映画レビュー1010 『13th -憲法修正第13条-』

掲載時期は少しズレますが、今まさにアメリカのみならず世界的に「BLM(Black Lives Matter)」運動が広がっていて、その最中において注目された映画、ということでとあるコラムで存在を知り、早速その翌日に観ることにしました。

Netflixオリジナル映画ではありますが、(おそらく期間限定で)YouTubeでも日本語字幕付きのものが観られます。一応リンクも貼っておきますが、時期によっては観られなくなっている可能性があるのでご了承ください。

13th -憲法修正第13条-

13th -憲法修正第13条-

13th
監督

エイヴァ・デュヴァーネイ

脚本

エイヴァ・デュヴァーネイ
スペンサー・アヴァリック

音楽

ジェイソン・モラン

公開

2016年10月7日 各国

上映時間

100分

製作国

アメリカ

視聴環境

Netflix(PS4・TV)

13th -憲法修正第13条-

「知っている差別の歴史」は一旦に過ぎなかったという衝撃。

9.0
合衆国憲法修正第13条の例外規定に由来する黒人差別の歴史を紐解く
  • 奴隷解放後もなぜ黒人差別が続くのか、その理由に憲法の存在を指摘するドキュメンタリー
  • 今まさに観るべき内容の映画
  • アメリカの影の歴史と資本主義の限界を知る
  • 字幕量が尋常でないので観るタイミングは要注意

あらすじ

はじめにぶっちゃけるとどうにも眠くなって途中で一回寝ました。とにかく字幕の分量がすごい。休み無くひっきりなしに読まされるので疲れます。「昼食後に観るのはやばいんじゃないかな…」と予想していたんですが当然のように眠くなりました。なのでみなさんも観るときは本当にタイミングに気をつけてください。

ただ眠くなったのはつまらないからというわけではなく、過去に観たどのドキュメンタリーよりもある意味では衝撃的な内容で、これはちょっと今を生きる人間としては観ておかないとまずいんじゃないの、というレベルでかなり大きな学びのある映画だったので、ぜひいろんな人に観ていただきたい映画だと思います。

ということでタイトル通り、「合衆国憲法修正第13条」に現在の黒人差別の原因の一端を見出すドキュメンタリー。ほぼ全編が元囚人の黒人活動家や、歴史学者、ジャーナリストといった著名人のインタビューで構成されています。

アメリカの歴史上大きな意味を持つ「差別から来る黒人の悲劇」となる事件(現在のBLM活動に火をつけたジョージ・フロイド事件もこの延長線上に位置する事件でしょう)もいくつか例示され、その背景に何があったのかを解説しながら、奴隷解放以降も連綿と続く黒人差別の現状を伝えます。

当然ながら黒人差別の歴史を語る上で外せないキング牧師やマルコムXといった人々も登場し、また(この憲法以外の)制度設計に携わることになるニクソンやレーガン、クリントンといった歴代大統領も登場し、まさに「アメリカの歴史」の一面を追うドキュメンタリーになりますが、しかしその内実は普通の日本人であれば到底知ることのなかった過酷なものであり、それなりに社会問題に意識を持っている人であれば、その内容に少なからず衝撃を受けることになるでしょう。

差別の背景にあるもの

さて、肝心のその「合衆国憲法修正第13条」ですが、ここに一部(第1節のみ)を引用しましょう。

奴隷制もしくは自発的でない隷属は、アメリカ合衆国内およびその法が及ぶ如何なる場所でも、存在してはならない。ただし犯罪者であって関連する者が正当と認めた場合の罰とするときを除く。

これは奴隷解放宣言の後に作られた憲法修正条項の一つのようなんですが、この例外規定「ただし犯罪者(中略)を除く」の部分が現在も続く差別の原因となっているのではないか、という立場で展開するのがこの映画ということになります。

オープニングではオバマ前大統領の「アメリカの人口は世界全体の5%にすぎないにも関わらず、アメリカ人受刑者は世界全体の受刑者数の25%を占めている」という言葉から始まります。さらに劇中ではその「アメリカ人受刑者」の中でも黒人犯罪者の割合が極めて高い事実を伝えます。

つまり因果関係として「犯罪者は奴隷扱いしても構わないと憲法に書いてあるから黒人は犯罪者に仕立て上げて(奴隷解放後も)利用してやろう」というような意識から来るシステムで社会が回っているのではないか…というお話なわけです。

もちろんこれは極論でもっと複雑な背景がいろいろあるんですが、すごく簡単にまとめてしまうとそういうお話です。憲法の一文にこの文言があったせいで(時を経てシステムが強化されていった結果)こうなったのではないか、と。

己の不学を恥じるしかありませんが、僕はこの憲法の存在は知らなかったし、簡単に言えば「奴隷解放宣言があって、建前上とは言え差別はなくしましょうという形になり、一部差別意識の強い人間は残りつつも表面上は平等に扱われている」ものだと思っていたんですが、そもそもこの条文自体がよく言うところの“抜け道”を用意してあるものであるが故に「微罪で黒人を逮捕して奴隷同様の扱いを肯定する」根拠になってしまっていて、そしてそのことを前提にしてまた新たなシステムが作られ、結果それが産業化し元に戻れないところに来てしまっている、というなかなか地獄のような構図だなと愕然としました。

この映画で語られる事実はどれもかなり(無知な日本人にとっては)衝撃的な内容だったんですが、僕にとって最も衝撃だったのは「差別がシステムとして経済を回している」点で、端的に言えば「刑務所ビジネス」が莫大な利益を上げているという部分。

