映画レビュー1584 『ナワリヌイ』

これもすごく観たかったのでU-NEXTにあるのを知ってやったぜと思ったんですが、気付けば公開終了当日であぶねーあぶねーと急いで観ました。

ナワリヌイ

Navalny
監督

ダニエル・ロアー

出演

アレクセイ・ナワリヌイ
ユリア・ナワルナヤ
マリア・ペフチフ
クリスト・グローゼフ
レオニード・ボルコフ

音楽

マリウス・デヴリーズ
アンナ・ドルビッチ
マット・ロバートソン

公開

2022年4月11日 アメリカ

上映時間

98分

製作国

アメリカ

視聴環境

U-NEXT(Fire TV Stick・TV)

ナワリヌイ

現実の恐ろしさをまざまざと。

9.0
ロシアの反政府野党指導者ナワリヌイが毒殺未遂を受けた前後を追ったドキュメンタリー
  • ナワリヌイが何者かによって毒殺されかけたあとにドイツへ移送、その後回復し帰国するまでを追う
  • よく撮れてたなと驚くほど決定的なシーンが登場、ドキュメンタリーの旨味たっぷり
  • その後彼は実際に殺害されてしまうため、より考えさせられるものに
  • ロシア内部にも声を上げる人たちがいることがわかったのも収穫

あらすじ

すごいすごいとは聞いてはいましたが実際すごかった…んですが、それもその後の展開込みでもある気がしてなかなか複雑ではあります。

ロシアの反政府野党指導者であるアレクセイ・ナワリヌイのインタビューからスタート。
彼の政治的立場であったり家族との触れ合いを通して人となりを見せつつ、中心となるのは2020年に起きた毒殺未遂の話になります。
彼は一時危篤状態に陥りそこから回復するんですが、その間の病院とのやり取り、そして回復後にジャーナリストと協力しつつ自ら真相を究明しようと動く彼の姿を追います。

なぜ帰国したのかと思うところはあれど

当時普通に日本でもニュースになっていたので知っている方も多いと思いますが、言ってみれば「プーチン批判急先鋒」の政治家・ナワリヌイがいかに狙われたのかを本人のインタビューとともに探っていくドキュメンタリーですね。
撮影自体は暗殺未遂後、ナワリヌイが昏睡状態から目覚めた直後に始まったそうなので、実際にカメラに収めているのは当然事件後からにはなりますが、内容がその暗殺未遂自体に迫るものなので当然その前段階についてもある程度触れられています。
撮影側(監督?)によるナワリヌイ本人へのインタビュー(英語)というドキュメンタリーでよくあるおなじみの映像を合間に挟みつつ、暗殺未遂事件がどういったものだったのかを観ていきます。
彼はインタビューで「(質問の意図を汲み取って)死んだときのためのメッセージなんて録りたくない」とか言ってたりするんですが、実際に彼はこの映画の公開後ではありますが2024年に今度は“きっちり”毒殺されてしまったので、その言葉自体が非常に悲しく、また恐ろしい内容になっているのがとても印象的でした。
そして公開当時はともかく今から観ようとする人(=ナワリヌイに興味がある)であればそのことは基本的に知っているはずなので、そこにもうなんとも言えない感覚を覚えましたね。

