映画レビュー1565 『1984』
めちゃくちゃ観たかった1作なんですが、U-NEXTをぼんやり眺めていたらあったのでこれ幸いと観ました。
やはりU-NEXTの品揃えは侮れないぜ…!
1984
マイケル・ラドフォード
『1984年』
ジョージ・オーウェル
ジョン・ハート
リチャード・バートン
スザンナ・ハミルトン
シリル・キューザック
グレゴール・フィッシャー
ドミニク・マルダウニー
ユーリズミックス
1984年10月10日 イギリス
113分
イギリス
U-NEXT(Fire TV Stick・TV)

原作にかなり忠実、ただ端折られている分理解しづらいのも確か。
- 言わずと知れたディストピア小説の金字塔「1984年」の映画化
- ストーリーもビジュアルも原作にかなり忠実に作られた、真面目な映画化
- そのため明るさはまったくなく終始鬱々とした雰囲気で体力を持っていかれる
- だいぶ端折られているので原作未読だと理解できない可能性もあり
あらすじ
タイミング的により響いたこともあり、かなりの傑作と感じましたがそれは原作を知っているからこそな気もするので、少々評価が難しい面もありました。
舞台はタイトル通り、1984年ですが架空の(原作から見て)未来の話です。
3つの超大国(オセアニア、ユーラシア、イースタシア)によって世界が統治されている世界で、主人公のウィンストン・スミス(ジョン・ハート)はオセアニアの下級役人として生活しておりまして、日々過去の新聞記事を修正する形で歴史改竄作業を行っております。
市民は常に「テレスクリーン」と呼ばれる巨大双方向テレビによって監視されていて、おまけに消すこともできないため終始何らかのプロパガンダ放送が流れているという地獄のような生活です。
食事は当然配給制、もちろん美味しくもなさそうという見事なまでのディストピア。(まあ原作はディストピアの教科書的な作品なので当然ですが)
スミスは同僚で何かと見かける女性、ジュリア(スザンナ・ハミルトン)に監視されているのではないか…と疑念を抱き、半ば憎んでいますがある日「好きです」的な紙片を渡されコロッとやられまして、禁止されているセックス的な享楽にふける関係を続けますが、当然そんなにいい時期は続かず…あとはご覧ください。
忠実な映画化
もはや説明不要、「1984年」の映画化作品です。
僕も数年前にAudibleで初めて摂取したので偉そうなことは言えないんですが、欧米では常識中の常識として内容を知らないと軽蔑されるぐらいの風潮があるんだとかなんとか聞いたことがあります。
要はそれぐらい一般に浸透した傑作、ということなんでしょう。
原作を簡単に説明すれば、全体主義の監視社会に生きる主人公が、体制に疑問を抱きつつも適応して生きていたところ、同じく体制に疑問を抱いていた女性と出会って少し踏み出した結果不幸を招く…というようなお話です。(一応ネタバレにならないように少し曖昧な書き方にはしています)
なので…まあハッピーエンドではないです。スーパーメジャー作品が原作なので若干ネタバレ気味ですがそこは言っておきます。観ようによってはハッピーエンドかもしれませんが…。
で、その原作の映画化ということで、世の映画化案件と同様に多少なりとも明るくなっていたりソフトな感じになっていたりするのかな…と思って観たんですがまるでそう言った配慮(?)は無くて、原作をかなり忠実に映画化した内容になっていました。要は本当に暗いしとことん映像に彩度がないし打ちひしがれる内容です。なんというか手心がない。
今の時代だったらここまで暗い映画ってなかなか作られないよな…と時代的なものすら感じました。
そしてそれが逆に良かったです。もう救いがないのが良い。元々そういう話なわけだし。
原作を読んだ(聞いた)ときに、ものすごいやられたんですよね。なんて救いのない話なんだ、恐ろしすぎるって。
それとまったく同じ感覚を(忠実に映画化しているから当然ですが)感じさせてくれたので、これはかなり傑作なのではないか…と妙に響きました。
原作の良さは言わずもがなですが、それを「忠実に映像として見せてくれる」ことでより「1984年」が何たるかの理解が深まったというか、明らかに解像度が高まったと同時に、改めて胸に刻みこまれました。
これ、やっぱりただの(というと他の作品に角が立ちますが)小説じゃないんですよね。
どう考えても現代社会をも予見した作品なんですよ。オーウェルのその先見性がすごすぎるという話で。
例えば3つの超大国は「終わらない戦争」を続けているわけですが、その理由は「階級社会の固定化」にある、という点。これなんて完全にロシアのウクライナ侵攻でしょう。(もっと言えばこの作品では実際に戦争をやっているのかすら定かではない辺りもかなり怖い)
また「国民の不満を外敵に向けさせることでその不満が支配層に及ばないようにする」なんてあちこちの国がやってますからね、今でも。最近の日本の排外主義的な動きも完全にこれだなと思ったり。
