映画レビュー1024 『僕のワンダフル・ライフ』
これねぇ…。
ずっと観たかったんですけどねぇ…やっぱり半年前に最愛のワンコを見送った身としては、なかなか踏ん切りがつかなかったんですよね…。しんどくなるだろうなと思って。
ですが当然ながらネトフリがそんな事情を汲み取ってくれるはずもなく、この度配信終了がやってくるということで意を決して観ることにしました。
僕のワンダフル・ライフ
W・ブルース・キャメロン
キャスリン・ミション
オードリー・ウェルズ
マヤ・フォーブス
ウォーリー・ウォロダースキー
『野良犬トビーの愛すべき転生』
W・ブルース・キャメロン
2017年1月27日 アメリカ
98分
アメリカ
Netflix(PS4・TV)

観ている人、それぞれのペットが主人公。
- 様々な飼い主と出会い、転生によって何度も違う犬生を過ごす犬のお話
- 以前の記憶も引き継いでいるため、当然序盤の話が伏線になってくる
- 犬を飼ったことがある人にはたまらない、しかしそうではない人にはいまいちかも
- 重さ、つらさよりも希望を感じる物語
あらすじ
観る前から「犬好きならむちゃくちゃ泣くよ」と聞いていて、その上今年は愛犬ビビの旅立ちがあったのでかさぶたを剥がされるんじゃないかとかなり身構えつつ観たんですが、確かにかなり泣きはしたものの、悲しみよりも希望を感じる物語だったのがかなり救いでした。むしろこれはペットロスを引きずる人たちこそ観るべき映画なのかもしれません。
主人公はもちろん犬。上記の通り彼は転生を繰り返すため、「彼」どころか「彼女」にもなるし名前ももちろんその都度変わります。
彼は物語冒頭で早々に殺処分されてしまったんですが、その後転生してレトリバーとして再度この世に登場。これまた捕まってひどい目に遭いそうなところを間一髪、少年イーサンとその母エリザベスによって助け出され、“ベイリー”と名付けられた彼は「普通のイエイヌ」としての幸せな犬生をスタートさせます。
しかし悲しいかな…犬は人間よりも寿命が短い宿命故、ベイリーは最愛の飼い主であるイーサンの幸せを願いながら旅立つのでした。
そしてまた彼は転生し、今度はメスの警察犬「エリー」として活躍する犬生が始まるんですが…あとはまあご覧いただいて、ということで。
犬種が変わることの意味
何度も転生を繰り返し、犬種も性別も、当然飼い主も変わっていく“ベイリー”。(一応便宜上最初の名前で呼びます)
この映画で描かれる彼の物語は、犬の「人間よりも寿命が短い」「言葉を話すことができない」と言った特性をうまく活かしたものになっています。
まず「人間よりも寿命が短い」点については、アレコレ書くと興を削ぐので詳しくは書きませんが、おそらく観れば言わんとすることはわかると思います。
次に「言葉を話すことができない」おかげで、「もしかしたらこういうこともあるのかもしれない」という…いわば“不可知論”的な立ち位置の物語になるという点。
もちろん無いのはわかってますよ。わかってはいますが、かと言ってそれを立証することは不可能なので、僕としては「万が一、どこかでビビが転生しているかもなぁ」と思うと、やっぱり少し救われる面があったんですよ。そこがこの映画の最大のポイントなんだろうと思います。
はっきり言って物語としては際立って良いというものではないし、「転生」という構造さえ用意してしまえば後は至ってありがちな話と言っちゃって良いと思うんですが、ただその主体が犬となると…やっぱり同じように過去最愛の存在とお別れを経験している飼い主の人たちにとっては、こんなに救いとなる話って無いと思うんですよ。それは「虹の橋」と同じようなものとして。
“ベイリー”は転生ごとに犬種も変われば性別も変わり、当然見た目も変わります。それが意味することは何かと言うと、つまりは「あなたが飼っていた犬も“ベイリー”だったのかもしれない」ということです。
これでずっと同じ犬種での転生だったらおそらく全然意味合いが変わってきたと思います。犬種が該当しなければ「うちの子は違う」と思っちゃうし、もし「転生している世界」が存在していたとしても同じ犬種しか該当しないとなると可能性がグッと減っちゃうわけですよ。
ビビなんて3種類混ざっていた(1/2シーズー、ヨークシャテリアとミニチュアダックスフンドが1/4ずつ)ので、ブリーダーにでもなって意図的に産ませていかない限り、同じ犬種なんてまあ出てきませんよ。そうするともうこの物語に対する思いが激減しちゃうんですよね。ただのファンタジーじゃねぇか、って。
