映画レビュー0760 『ペンタゴン・ペーパーズ/最高機密文書』

これまた予告編1回観ただけで「こりゃ絶対観に行かないとだな」と思った映画です。早くも4分の1が過ぎた2018年ですが、今のところ例年にないペースで劇場に観に行きたくなる映画が多くて嬉しい悲鳴。

ペンタゴン・ペーパーズ/最高機密文書

The Post
監督
脚本
リズ・ハンナ
出演
サラ・ポールソン
トレイシー・レッツ
ブラッドリー・ウィットフォード
ブルース・グリーンウッド
音楽
公開
2017年12月22日 アメリカ
上映時間
116分
製作国
アメリカ

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泥沼化したベトナム戦争の戦況を国防総省が解析した機密文書「ペンタゴン・ペーパーズ」をニューヨーク・タイムズがスクープするも、政府による訴訟を受けて報道の自由が脅かされる事態となる。そんな中、一地方紙にすぎないワシントン・ポストもついにその機密文書を入手するのだが…。

実は一人の女性の成長物語の色合いが濃い。

8.5

ワシントン・ポストと言えば世界的にも有名な「ウォーターゲート事件」の報道で知られる名門高級紙ですが、この映画で描かれる話はそのウォーターゲート事件報道の少し前にあたり、当時はまだ「一地方紙」に過ぎない新聞だったワシントン・ポストが、後のウォーターゲート事件報道につながる報道機関としての矜持を改めて示すきっかけとなった大きなターニングポイントとなる出来事と言って良いでしょう。

まあアレですね、報道の方向性は抜きにして規模的な意味で言えば、この頃のニューヨーク・タイムズが読売新聞だとするとワシントン・ポストは東京新聞みたいな感じでしょうか。適当なイメージで書いてますが多分そんな感じです。

物語はワシントン・ポストが上場を計画しているところから始まります。夫の突然の自殺を受け、普通の主婦だったキャサリン・グラハム(メリル・ストリープ)がその意志を継いで社主兼発行人となり、まだ男社会と言える世の中で奮闘してワシントン・ポストの経営を安定させようとしているところ。当然ながら彼女に余裕はなく、まずはなんとか夫の路線を引き継いで無事発行を続けるために毎日を精一杯過ごしている、という感じでしょうか。

彼女は経営側の中心人物になりますが、一方編集側…要は紙面作りにおいて中心となるのが、トム・ハンクス演じるベン・ブラッドリー編集主幹。彼はしばらくニューヨーク・タイムズのエース記者、ニール・シーハンの記事を見かけないことから彼がスクープを追っていることを疑い、ポストの(多分)インターンをニューヨーク・タイムズに送り込んで動向を探っていたところついに問題のペンタゴン・ペーパーズをすっぱ抜かれる事態に。

このペンタゴン・ペーパーズというのは、表向きは「順調に戦況が上向いてきている」と説明されていたベトナム戦争が実際のところどうなのかを国防総省が分析した一連の文書なんですが、それ故当然ながら国防にかかわる機密文書なので公表することは許されない、とニューヨーク・タイムズは政府から訴えられます。

その少し後にワシントン・ポストも同文書を入手、しかしポストは株式上場の時期と重なるためにリスクは犯したくない、かと言ってこの事態を看過していては報道の自由は守られない…という“究極の選択”を迫られる物語になっています。

予告編からしてかなり社会派っぽい雰囲気が漂う…というかもうまんま新聞社のお話なので「スポットライト 世紀のスクープ」よろしくガッツリ社会派な上にアメリカのみならず日本においても昨今のアレコレと被ってくるし今まさに観るべき映画じゃないか…! と思って鼻息荒く観に行ったんですが、実はこの映画は社会派的側面以上に「一人の女性の成長物語」の意味合いが強く、非常に面白かったんですがそういう意味ではほんの少し期待外れな感覚はありました。

「スポットライト」と同じように強大な権力(あっちは教会、こっちは政府)を相手に、報道機関が自らの存在意義を立証するために戦う、という構図は一緒ではあるんですが、あっちは調査報道そのものが主軸で、なおかつ扱うテーマが人道に反するものなので、ある意味で勧善懲悪的なわかりやすさもあるし、それ故にストーリーを追いやすい良さがあったと思いますが、こっちは調査報道も描きつつピークの見せ場は“上層部の意思決定”になるため、しがらみや政治的な要素が多分に絡んでくる分、ほんの少しだけ「気持ちよさが小出しになる」感覚があったかな、と。