主人公のスミスが手掛ける文書改ざんなんてそのまんまあったことですからね。当時も「改ざんの何が問題か」をわかっていない人が軽視していましたが、裏を返せばこの作品を通ってきていればそれがいかに問題なのかが理解できる、ということです。それこそが教養ってやつですよ。
今回この映画を観たのは最初に書いた通り「すごく観たかったから」でしかないんですが、同時に自民党が過去一勝利した衆議院選挙の直後だったというタイミングもあって、いろいろ今まで以上に考えさせられたし良いタイミングで観たなと思いました。
フィルマでも衆議院選挙と結びつけて観ている人が結構いて、ちょっとだけ救われた気持ちです。
現況の政治状況に結びつけると色々と角が立つのでこの辺で止めておきますが、もちろんこの映画で描かれる世界は現実とはかけ離れています。
なので表層的に観ていると「全然違うじゃん」となって何言ってんだコイツ状態でしょう。
ただ、注意深く観ていくと「今の先にこれが来るな」という表現があちこちにあるんですよね。
いわゆる玄関で足だけ入れるのを許したらいつの間にか居間で寛いでる、みたいな繋がりが見えてくるんですよ。そしてそれがものすごく怖い。
その繋がりが見えるか否かでこの映画の怖さは変わると思います。何も考えずにただ映像を眺めていたら多分「昔のソ連っぽい話だね」で終わっちゃう。
実際はこれよりももっと見えにくい、より手の込んだ、そしてより親切に見える形で忍び寄ってくる…その怖さが感じられるかどうかでこの映画(原作)に対する評価も変わるのではないでしょうか。
原作未読は少々つらいかも
一方で、やはり原作ありきの映画によくある話ではありますが、尺の都合上だいぶカットされているところもあるので、果たしてこの映画から初めて「1984年」に触れる人がその意図するところを理解できるのか…となると結構難しそうな気はしました。
作品上重要なキーワードである「ニュースピーク」とか「101号室」とか「二分間憎悪」とかも特に説明がないのでおそらく映画だけではよくわかりません。
スミスとオブライエンが近付いたのもかなり唐突に入ってくるので、そもそもオブライエンが何者なのかもわからないしなぜスミスが彼に興味をいだいたのかもわかりません。(というかスミス側は流されただけのように見える)
そんな感じで終始「これなに?」と思わせる部分があるので、原作未読の場合は「なんかよくわからないけど暗い映画だな」で終わってもおかしくないかもしれないような気がしました。
この辺り非常に難しいところで、映像化としてはかなりうまく行っているのは間違いないんですが、一方で取捨選択や見せ方の部分でもう少し上手く(映画のみで理解できるように)やれたかもしれないし、でもそうするとかなり説明臭くもなりそうだしで本当に難しいところなんですよね。
ということで僕はかなりの名作だと思いましたが、それは原作に触れているという条件付きになります。
ただ大概の原作が存在する映画は、原作→映画だと端折りすぎててつまらないと思うことが多く、その最たるものが「ダ・ヴィンチ・コード」だったわけでロン・ハワード許せねえという話なんですが、この映画は原作→映画であっても名作であると感じられた、ある種の(主にビジュアル面で)補完になっていたように思うので、ぜひ「1984年」を読んだことがある人には観てほしい一本ですね。
当然逆パターン、映画→原作でも「そういうことか!」とわかる点も多いだろうと思われるのでオススメです。
僕個人としてはここ最近の観飽きた観客媚売展開とは一線を画した硬派な陰鬱映画として大変堪能させて頂きました。すごく良かったです。
このシーンがイイ!
ご近所さんと一緒に放り込まれた一室でのやり取りがものすごく良かった。これぞディストピア。
あと捕まるときのお知らせも心臓に悪すぎて最高でしたね。
ココが○
とにかく映像が素晴らしいです。汚れとか殺風景さとかあらゆる場所の痛み具合とかコールガール的なおばちゃんの風貌とかもう何もかも素晴らしい。ディストピアの見本of見本ですよ。教科書に載せるべきディストピア感。
ディストピア好きは間違いなく必見です。
ココが×
やはり映画単体では理解しづらい部分が結構ありそうなところでしょうか。僕もまっさらな状態で観たわけではないので予想でしか無いんですが、でもおそらく原作を知らないとかなりわかりづらいところがあると思います。そこは注意。
MVA
ジュリアがすごく“それっぽい”というか、「うわージュリアってこんな感じだったのか〜」とすごく納得したビジュアルで彼女もすごく良かったと思いますが、しかしやっぱりこの人です。
ジョン・ハート(ウィンストン・スミス役)
主人公。下級役人。
今まで僕が見たジョン・ハートの中でももっとも若い時期だったんですが、まー渋い。イケオジすぎる。(一応これより前に「エレファント・マン」に出ていましたがあの役は本人の風貌とは程遠かったので…)
役柄に相応しい抑圧された素晴らしい演技を見せてくれて大変良かったです。
同時に彼は後年「Vフォー・ヴェンデッタ」でまさにビッグ・ブラザー的な独裁者を演じているのもすごい因縁だなと思いますね。あれもすごく良かったし。


