映画レビュー1378 『デビルズ・ダブル ─ある影武者の物語─』

今回はJAIHOの配信終了近い作品といういつものパターンです。

デビルズ・ダブル ─ある影武者の物語─

The Devil’s Double
監督

リー・タマホリ

脚本

マイケル・トーマス

原作

ラティフ・ヤヒア

出演

ドミニク・クーパー
リュディヴィーヌ・サニエ
ラード・ラウィ
フィリップ・クァスト
ナセル・マメジア

音楽

クリスチャン・ヘンソン

公開

2011年7月29日 アメリカ

上映時間

108分

製作国

ベルギー

視聴環境

JAIHO(Fire TV Stick・TV)

デビルズ・ダブル ある影武者の物語

珍しいパターンの実話系。

8.0
傍若無人極まるサダム・フセインの長男、ウダイの影武者にさせられた男
  • かつて同級生だったウダイに脅され、影武者として生きることを強要された男
  • ウダイの傍若無人ぶりを間近で見続けることで次第に彼と対峙していく
  • ウダイのクズっぷりがほぼ実話なのがすごい
  • 一方で主人公像は若干眉唾

あらすじ

実在の人物を扱った映画としてはオーソドックスな作りで無難に面白かったんですが、その題材となる人物があまりにもすごかったのでその意味で普通のこの手の映画よりも強烈な映画になっているような気がします。

イラクの独裁者、サダム・フセインの息子として「何でも好きなようにできる」人生を歩んできた超のつくガチクズドラ息子・ウダイ(ドミニク・クーパー)。

彼はあるとき、かつて共に学校に通っていた同級生でもあるラティフ(ドミニク・クーパー)を自らの元へ呼び寄せ、影武者になるように迫ります。

最初は友人として頼むような形でしたが、繰り返し固辞するラティフに対し「お前に選択肢は無い」とばかりに家族の命も利用して脅しながら承諾させ、「弟」としてそばに仕えさせます。

ウダイはとにかく好き放題の放漫な生活を送っておりまして、特に女性関係は書けないレベルでひどい。年齢も関係なく好みのタイプは片っ端から強引に抱いていくという最低の男です。

そして他人の命も軽く扱い、抱いたあとに殺すなんてことも珍しくない極悪っぷりを間近で見ているラティフは徐々に彼の生き様を我慢できなくなり、やがて主従関係も気にせず人前でも堂々と反抗していくようになりますが、はたしてこの2人の関係はどうなるんでしょうか。

実際はもっとクズだったらしい

もちろんサダム・フセインは知っていましたが、その息子がここまで(父親のサダムすら手を焼くぐらいの)極悪人だったとはまったく知らず、もうこの人物像だけである意味美味しいと言うか…映画向きのとんでもない人物でした。マジで。

西欧の価値観からすればサダム・フセインこそが独裁者だしとんでもない悪人だ、と刷り込まれているわけですが、なんならこのウダイの極悪っぷりからするとサダムはひどく真っ当で「国を率いるだけあるな」と思えるような“ちゃんとした大人”感があり、そのギャップにまたやられちゃうような側面もありましたね。こいつが国を引き継いでたらどうなってたんだ、と。

もちろんサダム・フセインが“悪”であるという見方は(例のイラク戦争で大量破壊兵器の存在を理由に攻め込んだもののそれが無かった云々という視点は置いといたとしても)、国体とか国家とか大きな枠組みの体制をどう運営していくのか、政治体制をどう作っていくのかといった多分に政治的な要素から成り立っていると思うので、個人の性格や人物そのものについての評価はまた別であるのも自明な話で、そこをごっちゃにしているからこういうところでびっくりしちゃう自分の浅はかさも感じるわけですが、しかしそれにしてもウダイの極悪っぷりはもうその辺のヤンキーとか半グレ連中みたいなものがそのまま国家の根幹で好き放題やってます、みたいなすごく低次元なレベルの低さで、早い話が器が小さい。とんでもなく小さい。

そんな人間に「独裁者の息子」という肩書のみで好き放題されるといかに周りがしんどいのかがよくわかる話になっています。

で、この手の話は当然ある程度“盛って”てもおかしくないので、「さすがに脚色でしょ」と思わざるを得ないぐらいの極悪っぷりなんですが、どうもWikipedia(ソースがWikipediaであることの問題もまた置いといて)を読む限りではそこまで盛っている感もなく、当たらずも遠からず的なレベルでひどい人物だったようです。

劇中結構重要なシーンとしてフセインの影武者とのエピソードがあるんですが、あれについてはさすがにそこまで確信犯的にひどいことはしていないようですが事実として同様の結果を招いており、やはりある程度は「映画通りのクズ」だったことは間違いなさそう。

