映画レビュー0753 『シェイプ・オブ・ウォーター』

ご存知今年のアカデミー賞監督賞・作品賞その他を受賞した話題の映画です。

日本版は完全版じゃないらしい…と聞いて観に行くのはやめようと思っていたんですが、聞くと「1シーンだけおっさんのケツにモザイクが入ってる」だけらしいので行くことにしました。ちなみに小さめのスクリーンではありましたが、ほぼ満席に近い入りっぷりでやっぱり注目度は高いみたいですね。

余談ですが今月は観たい映画が他にもかなりあって困っております。そのうち何本かご紹介できればと思っておりますが…。

シェイプ・オブ・ウォーター

The Shape of Water
監督
ギレルモ・デル・トロ
脚本
ギレルモ・デル・トロ
ヴァネッサ・テイラー
原案
ギレルモ・デル・トロ
音楽
公開
2017年12月8日 アメリカ
上映時間
123分
製作国
アメリカ

NO IMAGE

東西冷戦時代のアメリカである日、とある機密機関に半魚人が連れ込まれる。この施設で清掃員として働くイライザは、凶暴な研究対象として邪険に扱われる彼と意思疎通を図ろうと何度も接触を繰り返すうち、徐々に心を通わせていくのだが…。

醜いのは誰なのか。

8.5

個人的にギレルモ・デル・トロ監督の映画は初めて観るんですよね。映画好きが聞いて呆れるぜ、と言われそうですが言いに来るほど人が来ない、という平和なブログでございます。

ジャンルとしては間違いなくファンタジーなんですが、周知の通り半魚人と人間との恋愛がメインでもあるし、サスペンス的な要素もあるし、その他言わないけどアレやコレやの要素もあるしで、最近よくある様々なジャンルにまたがった「こういう映画」とは言いづらい(良い意味で)ごった煮な映画でした。が、あえてなんでしょうがあんまり人物描写を深掘りすることもなく、割と表面上でわかりやすく展開するお話でもあるので、「異種族間の交流」という字面から受ける印象ほど深さだったり示唆だったりがある内容ではなかったのが良くも悪くも娯楽映画感を強めていたような気がします。

主人公は言葉を話すことができない女性、イライザ。彼女はいわゆるよくある感じの軍事機密で固められた軍の施設みたいなところで清掃員として働いています。なんでかこの施設は通常の稼働時間が夜なんですよね。なんとなく雰囲気的に夜のほうが神秘的で盛り上がるからなのかなーと安易に受け取ったんですが。この辺からファンタジー感を高めている気がしないでもないです。

そんな彼女が働く施設に、ある日南米から半魚人的な生物が研究対象として搬入されて来ます。彼は…まあこれまたお決まりの展開ではありますが、「野蛮で凶暴な知性のない動物」的な存在として虐待のような形で実験体にされ、鎖につながれてひどい扱いを受けているわけです。

その後なんやかんやあって彼に興味を持ったイライザは、彼女の好物であるゆで卵を彼に与えてみたり、レコードを持ち込んで一緒に聞いたりしながら彼と徐々に心を通わせていくんですが、当然ながら彼は「研究対象」のため、そのまま施設で仲良く暮らしましたとさ…ってな具合にはならず、研究の成果が上がらない現状に業を煮やした軍上層部の判断で「解剖実験」という決断を下されてしまう…というお話です。

こっからまたさらにいろいろあってですね、僕が思っていた「この辺がピークなのかな」というところからさらに結構物語が進むような印象でした。僕が予想していたピークは時間にしてほぼ半分ぐらいのところだったかなー。節穴。FU・SHI・A・NA。なのでその辺はあまり予想もしないでですね、お楽しみくださいよと。こっから先がなかなか味があるお話なので。

一応軽く周辺事情を説明しておくと、主人公のイライザと謎の半魚人を軸にしつつ、イライザの隣人で友人でもあるゲイのジャイルズ、そしてイライザの同僚でこれまた友人でもある黒人女性のゼルダと言った面々が二人(?)に協力する形で、いわゆる悪役的なポジションである施設の責任者的立場のストリックランドと対峙するような構図がメイン。

