映画レビュー0194 『ネバー・クライ・ウルフ』
今回はなんと初めて(多分)DVD化されていない映画っぽいので、ジャケ絵はポスターの絵を元に描いたんですが、まあどうでもいいことでしょう。
ネバー・クライ・ウルフ
自然とは、動物とは、そして人間とは。
(多分)DVDにすらなっていないということで、余程の駄作か、はたまた余程退屈な映画なのか…と観始めましたが、序盤は思いの外軽快に、ニヤリとさせられたりしかめっ面にさせられたりと、なかなか感情をよく動かせてくれて惹きこまれましたね~。
いやいやこれは。なかなかいい映画ですよ。
訓練も積んでいない、「その辺の兄ちゃん」然としている主人公・タイラーが、老人エスキモーに助けられつつ環境に適応していき、「オオカミがトナカイを捕食することでトナカイが絶滅の危機に瀕している」的なシナリオの真偽を確かめていく、というストーリーなんですが、いかにも等身大な主人公のキャラクターで“軽さ”を感じさせつつも、その実なかなか実直で真面目な作りのおかげで、まるでドキュメンタリー映画を観ているような印象。
時代性もあるんでしょうが、“演出感”みたいなものは主人公のキャラクターにちょっと感じる程度で、話の展開やシーン割なんかはある意味ですごく地味。あの忌まわしきクソ演出映画「ハート・ロッカー」とは対極にある映画です。ヴァンゲリスっぽい音楽も最小限に、とにかく自然の雄大さに心を奪われますねぇ。
その雄大な自然と、オオカミの生態を観察していくうちに、自然と観ている人も「自然を守りたい」方のポジションに立たされます。
そして、後半は急展開。
この先は…観て考えていただければな、と。DVD化されてないだけに観るのも容易じゃないですが。
一つ惜しいというか、僕自身の問題ではあるんですが、寝不足だったためか、中盤どうしても眠くてうつらうつらしながら観てしまい、「序盤ほどの惹きこまれ感が無くなってきたな…」という、つまりは中だるみ的な印象はありました。
ただこれもつまらないからとかではなくて、本当に雄大な景色+地味な展開のおかげで、どうしても心地よくなっちゃう部分があるんですよね。
もうちょっと丁寧に観ればよかった…と後悔しつつ、その辺りのやや「引っ張りベタ」な感じが少し惜しかったなぁ、という感じですが、それでもいい映画であることは間違い無いと思います。
自然と動物、そしてその動物の一員であるはずの人間の性質、文明というものの“文明以外への”影響、そういうものを考えざるを得ない映画でした。
内容によっては非常にうるさくなりがちな映画だと思いますが、あくまでサラっと、主人公が非力であるというフィルターをうまく使って、「ちょっと考えてみては?」と語りかけてくるような。
プロパガンダと偽善に満ちていると言われるディズニーがようこんないい映画作ったもんですね。まあ、この映画も「プロパガンダと偽善」と言えばそうなんですが、それだけで片付けるにはちょっともったいない、しっかりと作った映画だと思います。
このシーンがイイ!
とにかく自然の映像がすごくて、今の技術だったら息を呑む映像になってただろうなぁ、と思わされましたが、中でも一番印象的だったのが、序盤にやってきた老人エスキモーを主人公が追いかけて、辺り一面雪景色、画面の中央に人影が2点だけ浮かんでいたシーン。
「作り物じゃないのにすごい映像」というか、その特異性で北極の自然って怖いなーと思わせる説得力がありましたねぇ。
ココが○
僕はかなりの愛犬家なので、犬に近い動物であるオオカミの映像はいろいろ感情的に沸き立つものがありました。綺麗でかっこいいな、っていうのもあったし、子供たちとじゃれあってかわいいな、っていうのもあったし。
この映画では「オオカミは悪なのか?」という入り口から観ている人をオオカミ側に引っ張っていく展開になっているので、演技的なものを含めたオオカミの描き方、生態を捉えた映像というのがすごく大事だし、その辺りもすごくよく撮れていたと思います。
ココが×
まあ、途中でちょっと寝ちゃったので…やっぱりもう少し、中盤の展開で引っ張ってくれるような要素があったら…とは思いますが、とは言え寝たのは自分自身のせいなのであんまり言えません。
MVA
本来であればオオカミ家族、特にお父さんの演技が抜群だったと思いますが、まあそれはちょっと趣旨が変わってくるので…。
チャールズ・マーティン・スミス(タイラー役)
主人公。
まあ、全編この人中心なので他に選びようがないような面もありますが、ただ「真面目」で「コミカル」で「ちょっとヘタレ」な感じとかすごくお上手だったので、ドキュメンタリー然とした映画なだけにさすがに良い人をキャスティングしてるなーと思いましたね。