映画レビュー1467 『シビル・ウォー アメリカ最後の日』

ボケっとしてたら1本更新しただけで3月入っちゃいましたね…。最近何をするにも進行が遅くて歳を感じますが、それはさておきそろそろ平常運転していきたいところ。

ということで今回はこちらの映画。去年ギリギリまで劇場に行こうか悩んだ映画なんですが結局行けず、早速アマプラに来たのでこれ幸いと観ることにしました。今年の実写一発目。

シビル・ウォー アメリカ最後の日

Civil War
監督
脚本

アレックス・ガーランド

出演

キルスティン・ダンスト
ヴァグネル・モウラ
スティーヴン・ヘンダーソン
ケイリー・スピーニー

音楽
公開

2024年4月12日 アメリカ

上映時間

109分

製作国

アメリカ

視聴環境

Amazonプライム・ビデオ(Fire TV Stick・TV)

シビル・ウォー アメリカ最後の日

こうならないことを願うばかり。

8.5
内戦が勃発したアメリカで、大統領独占取材のためワシントンD.C.へ向かう4人のジャーナリスト
  • (一応)近未来のアメリカが舞台の「分断」サスペンス
  • 最近の時代背景があってこそのリアルフィクションで、嫌でも現実とリンクして考えてしまう良作
  • ニューヨークからワシントンD.C.へのロードムービーでもある
  • あえて現実につなげすぎない作りも逆に効果的

あらすじ

不満はないわけではないですが、評判通りに良い映画というか考えさせられる非常にタイムリーな映画で面白かったですね。

19の州が独立を表明し、内戦勃発中のアメリカ合衆国。
内戦の原因は概ね大統領にあるようなんですが、彼は14か月間メディアの取材に応じていない=インタビューが取れれば特ダネになるため、ベテラン戦場カメラマンとして有名なリー(キルスティン・ダンスト)と記者のジョエル(ヴァグネル・モウラ)は無政府状態となっている危険地帯を抜けて直接ホワイトハウスに行き、直撃インタビューを取ってこようと計画します。
そんな話をリーの師でもある(別の会社の)記者サミー(スティーヴン・ヘンダーソン)に話したところ彼も行くと言い出し、また直前に暴動現場でリーに助けられた彼女に憧れる駆け出しの写真家ジェシー(ケイリー・スピーニー)も行きたいと懇願。結果不安も抱えつつ4人でニューヨークからワシントンD.C.まで向かう旅に出ますが、当然道中では内戦の現実を思い知らされることとなります。

