望感すら覚えます。
おまけにジャーナリズム側もかなり劣化してきているんですよね。それこそ「大統領の陰謀」や「ペンタゴン・ペーパーズ」の舞台だったワシントン・ポストはジェフ・ベゾスに買われ、かつての栄光は消え失せてしまいました。
「ものすごく状況が似ているけど今のほうがよりひどい」というのが明確にわかる話なので、これを観て暗い気持ちにならない方が難しいと思います。まだこの頃は社会がまともだったんだな、と。
そしてそれはアメリカに限らず、日本はもちろん世界的にその傾向が強まっているので、やっぱり「人間ダメじゃん」と思わざるを得ません。
「昔は良かった」みたいな話じゃないんですよね。もう結果として表に出ているものが明らかに劣化しているので、これは本当にまずいんじゃないか…としんどくなってしまうわけです。
そんな“再確認”が進む映画なので、正直メンタル的に「観た方がいいよ」とも言い切れないところではあるんですが、ただ今だからこそ比べやすいのも事実なので、この手の話が好きで現実を考えたい人にはぜひ今観てほしい映画ではあります。
ロブ・ライナーの存在
またこれも触れておかなければいけないところですが、最初に書いた通りこの映画はロブ・ライナー監督作品です。主要メンバーとして出演もしています。
ご存じの方も多いと思いますが、ロブ・ライナーは最近息子に殺されてしまいました。
そのこと自体が大変不幸で悲しい話なんですが、彼はトランプ大統領を批判している人でもあったので、あろうことかそのトランプから亡くなった直後にも関わらず暴言を浴びせられてるんですよね。
そういうバックボーンも含めて考えると、当時よりも横暴に、恥ずかしげもなく戦争を始めた大統領を批判していた人が作った映画、という事実がなんとも示唆的に感じられ、よりこの映画の重みを増していたような気がしました。
この映画を観終わったあと、たまたまですが外部入力からテレビに切り替えたらちょうどイラン攻撃関連の国際ニュースを流しているところで、そこでもまたなんともやるせない気持ちになりました。
25年近く経ってこれなのか、と。
だからこそやっぱり今観るべき映画の一つでしょう。
この映画のように戦う人たちがまだいてくれると信じたいですね。
このシーンがイイ!
途中で過去の実際の映像として当時の戦争に反対する議員の反戦演説が流れ、ざっくり「ベトナム戦争のときは賛成したがその後これだけの問題があった、あとからは後悔しかできない」的なことを言っていて、そっくりそのままこの時と今に置き換えられる内容だったので非常に考えさせられるものがありました。
アメリカは学ぶどころか劣化してきているのが如実に理解できるシーンで非常にしんどいものがあります。
ココが○
やはりこの手の「当時戦った人たちがいた」話はきちんと称賛していかないとそこを目指す人も減ってしまうと思うので、現実は厳しいですがこういう映画が作られた事実自体はとても重要なことだと思います。
内容云々以前に志自体を評価しないといけないというか、あるかないかだと大違いなのでやはり「作られた」だけでもすごいことだなと。
ココが×
主人公(ジェームズ・マースデン)の恋愛話は完全にいらねーだろと思いますね。なんで入れたんだろ。ジェシカ・ビールはかわいかったけど。
唯一、彼女が「勉強してきたわ」と都合よくイラクについての説明セリフをペラペラ喋るシーンがあるんですが、正直あのためだけに置かれた存在なのかなと…。
MVA
この手の映画にしては(良し悪しではなく)結構意外なキャスティングが目に付くような気がしたんですよね。ウディ・ハレルソンも悪役の方が多い印象だし、その妻のミラ・ジョヴォヴィッチもそもそも社会派映画に出てくること自体が意外だし。(最初は気付かなかった)
そんな中で…この人かなぁ。
ロブ・ライナー(ジョン・ウォルコット役)
ナイト・リッダーのボス。社長なのか編集局長なのかはわかりませんが、現場のトップっぽかったので多分後者に近い立場でしょう。
監督しつつ本人がこんなに主要な脇役やるの珍しいなーと思って観ていたんですが、Wikipediaによると当初はアレック・ボールドウィンがやる予定だった(確かに最後に出てきたモデル本人にちょっと似てる)んですがギャラの都合で降板し、代わりに監督本人がやったそうです。そりゃあギャラの節約にはなるわね…。
元々俳優でもあるので演技はさすがにお上手で、存在感もバッチリ。ただ本人には似てないぞ、っていうだけで。
監督・主演兼務で力の入った(ように見える)作品が現在の問題を映し出し、そしてご本人は亡くなっているというのもなんとも…やっぱり偶然とは言え何らかの歴史的な必然性を感じますね…。

