映画レビュー1465 『アンダーグラウンド』
今回もアマプラ終了間際系です。
貧弱知識の僕は知らない映画だったんですが、ちょっと調べたら高評価だらけ&歴史に残る傑作的な話だったのでこれは観なければ、ということで。
さて、今年の更新はここまでになります。
今年も数少ない幻の来訪者の皆様ありがとうございました。来年もよろしくお願いします。
この文章を書いている自分と読んでいる人だけ幸せになるとか救われるとかになるといいなと願っております。オンラインノアの方舟ですよ。人数少ないしちょうどいいでしょ。
ということで良いお年をお迎えください。
アンダーグラウンド
エミール・クストリッツァ
デュシャン・コヴァチェヴィッチ
エミール・クストリッツァ
ミキ・マノイロヴィッチ
ラザル・リストフスキー
ミリャナ・ヤコヴィッチ
エルンスト・シュテッツナー
スラヴコ・スティマツ
スルジャン・トドロヴィッチ
ゴラン・ブレゴヴィッチ
1995年4月1日 ユーゴスラビア
170分
フランス・ドイツ・ハンガリー・ユーゴスラビア・ブルガリア
Amazonプライム・ビデオ(Fire TV Stick・TV)

面白さ関係なく圧倒された。
- ユーゴスラビアの過酷な歴史をブラックユーモアで描く
- 親友2人とヒロインの三角関係を中心に、戦争に翻弄される人々の姿を描く
- それぞれの立場や人間関係から戦争を利用する姿にリアリティを感じさせる
- 三部構成、3時間近い大作
あらすじ
いやぁこれはなかなか…すごい映画でしたね。
まったく知識がないのでおそらくその1割も理解していないと思うんですが、それでもこの映画の持つエネルギーにあてられてぐったりしちゃうぐらいすごい映画でした。
舞台は第二次世界大戦、ナチス侵攻下のベオグラード。
爆撃によって焼け野原となってしまい、ナチスが跋扈する中マルコ(ミキ・マノイロヴィッチ)は親友のクロ(ラザル・リストフスキー)とともにパルチザンの仲間たちを引き連れ、巨大な地下空間で武器の密造等しながら反転攻勢のときを待つことにします。
クロは妻帯者でしたが妻は息子のヨヴァンの出産と同時に他界、そんなこともお構いなしにクロ自身は舞台女優のナタリア(ミリャナ・ヤコヴィッチ)にお熱なんですが、ナタリアは障害者の弟と自身の保身を考え、(同時に多分若いしかっこいいしで)ナチス将校のフランツ(エルンスト・シュテッツナー)を選びますが、クロが舞台出演中のナタリアを誘拐し、強奪。無理矢理結婚式を挙げます。
しかし当然フランツはナタリアを取り戻そうと彼らの元へ部隊を引き連れやってきますが…あとはご覧ください。
他の国には作れない映画
元は320分超えの超大作だったそうですが、大幅にカット“させられ”てこの形になったんだとか。それでも3時間弱。
上映時間の長さと同様に描く時間軸も長いので、非常に壮大な叙事詩といった感じ。叙事詩の意味もよくわかってませんけども。
ただ一応ブラックユーモアでもあるので、英雄譚のような雰囲気ではなく非常に人間臭い人たちのリアルな戦争との距離感、対峙の様を描いたお話です。…って書いといてなんですがリアルではないか…電気工だから拷問に強いとかくだらないシーンも出てくるし…。っていうかクロあのあとのシーンで死んでるでしょ絶対。
なんて言うんですかね…戦争と一般人の関係性を描くとすると、やっぱり虐げられてたりだとかそれでも希望を胸に生きていくんだとか割とこう言っちゃなんですが綺麗事として描かれることが多いと思うんですが、この話は全然そういう雰囲気もなく、戦争でしんどい思いをさせられつつも、そこに上手く適応して強かに生きていく人たちの姿をちょっとコミカルに、そしてブラックに描いているんですよね。そこがすごく印象的でした。
ではなぜそんな強かさがあるのか、そしてそれがリアルに見えるのかというと、これはもうやっぱりユーゴスラビアの歴史そのものによって、なんでしょう。
常に戦争がそばにあり、落ち着いた生活なんて望めない状況に置かれ、それに適応して少しでも自分の人生を良くしていくにはこうするしかない、と。
それは共産党員としてのし上がっていくマルコにしてもそうだし、ひたすら戦いに身を投じて道を切り開こうとするクロにしてもそうだし、そして何より局面で相手(男)を選んでいくナタリアにしてもそう。
そういう「生きるための選択」を軽快に、でも裏にある事情からも決して否定的に見えないように感じさせる作りはお見事だと思います。
例によって無学なのでかなり理解が追いついていないと思うしそこが非常にもどかしくもあるんですが、それでもいかにユーゴスラビアが大変な歴史を歩んでいたのか、嫌でも思い知らされました。
