映画レビュー1478 『アメリカン・フィクション』
今回もアマプラ終了間際系です。
タイトルとジャケットの雰囲気的に結構気が重くなる話なのかと思ってたんですがコメディでした。
アメリカン・フィクション
コード・ジェファーソン
コード・ジェファーソン
『Erasure』
パーシバル・エベレット
ジェフリー・ライト
トレイシー・エリス・ロス
ジョン・オーティス
エリカ・アレクサンダー
アダム・ブロディ
レスリー・アガムズ
キース・デイヴィッド
イッサ・レイ
スターリング・K・ブラウン
ローラ・カープマン
2023年12月15日 アメリカ
118分
アメリカ
Amazonプライム・ビデオ(Fire TV Stick・TV)

軽やかに人生の喜怒哀楽が詰まった良作。
- 代表作はあるものの、最近は泣かず飛ばずの作家が苛立ちから“それっぽい”小説を執筆
- 出版社をバカにしてやろうと送りつけると巨額の契約金オファーが来てしまい…
- 一方でプライベートに問題も多く、お金が必要になるジレンマ
- 深さがありつつ表面的に観ても楽しめる良作
あらすじ
どうもかなりいろいろ盛り込まれた深い映画のようなんですが、そんなことはさっぱりわからないバカな自分が観ても面白かったので良い映画です。間違いない。
かつてヒット作を生み出したものの今は泣かず飛ばずで、大学教員として生活しているモンク(ジェフリー・ライト)。
授業で生徒と揉めたりと教員としての評価も振るわず、「とりあえず休んで一旦地元にでも帰ってリフレッシュした方がいいよ」とテイの良い休養を余儀なくされ、やむなく地元へ。
地元では姉のリサ(トレーシー・エリス・ロス)と再会するも彼女は程なくして帰らぬ人となってしまい、残された母(レスリー・アガムズ)は認知症が進んで介護が必要な状況に。
兄のクリフ(スターリング・K・ブラウン)は自由人すぎて頼りにならず、いろいろフツフツと鬱憤が溜まった状態で、半ば腹いせのような形で「どうせお前らはこんな小説が好きなんだろっ! オラッ!」と酔っ払いつつ書き上げた小説を自らのエージェントであるアーサー(ジョン・オーティス)に送付。「さすがにこれはちょっと…」と引き気味のアーサーに「だからいいんだよ! 出版社の連中に送りつけてバカさ加減に気付かせてやろう」と押し通すと、後日来た連絡では「75万ドルの前金払うって」。
ウソーンってことで引っ込みがつかなくなったモンク、どうなるんでしょうか。
多様性への皮肉に込められた多様性
あらすじについては細かい部分が多少違うかもしれません。
また家族についても人によっては妹と言ってたりするし弟と言ってたりするしではっきりしません。ざっくりとファミリーってことにしておきましょう。字幕的には「姉」と「兄」だったと思うんですけどね。
ちなみに演者の年齢的にはジェフリー・ライト(主人公)→トレーシー・エリス・ロス(リサ)→スターリング・K・ブラウン(クリフ)の順です。
主役の名前である「モンク」は通称で、名前が「セロニアス」なのでジャズピアニストのセロニアス・モンクからつけられたあだ名のようです。名字が木村なだけでキムタクって呼ばれちゃうような感じでしょうか。
話の流れ的にそこそこ途中の方まで書かないとわかりづらいので少々先まで触れますが、ざっくり言うと「バカにするつもりでステレオタイプな小説を書いたら思いの外広がってしまい、でも“自分”の作品だと言いたくないからと偽名かつ逃走犯の設定でそれっぽく対応してたら収集がつかなくなる」的なお話です。
まとめた感じかなりコメディ色が強そうですが、実際は結構シニカルな笑いに寄ったコメディという感じ。まあ大人のコメディですね。いろいろ理解できないと笑えない(ところも多い)よ、みたいな。そして何より社会風刺でもある、と。
主人公のモンクは医者の息子として生まれ、別荘も持ったいわゆる“実家が太い”タイプなので、(これもステレオタイプな見方ではありますが)「差別される黒人」のイメージとは少し遠い位置にいる、いわゆるインテリの人。
そんな出自もあってか、そもそも「黒人らしい小説」に対して嫌悪に似た感情を抱いているらしく、「自分はそういう小説は書かない」と決めているんですが最近はまったく売れない、むしろ出版すらしてもらえない作家になってしまった、という状況。
なのでエージェントのアーサー(ちなみに白人)には「そういうんじゃなくてもっと世の中が求めるものを書かないと」と言われてたりして、それもあっての腹いせ小説「My Pafology」を書くわけです。(後に改題されますがそれは観てのお楽しみ)
「はいはい、どうせ黒人は虐げられてますよ。こんな薄っぺらいの読んでちょっとでも贖罪した気分になれればいいんだろ?」って皮肉たっぷりに書いたらそれがウケてしまったという。
バカにされている側がバカにされていることに気付かず、むしろ「めっちゃいい」と受け入れられてしまう微妙な気分、その辺りを感じさせるジェフリー・ライトの表情がまた絶妙です。