僕は彼について特に詳しいわけでもなく、単純に「反体制派でプーチンに目をつけられたので殺されたんだな」程度の認識しかなかったので、その人となりがわかったのはいろいろと解像度が上がった気がして収穫でした。
さすがにプーチンを悪とするなら彼は善である、とまで単純に考えるようなこともなく、途中で「(ナチスのような明確におかしな)勢力も利用する」発言辺りはすごく面白いというか、逆に綺麗すぎない現実的な思考と同時にどちらに振れるかわからない危うさも秘めたところが見られて興味深かったんですが、仮に彼が権力(大統領職)を得たらどうなっていたのかは当然ながらわかりません。
最初は良かったものの次第に独裁化した…みたいな話は歴史上枚挙に暇がないだけに、彼もそうなっていた可能性は十分にあるでしょう。
とは言え現在の権力者が腐敗しているのは明らかなので、そこをひっくり返すためにぶっちゃけ「善悪関係なく今よりはマシ」な選択肢として力強い指導者に希望を託したくなるのは至極真っ当な話ではあると思います。
これが“普通の国”であれば「こいつ良いこと言って結局自分の名を売りたいだけだろ」みたいなケースもあると思いますが、なにせロシアですからね。
ロシアにおいてここまではっきりと権力を糾弾する人物というのはちょっと他に見た記憶がないし、その勇気(とある種の無謀さ)は明確に称えられて然るべきものではないかと思います。
彼自信が清廉潔白であったかどうかはある意味関係がなく、その言動に動かされる民衆がいることに大きな意義があるわけで、今作でもクライマックスで帰国しようとする彼を待つ民衆が大量に空港に集まってきているシーンを見て自分の知らないロシア国民の姿を見られた気がしてすごく感慨深いものがありました。
結構ロシアの人たちは「言ったら捕まる」から何も言わない、じっとしているイメージがあったんですよね。
いくら海外の映画とは言え、面出しで集会に集まってる人たちが普通に写ってたりするのを観ると、意外と骨がある…というと失礼かもしれませんが、思っていたよりも勇気がある人たちが多いんだなと結構感動しました。
そしてそのことがやっぱり希望になるわけで、結局ナワリヌイは殺されてしまいましたが、「毒殺未遂をしでかした上でさらに毒殺した」事実が広く知られたことは、外に向けて意見表明をする・しないに関わらず、少なからずロシア国民の内心に何らかの影を落としているはずです。
今はその影響が見えなくても、おそらく近い将来にはここから第二第三のナワリヌイが現れ、そして第何ナワリヌイになるかはわかりませんがその人(たち)がいつかはロシアを権威主義から変えていくのではないかなと観ていて思いました。
それこそがおそらくナワリヌイが(半ば殺されるとわかっていても)帰国しようとしたことの理由なんだな、と。
そう言ったことを考えていくと非常に価値の高いドキュメンタリーだと思います。
クライマックスのシーンはもちろんものすごい映像ではあるんですが、それは映像としての面白さであって歴史上の価値という意味ではおそらくそのシーンそのものではなく、映画に残されたナワリヌイの言葉そのものなんでしょう。
それ故にこの映画は今よりも将来に価値が高まるものなのかもしれません。

今だからこそ価値あり

それにしてもここまであからさまな殺人を犯しておいても体制が揺るがないロシアって何なんでしょうね。
アメリカもおかしくなってきているので相対的により盤石になっているように見えるのもなんともしんどい話ですが…。
今は世界秩序が明確に揺らいできているので、5年後10年後には今からは想像もできないような世界になっているのかもしれません。
あまりいい方向に行くようにも思えないんですが…。
そんなとき、ロシアにもナワリヌイのような人物が立てる下地ができているといいなと思います。
たった一人の政治家を追ったドキュメンタリーではありますが、こうして世界情勢について考えざるを得ないだけの大きな影響を持った一作でしょう。
世界がおかしくなってきた今だからこそ観るに相応しい映画でもあるように思います。

このシーンがイイ!

やっぱり電話かけるシーンはすごかったですね。よくあんなシーンが撮れてたなと。
それとプーチンが断固として名前を出さないようにしていたのもものすごく滑稽で印象深かったです。ハリー・ポッターかよ。

ココが○

内容の良さはもちろんですが、密かに100分切った短さもすごく良いですね。とかく眠くなりがち(個人差あり)なドキュメンタリーにおける観やすさはかなり重要だと思います。

ココが×

これと言って無かった気がします。まあ事実が強すぎるのでね…。

MVA

ドキュメンタリーなので該当者無し…でもいいんですが、まあせっかくなのでこちらの方に。

アレクセイ・ナワリヌイ(本人)

まー本当によくあんなに堂々とクレムリン批判を出来るなと観ている方が怖くなるぐらいでした。
一緒に働いていた人たちのその後も気になります。
お子さん2人も出てきましたが、あとを継いだりするのかな…?

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