まさに旬の一本

舞台上は「近未来」という設定なんですが、もう「これ明日の話やで」と言われたところで全然納得できるぐらいには“今”っぽいお話です。というか設定がフィクションなだけで普通に現代のお話です。
僕はもっと内戦に至るまでの情報がいろいろ出てきて、現実といかに「リンクしたフィクション」なのかを強調するのかなと思って観始めたんですが、そういう話はほぼ触れられず、物語開始直後にちょっとナレーション的な説明が入る程度ですでに内戦が始まった状態でのスタートでした。
見ようによっては現実と切り離し、よりフィクションを強調した作りのようにも見えたんですが、そこが逆に生々しいというか…あえて現実に近付きすぎない作りが余計に現在の深刻さを際立たせているような気がして、そこがまずすごいなと唸りました。このニュアンスを言葉で伝えるのもなかなか難しいんですが。
おそらく仮に20年前にこの映画をまったく同じ作りで公開していたら多分一笑に付されていたような気がするんですよ。「アメリカが内戦? バカ言えよ」って。
でも今はまったく笑えない。映画自体が変わらなくても受け取る側の感覚が変わっちゃったからよりしんどく見えてくる…というそこの見せ方が結構衝撃でした。
そんなわけで内戦のきっかけについてはサラッとしか触れられないんですが、具体的には「大統領が憲法で禁じられている3期目に突入し、FBIを解散させるなどの暴挙に及んだため19の州が反発、分断が進んだ」ということになっています。
大統領その人についてはちょっとしか登場しないことからも“彼の風刺”がメインではないのは明らかだし、特にモデルも感じさせない(ただの)取るに足らない人物っぽいように見えましたが、でもやっぱり独裁的な“実績”によって分断が進んだことからもわかる通り、現実の某大統領が念頭にあるのは間違いないでしょう。
そもそもその「分断」がテーマである以上、もはや修復不能に見えるアメリカ(他の国もですが)の分断っぷりが下敷きになっているのは言うまでもないことで、これはつまり裏を返せば20年前(10年前でもいいかも)であれば信じてもらえないと思えるぐらい「分断」がここ数年で一気に目に見えて大きな問題になってきていることの証明でもあるんでしょうね。
もちろん昔も分断はあったと思いますが、SNSを始めとしたネット社会のおかげでそれが先鋭化してしまい、ついには内戦に至るぐらい無視できない大きな問題になってきているという状況が前提にある映画なわけで、それが「嘘でしょ」と捉えられるか「有り得そうで嫌」と捉えられるかでだいぶこの映画自体の評価が変わると思いますが、いずれにしてもこの映画が評判を呼んで深刻に捉えられることで現在の社会の位置がわかるという鏡写しっぷりが興味深いところです。
例えば「地球環境の破壊が進んで別の星に活路を求める」SFなんていうのは今であれば環境破壊も良く知られたことなので物語としてはオーソドックスでなんならベタですが、これが100年前であれば全然浸透しなかったのは間違いないでしょう。「何言ってんの?」って感じで。
それと同じことがこの「分断」という問題にも起きていて、その延長線上にアメリカの内戦がある…というのはなかなかしんどい話だと思います。そしてそれをいち早く形にした監督すげーな、と。

もうその舞台背景の時点で“アタリ確定”の映画なんですが、ただ実際この舞台背景は良く出来ていてもそれはあくまで「背景でしかない」と見えるぐらいあまり現実に対する批判的なメッセージを声高に訴えていない感じがして、そこもなかなかすごい映画だなと思ったんですよね。
もうこの舞台だけで十分現実への風刺は達成されてるでしょ、みたいな雰囲気を感じたというか。
おそらくもっと現実に対して訴えたいと考えていれば、それこそ大統領がもうちょっと存在感のある映画になっていたり、分断された双方の主張を拾い上げたりしたような気がするんですが、あくまでこの映画は「ホワイトハウスへ向かうジャーナリスト4人が出会う出来事とそこに付随するドラマ」が中心なので、現実への風刺はメインではなくあくまで背景にとどめている感がありました。
もちろんところどころで「うわこれありそう」みたいな話も出てくるんですが、それもあくまでサブであって、中心に描かれるのは特に主人公のベテラン戦場カメラマン・リーと、彼女に憧れて同じ道を目指す若いカメラマンのジェシーの関係性なんだろうと思うんですよ。
これがねー。なんかすーごい思わせぶりと言うか、含みを持たせた物語になっている気がして。
もちろんネタバレになるので帰結については書けませんが、「キルスティン・ダンストもこういう役やるようになったか〜」と歳を取ったなぁと思わせる主人公の姿と、対照的にことさら幼さを強調するようなビジュアルで登場するケイリー・スピーニーの役者としての対比と、そこに物語上の役柄としての変化がものすごく重なって見えて、最後まで観るとなんともいろいろ考えちゃうんですよね。
国は内戦状態で疲弊している中で、それでも「リーのような戦場カメラマンになりたい」夢のために半ば強引に先輩たちに頼ってついていった彼女が最終的にどうなるのか、そのドラマは一言で「こうだね」と言えないものなんですが、そこがなんとも…示唆に富んでいるというか皮肉というか…。
ちなみに鑑賞後に検索してたまたま知ったんですが、キルスティン・ダンストは(もう若くなくなって)自分に来る仕事について思うところがあったようなんですが、その「思うところ」を踏まえてこの映画には出ると決めたらしいんですよね。
それも込みで観ていくとまたなんとも味のある役というか…やっぱりケイリー・スピーニーとの対比をいろいろ考えちゃうんですよ。
そしてそれが物語上の「憧れの先輩とそれを目指す若者」の関係性に繋がっているように見えてしまい、演者の立場にも投影してしまうというか…。
これもまた「現実とのリンク」ではありますが、そういう映画外の話と結びつけてまたちょっと味わいが増すような作りはまあ本当にいろんなことを考えさせられました。
一見すると単なるトランプ批判的なロジックで観てしまいがちな話なんですが、実は全然そうでもないしもっといろんな捉え方ができる映画でもあるのがまあ本当にすごい映画だなと思いますね。

