映画レビュー1269 『僕たちのラストステージ』
まだ大してモチベーションも無いんですが、ゲームができないためにあまりにも暇なので休みの日は徐々に「映画でも観ようかな」という気分が戻ってきました。
よってこの日もJAIHOから良さげだなと思ったこちらの映画をチョイス。
僕たちのラストステージ
スティーヴ・クーガン
ジョン・C・ライリー
シャーリー・ヘンダーソン
ニーナ・アリアンダ
ルーファス・ジョーンズ
ダニー・ヒューストン
2018年12月28日 アメリカ
98分
アメリカ・イギリス・カナダ
JAIHO(Fire TV Stick・TV)

ありきたりながら優しさ溢れる。
- サイレントからトーキー時代に人気を博したコンビの伝記映画
- 話としてはよくあるパターンではある
- ただし本人たちが仲がいいからか全体的に漂う優しさが心地良い
- ジョン・C・ライリーの新境地
あらすじ
まーやっぱり「いつもの感じだなぁ」とちょっとガッカリした部分も大きかったんですが、とは言え実話らしい歴史の一部を知られる楽しさもあり、端的に良い映画だとは思います。
時は1930年頃、映画の主流がサイレントからトーキーに移り変わる時代、世界的に人気を博したお笑いコンビ「ローレル&ハーディ」。
しかしその人気とは裏腹に二人ともあまり金銭的に恵まれた状況にはなく、業を煮やしたスタン・ローレル(スティーヴ・クーガン)は雇い主であるハル・ローチ(ダニー・ヒューストン)に独立も辞さない勢いで給与アップの交渉に臨みますが、平和主義のオリヴァー・ハーディ(ジョン・C・ライリー)はどっちつかずで交渉は腰砕け。それによって余計にスタンは不満を溜め込む状況に。
それから時が経ち、1950年代。
落ち目となっていた二人ですがいまだ現役、新しい映画の話も来ていて意気軒昂に復活を賭けたツアーへ繰り出します。
しかし用意された小さな劇場ですら客もまばら、なかなかうまく行かない状況の中で二人は再び脚光を浴びることができるのでしょうか。
優しい伝記
例によって無知な僕は知りませんでしたが、あのチャップリンたちと同時期に活躍したコンビ、日本では「極楽コンビ」の名称で親しまれたというローレル&ハーディの伝記映画です。
オープニングでチラッと絶頂期が描かれ、その後すぐに落ちぶれた晩年のメインストーリーに入る流れ。
しかし落ちぶれたとは言え絶頂期の名前の売れっぷりはやはりすごかったようで、どこに行っても「あの?」と名前は知られているのがすごい。
むしろ「知ってはいるけど引退している」と思われているパターンが多かったようで、いわゆる開店休業状態だったんでしょうね。
観ていてまず思い出したのは「ごっつええ感じ」でやっていた、歳を取って落ちぶれたダウンタウンを描いたコント「2014」。それでも今から8年前の設定というのが改めて驚きですが…。
あそこまでひどいものではない(そもそもあっちはコントなので当然ですが)にせよ、やはり時の流れの残酷さを感じてしまう「絶頂期と現在の対比」に複雑な思いを抱きつつ観ていました。
ただ当人たちはその状況を悲観するでもなく、それなりに受け入れて頑張ろうみたいなところがあって、その姿はなかなか良かったですね。良い具合に枯れているというか。
歳のせいもあってかギラギラしてないし、あてがわれた(?)マネージャー的な男、バーナードがあからさまに上り調子の若手を優遇して二人には適当に対応しているのがわかっていても不満も漏らさずに付き合う姿は、歳を取ることへの向き合い方を教えてくれている気がします。
やがて(オープニングがフリとなった)過去のエピソードから来るアレコレや、それを踏まえたアレコレ(一応伏せます)が描かれる流れに関してはもう本当に飽きるほど観たパターンではあるので、「まあいつも通りだわね…」と言った感じで新鮮味もなく残念ではありました。
