映画レビュー1282 『壁』

言うまでもなくJAIHOです。

ちょっと外しそうな予感もしつつ、でもあらすじが気になっちゃったもんで観てみたんですが…。

Die Wand
監督

ユリアン・ペルスラー

脚本

マルレーン・ハウスホーファー
ユリアン・ペルスラー

原作

『壁』
マルレーン・ハウスホーファー

出演

マルティナ・ゲデック
カールハインツ・ハックル
ウルリケ・ビームポルド
ユリア・シュナイザー
ハンス=マイケル・レバーグ

音楽

ベルント・ユングマイア

公開

2012年10月5日 オーストリア

上映時間

108分

製作国

オーストリア・ドイツ

視聴環境

JAIHO(Fire TV Stick・TV)

壁

設定が飛んでる割にテーマが地味で難しい。

7.0
突如として現れた透明な“壁”によって孤独な生活を強いられる女性
  • ある日突然周辺一体が透明な壁に囲まれ、外の人たちは止まったまま死んでいた
  • 何もできず一人生きるためのサバイバルを始める女性
  • 大きな事件はあまりなく、淡々と日々を過ごすが…
  • 日々を考えさせられる内容だがいかんせん地味

あらすじ

SFらしい謎めいた設定が面白いなと思って観たんですが、テーマはあくまで「生きる」なのでちょっと自分の期待とは違う内容だったのが少し残念でした。ただいい映画ではありましたね。

ある“女”(マルティナ・ゲデック)は休暇的な感じでいとこ夫婦とアルプスの山小屋にやってきました。

到着して少しすると夫婦は「街に行ってくる。夜までには戻る」と女に告げて街へ。女は夫婦の愛犬・ルックスとともにお留守番です。

しかし夜になっても翌朝になっても夫婦は帰ってこず、ホテル嫌いなのに…と何かあったのかもしれないと思い街へ探しに行こうとしますが、一緒に歩いていたルックスの様子が何かおかしい。

彼女が近辺を調べたところ、そこには一切目に見えない透明な“壁”があることに気付きます。

仕方なく違う方向からの移動を試みたところ、近くの住人が水汲みをしているところを発見。しかし手前にはやはり“壁”が…。

よく見ると水は流れたままその住人は止まっており、声をかけても一切反応がありません。

何かよくわからないけどどうやら自分はこの一帯に閉じ込められたらしいことに気付いた彼女は、生きるために、そしてルックスを生かすために残った食料を消費しながら自給自足の生活を始めます。

自分以外に生きている人間がいないと思しき世界の中で、新たな動物と出会いながら徐々に生活を拡張していく“女”。果たしてこの生活はどうなるんでしょうか。

哲学的な映画

ちなみに一応書いておきますが、“女”は役名…というか便宜上の役名(JAIHO記載)です。IMDbでも“Woman”となってました。

人間はほぼ彼女一人しか出てこない映画で、なおかつ彼女の日記を元に描くモノローグの形を取っているため、そもそも彼女の名前が出てくる場面がないお話なんですよね。

もちろん映像を観て意味を理解する場面も多いんですが、基本的にはモノローグなだけにほぼ彼女の主観によるセリフだけで構成されています。

ただもうテーマからしてその形を取らざるを得ない話でもあるだけに、そこは別に違和感もなく普通に観られます。

ですが僕としてはやっぱり設定が気になって観ようと思っただけに、「なぜ急に壁ができたのか」「壁の外の世界はどうなっているのか」みたいな“大きな力”的な方面の興味が強かったんですが、実際は「設定によって制限を作ったサバイバル」を元にした「どう生きるか」「生とは何か」みたいな哲学方面がテーマの映画になっているので、僕のような俗っぽい期待で観ると裏切られます。

まあジャケットとかの雰囲気からしてそんな陰謀渦巻くSFっぽい映画ではないことは明らかなので、そんなの気付けよバカじゃないのか君はと脳内大泉洋が文句を言ってくる状況でもあります。

率直に言ってあまり劇的な事件も起きず、当然ネタバレも避けないといけないために非常に書くことが限られる映画なので説明が難しいんですよね。

言えることとしては先述のように「彼女の書いた日記を元にしたモノローグ」の形を取っていて、もっと言えば「日記を読んだ今の彼女のモノローグ」も入ってくるので、「あの頃はこう思っていたけど…」とか「この頃は●●が…」とか「今との違い」も語られます。

それが中盤以降に結構重要というか、「えっ、今は違うの!?」と観客をざわつかせてくるので、それがある種の引力になって物語への興味を抱かせるような作りになっています。