何せ一番の見せ場の話になってくるので詳細は避けますが、載せる載せないの判断の先にもまたいろいろと問題があり、一発で片付かない部分によりリアリティを感じる面はあるものの、やはり「スポットライト」の方が単純にスカッとする気持ちよさは上だったと思います。ドラクエで言うとマドハンドを相手にしている感じでしょうか。

ただそれは「スポットライト」と比較すると、という話であって、単品で観た時はやはりグッとくる場面も多いし考えさせられる部分も多いしでとても価値のある映画だと思います。何と言っても実話だし、その後のウォーターゲート事件込みで「ニクソン政権下での出来事」ということを含んで観るとより一層味わいも深くなる、ってもんですよ。

おまけにスピルバーグは「これは2年後3年後に公開する映画じゃない、今すぐ世に出すべきだ」と「レディ・プレイヤー1」のポスプロと並行してとんでもないスピードで作った映画ということで、なるほど今のトランプ政権を重ねて観ると…古い話のはずなのにまったく古く感じないという絶妙な時代背景を伴っている面白さもお得感倍増です。

おまけに…あえて書く必要もありませんが、折しも日本では公文書の扱いについての喧騒真っ只中ということもあるので、「今すぐに作って世に出すべき」というスピルバーグの日本びいきもここまで来たかと勘違いするぐらいに他人事ではないリアリティがあるのもポイントでしょう。

少し気になったのは、ある程度予備知識のある人向け(要はアメリカ国内の一般常識が最低ライン)の作りのような気もするし、この手の社会派映画によくある固有名詞の応酬がよくわからん的な側面も多少は感じられる面があるので、この手の映画が好きな人であれば間違いはないとは思いますが、やや人を選ぶ映画ではあると思います。いつもキャサリンの近くにいたフリッツさんが何者なのか最後までよくわからなかったし。弁護士とか監査役みたいな外周の人かと思って観てたら会長だってさ。

反面、予備知識がなくてもそれなりに楽しめるようにある程度舞台背景を描いてくれてもいるので、完全に置き去りにされるような人も少ないだろうとは思います。僕としては「ニューヨーク・タイムズがすっぱ抜いたぞー!」から始まるぐらい、もう少し序盤はカットしてもっと後半に比重を置いて欲しかった気はするんですが、その段取りの丁寧さが良くも悪くもスピルバーグらしい、最大公約数的な作りのような気はしました。

あとはやっぱり「ワシントン・ポスト」の映画ではあるんですが、それ以上にただの主婦だった女性がポストを引き継いで自分の意志を通すようになるまでの成長のお話が軸なので、なんなら「スポットライト」よりも「シマロン」の方が近いんじゃないかという気もします。なのでどっぷりジャーナリズムを堪能したい、という希望だったら少しズレが生じるかもよ、というのは書いておきたいなと。

本当に感覚的な部分でしか無いんですが、しっかり一生懸命調査報道を進める人たちを描いてはいるものの、思ったほどトラブルもなくすんなり進む面が多いので、どうも「一応全部見せるけど上っ面をなぞってるだけだよ」感があった気がするんですよね。もう少し突っ込んで深いところを観たかったなぁと思うんですが、ただ基本が「キャサリン・グラハム物語」なのでそれはおそらく望みがズレてるよ、というお話です。

とは言え社会派映画好きであれば外せない一本なのは間違いないでしょう。新聞記者の人は例外なく全員観るべき映画でしょうね。

ネタバレン・ペーパーズ

このシーンがイイ!

「ここは俺の家なんだから俺も参加する!」って強引に混ざったベンとキャサリンとフリッツの電話のシーンかなー。電話のシーンはどれも緊張感があって良かったですね。

ココが○

実話であり、現代的な問題に対しても示唆に富むテーマは掛け値なしに素晴らしいですね。もっともそれはイコール「今も昔も変わらない」、成長していない世の中を示しているのかもしれませんが…。

ココが×

やっぱりちょーっと上っ面なぞってます感があるんですよね。サラッとしすぎてて。その分観やすいんだろうとも思うんですが、なんとなーくスピルバーグの作風的にもう一歩深みに踏み込まない感覚はありました。上手いんだけど魂が震えない歌を聴くような感覚。

MVA

主演の二人はもう流石としか言いようがないんですが、今回はこっちにしようかな。

トム・ハンクス(ベン・ブラッドリー役)

やり手編集主幹。

いつもの“善人全開”トム・ハンクスとはちょっと違う、少し俗っぽい雰囲気があってそこがすごいぞと。新聞記者らしい豪腕さとある種の傲慢さも見え隠れしてたし、こういう役もやっぱりきっちり見事に演じるこの人はすごいなぁと感心。

見た目的には当然同一人物なんだけど、「ハドソン川の奇跡」と同じ人が演じてるとは思えないすごさ。

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