それに加え、まさに彼が「媚びた黒人小説を書いたが故に売れた」と見ている新進気鋭の黒人作家との対比もお見事で、まー面白かったですね。世の中ままならんな、っていう。
モンクの家族の問題は非常に重いものではあるんですが、実のところその問題自体がそこまで物語に深い価値をもたらしている感じもあまりなく、あくまで「お金を稼がないといけない」状況に追い込むための装置としての役割と、主人公の成長過程において必要なものの一つ、という感じ。
メインはやはり「社会が求める差別・被差別と記号(黒人)に対する視点」といったところでしょう。
ここにはいわゆるネトウヨ的なわかりやすい人は登場せず、むしろリベラルらしき人たちに苛つかされる黒人という対比がすごく皮肉で面白いんですよね。オープニングも黒人であるモンクが「ニガー」という単語の入った書籍を紹介すると白人生徒が「良くないと思います!」とキレる、っていう。すごい面白い構図。
昨今の多様性尊重文化に対する皮肉っぽさも強いのでいわゆるバックラッシュ的な構造にも見えるんですが、皮肉っているのは尊重すること自体ではなく「尊重しているポーズ」に対するものなので、その辺りも(誰もが無意識に理解できるわかりやすさがありつつ)少々ハイコンテクストさも持ち合わせている、上質なコメディだと思います。
そもそもモンクの「ステレオタイプな黒人小説を否定するインテリ黒人小説家」という属性自体がかなり複雑で、見ようによっては普段安易に想像する「黒人」とか「インテリ」とかそういう括りをぶち壊して混ぜ込んだような「多様性の権化」みたいな人でもあるという。
その人が苛つかされる対象が普段“対立構造として見ているんじゃないかと想像しがち”な対象(白人だったり保守層だったり)という括りではなく“同じような所属集団”の人たちである、というのがめちゃくちゃ面白いんですよね。安易な対立構造の話ではないところが。
さらにモンクの属性にゲイも追加したらさすがに盛りすぎと思ったのかはわかりませんが、その役割は兄弟であるクリフに担わせているのも上手い。きちんと身近にヘテロではない人物を配しているのはやっぱり多様性を語る上で重要なポイントでしょう。
また上にも書いたようにエージェントのアーサーも白人なんですが、当然ながらまったく「白人対黒人」という構図には見えない、長い間一緒にやってきた気楽さ(もっと言えば気遣いのないある意味で雑に見えるやり取り)が伺える辺りもすごく上手いなと思います。双方に遠慮がないし、友だちみたいな関係性ですごく微笑ましい。この2人の関係性も何気に大きかった気がしますね。
なかなか観るのが難しい環境になりそうなのが残念
当然詳細は書きませんが、エンディングもなかなか振るっていて最高なんですよね。
あり得ねーだろ! と思いつつ、いや確かにハリウッドならそうしかねない…みたいな。
結構ほじくればほじくるほど細かな面白さが浮き出てきそうな映画なので、繰り返し観ても面白そう。
しかし残念ながらAmazonスタジオのくせにアマプラではもう配信終了してしまったので、復活しない限りは観る機会がほとんどなさそうなのが悔やまれます。
Amazonスタジオ制作の映画は配信し続けろよと思うんですが、しかし配信終了のコーナーに来なかったら観ていなかっただけに我ながら困ったものです。
このシーンがイイ!
一番笑ったのはハリウッドの担当者(アダム・ブロディ)と最初に会ったとき、救急車を見て逃げ出したところですね。最高。
あとアーサーが(確か)ジャックダニエルに例えてモンクを説得するシーンも「なるほど〜」と唸っちゃって良いシーンでした。
ココが○
普通に笑えるし、でもただのコメディではない喜怒哀楽が詰まった人生の物語である点。うまく行かないのが人生だよねと。
ココが×
大きなものは特にないんですが、一点こういう皮肉さを笑う映画なのに兄のゲイフレンドがいかにもなガチムチ系だったのがちょっと気になりました。もうちょっと普通…っていうのもアレだけど、そこまでビジュアル強い人でなくてもいいのでは、っていう。そこも皮肉だったのかもしれないけど…。
あとは配信終了自体が良くない。面白いのに。
MVA
例によって皆さんお見事でしたが、やっぱりこの人でしょう。
ジェフリー・ライト(セロニアス・“モンク”・エリソン役)
主人公の小説家。
微妙に嫌な奴というか、そこもまたリアルなんですがいい奴ではない辺りがすごく良かったですね。本屋の一件とかなんならカスハラだし。
しかし本当にあらゆるシーンで絶妙な演技だったと思います。すごく複雑な心境で進む話なだけに結構内面のややこしい気持ちとか微妙な雰囲気とか難しいと思うんですが、本当に上手かった。
普段は脇役であんまり目立たない「堅実な仕事」的なタイプだと思っていただけに、この繊細な演技は感心しましたね。お見事でした。