それが何か…は当然書きませんが、僕の期待していた壁絡みの話ではないということは言っておきましょう。なのでくどいですがそっち方面は期待しないでください。

まあやっぱりこの映画は哲学なんだと思います。

例によって無学なので本当に言いたいこと、最も訴えたいことについてはよくわかりませんでしたが、もしかしたら聖書のメタファーみたいなものもあったのかもしれません。

人間とは、生とは、そして人間と動物の関係性とは、そういった諸々を色々考えさせられる、今の自分の足元を見つめ直させられる映画なんですが、考えるのがめんどくさいタイプの僕としては「やっぱり普通に生活できるのありがたいなー」ぐらいで終えました。感想が幼児です。

人生を考えたいときに

それと彼女にとっての最高の相棒であり友人であり家族でもあるのがやはり犬のルックスになるんですが、これがもう犬好きとしてはね…めちゃくちゃわかるし染みましたよ。

普通に生きてても犬の存在はものすごく大きいのに、こんな急に孤独な状況に放り込まれた彼女にとって、ルックスの存在がどれだけ大きかったかは考えなくてもわかります。

もし最初に夫婦がルックスを連れて街に行ってたらきっと彼女は生きていけなかったんじゃないでしょうか。ソッコー首吊りエンドで15分の映画でしたよ。

なにせ僕はもう3年近く経ちますが最愛の愛犬を失って以来、「犬とのエピソード」に世界一弱くなっているので、もうそこにいて心を通わせてるだけでダメです。泣きます。

犬好きとして主人公の気持ちが痛いほどわかるだけに、サブテーマ的に描かれる「人と犬」の話もいろいろ考えてしまうところがあって、そこが良かったり、と…まあ詳しくは書けません。

総評としては、設定は面白いものの実際は内面性を問う硬派な映画なので「面白い映画を観たい」ときではなく「自分や人生を考えたい」ときに観る大真面目系だよ、と言ったところ。

僕としては「いい映画だったけどそんなに好きではない」辺りに落ち着きます。

あ、あと猫も出てきてかわいいよ、っていうのは書いておきましょう。もっと出てきてほしかったけど。

ネタバレ

タイトルが二文字だと工夫しようがありません。

途中でルックスの話が過去形になり、「今は生きてない」んだとわかった時点でかなりざわつきました。

ただルックス自身の年齢は当然出てこないし見た目でもよくわからないので、老衰なのかなぁと(それでもつらいけど)漠然と思っていましたが、まさかいると思ってなかった別の人間によって殺されてしまうとは…つらすぎる。

ルックスがいなくなったつらさというのはもう本当に想像を絶するものだと思うんですよ。本人も言ってましたが何よりも大事な存在だったはずなので。

そのルックスとああいう形で別れる、っていうのは…よくその後も生きていくことにしたな、と彼女の強さに驚きました。

きっと壁ができた直後の出来事であれば彼女も生きていけなかったと思うんですが、しばらくサバイバルを経験して強くなったのと、同時にやっぱり他の動物の存在が大きかったんだろうなと思います。

そこにはある種の母性のようなものがあって、自分がいなければ他の動物も死んでしまうだろうと思うと自分が死ぬという選択肢はなかったんでしょう。

そうやって他の動物と人間の境界が曖昧になっていく世界で、いまだルックスの傷が癒えないままの彼女はこの先どう生きていくのか…。

その最後まで観たかったなぁ。

このシーンがイイ!

ビシッとここがいいぜみたいなシーンのある映画ではない気がするんですが、ロケーションはめちゃくちゃ良かったです。

特に高原の方に引っ越したときの景色の良さは素晴らしい。

ココが○

そのロケーションの良さはやっぱりポイントかなと。

あとは動物たちが本当にかわいい。主人公の気持ちとシンクロしてすごく愛おしく感じられてきます。動物がいれば孤独じゃないんですよね。

ココが×

これと言った答えのある映画ではないし、ずっと地味な生活を見守る話ではあるので結構難易度高めです。こういう映画も大事だよねと言いつつもっとわかりやすい単純な映画を観たくなっちゃうダメ人間には不向き。(つまりおれ)

MVA

これはもう選択肢がないので…。

マルティナ・ゲデック(女役)

主人公の女性。

結構良いお歳っぽいですが、モノローグに一切パートナーとかの話が出てこないのできっと独り身なんでしょうね。

それ故に他人事と思えず、なんだかそこも色々考えさせられましたが…でもこれはむしろ一人のほうがまだ良かった、って話でしょうね。

待ってる家族がいたらもっとややこしいことになりそうだし…。きっとそういう余計な情報を入れずに一人の人間のドラマとしてシンプルに作りたかったんでしょう。

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