そうさせないように犬種も性別も変えて、つまりは「犬であればみんな“ベイリー”の可能性がある」と思わせるところがすごくうまいし良い話なんだと思います。観客全員に「もう一度あなたが愛したペットに出会うことがあるかもしれない」という希望を抱かせてくれる物語として、すごくありがたい映画だなと思いますね。
無いとわかりつつ、でもゼロじゃないよな、そう信じたくなる出来事があったら乗ってもいいかな、と思わせてくれるだけで、つらい別れが少し軽くなるんです。これは本当にペットを失った痛みをわかった人が作った物語だろうなと思うし、それ故にとてもありがたかったですね…。
真の価値は物語の外に
ただ…事前に構えていただけに、もっとガツンと来るのかと思っていたんですが、上に書いたように話としては割と普通なのが残念ではありました。
ペットを飼い、愛したことがある人たちにはとても刺さる話だと思いますが、それ以外の人にはおそらく「普通」の話でしか無く、なんなら陳腐に見えてもおかしくありません。
きっとこの話は、“ベイリー”という作られた存在が紡ぐ物語なのではなくて、観客それぞれが一緒に生きたペットたちを“ベイリー”に投影する物語なんでしょう。
描かれた物語はあくまで一例であって、もしかしたら自分の身近にこういう話があるのかもしれない、その時のために心の準備をしておきましょうと促すような、観客の心に種を植える物語なのかなと思います。なのでここで描かれる物語が陳腐であってもあまり関係はなく、「もしかしたら転生してくるかもしれない」とわずかな希望を抱かせてくれるようになるだけですごく尊いものだと思うんですよ。
宝くじだって当たらないのはわかってても買っちゃうし、買えば「当たったらどうしようかな」って考える楽しみがあるじゃないですか。それと一緒ですよ。
つらい別れを経験した飼い主たちの痛みをほんの少しでも和らげてくれて、新たな出会いに希望を持てるようになるお話。それだけで観る価値があると思います。
余談ですが、ビビよりもずっと前、今から20年ぐらい前に9歳で亡くなった愛犬がいまして、その子が亡くなった直後にペットショップに行くとその子にそっくりな子がいて、「もしかして…」と思ったことを思い出しました。
その時は環境的な問題もあって泣く泣く買わずにお店を出た(そもそも今は生体販売反対なんですが当時はそういう知識もなかったので買いたかった)んですが、こういう話を観ちゃうと…何か感じる子と出会ったら、無理をしてでも飼おうとするかもしれないですね。
果たして思い入れのある“前の愛犬”の存在を新しい子に投影することがその子に対して良いことなのかどうかは微妙な問題でもあるとは思いますが、ただそうなったら間違いなく(普段以上に)大切に接することにもなるだろうし、悪いことではないと思うので、そう言った意味でもこの物語の持つ価値は大きいのではないでしょうか。
そういう面も含め、この映画の真の価値は上映時間の100分弱以外のところにあるのは間違いないありません。ペットに対する愛を持っている人であれば、必ずや何か得るものがあるのではないでしょうか。
このシーンがイイ!
ベタ中のベタですが、終盤「転生していることを理解させようとする」とあるシーン。一番の見せ場だろうし、そりゃあ良いよって話です。
ココが○
上に散々書きましたが、やっぱり「観客それぞれの中に種を植える」、描かれる物語そのもの以外に価値がある点でしょう。
この映画を観る人であればきっと犬好きだろうし、そう言う人にとっては表面上描かれる以上の意味と価値が生じるのは素晴らしいことだと思います。
ココが×
とは言えその「個々人の思い」に大きく依存した作りでもあるので、物語そのものはやっぱり際立って良いわけではないのが少々残念。
MVA
今回はこの人かなー。
ブリット・ロバートソン(ハンナ役)
ベイリーの飼い主・イーサンの恋人。
「今よりも若い頃のレベッカ・ファーガソン」って感じでひじょーにかわいくてですね。若い頃のレベッカ・ファーガソン見たこと無いけど。
泣かせる演技もとても良かったし、これは良い女優さんだなと。20代後半だけど10代の役を演じていて、それも違和感がないぐらいにとても良かったですね。