この「お金を稼ぐためには差別もやむなし」というのは、「差別は良くない」と誰もがわかりきっている、けれど個人の価値観によって実現度に差が出るのも仕方がない…というようなある種理解できる世界の範疇を超えたところにあったので、早い話が絶望的なシステムだなとショックを受けたんですよね。綺麗事ではどうしようもない部分というか。

「差別は良くないよ」というのは、最近の風潮でもだいぶ強化されてきていると思うし、世間の理解度も増してきていると思うので、多少は差別を受ける側(これは状況によっては日本人も含まれるし、誰でも後天的に事故のようなもので差別を受ける側になる可能性があるわけですが)も改善されつつあるんだろうと楽天的に思っていたんですが、しかしここに経済合理性がついてくるとおそらく“限界値”のようなものがもう割とすぐやってきてしまうんだろうと思うんですよ。どこまで行っても救われない、社会の理解が進んでも超えられない壁が出てくるのではないか、と。

この無情さというのはかなりつらかったし、目に見える形で今もこの不利益を被っている黒人の人たちはどう折り合いをつけて生きていけば良いのか、ひどくしんどい話だなと気が重くなりました。

皆さんご存知の通り、今の世の中は資本主義で回っているわけですが、こういう話を知ってしまうと、よく言われているようにもう資本主義は限界に来ているのではないかと思わざるを得ません。

かと言って代わりに何が良いのかもわからないんですが、しかしどうしても経済によって犠牲を受ける属性があるという事実が肯定されてしまう(システムの)世界は、青臭いかもしれませんがさすがに受け入れがたいものがあります。

言うまでもなく差別とは自分ではコントロールできないものに対する不当な扱いですが、例えば「統計上、通常であれば一生涯で17人に1人が逮捕されるところ、日本人の場合は3人に1人逮捕される」と言われれば絶望するじゃないですか。しかもその裏ではその事実自体が金儲けに利用されているとなると。

これはそのまま白人男性と黒人男性の違いとして劇中で出てくる数字なんですが、自分がその立場にいると考えるとこれほどひどい話はないと思うんですよ。

おそらくこの数字を見た差別脳の人は「それだけ黒人は知性が低い」とか「黒人は生まれながらにして乱暴だ」とか根拠のない理由を出して差別(そもそもこの2つの例にしてもそれだけでは犯罪にはならないので反証になっていないんですが)し、また優越感に浸るんだと思いますが、ところが実際はその理由として“憲法修正第13条”があるという事実。

これはやっぱり衝撃だし、何より当事者たち(黒人や移民)の置かれた状況というものは想像を絶する過酷さがあると思います。そのことを知ることができた嬉しさを感じる反面、解決策が見えないアメリカの闇のようなものも受け取った重さがなんともしんどい面もありました。

いかに“自分ごと”として消化できるか

またこれは当然ですが「黒人差別」に限った話ではなく、日本にも存在する“差別”を考えるとても良いものさしにもなり得るし、「偉そうな顔して結局アメリカもそんなもんか」なんて上から目線で片付けていいような話でもありません。

当然ながら日本ではこの憲法はありませんが、かと言ってもちろん差別が無いわけではないし、差別から来る“ビジネス”が無いわけでもありません。

例えば今ちょっと本屋を覗けば“差別ビジネス”で稼ごうとしている事例はいくらでも見つかるわけで、実はこの話は対岸の火事ではなく、むしろ日本にある差別を浮き上がらせる“気付き”を与えてくれる側面もあるでしょう。

上に「日本人の場合は3人に1人逮捕される」というごくごく簡単な例を書きましたが、こうしていかに差別を受ける側と自分をシンクロして見ることができるか、同一視できるかが今問われているんだと思います。

上に書いた通り、日本人だって「日本人である・アジア人である」という理由で差別を受けることもあるし、おそらくすべてにおいて「差別を受けない側」でいられる人間はいないと思います。どのような形であれ、差別を受ける可能性はあるわけです。「これだから女は」みたいなのもそうだし、「結婚できない男」というタグ付けだってそうです。差別になり得ます。

であればこそ、この映画で語られる黒人差別の事実をどう受け止めて、いかに自分の中に消化していけるのかがとても大切なことで、そう考える人が一人でも二人でも増えれば、「経済最優先の資本主義社会」も少しずつ良くなっていくのかもしれません。

少し大きな話になってしまいましたが、そんないろいろを考えさせられるとても良いドキュメンタリー映画なので、ぜひいろんな人に観て欲しい映画ですね。

このシーンがイイ!

ドキュメンタリーなのでここというのは無し、かなー。

ただ名前は忘れてしまいましたが、昔逮捕されたアフロの女性活動家の方のインタビューがすごく印象的ではありました。「暴力に訴えるんですか?」と聞かれたときの答えが。

ココが○

今まで観たドキュメンタリーの中でも一番じゃないか、というぐらいに衝撃的な内容でしたね。アメリカで現在進行系の話なだけに、日本人としても決して遠い出来事ではないです。

ココが×

とにかくずっと字幕を追うことになるので、かなり疲れるし鑑賞が大変なのは否めません。これネトフリだと吹き替えもあるのかな…。仮にあるのであれば、吹き替えの方がオススメしたくなるぐらいに字幕のキツさが他に類を見ないレベルでした。

それともちろん何においてもそうですが、基本的に「片側からの情報提供」なので、この話ばかりを完全に鵜呑みにするのもそれはそれで危険だということは意識しておいた方がいいでしょう。

とは言え根本的に間違った情報ではないだろうとも思いますが。

MVA

これもドキュメンタリーのため該当者無しで。とは言えここに登場する“証言者”の方々は皆さん素晴らしいと思いますね。

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