映画レビュー0819 『ラスト・ウィークエンド』
今回もネトフリ終了間際シリーズ。
どうやら日本では未公開の映画っぽいですね。まあそれも納得の地味な映画だとは思いますが…。
ラスト・ウィークエンド
悩みを持ち寄って、また持って帰るだけの大人の映画。
- 母親も一人の人間だ的な等身大の家族ドラマ
- 特に劇的なこともなく、地味で静かな映画
- 同じ場所で描かれるそれぞれの群像劇っぽさもあり
またかよと言われそうですが、これまたひじょーに地味でなかなか推しどころを見出しにくい映画ではありましたね。ただそんなに嫌いではない感じ。なんだろな…多分雰囲気作りが上手いんでしょうね。
ぶっちゃけ映画として…というか物語としてはかなりどうでもいいお話で、本当に「金持ち一家が久しぶりに昔住んでいた別荘で過ごした週末」でしかないです。そこにそれぞれちょっとした問題を抱えていて、さらに息子の恋人やそれ以外のゲストたちにもいろいろあって、それらがひとつ屋根の下(ゲストハウスもあったし一つじゃないけど)に集まって同じ時間を過ごすうちに、それぞれ少しだけ状況を整理してまた明日から進んでいきましょう、というようなお話です。
主人公はこの金持ち一家の母親、セリア。金持ちなのに100均のお店と同じ名前なのはどうなんでしょうか。彼女は結構神経質なタイプなようで、序盤から結構めんどくさいお母さん像的な印象強めです。
もうすでに彼女と夫の間では「この別荘は売ろう」という方向で気持ちが固まりつつあるようですが、息子たちにはまだ言っていないというような状況。
そんな中やってきたのは長男テオとその彼氏(テオはゲイです)、次男ロジャーとその彼女、さらにテオの仕事関係(?)のカップルと、テオの友達である女優と言った面々。
この辺のメンバーがそれぞれの抱える問題を見せたり見せなかったりしながら、ちょっとしたトラブルやめんどくさいご近所さんに絡まれつつ金曜日から月曜朝まで同じ時を過ごす、というお話です。
全体的にまあ普通にありそうなお話が主体で珍しさも特に無く、地味で平坦な物語なのでこれと言って書くこともないんですが、ただなんとなく(さしてトラブルがない割に)ボーッと観られちゃう謎の雰囲気はあった気がしますね。こういう映画ってホントダメな時は全然ダメですぐ眠くなるタイプだと思うんですが、意外と観られたのが結構謎。劇伴は良かった気がするな…。
やっぱりポイントとしては、もう息子たちも自立して家を出た後でそれぞれ職に就いている状態というところなんでしょう。そこで「久しぶりに家族で集まらないか」と企画するわけですが、その裏には息子たちも知らない「別荘売却からの最後の思い出作り」というフィールドがある、と。
ただ最初の設定として結構気になったのが、まずこういう話であればゲスト無しで家族水入らずスタートで良かったんじゃないかなーという点。
もちろん他人がいるからこそ描けることがあるのはわかるんですが、息子の恋人たちはいいとしても、純粋なゲストっぽいテオの仕事相手らしきノーラとその彼(旦那?)がまずすごく無駄。何なのこの二人。マジでいる意味がわからない。
加えてテオの友達である女優のブレイクもあんまり絡んでこない。彼女は一つ良い仕事をしているのでいなくていいとまでは言いませんが、でも…正直この程度なら家族水入らずの方が話が深まったんじゃないの感。
なんでここで登場人物を増やす必要があったのか…上映時間も短めなだけに、もっと絞って中身を濃くした方が面白くなったんじゃないのーと生意気なご意見をお伝えしておきます。
あと途中で少し大きめなある事件が起きるんですが、これも最終的には「別に無くてよくね?」感が強く、その辺いろいろ観ていくと結構無駄なエピソードが多かった気がする。おかげで全体的に薄まっちゃって何が言いたいのかよくわからんみたいな終わり方になっていったのがとても残念でした。
根本的には、もう息子たちも自立して夫と二人暮らし、その上思い出の別荘やコレクションを“手放す”フェーズに入った母親が、その喪失感を埋め合わせようと思い出を作ろうとする、その情緒的な感覚はわかるんですよ。きっと「歳を取って失うばかり」という虚無感みたいなものも抱えていて、それ故に神経質になったりもするし若いメンバーとの意気込みの違いも出てきたりする、っていう。
ただそういうテーマの割には他のメンバーの話も多めだし、同じ場所で同じ時間を過ごす家族の話ではあるんだけどちょっと群像劇っぽいんですよね。長男はこういう問題がある、次男はこう、とそれぞれの日常とこの週末とのつながりを個別に描いているというか。
それは別に悪いことではなくてむしろ良い作りのような気もするんですが、だとしたらなおさらノーラカップルいらねーだろという気持ちも強く感じるわけで、やっぱりもっと絞って家族に焦点を当てるか、もっとセリア視点を強くした方が心に残った気がする。
ただ、こうして(家族ではない)他人含めて数日間一緒に寝泊まりして、そういう時間があるからこそホンの少し素を出して話せる、自分に素直になれる時間を作る雰囲気というのはとてもいいし羨ましいものではありました。こういう時間と環境がある贅沢さ。
そう、贅沢なんですよね。環境が。もちろんこんな景色のいい湖畔の別荘でこういう時間を作る必要はないので別に良いんですが、主人公一家はお金に困っていないようなのでその辺少し共感が薄れるのももったいない気はします。せっかく等身大のお話にしてるのに。
結局全体の方向性というか…描きたいことは悪くないと思うんですが、設定的に損している部分が結構あって、「昔は毎年借りてた湖畔のコテージに久しぶりに家族で来た」みたいな話にしといた方がもっと観客に近い感じが出て良かったんじゃないのとかいろいろ突っ込みたくなる弱さがあるのがもったいない映画だなと思います。
なんで金持ちなのか、なんで家族以外のゲストが来てるのか、その辺の設定の意味があまり見出だせなかったのが残念。雰囲気は良い映画なんですけどね。
なかなかに地味なので「よし観るぞ!」となりにくい映画だし、こんな感じなのでオススメもしにくいという残念な結果ではありますが、ただ悪い映画とも言いにくい惜しさが目立つ、そんなところでしょうか。
このシーンがイイ!
絶景の夕陽を眺めながら、セリアとヴァネッサ(ロジャーの彼女)が会話するシーンでしょう。ここが一番見せたかったところなんだろうし。あんな景色が見える別荘にいたらそりゃー素直に会話もできるってもんですよ。
あとテオ彼・ルークの歌のシーンとベッドの上で夫婦が会話するシーンも良かったですね。
ココが○
景色の良さと雰囲気の良さでしょうか。なーんか観ちゃう感じがありました。この辺やっぱりアメリカ映画は雰囲気作りの地力がある感じがする。
ココが×
上に書いた通り、無駄な登場人物と活かせていない設定。何が面白いのかさっぱり、って人がいても全然おかしくないレベル。
MVA
んー、まあ順当にこの人かな。
パトリシア・クラークソン(セリア・グリーン役)
主人公。一家の母親で喪失感に苛まれている雰囲気。
非常に自然で「こういう人」感がさすがの安定感。まあこのレベルの人であればそりゃ自然でしょうよという話なんですが。
最後まであまり笑顔もなく、好かれるタイプのキャラクターではなかったですが、「歳を取っても悩みは尽きない」当たり前の事実に気付かせてくれるある種残酷な演技力、良かったです。