もちろん大上段に構えて「ユーゴスラビアはこんな国だ!」とかやるわけじゃないんですよ。普通に日常を描いてはいるんですが、その裏には常に戦争があり、戦争があるからこそこういう行動になるし生活になる、というすべてのベースに戦争が“普通に”存在している大前提、日常=戦時下だからこれが当たり前なんだよね、みたいな「特別なことをしていない」ように見せていて、そこがすごいし考えさせられるという。
ある意味日本とは対極にある国だとも思うんですが、それだけに余計に日本人に刺さる部分も確実にあると思います。
正直「話として面白かったか」と聞かれると素直に頷けない部分もあるんですが、それ以上にやはり背負ってきた歴史を背景にしてそれをブラックに笑い飛ばしてやろうみたいな姿勢にはとんでもなく重いものを感じたし、おそらく他の国の人には作れない何かがある映画ではないでしょうか。
面白さ云々以前に映画自体のエネルギーが非常に強くて、まー疲れましたよ。長いせいもあるんですが。
同じ点数をつけるような映画でも即座に内容を忘れちゃうような映画もいっぱいありますが、この映画はきっと長い間忘れない気がします。細かい部分は忘れても、全体的な空気感とか一部のシーンとか、死ぬまで忘れないような気がする。
それぐらい力強い映画でした。
監督はプーチン支持
僕ぐらいの世代だと、おそらくユーゴスラビアと言えばイビチャ・オシムという人も多いと思うんですが、いかにオシムが大変な国で生きてきたのか、それ故あのような人物になったのかがなんとなく垣間見えた気がして、そこも観て良かったなと思います。そりゃあ日本で生まれ育った人間とは(良し悪しは別として)まるで違うタイプの人間になるのは当然でしょう。
国際的にも評価が高く紛うことなき傑作と言っていいと思いますが、しかし監督は(最近も)プーチン支持を表明しているそうで、その事実もまた考えさせられます。
その文脈で言えば、おそらくこの映画は「反戦争」ではないんでしょうね。
戦争そのものを忌避する考えよりも、その戦争が持つ大義や意味の方に重きを置く人なのかな、という気がしたんですがどうなんでしょうか。戦争が身近にありすぎて忌避すること自体に意味がないと思っているのかもしれません。
つまりユーゴスラビアは戦争に翻弄された国ではあるものの、それによって「戦争は良くない」方向に感情が向くのではなく、「どんな戦争に」翻弄されたのか、そしてその結果がどうだったのかが監督にとっては重要だったのかな、と。
とは言えくどいようですが無学な人間が考えているだけなので、もっと深い意味が込められている可能性も十分にあるし、その辺り詳細な説明を聞いてみたいところでもあります。
いずれにしてもすごい映画でした。
このシーンがイイ!
エンディングかなぁ。やっぱりいろいろ考えちゃう。
それと地下の結婚式で赤いドレスを着て踊るナタリアもすごく印象的でした。なんか破滅的な美しさみたいなものを感じて。
あとオープニングの行進。音楽が良い。
ココが○
とにかくエネルギッシュで映画の持つパワーを感じます。音楽のパワーもすごい。
「アンダーグラウンド」はそのまま「地下」、つまり彼らが暮らした「社会」そのものを指すタイトルだと思いますが、地下で抑圧され思うままに生きられない姿はそのまま戦争によって“普通の”生活が送れない、閉塞感の中で暮らさざるを得ないユーゴスラビアの人々とその社会の隠喩なのかなと思ったり。
ココが×
独特のノリで、あまり親しみも持てないまま(それはあまり見ない国の俳優さんたちが演じているというのも込みで)進んでいくためにやや入り込みづらい雰囲気はあるように思います。
話もものすごく面白いわけでもないし、裏にある社会性に目を向けなければちょっと評価しづらい映画かもしれません。ここまで「誰もが絶賛」するほど単純な映画ではないと思う。
ただ、そこに目を向けざるを得ない作りなのも事実でしょう。いくら中身を知らないとは言え、実際の国家が置かれていた環境がベースであることを理解すれば、自ずと「すごい映画だな」と思うようにできていると思います。
MVA
他で見ない俳優さんたちばかりなので非常に個性的に見えてそこも面白かったんですが、一番印象に残ったのは間違いなくこの人です。
ミリャナ・ヤコヴィッチ(ナタリア役)
男たちに翻弄され、時代にも翻弄されるヒロイン。
初出時点で「えっめっちゃかわいい」とびっくりしました。若い頃の宮沢りえにかなり似てる気がする。サンタフェ感。
歳を経ても(この映画自体が加齢描写をあまりしないせいもあって)ずっと綺麗なままなんですが、内面の変化を見事に表現しているので初出のキラキラ感はまるでなく、美人なのにやさぐれちゃってもったいない…みたいな雰囲気が絶妙に表れていてすごい。
この映画にこの人あり、でしょう。マルコとクロの2人も良かったけど、一番は彼女だと思いますね。