映画レビュー1474 『私の少女』

久しぶりにJAIHO復帰しました。
復帰のきっかけになった作品はこれではないんですが、これもずっと観たいと思っていて終了も迫ってきていたので一発目はこれということで。

私の少女

A Girl at My Door
監督

チョン・ジュリ

脚本

チョン・ジュリ

出演

ペ・ドゥナ
キム・セロン
ソン・セビョク
イ・ジョンウン
チャン・ヒジン

音楽
公開

2014年5月22日 韓国

上映時間

119分

製作国

韓国

視聴環境

JAIHO(Fire TV Stick・TV)

私の少女

狭い村社会に現代社会の問題を凝縮詰め込み。

8.5
田舎の漁村に赴任した若い女性警察所長が虐待されている少女と出会い…
  • 田舎の漁村という閉鎖的な空間で、差別や搾取、暴力に依存、いじめに生きづらさと社会問題てんこ盛り
  • 主人公も問題を抱えているが故に複雑さと力強さを感じるドラマになっている辺りが韓国映画らしい鋭利さ
  • 若干退屈に感じられる面もあるものの、その分丁寧さを感じる良作
  • ペ・ドゥナの顔面良すぎ問題

あらすじ

かねてより評判は聞いていたんですが、評判がいいからというよりはペ・ドゥナが出てるからで観たら評判通り良かったよ、という話です。

とある小さな漁村の警察所長に赴任したイ・ヨンナム(ペ・ドゥナ)は、14歳の少女ソン・ドヒ(キム・セロン)と出会いますが、彼女は会うたびに同級生からいじめられていたり父親や祖母から暴力を受けていたりとひどい境遇に置かれていて、そのたびにヨンナムは警察官として注意するものの彼女は新参者のためかあまり効果は見られず、状況は改善されません。
ドヒの父親であるソン・ヨンハ(ソン・セビョク)は村で唯一の若者であり、また彼の会社は海外からやってきた労働者を雇って漁業を営んでいて、それが主産業として村を支えている事実もあるため周りの人たちもあまり彼に物申すことができずナァナァで済ませているような状況で、ドヒへの虐待は一向に収まりません。
しかし事あるごとに“今までとは違って”止めてくれる大人であるヨンナムに懐いたドヒは、ある日いつも通りに受けた虐待から逃げ出し彼女の家へ転がり込みます。
仕方なく受け入れたヨンナムですが、これが後に大きな問題となりまして…あとはご覧ください。

ペ・ドゥナの衝撃

字幕でも「所長」って出てくるので「署長じゃないの?」と思ったんですが、多分小さな漁村の小さい警察“所”なので所長なんでしょうね。細かい話ですが。
さすがに所長としては若すぎないか? しかも(家父長制色濃い)韓国で女性が? と入口の設定でちょっと違和感はあったんですが、まあ超優秀な警察官なんでしょうきっと。確か階級も警視だったし。もしかしたらお偉いさんの娘とかなのかもしれません。(ありそう)
ちなみになぜこんな小さい漁村に赴任したのかは観ていくとわかるんですが、そこもまた物語の大きな要素となっています。
まーね、しかしペ・ドゥナですよ。当時30代半ばですが美人にもほどがある。かわいさと美しさが同居しすぎて定員オーバーしてます。家賃増ですよ。
しかも聞いた話ではペ・ドゥナが映画に出演するときは基本ノーメイクらしいんですよね。それでも「ちょっと美人すぎて話が入ってこねーな」と思うぐらい見惚れちゃう美しさで困りました。衝撃。
ただこの映画での役に関しては「ノーメイクだろうな」と思うような(逆にしっかりメイクしてる方が違和感がある)キャラクターなので、それはそれで彼女の基本方針と合致した役柄でもあるしそこもまた良かったんでしょう。
衝撃ついでにもう一つ書くと、なんとこの映画はノーギャラでもあったそうです。ノーメイクかつノーギャラ。なんつー人なんだ…。
監督はこの映画が長編デビューらしいんですが、ペ・ドゥナは送られてきた脚本を読んですぐに「ぜひやらせてください」と出演を決めたんだとか。ちなみに監督は同い年、そして同じ女性です。そこにシンパシーを感じたのかはわかりませんが、よほどシナリオと役に惚れ込んでの出演だったんでしょう。
確かに役柄の上でもすごくペ・ドゥナっぽい役な気がしたし、その違和感の無さ故によりドラマがすっと入ってくる面はあったと思います。
そんなペ・ドゥナのカウンターパートとなるのが“天才子役”として名を馳せていたキム・セロン。僕は初めて見ましたが確かに天才だなと思わせる見事な演技でした。
しかしご存じの方も多いと思いますが、つい最近彼女は24歳の若さで自殺してしまいました。この映画を観た直後だっただけに僕としてもショックも大きく、非常に残念ですね…。
飲酒運転で問題を起こしたあとで、相当な誹謗中傷に悩まされていたようです。やっぱりSNSの誹謗中傷はなんとかしないといけないと思うんですが、なにせ某Xのオーナーがあんななのでその辺期待するどころか悪化する気配しかないのもやるせないところですね…。