今すぐ観るべき

「社会が不穏になってくると良い映画が増える」と何度か書いたことがありますが、その典型例みたいな映画だと思います。まさに今だからこそ作られた映画だし、ぶっちゃけ万が一本当に内戦が起きてからだと多分遅くて、より現実と比べやすくなりすぎてしまうが故に旬を逃してしまうと思うので、文字通り「今こそ観るべき」映画でしょう。
別に旬に観たからと言って何ができるとかもないんですが、ただ観る側の感情としてより揺さぶられるものがあるのは間違いないところ。
現実味がないからなのか、なぜか日本ではあまり評価が高くないようなんですが、しかしこれほどまで今を捉えたフィクションもないと思うので、特に政治や社会に興味がある人はすぐにでも観るべき映画だと思います。
こんなしんどいロードムービー観たことないですけどね。

このシーンがイイ!

やっぱりノンクレジットのジェシー・プレモンスが登場する例のシーンですよね…あれほど端的に分断を現しているシーンはないと思います。良いシーン…というと語弊がありますが、ものすごく刺さったシーンでした。
余談ですがジェシー・プレモンスも歳を取ってかなり幅広く良い役を演じるようになってきたように思いますね。昔はただの偽マトデのDT臭漂う兄ちゃんだったのに…。
ちなみに主演のキルスティン・ダンストと夫婦です。なんと。

ココが○

設定の良さと、それに依存しすぎない物語。
ある意味でもっと説教臭い映画なのかなと思ってたんですが、現実批判というよりは「あり得る未来の一幕」ぐらいの感じでそこが逆にすごく巧みさを感じました。

ココが×

終盤のクライマックスの演出がちょっと大仰というか…そこまでピックアップせんでも何が起こってるかわかるからサラッとやってくれよ、って感じでしたね。あそこは本当に惜しい。
訴えようとすることを「訴えるぞ!」って見せちゃうとこっちは醒めちゃう、みたいな感じで。全体の作りが巧みな割にそこはそうなっちゃうんだ、ってガッカリ感もありました。

MVA

いやほんと、キルスティン・ダンストもこういう役やるようになったか〜と感慨深かったんですよ。正直おばちゃんになったなぁとは思いましたがそれはこっちもおっさんになったので当然で、それでも今までにない強い女性をしっかり演じていてとても良かったんですが、でもやっぱりそれ以上にこの人がすごく良かったなと。

ケイリー・スピーニー(ジェシー・カレン役)

キルスティン・ダンスト演じる主人公に憧れて戦場カメラマンを目指す新米。
確か「学生ではない」と言っていたと思うんですが、実績はほぼ無く言ってみれば「自称カメラマン」ぐらいの存在ながら縁あって同行することになります。
彼女は初めて見たんですがまーかわいくてね。Tシャツが似合うのなんの。
ただそのかわいさには上記の通り妙に強調された(気がする)幼さ込みな感じで、実際の彼女よりも若く見えるような髪型やら髪色やらメイクやらがなされていたように思います。そしてそれには確実に意図があったような気がしたんですが…どうなんでしょうか。
しかしその幼い雰囲気と反して演技は本当にお見事で、これはもう約束された未来の大スターなのではと。もう大スターと言えるのかもしれないけど。
他の役も観てみたいですね。

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