映画レビュー0333 『裏切りのサーカス』

これもなー。劇場に観に行きたかったんです。本当は。でも案の定、こんな地味そうな映画はシネコンではほとんどやらないんですよね。やっても1、2週間だからタイミングが悪いと行けないし。そんなわけで、早めのレンタル。

裏切りのサーカス

Tinker Tailor Soldier Spy
監督
脚本
ブリジット・オコナー
音楽
公開
2011年9月16日 イギリス
上映時間
128分
製作国
イギリス・フランス・ドイツ
視聴環境
TSUTAYA DISCASレンタル(ブルーレイ・TV)

裏切りのサーカス

舞台は冷戦下。イギリスの諜報機関・MI6(通称サーカス)ではとある作戦を計画するが失敗、その責任をとって、トップのコントロールと彼の右腕スマイリーは引退させられる。やがてサーカス内部に二重スパイがいる疑いが浮上すると、政府上層部のレイコンは引退したスマイリーに捜査を依頼する。

緊張感の張り詰めた空気感がたまらない。完全大人向けサスペンス。

9.5

いやーーーこれは。想像以上に良かった。

冷戦下で二重スパイが内部にいて、その捜査を引退した人間が担当する、という筋自体は特に目新しさはありませんが、絵作りと緊張感、役者陣の熱演とすべてが高レベルで大満足。かーーーなーーーりーーー上質なサスペンスに仕上がっております。ハイ。

オープニングは、サーカスのトップ・コントロール(という名前です)と彼の右腕である主役・スマイリーが引退させられるきっかけとなる、コントロール一人で計画したと思われるハンガリーでのミッション。そのミッションが失敗に終わり、コントロールとスマイリーは引退しますが、皮肉にもその「ミッション失敗」のためにサーカス内部に二重スパイ、通称「もぐら」がいることが判明、その捜査にスマイリーが駆り出される…というところからスタート。

まだサーカス内部にいる信頼出来る人間と、元警官なんかを集めてその「もぐら」を探し出すために外部から捜査をしていくというお話で、大枠で言えば本当によくあるような物語ではありますが、これが非常によく出来ていました。

ぶっちゃければものすごく地味で、まあ華やかさとは無縁の地味な映画です。ですが、その分…というか、とにかく話もしっかりしてるし、何より画面から伝わる緊張感、張り詰めた空気が素晴らしい。「もぐら」と思しき4人の幹部も、それぞれが腹に一物持ってそうな怪しさたっぷりで、「ああ、スパイって実際こんな感じなんだろうな」というリアリティに溢れています。

物語は現在を中心に、かつてコントロールがトップにいた頃の話や、問題となったハンガリーの事件、そこにつながる別のスパイの捜査なんかが絡み合いながら展開しますが、核になるのは「もぐらは誰か」。その捜査を通して、KGBのスパイとのやりとりやなんかも絡みつつ、エンディングに向けて人間ドラマの色合いもたたえながら…と言う重厚な内容。あとは…もう観ていただくより無いです。

残念ながらここがいいだのあそこがいいだの書くのもヤボというか、久しぶりに地力がある映画を観たという感じで、言葉であーだこーだ言うよりも観てよさを感じてもらうしかないな、という感じ。

ストーリーはもちろんいいんですが、何よりしっかりとした緊張感の描き方が素晴らしく、安っぽい煽りも無いし、興醒めする突然の退場やら救世主登場やらもなく、至極真っ当なスパイ映画を紳士に作りました、という感じが最高です。この辺もまたイギリス映画らしい真面目さが素晴らしい。イギリス映画バンザイ。人間ドラマとしてもすごくいいです。

珍しく(?)すごく良かった映画の割に語ることが無いというパターンなんですが、これはもう本当に観てもらって、肌で良さを感じる映画なんじゃないかと。

ただ、かなり地味ではあるし、やや残酷な描写もあるし、いわゆる「行間を読む」ような、表情とかセリフの外から読み取る部分もあるので、集中してても向いてない人は理解できない難しさもあると思うので、人を選ぶ面はあります。

僕のようにスパイモノが好きで、なおかつ頭を使う真面目な映画が好きだっていう人にはうってつけじゃないかと。笑いどころも泣き所もほぼゼロなので、安っぽい言い方ですが「ビターな大人向け娯楽」というか。割合サスペンス慣れしている人にはかなりグッと来る映画だと思います。

オススメ!!

このシーンがイイ!

オープニングから「こりゃ間違いなくよくできた映画だな」と思わせる作りが素晴らしかったですが、一つ挙げるなら飛行場(?)のようなだだっ広い場所での会話のシーン。最高。

ココが○

全編芯の通った作りが文句なし。映画として一段上のレベルにありますね。ヘタな監督だったらこの空気は出せない。

それと、役者陣の素晴らしさ。誰もがいい表情で盛り上げます。地味ながら、キャスティングがすごい。

ココが×

やや登場人物が多いので、人物相関図みたいなものが欲しいな、という気がしました。事前に観ておいてもいいかもしれません。ただ、ネタバレにつながるようなのは当然厳禁なので、公式にあるような内容の薄いやつ程度にしておきましょう。

あとは上にも書いた通り語りすぎない映画なので、人物整理もそうだし、話の内容自体も割とサスペンスに慣れてないと難しいかも。

MVA

もうどいつもこいつも怪しかったり味があったりで最高でした。久々にマーク・ストロングが悪役じゃなかったのが嬉しかった。この人もまた渋くていい味出してましたが…悩みつつ、このお方。

ゲイリー・オールドマン(ジョージ・スマイリー役)

この人の割に一見かなり地味なんですが、なんというか…すごく懐の深さを感じる演技で。

当然ながらいぶし銀感たっぷりだし、何より「辛酸を嘗めてきた」人生の重みみたいなものがにじみ出ている辺りが素晴らしかったです。

それといわゆる「能ある鷹が爪を隠している感」みたいなのが漂っていて、その上「スパイだけど善人…だけど裏が見えてこない」感じがまた良くて。ミステリアスさと言うんでしょうか。さすがの存在感。

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