だいぶ話が逸れたので映画の話に戻します。
例によって小さな村の話なので、偏見や閉鎖的なコミュニティといった問題は当然のように描かれますが、同時にその他諸々の問題、ドヒが抱える虐待やいじめといったものや、そこに内包される暴力、そして搾取の構造や差別、さらには生きづらさ…と本当に現代社会でよく見られる問題を凝縮して見せつけられる上に、それが「なんか無理矢理一つの空間に詰め込んでるなぁ」みたいに感じさせない自然な作りなのが見事だと思います。
結局大体の人は多かれ少なかれ何かしらの問題を抱えて生きていると思いますが、その個々の問題の抱え方とそれの見せ方が自然かつ丁寧なので、その分それぞれのキャラクターもよく見えてくるしそれだけ感情移入も高まる、という見事な作り。とても初監督作品とは思えません。
登場する人々がみんなリアルで生々しいだけに「自分ならどうするのか」を考えさせられる面も多く、当事者でなくても真剣に捉えて観てしまう引力のある映画だと思います。

韓国映画のレベルの高さ

丁寧に描くスローペースで静かな映画だけに、途中少し退屈に感じられる部分もありましたが、総じて良い映画であることは間違いないでしょう。
話そのものへの共感を抜きにしても、映画としての力量の高さが感じられるのはやはり韓国映画のレベルの高さとペ・ドゥナの力なのかなと思いますがどうなんでしょうね。
様々なバックアップがあったとは言え、初監督作品でもこれだけ質の高いものが作られるのはもちろん監督の才能もあるんでしょうが、やっぱりそれだけ映画製作の環境が整っているからなのではないかなと思うんですよね。
最初にこのシナリオが世に出たのは映像学校の公募だったそうですが、最終選考で落とされるもイ・チャンドン監督の目に止まり彼のプロデュースという形で制作が決まったそうです。
イ・チャンドンと言えば「ペパーミント・キャンディー」。
こうして若い世代を引き上げていく土壌ができている、ってことなんでしょう。きっと。
羨ましい。

このシーンがイイ!

何回か出てくるお風呂場のシーンは全部印象的で良かったです。

ココが○

「こういう場所あるよね」「こういう人いるよね」とすべてがリアル。それはつまり誰が観ても共感できる、感情移入できる話でありつつ、でもすごく私的な話になっているのがすごいですね。

ココが×

やや退屈な時間帯がある点。
仕方ないんですが、結構ゆっくりと進むシーンもあるので家で観るのはちょっともったいないというか、こういう映画こそ劇場で観たいなと思いました。

MVA

確かにキム・セロンはものすごかったんですが、とは言えやっぱり…この人。

ペ・ドゥナ(イ・ヨンナム役)

主人公。警察所長。
最初登場したときはロングヘアーで、「あーロングか〜ショートがいいよーバタバタ」と脳内で駄々こねてたら早々に髪切ってくれてガッツポーズですよもう。「ダサい」って言われてましたけど。
ペ・ドゥナはショート派の女神ですね。やっぱり一番好きな女優さんだなと改めて。見た目もそうですが、それ以上に演技が上手すぎる。
この役もすごく難しい役柄だったと思いますが、さすがノーギャラでノータイム参加を決めただけあってバッチバチにハマってました。
彼女(とキム・セロン)の演技を観るだけでも価値がある映画だと思います。

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