ただジャイルズにはジャイルズの、ゼルダにはゼルダの生活(≒人生)があり、さらにストリックランドにも彼なりの環境があるんだよというのをきちんと描いているので、それぞれの体現するポジションや価値というものがわかりやすくなっているのもポイントでしょう。単なる友人や単なる悪役として配置されているわけじゃない、それぞれに人としての物語を込めているおかげで、(社会における)主流と言える立場のストリックランドとそれに対峙するマイノリティサイドのイライザ+友人という組み合わせが、この映画についてよく言われる「現代的な分断と多様性の戦い」のようなものを内包していることをわかりやすく伝えているのは間違いありません。

そしてもちろん、その立場を最も強く反映しているのが「人と言語によるコミュニケーションができない」半魚人なわけです。イライザが彼のことを「言葉を話せない私をありのまま受け入れてくれる存在」と(手話で)語るシーンがあるんですが、まさにそこが表向きの主眼なんでしょう。言葉が話せないためにずっとどこかで感じていた孤独感を、同じく言葉を話せない上に種族すら違う彼が自らを受け入れてくれる(ように感じられる)ことの救いがイライザに愛を育ませるという流れは涙を誘います。

で、まあこの辺の詳しい話はもっと高尚な方たちにお任せするとしてですね、僕はもうすごくバカっぽく単純にふと思ったんですが、この「言葉を話せない異種族とのコミュニケーション」って、犬とか猫がまさにそうだなと思って観ていたんですよ。

当然ながら言葉は通じないものの、名前を呼べば来るし、寝込んでるとそばにいてくれるし。その尊さったらないじゃないですか。

飼ったことがある人ならわかると思うんですが、犬も猫もものすごく表情が豊かなんですよね。表情を見てわかること、伝わることってめちゃくちゃあるんですよ。

表情と行動で察してコミュニケーションを取る、その理解は間違ってるかもしれないけど、でも長く一緒に暮らせば暮らすほど伝わるように感じられる、その尊さを考えながら観ていたら…まー泣いちゃいましたよね。やっぱり。

もちろん単純に同列にできる話でもないんですが、その「異種族とのコミュニケーション」を身近に感じられた時点で、かなり感情移入が高まったのも事実だと思います。なんて言うんですかね…「無理がない物語」に思えたような。ただのファンタジーだと流せないリアリティを感じられるようになった気がします。

また、彼は異形の異種族なので、最初パッと見たときはやっぱりウワッと思うような、ほんの少しだけある種のグロさみたいなものも感じるんですが、次第にすごく美しく見えてくるのが素敵だなぁと思いました。

単純に細マッチョ的なデザインっていうのももちろんあるんでしょうが、それ以上にやっぱり内面が純粋に見えるからこそなんだと思うんですよね。

何せストリックランドの指を食いちぎったぐらいなので力で言えば相当なものがあるのは間違いないんですが、でもイライザと心を通わせる様はとても無垢に見えるし、それ故愛おしくなっていくという見せ方のうまさも大きかったと思います。この辺もバカっぽくて申し訳ないんですが、犬と一緒だなーと思ったり。ブサイクに見えるパグとかブルドッグも表情が伝わってくるとすごくかわいく見えてくるじゃないですか。ああいう感じがあるなーと思って。

で、彼をただの野蛮な生物としか見なしていないストリックランドはものすごく醜く見えるわけですよ。これがまさに現実の差別主義的な人たちの見え方を投影しているようでまた考えさせられるわけです。

現代的な問題をファンタジーに載せ、娯楽映画として作りつつもその辺りをしっかり訴えてくる作りはお見事でしょう。

不満も無いわけではないし、そもそも僕がファンタジー×恋愛自体あまり好きなジャンルじゃないということもあって、そこまで「めちゃくちゃ良かったわー」と涙したわけでもないんですが、それでもじんわりと泣いたししみじみ良かったなーと思えたので、逆にこの手のお話が好きな人にはもうたまらないんじゃないかと思います。

表面上をさらっと観るだけでもグッとくるだろうし、その先に込められたメッセージも考えればよりグッとくるだろうしで、一粒で二度美味しい系の映画じゃないかなーと。

ちなみに観る前に「ちょっとグロい」と聞いていたんですが、その辺りは僕的には全然問題がないレベルだったこともお伝えしておきます。この程度ならグロいって言うほどのレベルじゃないかなーと。食いちぎられた指が出てくるぐらいで。