一番びっくりしたのが、映画では「サッカー選手を拷問にかけたことを自慢気に話す」シーンが出てくるぐらいなんですが、これもまた事実だったようで、なんと我々おっさん世代には忘れがたいあの日本サッカーの歴史的事件「ドーハの悲劇」の裏にウダイがいた、というお話。

あの日本対イラク戦では当初から「日本に負けたら全員鞭打ち」と決められていたらしく、前半終了時点で日本が1点リードしていた状況だったため、ハーフタイム中にロッカールームにそのウダイが現れ「お前たちわかってんだろうな」とわかりやすく脅した結果、イラクのメンバーは後半死にものぐるいで戦って「ドーハの悲劇」が起きた、という…。

「そりゃ勝てんわ」と思いましたね。

こんな極悪人に匂わせ食らうようなメンバーと日本代表が戦ったらそら勝てなくても責められないよと。

イラクでは52人ものスポーツ選手がウダイの拷問によって命を落としたと言われているらしく、文字通り死と隣り合わせのイラク代表選手とあの最終予選で戦わなければならくなった時点で当時の日本代表はすでに厳しい状況だったんだな…と今さらながら納得がいった次第です。

その他映画で描かれていない部分でもとにかく信じられないぐらいのカス野郎なので、この映画で描かれる彼の姿はなんなら「娯楽として消化できる程度」にマイルドになっている可能性すらあり、そこも含めてとんでもない人だったんだなと衝撃を受けるぐらい(少し前ではありますが)現代の人間の所業とは思えないレベルでした。

それを知るだけでもある意味観る価値があると言えますが、ただ女性の扱いについては本当に男の僕ですら(映画の描写レベルでも)許しがたいと思うぐらいに極悪非道なものなので、女性が観るには結構な覚悟がいるようにも思います。そこだけはご注意ください。

実は主人公も怪しい

というわけで「映画で極悪だなと思った人物が実際はもっと極悪だった」ということで“盛りすぎ実話系”よりもまともで良かった…と思いきや、実は逆に主人公のラティフの方がやや怪しいというか、早い話がこの映画で真っ当な人物として主人公を務めるほど信頼できるような人物ではなかったという説もあって、それもまた場外戦として面白い話ではあります。

そもそも「ラティフがウダイの影武者だった」こと自体が一部で疑問視されているらしく、まあそれはそれで確かに映画でも「弟」だったし影武者の割には一緒にあちこち出回ってるから映画自体完全に影武者として扱っているようには見せてないしね…と思う一方で、そもそも彼が語るかつての経歴自体が眉唾と見られているという説もあり、つまりは「ラティフはホラ吹き」の可能性が高い…って話なんですよね。

結局彼が自分の価値を大きく見せるため(それはビジネス的な旨味も含めて)に作り上げた創作影武者エピソードの映画化、ぐらいに見ておいた方が良さそうなんですよ。どうやら。

ただウダイの方は詳細は置いといて実際にこれぐらいクズだったらしいことを考えると、「本能寺の変にタイムスリップした僕」みたいな史実と創作を織り交ぜた娯楽話程度の話なんじゃないかなと思います。

そうだとしたら逆にラティフの創作力すげーな、という気もするんですが、そういった虚実ないまぜのエピソード含めてカッコ付きの“実話系”映画としてなかなか面白い、他にない話かもしれないですね。

ちなみに余談ですがベルギー映画ではあるものの、主演がドミニク・クーパーであることからもわかる通り普通に英語の映画でした。考えたらベルギーの映画って初めてだったかもしれない。全然そんな感じもしないぐらい普通のアメリカ映画、って感じでしたが。

あと気付いたら映画についてのレビューじゃないよねこれ。

このシーンがイイ!

やっぱり結婚式のシーンは本当に嫌で印象に残るシーンでしたね…。胸糞悪すぎる。

ココが○

ウダイのクズっぷりは一見の価値ありだと思います。人はここまで落ちることができるのか、と本当に衝撃でした。

ココが×

一方でそれだけのクズっぷりを(特に)女性に対して発揮するだけに、上にも書きましたが女性は鑑賞注意です。かなりつらいものがあります。

MVA

これはまあ特殊な役柄でもあるし、一択でしょう。

ドミニク・クーパー(ウダイ・フセイン/ラティフ・ヤヒア役)

ウダイとラティフの一人二役。どっちも主役なので一人ダブル主演です。

こういった役としては当たり前っちゃ当たり前なんですが、「ちゃんと別人」に見えるのが素晴らしい。ウダイは本当にクズにしか見えないし、ラティフはしっかりかっこよく見える。

声の出し方もだいぶ違ってしっかりキャラを分けていて、ウダイのときの甲高い声が忘れられません。あそこまでクズな役だと逆にすごく楽しそう。見事な二役でした。

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