とは言え事実を曲げるわけにも胸クソ悪いエンディングにするわけにもいかないとは思うので、実在の人物を描く以上この流れに不満を言うのもまた違うんだろうとは思います。
それを重々わかりつつもやっぱりこのパターン飽きたなと思っちゃう自分の悲しさ、ですよ。
ただ、全体的な流れは飽きたものではありますが、空気感や二人の関係性はやや他にはないものがあって、そこが結構良いなと感じられたのも事実です。
特に珍しいなと感じたのは、コンビなのにすごく仲がいいんですよね。
大体お笑いコンビは仲が悪いのがデフォルトだと思うんですが、この二人はそうじゃないからか全体的に不穏な感じが無く、それ故かすごく温かな雰囲気が感じられて優しい気持ちになれる映画なのが良いなと。
TAKE2じゃこうはならないでしょうからね、絶対。(例えに出すコンビとしてこのご時世TAKE2もどうなんだ説)
もちろんいざこざもありますが、それが決定的な対立にならないだろうなという安心感があって、「コンビは仲が悪いもの」と思っている人間にとってはなかなか不思議な感覚でした。
またこれ結構重要な気がしたんですが、ジョン・C・ライリー演じるハーディの佇まいがこの映画の「優しい雰囲気」の大部分を担っていて、あの体型(特殊メイクに4時間かかったらしい)と雰囲気で往年のハーディの人となりが伝わってくるような、同時にその彼を相方として大切に思うスタンの気持ちもわかるような、なんとなく「知らないコンビの伝記」よりも解像度が高くなっていたような気がして、これはジョン・C・ライリーはいい仕事したなぁと思った次第です。
コメディ適性はかなり高い人だとは思ってましたが、この雰囲気を醸し出す印象はなかったので改めていい役者さんなんだなと。
奥さん二人も面白い
ぶっちゃけやっぱり芸としてはトーキー時代のものなだけに今観てゲラゲラ笑うようなものでもない…というかなぜこれでそんなに爆笑してるのかよくわからないぐらいなんですが、とは言え(チャップリンの映画のように)芸そのものをじっくり見せるような映画でもないだけにその辺もあまり気にならないで観られるでしょう。
あくまで本線はコンビのそれぞれの人間性なので、よくあるパターンではありますが誰にでも観やすい良作でもあると思います。
そうそう、あともう一つこの映画ならではの特徴として書いておきたいのは、それぞれの奥さんが結構重要…というかさながら“別のコンビ”として存在感があるのも面白かったですね。
むしろ本線がベタな分、この“別コンビ”二人の違いとやり取りが劇中スピンオフのように見えて、なんならもっと観たかったなと本末転倒なことを思うぐらいには面白い二人でした。こっちの方が一般的な「コンビのイメージ」に近いというか。
そんなわけであったか伝記映画が観たい方は一度観てみてはいかがでしょうか。
このシーンがイイ!
喧嘩のシーンはすごく印象的でしたね。周りがコントなんじゃないか、って思ってるところがすごくリアルで。
ココが○
流れとしてはベタな映画ではありますが、そこで描かれるものが安っぽい「長年連れ添った相方だから」みたいな情ではないところに価値があると思います。本当にいいコンビだったんだな、って。
ココが×
くどいようですがよくあるパターンなのは否めません。
かと言って別の料理の仕方もわからないんですけどね。こればっかりは既視感が出ちゃうのはやむを得ないところでしょう。
MVA
僕は結構スティーヴ・クーガン好きなんですが、今作ばかりはこの人でしょう。
ジョン・C・ライリー(オリヴァー・ハーディ役)
コンビの片方、太っちょ。
上に書いた通り、4時間かけての特殊メイクでなりきっていましたが、まあその優しい雰囲気がすごく良かったですよ。
ラストも魅せる演技でとても良かったし、新境地と言って良いような気がします。お見事でした。