ネタバレ・オブ・ウォーター

僕は「施設から逃げ出させる」のがピークだと思ってたんですよね。その後良かったねーでハッピーエンド的な。そしたらその後の方が濃かったねごめんなさいねっていう。

いっくらなんでも簡単に逃げやすすぎじゃね? とか思わないでもないですが、その辺も含めて「古い(冷戦)時代だから割とセキュリティも甘いんだよね」と納得させるための舞台背景なのかなと言う気もしたり。

終わり方は全然予想していないものだったのでより感動しましたね…。本当に細かい部分ですが、あの最後の「愛おしいイライザの周りを泳ぐ」シーンに人とは違う神秘性みたいなものが感じられる気がして良かったです。往年の名作「ヴァンパイア」のオルバス的な感じ

それともう当たり前の話ですが、セックスするのが良いですよね。直接的にそういうシーンは描かないけど、「やったよ」っていう事実は提示する。そこでただの動物愛護物語にしないぞ、っていうしっかりとした恋愛映画として昇華した感じがあって。これでセックスしてなかったら上っ面過ぎて綺麗に見せ過ぎなのが気になったんじゃないかなーという気はします。

あと一つ言っておきたいのは、ゼルダの旦那さん。観客から見て悪ではあるものの、組織人として理解できる面があるストリックランドと比べると、本当にただのクソチキン野郎でクソガッカリですよ。なんなのあのおっさん。あんなのでも結婚できると(以下愚痴のため割愛)。

このシーンがイイ!

ラストシーンはもちろんですが、その前のアレのシーンも良かった。でもネタバレになるので書きません。

差し障りのないところで言うと、中盤イライザが必死に手話でジャイルズを説得しようとする場面がとても好きでした。あそこでもう泣いちゃったもんね。なんか。

ココが○

冒頭でイライザが“飢えている”ことを理解させるシーンが何度か挟まるんですが、「サリー・ホーキンスおっぱい綺麗だなー」ってそうじゃなくてですね、その前フリが後にかなり効いてくるのが良かったと思います。最初は「このシーンいるの?」と思っていましたが確実にいるシーンでした。説得力がまるで違う。

主義主張的な部分で言えば、やっぱりもう単純に例えば「イスラム教徒がテロリスト視されるも無実」みたいなお話は悲しいかな「ああまたそれね」ってなっちゃう部分がどうしてもあると思うんですよ。もう映画的にこすられすぎちゃって、「差別するなよ」ってメッセージ以前に流されちゃうベタさが使いづらくなっている面がある気がするんですよね。そういう意味では、こういう突飛なようでいてしっかり本質を訴えている映画というのはアイデアの勝利でもあり、素晴らしいセンスでもあるなと。

もちろんそこだけが主体の話でもないし、その辺りのさじ加減がとても良いお話ではないかなと思います。

あとすごく細かい部分ですが、字幕が黄色だったんですよね。それがすごくファンタジー感を増していて雰囲気を作ってくれたような気がしました。

それと劇伴もかなりファンタジー色を強めてくれて、暗くなりがちな舞台を引っ張ってくれていたと思います。デスプラさん良いお仕事。

ココが×

自分が思っていたよりもピークがあとの方だった、っていうことにもつながるんですが、僕はもうちょっとイライザと半魚人が心を通わせる過程を丁寧に見せてくれるのかなと思っていたので、そこが少し物足りない気はしました。割とあっさり理解し合っちゃった感じがしちゃって。

MVA

本当にサリー・ホーキンスすげーなーどの映画でも全然違うなーおっぱい綺麗だなーと思って感動したので彼女に…したいところですが、今回は僕が今までと一番違うと感じたこちらの方にしようと思います。

リチャード・ジェンキンス(ジャイルズ役)

イライザの隣人であり友人でもあるゲイの画家。

「これリチャード・ジェンキンスだよなぁ…」とずっと半信半疑で観てたぐらいに、僕の中での彼の印象とかなり違う、柔和で素敵な爺さん感がたまりませんでしたね。

かの「たまがわ」で語られていた通り、まさに「良い隣人の出て来る映画は良い映画」。彼の存在がものすごく大きい映画だったなーと思います。オープニングとエンディングの語りも彼だしね。

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